ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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十二話


救出、刃の使い方

 

 

 ハジメのパイルバンカーによって迷宮の一部を崩落させ救出対象がいる場所までショートカット。途中、膨大な魔力の奔流を感じ取ったハジメが位置を調整してくれたおかげで無駄な手間が省けた。

 

 最初の余波で遠藤が吹き飛んだが、些細なことだ。怪我もしてないようだしな。

 

 そして目的地まで辿り着いたわけだが……死屍累々と言うべき状態になっていた。

 

 この迷宮に潜っていたであろうクラスメイトたちは大半が満身創痍。メルド団長もいたが、彼に至ってはあと幾ばくもなく死にそうなほどの重傷だった。

 

 要であるはずの天之河も……駄目そうだな。もう動けないのか意識はあれどピクリともしていない。

 

 後ろを振り返れば呆然とした八重樫と白崎が見えた。そして下には彼女たちを襲おうとしていたのであろう魔物が死に絶えている。結構、ギリギリな状況だったようだ。

 

 ……そろそろ、頭だけじゃなく身体も動かすか。

 

 

「三人はここにいる奴らを守ってやってくれ。死にそうな人もいるが……神水を使うかの判断は任せていいか?」

 

「……ん、了解」

 

「任せてください!」

 

「わかった。紅郎はどうする?」

 

「俺は、あっちの相手をする」

 

 

 俺が足を一歩踏み出し、三人がそれぞれ重傷者と魔物に包囲されているクラスメイトのところへと向かった。

 

 八重樫と白崎の方は……何やら空中に浮かぶ物体、確か〝クロスビット〟だったか。それを護衛につけたようだ。

 

 見据える先には赤髪の魔人族の女が一人。そしてそれに付き従うように魔物が何十体か。

 

 見たことがない魔物だし、恐らく神代魔法製の魔物。だが、神代魔法を持ってるのはこいつではないな。もっと別の魔人族が保有しているのだろう。

 

 そして少なくとも、ここにいる魔物たちは俺達の脅威ではない。

 

 

「あんたは敵でいいな?」

 

「……はっ、この状況で会話なんて、随分と悠長じゃ、」

 

 

 カチン。

 

 反応からして敵であるのは間違いなさそうだ。

 

 悠長に隙を晒して話すなんて、それじゃあ奈落では生きていけない。

 

 魔人族の肩には白い鳥の魔物が乗っていた。何かされても面倒なので、先制攻撃も兼ねて腕ごとそいつを両断させてもらった。

 

 地面に赤い血と魔人族の腕、あと両断された鳥の魔物が朽ち果てる。

 

 次の瞬間には、女の叫び声が辺りに響いた。

 

 

「がっ、ぁぁぁぁ!!」

 

「随分と隙だらけだったからな、先に斬らせてもらった」

 

「っ……やれぇ!」

 

 

 魔人族の声と共に一斉に動き出す魔物たち。そして目標は俺だけではなく満身創痍のクラスメイトにも向かっているが……

 

 本当に隙が多すぎるな。やっぱりこいつじゃないのは確定か。

 

 後ろから迫る気配は〝直感〟が反応。避けるついでに〝高速抜刀〟で切断。どうやら姿を見えなくする魔物のようだったが、奈落の魔物と比べてしまえば本当に脅威にならない。色々と隠せてない部分が多すぎる。

 

 次だ。

 

 触手を生やした黒猫が迫る。こいつも大した工夫はいらない。斬って捨てる。距離が少し離れていても〝飛刃〟で複数体まとめて切り裂く。

 

 次だ。

 

 四つ目狼。なんだか見覚えがあるが気にする必要もない。牙を剥き出しに飛びかかってきたが、その口に刃を通し上下に別ける。

 

 オーク……確か以前行った北の山脈地帯にいるというブルタールに似た魔物だ。が、図体がでかいだけの木偶の坊。輪切りにしておしまいだ。

 

 次……と思ったが、六本足の亀が口にエネルギーらしきものを溜め込んで今にも放とうとしている。

 

 後ろには……クラスメイトがいるので避けるのはやめておいたほうが良いか。

 

 避ける気配のない俺を見て魔人族の女が口を歪める。心象としては「勝った!」だろうか。

 

 

「〝和御喰〟」

 

 

 お察しの通り、ピンチですらない。

 

 限界まで圧縮された魔力の砲撃は、しかし刀に吸い込まれるように集束していき……最終的に放たれた砲撃の全てを飲み込んだ。

 

 普段なら刀に集中した魔力をそのまま放つが……今回は試しも兼ねて別の使い方をしてみようと思う。

 

 唖然とする魔人族を他所に、刀に集束した魔力が消えていき俺の体内へと還元され、肉体の隅々まで研ぎ澄まされていくのがわかる。

 

 『喰』という文字が入るだけあって、喰らったものを吸収することが可能だ。とはいえ今まではやる意味もなければ、やれば危険な状況も多かったので使ってこなかったが……なるほどこうなるのか。

 

 一歩踏み出す。亀の魔物が至近距離まで迫り、そのまま頭蓋を貫いた。

 

 脳を傷つけられては大抵の生き物は死んでしまう。それは魔物も例外ではない。貫かれた亀の魔物は動きを止めて瞳から光を無くしている。

 

 ……これで殆ど全滅と見ていいか。

 

 チラリと横目で満身創痍であったはずのクラスメイトたちを見る。

 

 

 ユエが担当したクラスメイトたちに魔物が迫っていたようだが、ユエの周りに漂う蒼い炎の龍が魔物を焼き尽くしたようだ。確か〝蒼龍〟だったか。〝蒼天〟と重力魔法の複合魔法という高等技術だ。

