ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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奈落、たった二人

 水が流れる音が聞こえる。

 

 冷たい感触に身体を震わせ、眉根を寄せて目を開ける。

 

 

「ここは……って、南雲?」

 

 

 どうやら川の近くにいたらしいということを確認すると、すぐ側に南雲がいることを発見した。

 腕が俺の首に回されていることから、どうやらずっと離さずにいたらしい。それが死に対する恐怖によるものなのか、クラスメイトのことを思ってのことなのかは分からないが……それは問題ではない。

 

 まず、呼吸はしている。次に、体温は低い。温める必要があるだろう。

 

 

「まずは上がるか」

 

 

 意識を失っている南雲を背負うと、川から出ていく。出来ればすぐにでも火を確保して冷えた身体を温めたいところだが…………俺は奥に続く道を見つめた。

 

 どうにも、嫌な気配を感じる。ベヒモスと同じか、それ以上の何かが、この奥にいる。

 

 

「……進まなければ問題はなさそう、か」

 

 

 ひとまず危険は無さそうだと感じ、背負っていた南雲を降ろし腰に下げてある剣を鞘ごと使って魔法陣を刻んでいく。

 

 せめて火属性に適正があるか、魔石でもあれば良かったのだが……あいにく魔石は騎士たちに預けてしまったし、そもそも俺の属性魔法の適正は低い。

 使えなくはないが、使うよりも剣で切ったほうが早いレベルだ。

 

 魔法陣を刻み終わり、魔法の発動に必要な詠唱で魔力を流していく。

 

 

「確か……求めるは火、顕現せよ、〝火種〟……よし出来た」

 

 

 魔法陣を中心に発動された小さな火種が明るく光り、周囲に熱を与えていく。

 火種の近くに南雲を寝かせ、俺も近くに座り込む。

 

 南雲は起こそうと思えば起こせるのかもしれないが、今は眠ってもらったほうが助かった。

 

 状況を整理する必要があったからだ。

 

 

「まず、ここはあの階層よりも下にあるのは間違いない。落ちてるのに上がってるとか、意味わからないしな」

 

 

 俺達は奈落から落ちたからこそ、ここにいる。まさか上に助けを求めることができる、なんて考えてはいけない。そんな甘い考えは捨てるべきだ。

 

 

「次に、ここにも魔物はいる。多分、上の魔物よりも数段強いやつが」

 

 

 これも考えればわかることだ。オルクス大迷宮は、下に行くほど魔物が強くなる。もちろんトラップもあるが、わかりやすい難易度は魔物で区別できる。

 

 ならば、この階層にいる魔物が上の魔物に劣る道理などあるはずがない。

 

 

「……生還は絶望的だな」

 

 

 ポツリと呟く。

 

 最低でもベヒモスと同格の魔物が、複数体いる。正直、ベヒモス以上の巨体を持つ魔物が出てきたならば、倒すのは難しいだろう。

 

 ……そう思っていたのだが、不思議と出来ないとは思わなかった。あの時は勝てないと確信していたのに、今は違う。

 どういう心境の変化だと思ったが、ただ直感が働いているだけだろうと納得した。

 つまり、今の俺でも勝つことは不可能ではない、と。

 

 

「となれば、目下の問題は……」

 

 

 ゴソゴソと自分の懐やポケットに何か入っていないか探すが、持っていたのはステータスプレートのみ。確かにあって良かったのは事実だが、今欲しいのはプレートではない。

 

 

「やっぱり、食料か」

 

 

 食料。そう食料だ。つまり飲み食いできるもの。栄養価のあるもの。それが致命的に欠けている。

 水は、川があったのでそこから取ればいい。しかし栄養価のある食べ物がない。

 

 人間は水があれば一ヶ月は生きられるというが、一ヶ月で迷宮を脱出することなど不可能だ。それこそ本当は浅い層にいるか、転移して脱出するなどの奇跡が起きない限り。

 

 

「……なら、嫌でも進むしかないよな」

 

 

 立ち上がり、奥に向かって歩き出す。

 

 幸いにもここに魔物が来る様子はなく、俺の直感も安全だと言っている。南雲はここに置いて、俺一人で行くのが確実だ。

 

 もしものことを考えれば見つからない安全地帯が欲しいところだが……この迷宮に、そんな安全地帯があるとは思えなかった。

 

