ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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十四話


砂漠、アンカジ公国

 

 

 ホルアドでクラスメイトと再会を果たしてから幾日か。

 

 赤銅色の世界。そう呼んでも過言ではないその場所で車で走らせていた。

 

 この場所の名はグリューエン大砂漠。次の目的地であるグリューエン大火山の存在する土地だ。

 

 砂漠というだけあって何処を見渡しても砂だらけ。暑さも相当なものであり砂嵐もよく見かける。そして砂漠ということは夜は相当に冷え込んだことだろう。

 

 普通の馬車で行っていたのなら、それはもう苦労したはずだ。

 

 あくまで〝普通〟の馬車ならば、だが。

 

 

「この砂漠を馬車とかで横断しなくて、本当に良かったと思う」

 

「凄いねハジメちゃん。こんなものまで作れるなんて」

 

「前に来たときとぜんぜん違うの! とっても涼しいし、目も痛くないの!」

 

「もう、褒めても何も出ないよ?」

 

 

 もちろんハジメ謹製の車なのでとても快適である。今回に限ってはシアもブリーゼで寛いでいる。

 

 ちなみに今更ながら車の名前はブリーゼである。もっと言うとバイクの方はシュタイフという名前だったりする。

 

 話が逸れた。

 

 

「でも実際、これがなかったら移動には苦労しただろ」

 

「そうだろうね。そもそも、そうならないために作ったんだから」

 

「感謝してるよ、本当に」

 

「むむむっ、ハジメちゃんと桜田くんが良い感じになってる……ハジメちゃーん! 構ってー!」

 

「だから今運転中なんだってば……というか白さ「香織!」……香織、前とキャラが変わり過ぎじゃない?」

 

 

 白崎がパーティに加わってから、何かと騒がしくなったと思う。主に白崎がハジメに絡むことで。

 

 それによって注意が逸れるからか、ユエは当然のように俺の膝を占領している。見事に満足げである。

 

 まぁ、退かす理由もないから良いんだけどな。ただごそごそと動かれるのは少し困る。丁度良い位置を探してるのはわかってるが……

 

 と、〝直感〟が反応したな。この感じだと、結構近いか。

 

 

「ん、ユエ、少しどいてくれ」

 

「……どうしたの?」

 

「ちょっと魔物に襲われてる人がいるみたいだから……荷台に行ってさくっと斬ってくる」

 

「えっ、そうなのっ!?」

 

「……ふむ、どうやら紅郎殿の言うとおりみたいじゃの。三時方向、何やら集まっているようじゃ」

 

 

 窓を見ていたティオが指差す先には、このグリューエン大砂漠にのみ生息するサンドワームという大型の魔物が多数確認できた。

 

 こいつは悪食であることで有名らしく、なんでも襲って食べてしまうらしい。大型なだけあって食欲旺盛か。

 

 ……ただ、その悪食で有名なサンドワームが、なぜか獲物がいるのであろう場所で砂中を旋回してることか。

 

 まぁ、斬ってしまえば関係ないか。

 

 荷台に立ち、刀を握る。そのまま〝飛刃〟を使い地中に潜むサンドワームに向けて刃を放った。見えない刃は砂中を進み次々とサンドワームを肉へと解体していった。

 

 何発か連続で放てばサンドワームも全滅し、これで解決だろうと刀を納める。

 

 と、そこで〝直感〟からの反応と車の急加速はほぼ同時に起こった。

 

 

「おっとと」

 

「ごめん紅郎! 地中からサンドワームが来たみたい……まだ来る!」

 

「みたいだなっ! しかし、でかいから狙いやすい、っと!」

 

 

 咄嗟に取っ手に掴まり、次々と口を開けて喰らいつこうと砂中から飛び出すサンドワームを視認する。再び出番となった刀を引き抜き片手で構える。

 

 飛び出したサンドワームから順番に〝飛刃〟を放ち、空中でバラバラとなった血肉が砂漠に落下してくる。

 

 それを避けながらサンドワームの集まっていた場所へと車を走らせていく。

 