 

 美貌に見惚れたか、クラスメイトたちの目線は殆どがユエの方へと向かっている。

 

 ……憎悪に似た視線はこちらに来ているが。

 

 ハジメとシアは瀕死のメルド団長と八重樫と白崎の二人を守っている。

 

 当然、魔物は近付くことすら出来ていない。ハジメのドンナーシュラークでドパン、だ。メルド団長は……神水を飲ませたらしい。もう死ぬような傷ではないだろう。

 

 これで安心だと、斬られた方の腕を押さえている魔人族に目線を向けた。

 

 逃げようとはしたのだろう。しかし、ハジメが既に出口方面に〝クロスビット〟を待機させ逃げ道を塞いでいた。

 

 放とうと準備していた魔法もドンナーの銃撃で妨害されていた。俺の隙を埋めるように行動しているのは、流石ハジメだと称賛しかない。

 

 これで、魔人族の女に打つ手はなくなった。魔法を今から準備しても間に合うことはないだろう。

 

 つまり、詰みだ。

 

 

「それで、何か言い残すことでもあるか?」

 

「……化け物が」

 

「それが遺言ならもう殺すが……神代魔法とか、聞いても教えてくれなさそうだな」

 

「っ、やっぱりあんたも……そりゃ、勝てるはずがない、か」

 

 

 既に魔人族には抵抗の意志はなかった。瞳には諦めが宿り、身体に力はない。

 

 しかし、ここで捕らえることはない。なぜならこいつは何も話さないだろうし、僅かでも隙があれば何かをやらかすことだろう。

 

 そうするだけの心がこいつにはある。あると判断した。

 

 それでも魔人族の女は、最後に負け惜しみを口にした。

 

 

「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」

 

「その時はそいつも殺す。それだけだ」

 

 

 言うべきことはもうない。

 

 刀に手をかけ、ひと思いに首を─────

 

 

「待て! 待つんだ桜田!」

 

 

 天之河の静止の声が聞こえてくる。

 

 しかし、聞く意味は欠片もない。

 

 振るうそれを止める理由などなく、そのまま刃は女の首を通り頭と胴体を分かれさせた。

 

 ころころと転がる頭部と、首から血が噴き出る身体。

 

 ばしゃりと倒れ、もう動くことはなかった。

 

 天之河は絶句し、何が起こったのか理解した途端に怒りを滲ませた眼光をこちらに向けてきた。

 

 

「……なぜ、殺した。殺す必要があったのか……? 答えろ桜田!」

 

「知るか、自分で考えろ」

 

「なっ、なんだその言い草は! 桜田、お前は人を殺したんだぞ!?」

 

「あーお前が文句を言いたいのはわかったから後にしろ。おーい、そっちは大丈夫そうかー?」

 

「待て、話はまだ……!」

 

 

 面倒そうだったので後回しにして倒れていたメルド団長のところへと足を進める。

 

 既に神水を飲ませているので傷はないが、まだ目覚めてはいないらしい。まぁ死にかけてたのだから当然か。

 

 

「神水を飲ませましたから、もう大丈夫です。あと少し遅かったら死んでましたけど……ところでハジメさん、なぜだかずっと後ろに誰かいるんですけど」

 

「なんでだろうね……いや本当に、私にもわかんない。その、そろそろ離れてくれない?」

 

「……………」

 

 

 ……なんか、白崎がハジメの後ろで後方待機して目からハイライトがなくなってる。ちょっと……いやかなり怖い。え、どうした?

 

 八重樫も困惑した様子でハジメから引き剥がそうとしてくれているが、散々に傷付いてたからなのか力が出ていない……

 

 と思いきやハジメが渡した魔力回復薬で白崎の魔力は回復したからなのか、傷は治されていた。それでなお「か、香織? ほら、助けてくれた恩人に失礼……ぜ、全然動かない……!?」と言われるほどに動かない。

 

 ……モアイ像*1かな? いやでもあれは動かせるか。

 

 

「おい桜田、メルドさんを助けてくれたのは、」

 

「ありがとう、桜田くん。あなたたちが来てくれなかったら、私達は全滅してたわ」

 

「……別に、気にしなくていい。それよりも、まずは迷宮から出るぞ。色々と聞きたいことや話したいこともあるだろうが、後にしてくれ」

 

「……そうね。ここは迷宮、まだ安全というわけじゃないんだから」

 

 

 何か言いたげに黙っていた天之河は、八重樫の説得によって一時的に何も言わなくなった。

 

 他のクラスメイトも、まぁ聞きたいことはあるのだろうが魔人族を殺した、という点から何も聞けないでいる。

 

 そして白崎は未だにハジメの後ろについている。もはや幽霊だとか言われても驚かないぞ。

 

 

「とりあえず、戻るか」

 

「……ん」

 

 

 依頼達成、ということでいいのだろう。

 

 俺達は迷宮を抜けるべく来た道を……崩落した穴は通らずに進んでいった。

 

 ……意外に帰りの雰囲気は悪くなかった。クラスのムードメーカーの谷口鈴がいたからだろうか。ただ滅茶苦茶絡んできた。

 

 途中で美少女である三人をどうにか振り向かせようと男子勢が頑張っていたが、面倒になったハジメがゴム弾で黙らせてた。

 

 

「……そろそろ白崎をなんとかしてくれないか?」

 

「無理よっ。私だって、あんな香織見たことないんだから……もう何をどうすればいいのか……鈴もあんなだし……それに光輝も……はぁ」

 

「……苦労人過ぎるだろ八重樫」

 

 

 ただ、一番苦労してるのは八重樫だなと、俺は再認識した。

 

 

 

 

*1
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