妄想わーきんぐ。まひる   作:つば朗ベル。

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(22)  止まらぬ想い    

 後ろ姿で半信半疑だったけど、自然と口に出ていたことに自分でも驚いた。

 その人が驚いて振り向く。

「あっ……」

 その人の顔を見て……一瞬で私は悟った。小鳥遊くんだ! と。そしてそれと同時に、色んな事を……いっきに思い出す。

「……あれ? 伊波さん!? なんで、ここに…………いや、ていうか、なぜ俺の事……?」

 私は余りの事に立ちくらみを起こし倒れそうになる。

「危ないっ」

「えっ……? わっ、ごめんなさいっ!」

 素早く私の体を支えてくれている……小鳥遊くん。

 私は恥ずかしくなって、慌てて体を離す。

「大丈夫ですか?」

「あ、うん……ごめんなさい」

 そう言って、落ち着いて改めて彼を見る。…………うん。やっぱり、『小鳥遊くん』だ。それはさっきまでとは違って、モヤモヤした物がない……理解したうえでの。なんていうか、小鳥遊くんを理解した上での小鳥遊くんっていうか……そんな感じ。

「それはそうと、伊波さん……なぜ、こんな所まで? それになぜ俺の事を分かっているんですか?」

 急にそう言われても、私は久々に小鳥遊くんを思い出した感動でいっぱいになっていてそれどころじゃなかった。だから、「あっ、えっと」なんて、言いあぐねていると、

「もしかして、失敗したのか……だとしたら」

 ぶつぶつと、そう言って青ざめ始める小鳥遊くん。

「あっ! 違うの! 小鳥遊くんの……治療は成功してッ!」

 手を振ってアタフタしながら私が答えた。

「そうなんですか? でも、あの時、俺は最後に俺の事は忘れるように……っていう暗示をかけたんですが」

 相馬さんに聞いてはいたけど本人から聞いて、やっぱりそうだったんだ、と思った。それと同時に一つ疑問が生まれてくる。

「あの……それなんだけど、どうして小鳥遊くんはそんな暗示を私にかけたの?」

 私が言うと、困ったように下を向いた後、観念したように、

「そうですね……なんだか良く分かりませんが、そこまで知っている以上言わない訳にはいかないでしょうね……」

 そんな達観したような表情を浮かべた後、

「えと……なんていうか、俺は伊波さんにもっと違った世界を見て欲しかったんですよ」

「違った世界……?」

「伊波さんはずっと男性恐怖症に悩んできた。それこそ生まれた時から。だから伊波さんは普通の生活を知らなかった……勿論、傍目から見ればそれほどの違いじゃなかったのかもしれない、本人もそれが当たり前だからもしかしからあんまり自覚した事がなかったかもしれない。だけど、もし伊波さんが普通の女性でいれば……まあ、ありていに言えば、もっと俺以外の男とも出会いがあったんじゃないかなってね」

 それを聞いて……その意味を噛み砕いて理解すると……私はたぶん初めて……小鳥遊くんに対して本気で怒りが込み上げてきた。

「ねえ、小鳥遊くん……? 私、今から本気で怒るけど……いい?」

 私は多分この時、凄く怖い顔をしていたんだろう。生まれてこんなにも怒りを覚えた事がなかったから、その時どんな顔をしていたかなんて事に意識を割いている余裕なんてなかった。だから、そう思ったのは、小鳥遊くんがまた、見た事も無いような顔で驚いて困惑していたからだ。

「あの……えっ? 伊波さん……? 本当に伊波さんですか?」

 思わず後ずさりする小鳥遊くんに同じ歩数距離を詰める私。

「……って! 小鳥遊くん、それ以上後ろ言ったら落ちるよ! 後ろ海っ! うみっ!」

「あ、ああ、そうでした……ちょっと、我を失いかけて……あ、良いですよ続けて」

 そう言って、90度移動して野原をバックにして後ずさりを再開。

「じゃあ、言うけど……私、さっき小鳥遊くんの顔を見た時、全部思い出したの……今までの楽しかった記憶……私が長い間、あなたの事を一途に思っていて、それでつい最近、小鳥遊くんも私の事、好きって言ってくれて……飛び上るほど嬉しかった! 両想いになれれたんだぁ……って思うと、死んじゃいそうなほど嬉しかったの……あなたの優しい言葉とか、言い訳とか、照れた表情とか、真面目なかっこいい表情とか……全部、覚えてる。私の記憶、全部、あなたしかいない、小鳥遊くんじゃなかったら……なんて、そんな事……そんな馬鹿馬鹿しい事、考えたくもない! それ位、好きなのに……小鳥遊くんが、小鳥遊くんだけが……大好きなのっ! 他の人なんて考えられないよおっ!」