 その中心には、どうやら人が倒れているらしい。サンドワームを狙ってたから気づかなかったな。

 

 すぐに白崎が駆け寄って容態を確認していた。

 

 地球で見たことのある砂漠を通る時に着る白衣の顔部分を取る。そこには酷く苦しむ男の顔があった。

 

 ハジメがやった鑑定系の技能のように白崎にもステータスプレートを使って人体を鑑定する技能があるらしく、それを使って苦しむ男の症状を診ていた。

 

 

「……魔力暴走? 摂取した毒物で体内の魔力が暴走しているの? 何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になってる……しかも、外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない……このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も……。天恵よ ここに回帰を求める 〝万天〟」

 

 

 すぐに推測し、魔法を行使した白崎だったが、しかし男の顔色は変わらない。多少、青かったのがマシになったくらいか。

 

 白崎は効力の薄い魔法に疑問を覚えつつ、考えることをやめない。次に有効だろうと予想する魔法を行使した。

 

 先程とは打って変わって、男の顔色が少しずつ良くなり呼吸も安定していった。

 

 ……しばらく見てなかったが、ここまで白崎は成長していたのか。

 

 俺は魔法に関してはからっきしだが、ユエやティオの感嘆する反応を見れば、多少は理解できた。

 

 ふぅ、と白崎が息をつき、こちらを振り返る。

 

 

「取り敢えず……今すぐ、どうこうなることはないと思うけど、根本的な解決は何も出来てない。魔力を抜きすぎると、今度は衰弱死してしまうかもしれないから、圧迫を減らす程度にしか抜き取っていないの。このままだと、また魔力暴走の影響で内から圧迫されるか、肉体的疲労でもそのまま衰弱死する……可能性が高いと思う。勉強した中では、こんな症状に覚えはないの……ユエとティオは何か知らないかな?」

 

 

 そう言う白崎の顔には憂いが見えた。男の症状を治すことができなかったことが悔やまれるのだろう。

 

 ……斬る対象を選択できる〝荒御刈〟や斬ったものを喰らう〝和御喰〟でもどうにも出来ないな。少なくとも、今の俺には無理だ。

 

 ユエとティオにも男の症状に覚えはないらしい。

 

 となると、打つ手はないわけか。

 

 白崎の治癒の効果もあってか、気を失い苦しんでいた男が目を覚ます。

 

 

「……女神? そうか、ここはあの世か……」

 

「違うから目を覚ませ」

 

「あだっ!?」

 

 

 何やら幻覚を見ていたようなので軽く叩く。今回は急いでいないこともあって強くする必要はなかった。

 

 ようやく現実を見ることが出来たのか、起きて……いや、座り込んだ状態で周りを見ていた。

 

 

「この痛み……私は生きている……? 確か、私は……」

 

「混乱しているところ悪いが、ひとまず運ぶぞ。色々と状態が悪いからな。とりあえず水分を飲ませとけばいいか?」

 

「うん、今はそれくらいしか出来ないけど……おねがい桜田くん」

 

 

 とりあえず男を担ぎ、車の中に運び込む。

 

 結構汗をかいているようだから、水分を取らせる必要があるだろう。

 

 それに、症状についても本人の口から聞いておきたい。空気感染……はなさそうか。

 

 車内に運び、水を飲ませる。そしてある程度安定してきたところで自己紹介をすることになった。

 

 

「まず、助けてくれた事に礼を言う。本当にありがとう。あのまま死んでいたらと思うと……アンカジまで終わってしまうところだった。私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

 

 初っ端から凄い身分が出てきた。

 

 確かアンカジ公国はエリセンより運送される海産物の鮮度を極力落とさないまま運ぶための要所……だったか。

 

 海産物の産出量は北大陸の八割を占めており、一分野の食料供給に置いてほぼ独占的な権限を持っている大貴族なのだとか。

 

 つまり偉い人の息子であり、当然ながらこんな砂漠に一人でいていい人物ではない。何か……あの症状が原因なのか、一人で行かなくてはならない事情があったのだろう。

 

