妄想わーきんぐ。まひる   作:つば朗ベル。

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(4)  だって、女の子だもん

「伊波さんですか……どうぞ?」

 言うと、扉の向こうの人影がビクッっと反応し、そのままゆっくりと扉をあける。

「あっ……? なずなちゃん……も、来てたんだ?」

「はい、伊波さん、こんにちは……お見舞いですか?」

 小学生とは思えない落ち着きで答えるなずな。

「えっ? ああ、うん、そうです! どうも」

「じゃあ、私はちょっと、お花の水を替えてくるね」

 そう言ってなずなはすっと立ち上がり、さりげなくイスを用意すると朝に水は替えておいたと俺が言った花瓶を持ち上げ、部屋を出る。

 何か理由を付けて、二人にしてくれたという事か。気が利くというか利き過ぎというか……。そういう事なら、10分位は戻ってこないかな? 少し帰りが遅くなるけどしょうがないか。

「なんだか、気を使わせちゃったかな……?」

 なずなの用意したイスを少し後ろにずらし、ソワソワしながら座って言う。

「いえ、そんな気にしなくて良いですよ」

「そうかな? ……あっ、今日はね、お見舞いに来たの。あ、はいこれリンゴ……」

 そう言って伊波さんがスーパーの袋からリンゴを4つ取り出し、棚に置いた。

「あんまり、高価なものじゃないけど……」

「いえ、ありがとうございます。俺、リンゴ好きですし……ていうか、あんまり高価なもの貰うと返って気を使ってしまうので……!」

「う、うん、本当はもう少し、良いもの買おうかと思ったんだけど、お母さんが高価なものだと返って気を使うからって、それでリンゴにしたの。リンゴなら日持ちするし、前に小鳥遊くんにリンゴ貰った事あったし、好きなのかなって……」

「ああ、それで……」

 そんな事もあったけ……よく覚えているな、伊波さんは。

「あっ……そう言えば、バイトの方は大丈夫ですか? 何とかなってます?」

「うん! 私と山田さんが頑張ってるかな? 他のみんなも手伝ってくれてるからなんと大丈夫」

「伊波さんはともかく、山田が!? 少しは責任でも感じてるのか……?」

「ああ、いや、山田さんは最近、結構仕事も覚えてきてたから、なんか仕事するの面白いって言ってるよ? 私は、まあ、責任あるから当たり前だけど」

 あの、山田が仕事が面白いだと……!? まあ、今だけだろうな。

「そうですか……ともかく、無理はしないでくださいね」

「う、うん……小鳥遊くんも元気そうでよかった……!」

 そう言って、笑いながら手をもじもじさせる伊波さん。

 まあ、実際にはまだ大きく息をするだけでも痛いのだが軽傷に見えたようで良かった。

 

 その後、他愛のない世間話をしていた時、花瓶を抱えたなずなが部屋に戻ってくる。

「ははははっ、そうだねー」

 話が盛り上がって笑っている伊波さんを見てなずなは、一瞬、驚いたような困惑したような顔を見せた。が、次の瞬間には、いつも見せる笑顔に戻っていた。

「はい、お兄ちゃん……お水替えておいたから、じゃあ、なずなはもう、帰るね?」

 無表情の笑顔を浮かべたような表情をしたなずながそう言って、扉を出ようとする。

「……伊波さんはまだ、帰らないんですか?」

 と、部屋を出る途中、扉に半分顔を隠してそう言う。なずな。何やら不思議な気配を感じ取ったのか、

「……あ、じゃあ私も、もう帰るね?」

 言って、イスから立ち上がる伊波さん。俺に言うべきなのになずなの方を向いて言っている。

 なにやら不穏な空気が立ち込めている気がするのは俺の気のせいだろうか? なずなのアルカイックスマイルが脳裏を離れない。

「じゃあね……っ?」

 最後に小さくそう言って、伊波さんが部屋を出た。その女の子らしい仕草はなずなよりよっぽど子供に見える。それと同時に俺の中で感じている先ほどの違和感……少し気になったが、どちらにしても、今の俺は満足に動く事は出来ないのだった。

 

 

 ふう……。心配だったけど、元気そうでよかったな……小鳥遊くん。

 私は小鳥遊くんが寝ている個室のドアを閉めると一息ついた。そして、帰ろうと廊下を歩いていると、

「伊波さん……?」

 なずなちゃんがひょこっと顔を見せた。

「わっ……なずなちゃん、なに?」

「あの……今から、少しお時間あります? ちょっと、伊波さんと話したい事が……」

 頼み込むようなその態度に、丁度、急ぎの用事もなかったので、

「そんなに遅くならなければ……いいよ」そう答える。

「じゃあ、ついてきてください」

「えっ?」

 なずなちゃんは言うや否や、私の顔も見ないで、どんどんと歩き始めた。その急な態度の変化に私は驚き、一瞬、体が止まってしまう。

「どうしたんですか? 時間がないんでしたら早く済ませましょう?」

 相変わらず、冷たい言い方。

「あっ、う、うん……」

 そんな、なずなちゃんの態度に私はビビってしまって従うなく黙って付いて行った。

 

