疲れた~
さてさて、このお話は私の凝り固まったへんてこな理論と妄想とご都合主義でできています。
もしかしたら遠坂凛の性格はこうじゃない!! なんて意見などあると思いますが、そこら辺は温かい目で見守ってあげてください。
なお、誤字脱字や、ここの表現はこうしたほうがいいかもという意見や感想などをくれると本当にうれしいです。
このお話を作るのは私だけではなく、皆さんの意見と感想と、私のひとかけらの努力です。
皆さんと一緒にこのお話を作り上げていくつもりなので、これからもよろしくお願いします<(_ _)>
旅立ち
「士郎、本当に久しぶりね。もう殆んどアーチャーと見分けがつかない恰好しちゃってさ、アイツみたいに幸せそうに逝こうとしてんじゃないわよ」
「と……おさ、か。遠坂……なの…か?」
「えぇ、私よ。何? 士郎、アンタ眼が見えないの?」
黒く、二つに束ねられた髪の毛が綺麗に地面に伸び、服装は赤を基準とした少々目立つ格好をしている女性が青年の目の前に立っていた。
その姿はこの戦場から見ると少し……いや、かなり浮いているいでだちだった。
こんな目立つ格好をしているのだから、ただでさえ化け物じみた視力を持つ青年、衛宮士郎ならば早々に遠坂凛の姿を見つけるのは、わけないことのはずなのだが、士郎は長時間戦場での戦闘により体は摩耗し、疲れ、頭から流れる血液が目に入ったため視界が霞んでいるせいで、凛のことに気付くことができなかったのだ。
「何……別に、遠坂の姿が見えないわけでは……ない。ただ視界が霞んでしまい………見えにくくなっているだけだ」
「あら? 結局見えてないんじゃない」
凛は少々拗ねたように唇を尖らす。
実はいうと、なぜ彼女がこのような浮いた格好をしているのかというと、久しぶりに会う士郎にきれいになった私の姿を見せてやろうと気合を入れてきたことが大きな理由だった。
「すまない……遠坂。だが本当に……君の姿が見えないわけではないのだよ。なぜなら……俺は遠坂のことを、気配で分かる」
途切れ途切れではあるが、確かに士郎は凛のことを見えると彼女の姿を彼は認めた。そして最後にかすかに微笑みながら、変わらないな お互いにな、と小さくつぶやいた。
士郎が変わらないといったのは、遠い記憶にある、あの時の聖杯戦争のころの彼女をさしてのことだった。
お互いに幼かった頃、血で血を洗うような戦いに身を投じていった二人はお互いに手を組み、たった数日間の戦争で生き残った。
もっぱら凛は士郎のことを利用しながら聖杯を勝ち取ろうとしたようだが、心の贅肉と知りながらも士郎に情が移り、挙句の果てに彼に対し、絶対に死んでほしくないと思う程度にはどうしようもなく愛してしまったのだ。
だが、凛と士郎との間に恋愛などという“ままごと”など許されるはずもなかった。
士郎は誰とも知らないような人たちを助け、正義の味方にならんとするために、自分の身の周りにいる大切な人たちや、彼のことを慕ってくれてる妹のような姉と、妹のような後輩、姉のような先生などを切り捨て、足元にいる人達ではなく、自分より遠くにいる人たちのために、遠くへ、遠くへと己を含めた様々なものを切り捨ててきたのだ。
結局はその度に、凛に首根っこを押さえつけ、もとい踏みつけながらもしっかりと彼の手綱を握っていたので、未来軸の可能性であるアーチャーのような擦れた性格にならずに済んだのは、まぁ、ご愛嬌である。
だが、そんな凛の必死な抑止など持続するはずもなく、士郎は遂に最高の名誉でもあり、最大な厄介事でもある封印指定にされてしまい、協会の魔術師である凛とフリーランスである士郎は、離れ離れにならなくてはいけなくなってしまったのだ。
そして刻が過ぎ、数年たった今、こうして二人は再会を果たした。
今度は味方としてではなく、命を喰いあう敵同士として。
「それで、遠坂。君は俺を殺しに来た……のではないのかね? ほら、俺はもう虫の息だ」
そして、場違いな和やかな雰囲気は士郎の発した言葉をきっかけに剣呑とした張りつめたものに変わった。
「士郎、アンタふざけてるの?」
「いや、ふざけてなど、ゴホ ゴホ! いないさ。君は魔法にまで手を届かせた……協会の魔法使いで、俺はフリーランス……しかも、封印指定の魔術師だ。ほら、これだけでも君は、俺を殺す理由など……十分ではないか」
息絶え絶えに声を絞りながら薄く軽薄な笑みを張り付けた士郎の様は、彼自身が嫌悪している英霊になった
まるで凛だけでなく、己自身も傷つけよとしているかのように。
彼もまた、殺してくれと訴える自分を見て傷ついている彼女のように、逝かせてもらおうと悲願している自分自身も傷ついているのだと自覚していた。
なぜならば士郎は凛と同じように、彼は彼女のことをどうしようもなく愛していたからだった。
その姿は機械仕掛けの剣の王ではなく、どうしようもない人間だったのだ。
でも――いや、だからこそ
彼女の後の幸せを思うと、こんなブリキのような壊れた俺など忘れたほうがいいに決まっている。
そう思いながら言葉を紡ぐ。
「俺は、ある意味世界の癌だ……」
彼女が、遠坂凛が顔を伏せ、肩を震わせようとも
「いま現在……俺が一番……反英雄になる可能性がある人間だ」
彼女がどんなに怒ろうとも
「俺をあの、愚か者のように……したいのかね?」
彼女がどんなに
「君は、俺を殺してk『パシン!!』」
士郎は涙を流しながら己のほうを平手で打つ彼女の悲しそうな表情を見て、そこから先へ言葉をつなげることができなかった。
「………………」
何も言えない士郎を見て、怒りが先行していた凛は徐々に悲しみと寂しさが入り混じった陰のある笑みへと表情を変えていった。
その彼女の笑みは、何より士郎のことを愛して已まない悲愛の念が浮き彫りになっていた。
「私、世界と契約したわ」
「な!? 何だと!!?」
愕然とし、己の死にそうになっている今の自身の体のことなど顧みず、痛みや息切れを無視して大声を発する。
それだけ凛の冗談では済まない発言に士郎は大きなショックを受けたのだ。
「遠坂はわかっているのか! それはつまり……それはつまり世界の掃除屋をさせられるという意味だぞ! 汚い仕事を、絶望を!