 ビィズから詳しく話を聞けば、今のアンカジ公国は原因不明の高熱で人口の大半が倒れている状態であるらしい。原因はオアシスの汚染によるものというのはわかっており、症状を治すには〝静因石〟というグリューエン大火山で少量採取できる貴重な鉱石が必要らしい。

 

 諸々の救助申請をするには時間がなく、すぐにでも始めなければ手遅れになるために強権を行使できるゼンゲン公か、その代理たるビィズがいなければならなかった。

 

 そういうことらしい。

 

 

「……君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

 

 既にビィズにはイルワから貰った金ランクや白崎の〝神の使徒〟という身分は明かしている。

 

 だから俺達ならば……いや、俺たちにしか頼れるだけの時間がない。そういうことなのだろう。

 

 まぁ、答えは決まっている。というよりユエとティオ、それにハジメ以外の視線からもう半数が意見を一致させていた。

 

 

「グリューエン大火山には元々寄るつもりだったんだ。ユエ、重労働をさせるが、良いか?」

 

「……ん、それが紅郎の望みなら」

 

 

 俺の言葉を聞いた途端に、ホッとしたように白崎とシアの雰囲気が和らぐ。最悪、断るかもと思っていたのだろう。ミュウは……ニコニコしてた。嬉しいのだろうか。

 

 ティオとハジメはやれやれといったようだが、異議はないらしい。

 

 ひとまず方針は決まったか。

 

 

「このままアンカジに向かおう。今必要なのは〝静因石〟だからな」

 

「待ってくれ! 確かに〝静因石〟は必要だが、水の確保のためにも王都に向かう必要が……」

 

「そっちは問題ない。水には心当たりがある」

 

「心当たり? それは……」

 

「今は信じてくれとしか言いようがない。それに、時間がないんだろう? 往復するのも惜しいはずだ」

 

「……わかった。信じよう」

 

 

 何が何だか、という感じだが、言ったところで見せでもしない限り信憑性が薄い。これからやることを考えればユエの負担は出来る限り減らしておきたい。

 

 ……まぁ魔力のことを考えれば負担が大きいのはユエだけではないかもしれないが、そこはなんとか持ちこたえよう。

 

 なに、奈落での一ヶ月に及ぶ絶食期間に比べれば、大したことでもないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辿り着いたアンカジは、大層美しい都であると一目見てわかった。

 

 ただ、だからこそ活気のなさが目立った。

 

 まるで嵐が過ぎ去るのを待つように人の気配がない。

 

 それに汚染されたというオアシス。あれは……ただ毒物を入れられた、なんて単純な話ではなさそうだった。

 

 ひとまずビィズの案内でアンカジの宮殿内に入り、そのまま領主ランズィの執務室へと通された。何やら回復魔法と回復薬で誤魔化しながら執務をしていたらしく、顔色は当然ながら悪い。

 

 事情を軽く説明し、そのまま作業に入っていった。

 

 白崎とシアは患者の収容されている施設へ、症状を和らげるついでに魔晶石に魔力を溜め込むために治癒へ。シアは付き添い兼抜き取った魔力を溜め込んだ魔晶石の運搬係である。

 

 残った俺達……というかユエが、ランズィから聞き出した広い場所で貯水場を確保、そこに水を溜め込むという段取りだ。

 

 まぁランズィからは信じられない目をされたが、出来るのだから仕方がない。

 

 本当ならハジメも一緒に着いてきて貰おうかと思ってたんだが……

 

 

「ハジメ、オアシスに何かいる。倒してきてくれ。どうせ汚染されてるだろうから被害はそこまで気にしなくていい」

 

「わかった。早めに終わらせてくるね」

 

「待て待て待て待て!?」

 

 

 向かおうとしたハジメをランズィが止め……ようとしたが普通にパワーで負けて引きずられながらオアシスへと去っていった。お付きの人もランズィを追っていったが、一部はここに残った。

 

 待ってくれハジメ殿ぉ、と遠くから聞こえてくるが……今はこっちに集中しよう。

 

 

「ユエ、頼む」

 

「ん……〝壊劫〟」

 

 