 言葉と共に、想いも全部吐き出して……魂が抜けたように私は膝を付きへたり込んだ。

 やだ……もう、興奮したら、また涙でちゃう……。

「あの……伊波さん、なんていうか……伊波さんの気持ち、凄く心に響きました……俺、馬鹿でした。全く馬鹿な事をしましたね……でも、自分でも分かってはいたんです。伊波さんと両想いになって、俺だって嬉しかった。だけどその半面……こんなに上手く行って良いんだろうか? なんてそんな変な不安があったんです。伊波さんは知れば知るほど、魅力的で、可愛くて……俺の彼女でいるのが勿体ない位で……だから、伊波さんには他の人生があったんじゃないだろうか? たまたま、近くにいた俺が気に入ってしまっただけじゃないかってね」

「そんな……難しい事は私にはわからないけど……ただ、一つだけ確かな事は……今の私は、小鳥遊くんが大好きで、ずっと一緒に居たい。いつまでも一緒に居たい……って事なの……それ以外考えられない……」

 ハンカチで涙を拭きながら私は言った。

 

 それを見た小鳥遊くんはすぐにポケットからハンカチを取り出し貸し隣に座って涙を拭いてくれた。

 そうして、しばらくして私も落ち着いてきた頃……

「もう、すっかり暗くなってしまいましたね」

「……あ、そうだね」

「……ここの、景色、奇麗でしょう?」

 小鳥遊くんは顔を横に向け海を見て言う。

「うん……明るいうちに写真とっておけばよかったな」

「写真は……あまり、意味がないんですよ」

「えっ?」

「写真で満足できるのなら、誰も時間と労力をかけてここまで見に来ませんよ、今じゃネットで調べれば何処の景色も見られますからね」

「……確かに、ここにいてこそ、本物が見られるんだもんね」

「ええ……ここの海風、気温、雰囲気……すべて含めてこの景色なんですよ? ……ここにいる伊波さんだって……本物でしょう?」

 小鳥遊くんは顔を近づけながらそう言うと、軽く笑っておでこをぶつけてくる。

「どうしたの急に……?」

「こうして、触れ合えるのも、本物だから……でしょう?」

 か、顔が近いっ……恥ずかしい。

「あの……? 小鳥遊……くん?」

「もう、ホントに暗いですね……人も近くに居ませんし……何してもバレませんよね……?」

 えっ? えっ? な、なに言ってるの!?

「ちょっと……本気? こんな所で……?」

 か、体が覆いかぶさって……! も、もう……どうにでもなっちゃえ……!

 そう思って、目をつぶると……

「イタッ!」

 おでこに痛みが。

「ははは……ほんとに暴力振るわない伊波さんはからかい甲斐があるなぁ」

 そう言って笑う。

「もうっ! なんで……女の子にそんな事するのよ~!」

「はは、なにを怒ってるんですか、俺なんて昔に数え切れないほど殴られたって言うのに、これ位も許してくれないんですか?」

「あ、もう……それを言われると」

 私がしゅんとなると、

「……冗談ですよ、スイマセン、痛かったでしょ?」

 なんて言っておでこにキスしてくる。

「……もう!」

 そんな事されたら……怒っていいんだか、なんだかわからないじゃない……っ。

 

 そんな、バカップルみたいな事を恥ずかしげも無くしていた後、

「そう言えば、伊波さん帰りのバスもう無いですけどどうするんです?」

 今後の予定はまだ決めてないと言うとそんな返事がきた。

「えっ? じゃあ、どうするの?」

「どうするのって……俺は、この近くの宿に予約済みですけど」

「え……じゃあ……」

 私がモジモジしていると察してくれたのか、

「伊波さんも来ますか?」

 そう言ってくれる。

「うんッ! あ、部屋取れるかな……?」

「……大丈夫ですよ、だって一緒の部屋で良いでしょ……?」

「あっ! そ、そだね……」

 そうして、私たちは二人で宿に歩いて向かった。私は小鳥遊くんの腕を抱いて……恥ずかしかったけど、もう暗かったから、結構大胆になれた……。

 