 魔物を警戒しながら一本道の奥へと進んでいく。今の所魔物はおらず、直感も強くは反応していない。

 しかし、奥に進む度に直感の働きかけが強くなり、警戒を促す。

 

 ある程度進んだところで分かれ道となっていたので、一旦立ち止まる。

 

 どの道を進んだものかと考えていると、突如俺の直感が強く反応した。その反応に合わせるようにすぐに抜刀できる状態で構え、備える。

 

 

「…………」

 

 

 何かが来る。それを理解した俺は、何が来てもすぐに迎撃できるように、居合の姿勢を変える。

 

 しばらく経ったところで、それは来た。

 

 

 目で追えないほどのスピードで飛びかかってきた白い影。〝先読〟や〝思考加速〟を使ってなお追いきれないほどの速さを持つそれに対して、俺は─────

 

 

「ふっ───」

 

 

 ───すぐさま剣を抜刀し、居合斬りでもって両断した。

 

 ドサリと地面に叩きつけられる2つの肉塊。それの正体を確かめようと目を向け、しかし両断したせいで分かりづらかったので、すぐに目線を前方に戻す。

 

 俺の直感はまだ、前方へ強く反応し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南雲ハジメが目を覚ましたとき、まず感じたのは暖かな熱であった。

 

 

「ここは……僕は確か……痛っ」

 

 

 痛みが走る頭を片手で押さえながら立ち上がると、ハジメは自身の近くに魔法陣が刻まれていることに気がついた。

 

 

「これ……って、そうだ桜田くん!」

 

 

 魔法陣を見て、自分がどうなったのか、そして誰と落ちたのかを思い出す。あそこから落ちてよく命が助かったものだと我ながら感心するが、今はそんなことを感心している場合ではない。

 

 ハジメは辺りを見渡すが、魔法陣を刻んだであろう紅郎の姿は見えない。しかしすぐ近くにいるはずだと、ハジメは立ち上がって近くを探索するが、見当たらない。

 

 まさか、見捨てられた? とたった一人で取り残された不安から最悪の予想がハジメの心を過る。

 しかしその予想は、奥へと続く道から誰かが歩いてくる音が聞こえたことで霧散した。

 

 思わず魔物か!? と身構え身体を強張らせたハジメだったが、その歩く音が人が歩くときの音だとハジメは気付いた。

 

 身構えるハジメの見つめる先から現れたのは、ハジメの知る紅郎が─────

 

 

「待ってなんで血まみれ!?」

 

 

 全身を血で濡らした状態で、そこにいた。

 

 

「……いや、思ったよりも手こずってな」

 

「何に!?」

 

 

 あなたっ、一体何をヤってきたのん!? と内心でツッコむハジメ。というか全身血だらけですごく怖い。

 と、そこまで思ったところでハジメも冷静になった。そして血まみれの紅郎の心配をし始めた。

 

 

「大丈夫なの、それ?」

 

「あぁ、全部返り血だ。俺の方は……左腕が折れたが、まぁ無事だ」

 

「腕が折れてるのを無事とは言わないよ!? と、とにかく応急処置を」

 

「今はいい。それよりも、頼みたいことがある」

 

 

 ハジメが手持ちのものでどうにか応急処置できないかと考えたところで、紅郎がハジメの腕を掴んで止めて、そのまま奥へと進んでいく。

 

 

「ちょ、何処行くの!?」

 

「錬成で掘って欲しいところがある。俺じゃどうにもならない」

 

 

 そのままハジメを引きずる紅郎。ハジメも最初は何か言おうとしたが、腕力で劣るハジメが紅郎に敵うはずもないため、すぐに諦めた。

 

 紅郎に連れて行かれるままに歩いていくハジメだったが、進めど進めど紅郎は止まらず、流石に疲れが出てきたところで分かれ道に到達した。

 

 そして、ハジメは凄惨な現場を目撃することになる。

 

 

「これは……」

 

 

 分かれ道付近に転がる死骸の数々。その全てが斬殺によって死んでいた。首か、両断か。その二択の死骸しか存在していない。

 

 一番多いのは二つの尾を持つ狼の死骸だ。次に多いのは兎の魔物。この兎は異様に足が発達している。

 

 そして、一匹だけしかいない熊の魔物。この魔物は他二匹の魔物よりも遥かに大きく、なにより爪が長い。

 そんな熊の魔物は死因こそ首の切断による即死だろうが、他の魔物とは違い数々の切り傷が残されている。

 