 まずユエが重力魔法で大地を押しつぶし、貯水場を作ります。大体二百m四方ほどか。

 

 そこにハジメが残したシュタイフを使い整地を開始する。どうやら誰か乗らなくても最低限の機能は発揮するように改造したらしく、自動で整地して地中の金属を分離、コーティングして水が吸収されないようにしていた。相変わらず便利すぎる。

 

 その間に慣れない重力魔法を使ったユエは小休憩。背後に倒れようとするユエを受け止め、そのままユエは正面を向いて抱きついてくる。

 

 そのまま足りなくなった魔力を補給するために吸血で、とはいかない。俺の血を飲む場合はちょっとずつ飲むのが良いらしい。度数の高い酒か何かだろうか、俺は。

 

 鋭い牙が首筋に突き立てられる。ほんの少しの痛みが首筋に走った。

 

 首から溢れ血玉となったそれを、ユエの舌が掬い取る。慣れない感触にゾクゾクとした。

 

 

「んっ……ふぁ、ちゅ、ん」

 

 

 ここからでは良く見えないが、艶やかな声がすぐ近くで聞こえてくる。

 

 ハジメの血を飲むときとは違い、俺の血は酷く刺激が強い。そのため大量に摂取しすぎると許容量を超えてしまうらしい。その場合、何が起こるのかはユエにもわかっていない。

 

 だから少しずつ、出てくる血を舐め取る。しかしたったそれだけでもユエの魔力を全開して余りあるらしい。

 

 そうしている間に自動操縦モードだったシュタイフは元の位置に戻ってきていた。

 

 

「ん……ふぅ……すぅ……〝虚波〟」

 

 

 首から顔を離し、深呼吸をして魔法を行使する。

 

 作り出した貯水場に大量の水が投入されていく。とはいえ流石に一度で貯水場を満タンにすることは出来ないので再びユエの吸血。

 

 吸って放ち、吸って放ちを繰り返す。途中からユエの身体が慣れてきたのか、血を吸う量も増えたが、多分魔力量的には大して変わってないと思う。

 

 戻ってきたシアが持ってきた魔晶石も使いながら補給と放出を繰り返したのち、ついに約二十万トンに及ぶ水が貯水場に溜め込まれ満タンとなった。

 

 残っていたお付きの人たちは口をあんぐりと開けていた。

 

 

「紅郎さん、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」

 

「いや……あぁそうだな、流石に何度も吸われて貧血気味だ」

 

「ですよね。その血を吸ったユエさんもお疲れみたいですけど……」

 

「……紅郎の、血は……短期間に、何度も吸うものじゃ、ない……ふぅ」

 

 

 疲労……というよりは体調不良、という感じか。

 

 ひとまず座り込んで体力の回復に努める。ユエも俺に体を預けるように寄りかかり、上気した身体をくっつけてくる。

 

 その間シアがじーっとこちらを見ていたが、すぐに視線はそらされた。

 

 

 ドコォォン

 

 

 水の弾ける爆音が聞こえてきた。オアシスに手榴弾でも投げ入れたのだろうか。

 

 

「ぴゃぁ!」

 

「よしよし、案ずるでないぞミュウよ」

 

「どうやら派手にやってるみたいだな」

 

「爆発音に紛れて人の悲鳴も聞こえてくるんですけど……」

 

「気にするな。どうせすぐにおさまるだろ」

 

 

 方角は、ハジメの行ったほうか。

 

 ハジメにはオアシスに潜む何かを頼んだから、その排除だろう。

 

 暫く音は続いたが、すぐに聞こえなくなった。

 

 

「ひとまず、ってことでいいだろうな。少し休んだらグリューエン大火山だ、今は休んでくれ、ユエ」

 

「ん……」

 

「むぅー、ミュウもお兄ちゃんにくっつくの!」

 

「ふふ、モテモテじゃの、紅郎殿」

 

「俺としては犯罪臭がするけどな……」

 

 

 ハジメが戻ってくるまで、俺はミュウを抱えユエに寄りかかられながら時間を過ごした。

 

 

 

 

 

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