 

 宿で、一人増える事を説明し終わった所で、ようやく部屋の前まで来た。

「フゥー、終わった」

 小鳥遊くんが溜息を付いて立ち止った。色々説明して疲れたのだろう。なんだか面倒な役回りを押しつけちゃった。

「……って、入らないの?」

 後ろで荷物をぶら下げた私が言う。

「いや、いざ、こう……部屋まで来ますと妙に緊張すると言いますか……」

「ははは……」

 その気持ちは私も感じたけど、それよりもどんな部屋だろう? というワクワク感があったので、手を伸ばして不意打ちっぽく扉を開く。

「あっ、伊波さん……」

「わぁ……結構いい部屋じゃない」

 畳式の和風のお部屋だった。……旅館だから当たり前か。

 とりあえず、各自荷物を置く。荷物と言っても大きくないバッグ一つだけど。小鳥遊くんの方を見ても私と変わらず荷物は多くない。すぐにやる事が無くなり、なんとなく二人でテーブルを挟んで座る。

「あ、お茶でも飲みますか?」

「う、うん」

 私がなんとなく返事をすると、備え付けのお茶を入れてくれる。湯呑みをわざわざお湯で温めてから入れてくれる所が小鳥遊くんらしい。

「そういえば、小鳥遊くんはなんでここに来たの?」

「ああ、そうですね……俺の予定では伊波さんは俺の事を忘れているはずなのでしばらくは会わない方がいいかと……それと俺も伊波さんを忘れるという意味でこうして一人になれる所に来た訳です、さすがに本州に行くのは大変ですしバスや電車に揺られて少しずつ遠くに行く感覚も欲しかったですしね」

「もう……また、そんな馬鹿な事を……」

 私が拗ねたように言うと、小鳥遊くんは笑みを浮かべて犬のように這って近づいてくる。

「えっ!? ど、どうしたの?」

「……でもね、伊波さん……俺も心の何処かで思っていた事があったんですよ、伊波さんが来てくれるんじゃないかってね……ありえないのに、だって、誰にもここに来る事も言って無いですし、伊波さんは俺の事を忘れている……だから、来る訳が無い……ここに一人、孤独で海を眺めていて……寂しかったからそんな風に思っただけなんですよ、実際には……」

 言いながら小鳥遊くんはついに私の腕を右手で掴み、更に詰め寄ってくる。

「でも、現実にこうして伊波さんが来てくれた! こうして、今ここに居る……! こんな奇跡みたいな事……ありえないのに……なんで……ッ!」

 そのまま、私の腕を掴んだまま下を向いて、感動して泣きそうになる小鳥遊くん。

「えっと、その……私が、小鳥遊くんの事を忘れないように抵抗したり、お母さんが小鳥遊くんの何気ない言葉を聞いてたり……相馬さんが出所不明の情報をくれたりして……ここまで来れたんだよ?」

 私が言うと、ぱっと、顔をあげて、

「そんな細かい事、どうだっていいんです……俺は、唯、ここに伊波さんが居る……俺の元に来てくれた……それだけで……もう、爆発しそうな位に嬉しいんです……さっき海で会った時は、混乱してましたけど、さっき、部屋に入る頃位からもう、抑えが利かなくなりそうで……!」

「わっ!?」

 そのまま、押し倒される……。

「た、小鳥遊くん……? ここ、下、かたいから……」

「畳はそこそこ柔らかいでしょう? って、柔らかかったら良いんですか?」

「か……顔近い……」

「さっきから、否定的な言葉が一つも無いですが?」

 そう言ってさらに顔を近づけてくる……。

「そんな……いじわる……っ」

 ドキドキする……。ドキドキして……熱い。

「キス……して、いいですか?」

「き……きかないでっ……」

 そう言って目をそらすと、手で正面を向けさせられ、唇を奪われる。

「んっ……」

「は……はぁ……っ……」

 しばらく、小鳥遊くんの気が済むまでキスに付き合った後、顔を上げる小鳥遊くん。

 私が見上げると、丁度、小鳥遊くんの顔の上に蛍光灯があり逆光になって照らしている。そしてそのまま見えない顔で、

「あの……伊波さん……実は、俺、伊波さんと一緒に行きたい所がありまして……」

「……い、今から……?」

「はい……ついて来て……くれます?」

 

 ……もうこんな時間なのに、今から行く所って……?

 

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