「えぇ、そんなことわかっているわ。何せ私は
「ならなんで遠坂はそんな無謀な真似をした!
唖然。士郎は眼を見開き、言葉が止まった。
本来、遠坂の立ち位置は俺のはずなんだ。俺のはずなのに、なんで!
彼の心の中を支配する強い疑問が浮かんでは消えるが、すぐにその答えは遠坂によって明かされた。
「私はアンタの代わりになってあげたかったのよ」
「な!?」
彼は確かに一度世界から、多くを救いたくば我と契約せよと迫られ、俺が契約することによって悲しむ人たちがいる。ならばそんな間違った契約など俺はできないと断った。
はずだった。
「士郎、アンタ、まさかだと思うけど、世界にとって抑止力として最も都合がいいアンタを簡単にあきらめると思うの? 本来の歴史の帳尻合わせは? 世界の安定は? 矛盾は? 世界はそんな単純じゃない。世界はそんな簡単に
凛は何も言えない士郎に、自分の涙を指で拭いながら語っていった。
「答えは簡単だったわ。要は士郎、アンタに近しい人間がアンタの代わりをすればよかっただけよ」
世界はまず大前提として、滝の水が高いところから低いところへ流れ落ちるように安定を求め、常に重い情報が軽い情報へ流れ落ちて過程を肯定へと形造っている。
その力は絶大で、様々な可能性軸にいる衛宮士郎が“英霊エミヤ”足らしめる世界が億を超えるほどにある。
要するに、いつの時代から始まったことなのかは定かではないが、衛宮士郎が英霊になることは決定事項と言い換えてもいい。
だが、本当に少ない小さな可能性だが ――0,00000000000000001%ではあるが、確かに抜け道は存在していた。
世界と契約する前に衛宮士郎が死に、代わりを求めた世界が遠坂凛と契約した世界だ。
ならば話は簡単だ。
魔法使いへと手が届いたのなら、凛が英霊になった世界軸となった世界とパイプをつなげ、こちらの情報を軽いものにすればいいだけの話だ。
前提として士郎は世界との契約を拒まなくてはいけない。
そうしなければ明らかに、こちらの『遠坂凛が英霊になる可能性の世界軸より、遠坂凛が英霊になるはずがないそちらの世界の因果が重たくなってしまう』からだ。
そして運よく、士郎は世界との契約を拒んだ。ならば、凛と世界が契約を結べないわけがない。
凛は士郎の代わりに世界と契約することによって、自分の最愛の彼の死後を守ったのだ。
まぁ、例の遠坂家の呪いともいえる“うっかり”によって、別の可能性軸のもう一人の遠坂凛の感情まで流れ込んでしまったゆえに、士郎への思いが想いにクラスチェンジしてしまったわけなのだが……
ゆえに凛は士郎のことを殺すことができない。
「だから私は、士郎を殺すことができないし、何より士郎、アンタのことを誰よりも愛しているんだから」
言いながら彼女は士郎を抱きしめた。
己が士郎の剣で傷つくことも顧みず。
いや、それはあくまでいいわけだ。
凛は士郎に甘えていたのだ。士郎ならば私が傷つかない様に己から生えている剣の切っ先をそれしてくれると。
その考えは当りだった。
なぜならば士郎が凛のことを傷つけ、切り刻むことなどできるわけがないからだ。
その思いは、彼の世界からこぼれ落ちた無限の剣達も同じだった。
「遠……坂…………」
衛宮士郎は衛宮士郎と足らしめている軸が大きく揺らぎ始めていた。
なぜならば彼は他人に、それも最愛の人間にここまでストレートに思いをぶつけれたことがなかったからだ。
この感情を言葉で表すなら後悔か、それとも別な……
いや、このぐらいで後悔しているのなら、彼はここまで走り切りはしなかった。
士郎は別に後悔などしていない。俺が進んできた道は決して間違いなんかじゃないんだから、と。
あえて後悔していることを上げるとするならば。
「そうだな」
もっと彼女と――
「もっと、遠坂と一緒にいたかった」
彼は少年だったあの時のように、かつてのアーチャーと同じように優しく微笑んみ、彼もまた、彼女のことを優しく抱きしめた。
「士郎。アンタは死なないわ。だって、私がアンタをどんなことをしてでも助けてあげるんですもの。絶対に……」
「それは本当にありがたい。なに、俺もいよいよかと思ったが、どうやら欲が出てきてしまったようだ。遠坂、俺は何をすればいい?」