 辺り一面に広がる血の池、焦げた地面、デコボコとした小さなクレーター、そして爪で抉られた跡。

 ここで戦いが繰り広げられたのだということを、ハジメは理解し、ごくりと息を飲んだ。

 

 

「狼や兎はともかく、この熊の魔物には左腕をやられた。まぁ、切り裂かれるよりはマシだったけどな。ほら、ここだ」

 

 

 そして紅郎が指を刺した場所は一際深く壁が抉られており、何処かの水脈に繋がっているのか水がチョロチョロと溢れ、小さな穴に溜まっていた。

 

 

「水?」

 

「水っぽいんだが、少し違う。これの奥まで頼めるか?」

 

「えっと、うん。わかった」

 

 

 何やら意味深なことを呟いた紅郎に色々と聞きたいことが増えたハジメだったが、とりあえず掘ってから聞こうと肌見放さず持っていた錬成用のグローブで壁をどかしていく。

 

 しかしハジメの魔力はすぐに底を尽きてしまい、少し休憩しようとしたところで、紅郎が「ちょっと飲んでみてくれ」と水を指差した。

 

 

「まだ喉は乾いてないけど……」

 

「理屈はわからないが、魔力が回復するから飲んでみてくれ」

 

「え、本当に?」

 

 

 思わず驚き促されるがまま手で掬い飲み干すと、紅郎の言うとおり魔力が回復していくのが感じられた。

 

 

「すごい……でも、これなら……!」

 

 

 ハジメは魔力が尽きるまで錬成をして奥へと進み、尽きれば水を飲み、魔力を回復した。

 それを何度も繰り返すうちに水が出てくる量は増えていき、遂にハジメたちは水源にまで到達した。

 

 

「うわぁ……」

 

「おぉ」

 

 

 そこにあったのは、バスケットボールほどの大きさをした青白く発光する鉱石だった。

 ハジメはその神秘的な鉱石の美しさから言葉を失い、紅郎はこれがあの水の正体かと下に貯まっている水を見つめた。

 

 しばらくの間それぞれの理由で動きを止めていた二人だったが、先に動きだしたのは紅郎だった。

 

 

「とりあえず、来た道塞いでくれないか? この水を魔物に飲まれるのはまずい」

 

「え、あ、うん」

 

 

 呆けていたハジメだったが、紅郎の言葉にいそいそと錬成で水が溜まっていた場所を埋め立て、塞いでいく。

 迷宮で何度も錬成をしていたおかげか、前よりも錬成速度が早くなっている。

 

 最も、魔法と比べてしまえば遥かに遅い程度でしかなかったが……

 

 

「よし、出来たよ」

 

「ありがとう。これで、ひとまず休める場所ができたな」

 

 

 座り込み、深く息をついた紅郎。その姿を見て、ハジメは自分が錬成している最中も辺りを警戒してくれていたのだということを察した。

 

 

「僕が錬成してる間、ずっと警戒しててくれてたんだよね。ありがとう、桜田くん」

 

「……誰かがやらなくちゃいけなかったし、それなら俺のほうが向いてたってだけだよ。それと、そろそろ考えなくちゃいけないことがある」

 

 

 ふー、と息を吐く。

 

 出来ればこんなこと言いたくはないが、と前置きして紅郎は話を続けた。

 

 

「それで、南雲。お前はどうする」

 

「え、どうするって……」

 

「ここに残るのか。それとも、一緒に脱出を目指すのかって聞いてるんだ。正直、この迷宮でお前を守りながら脱出しようとするのは……難しいからな」

 

 

 

 

 

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 桜田紅郎 17歳 男 レベル:40

 

 天職:剣鬼

 

 筋力:390

 

 体力:320

 

 耐性:250

 

 敏捷:1010

 

 魔力:400

 

 魔耐:400

 

技能:剣術[+無拍子][+抜刀速度上昇][+斬撃速度上昇][+斬撃範囲拡張][+斬撃力上昇][+飛刃][+痺剣][+剣想無心][+剣閃領域][+高速抜刀]・先読[+思考加速]・縮地[+無拍手]・気配遮断・威圧・直感[+効果範囲拡大]・求道[+苦境踏破]・言語理解

 

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【苦境踏破】
苦境を超えることで、ステータスを大幅に上昇させる。
また、苦境に立たされた時、全ての技能に補正がかかる。
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