 先に到着したなずなちゃんが待っていたのは、病院の外の横にあるベンチだった。

「ゆっくり話せる場所は、ここ位だったので……」

「ああ、そうなんだ。……座っていい?」

 そう、了承を得て、ベンチに腰を下ろすと、なずなちゃんも同じように腰を下ろした。

「で……話って?」

「……そうですね。時間もないですし、回りくどくならずに言いましょう。……伊波さん、さっき、お兄ちゃんとなんで、あんなに楽しそうにしてたんですか?」

 なずなちゃんはそう言うと、キリっとした目で私を見つめてくる。

「えっ? ……楽しそうにって、でも、小鳥遊くん、元気そうだったし……」

「まだ、3日しか経ってないんですよ!? 元気な訳ないじゃないですか!!」

 急に、大声で怒鳴られたので、驚いて心臓が跳ねた。

「えっ!? ……ああ、そう……そう、だよね。じゃあ、私に気を使わせないために?」

「そうに決まってるじゃないですか! お兄ちゃんは常に他人に気を使わせまいと思って無理しているんです。痛そうな態度見せて、伊波さんを困らせる訳ないじゃないですか!」

「ウソっ! そっか、そうだったんだ……ゴメンね、なずなちゃん……小鳥遊くん……」

 やっぱり、私のせいで……痛いよね、まだ、治ってないもんね。怪我させちゃったってだけで迷惑かけてるのに、その上、気を遣わせて……私は、どこまで小鳥遊くんに迷惑を……!

「……わかりました? 伊波さんのせいでお兄ちゃんは入院して痛い思いしているんですよ? それでも、誰のせいだとか、痛いとか私にも絶対言いませんし、家の家事の分担とかまで、心配しているんですよ? 伊波さんのした事はうちや私たち姉妹にも迷惑をかけているんです……! もちろん、私はその責任を取ってほしいだとかそんな事は言うつもりは無いですけど、少なくてもその事は自覚しておいてほしいし、お兄ちゃんへの責任位は感じておいてください!」

 いつのまにか、なずなちゃんは立ち上がっており、見下ろすように座っている私を睨み言う。

「ううっ! ごめんなさい! そっか、私、不謹慎だったよね……真っ先に反省しなきゃいけない立場だったのに……あんなに、楽しそうにしてる場合じゃなかったね……」

「そういう事です……分かったら、反省してくださいね……私の大事な家族のお兄ちゃんに怪我させたんですから、笑い後じゃ済みませんから」

「……っ! ご、ごめんなさい……っ」

 その、言葉がきっかけで私は心の底から申し訳ない気持ちになった。そして、目のあたりを腕で押えて、その場を逃げるように駆けだした。

 後ろからは何も聞こえてこなかった。ごめん……小鳥遊くん……なずなちゃん……。

 

 5分位、走った所で、病院とは近くない道まで来ていた。私は振り返る事もせず、そのまま、腕を戻して歩き始めた。まだ、悔しさで涙がボロボロ出てくる。隠しようもない。半ば諦めて、下を向いて歩き続けた。たまに、すれ違った人が私の方をチラチラ見ているような気もしたけど、……どうでもいい。そのまま、赤い目で家に帰った。

「ただいまー……」

 家に着くと同時に、自分の部屋へと進む。途中、お母さんの声が聞こえたが、無視して部屋に籠って鍵をかけた。……ゴメン、お母さん。

 

 ベッドに背を預ける。ボフッっと、布団の跳ねる音がした。

 悔しかった。自分のした事もだし、自分の病気にも。自分意思じゃないみたいにやってしまう事だから、あんまり気にしない事もあった。お父さんのせいだって事も知ってた。だから、そういう所に甘えていた。……でも、自分のやった事だってことは事実で……結局、私が悪い。他の人にとっては、そんな事関係ない。私が……伊波まひるが、キケン、アブない。そういう事でしかない。なんだか……この男性恐怖症があるから、小鳥遊くんと仲良くなれたし、ある意味感謝さえした事もあった。だけど、今はこうしてそんな大好きな人を、それで傷付けてしまって…………私って何やってるんだろう? 何なんだろう? 何がしたいんだろう? 

 

「ううっ……あっ……ひぐっ……」

 悲観的になって、ますます涙が出てくる。でも、受け入れなくちゃならない。私の問題だから。私の……責任なんだから……。

 涙を通った後の頬が痒い。薄暗い部屋の中、ハンカチでぬぐった。

 

 その後の事ほとんど覚えてない。お母さんに呼ばれて晩御飯を食べた後、お風呂に入ったと思うけど、ほとんど惰性でこなしていて、お母さんも私の状態を察してくれたのか、何も私に言わなかった。

 

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