いうと、凛は身をこわばらせた。
しばらくすると彼女は優しく士郎を抱きしめていたその手をゆっくりと解き、彼の肩を押して身を離し何か決心したかのように目じりを上げ、眉を寄せた。
「士郎、アンタは異世界に行ってもらうわ」
「……は?」
それは士郎にとって聞き捨てならないものだった。
せっかく士郎は凛への気持ちに気が付き、また凛もやっと士郎へと告白することができたのだ。
士郎が異世界に行くということはつまり凛とは一緒にいれないということだ。
「私も士郎と一緒にいたい。もしかしたら、アンタが私と一緒にいれた未来もあったかもしれない。結婚して家庭を築いて、私たちの間に子供ができて、幸せな未来を生きていたかもしれない。でも、この世界ではそれはできない。何故ならアンタはこの世界に居場所がないからよ」
「なら遠坂、君も一緒に!」
「無理。私は魔法に手が届いて、そして魔法使いになったのよ? 私みたいなバグがほかの世界に移ったとしても、世界は私のことを拒み、排除しようとするわ。ただでさえ私は守護者になった。……あとは、わかるわね?」
「遠坂、お前は魔法使いなのだろ!? なら何とかできないのか!?」
「……」
凛は小さく首を振ることで士郎の言葉を否定する。
「私は死にそうになっている士郎をそのままにして異世界に送ろうなんか思っていない」
遠坂の言はこうだ。
彼女は士郎と別れたときに、魔術を極めようとがむしゃらに研究した。
その時にたまたま文献で知ったのは宝石の中に魂を保存する方法だった。
彼女は、士郎がいつかこうなるかもしれないと、魔法使いになる為の研究ついでに、この魔術についても調べつくした。
宝石魔術を使う遠坂家の当主である彼女にしてみれば、この魔術をものにすることなど簡単なことだった。
なぜならば、この魔術もまた宝石を使うものであり、何より最愛の彼の命を救うことができる可能性を秘めているものだったからだ。
この魔術は、魔法である魂の物質化を劣化させたものだ。
この魔術を使い、士郎の使い物にならなくなった体から魂を抜き取り、宝石に保存する。
そして宝石剣を使い、異世界への道をあける。
最後に、士郎の魂の波長が最も合う胎児の中に士郎の魂を定着、固定する。
主に、この三工程で士郎をこの世界から逃がそうとしているようだ。
「士郎、私はもういいの。この世界の私は、過去の士郎にサーヴァントとして召喚される。セイバーは過去の私が召喚する。こういう風に未来が進むっていうのは、もう決定事項だから、今更曲げないし、曲りようもない。私はまだこの世界でも、幸せになれるチャンスがあるのよ」
だからね? 士郎、と言葉を紡ぐ。
「士郎。アンタは絶対に幸せになんなくちゃいけない。アンタはたくさんの命を救ってきたけど、心までは救えなかったんじゃないの? 幸せを知らないアンタが人を幸せにできるわけないじゃない。だから今度は、アンタが幸せになって、そして手の届く範囲でいい。お願いだから、本当に大切な人たちのことを助けてあげなさい。命だけじゃなくって、心も……ね」
そして凛は士郎にキスをする。
「できるなら私が士郎を幸せにして挙げたかった……」
彼は――衛宮士郎は、凛のその言葉を最後に、己の体の限界で意識が遠のいた。
「バイバイ、士郎。また会えるといいわね」
こうして彼の――衛宮士郎の新しい物語が始まる。
ここはとある剣の丘。そこには一人の女性がたっていた。
その女性に気配を隠そうともせず一人の老人が彼女に近づく。
「それで? 本当によかったのかのう」
老人――キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが彼女に声をかける。
「えぇ、これでよかったのよ」
彼女――遠坂凛は、自分のことをさして壊れているとのたまった。
それはつまり。
「何せ私は、士郎の愛するがために壊れてしまったんですからね」
「……本当に難儀なものだのぅ」
凛は愛のために狂ったのだ。
「大丈夫よ」
ゼルレッチは凛の言葉に溜息を吐く。
「私はまた、士郎と会えるもの」
数瞬後には、剣の丘には誰もいなくなっていた。