忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。245話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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245話 悪は全てを欺く

 

 

「ちょ、はあッ!?」

 

 ユウキの右回し蹴りを受けたリムルの左腕が――

 

 左手の肘から先が()ぜたように砕かれた。

 

 

 リムルは素で驚きつつも連続バックステップで距離を取り、呆然と自分の腕を眺めた。

 

 

《驚。『誓約之王(ウリエル)』の『万能結界』が破られました。個体名:神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)は、超特異体質――『能力封殺(アンチスキル)』なのだと推測します》 

 

(えっと、ちょっと待って? つまりユウキには、俺の『絶対防御』が通用しないって事!? いやいや、それどころか……ほぼ全ての攻撃が無効化されちゃったりす、るのかな?) 

 

《是。『能力封殺(アンチスキル)』は霊的体質であり、魔法と能力(スキル)を封殺します。効果が期待出来るのは、聖剣技等の技術(アーツ)の一部だけでしょう》

 

 リムルはこの時、あの日コハクから独り()ちた忠告めいたものもらったが、『絶対防御』を破られた驚きで、それはすっかり頭から抜け落ちていたのだ。

 

(それじゃあ、崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)精神波(サイコウェーブ)なんかは通用するのか。ん? そういや、何かコハクから大事な事を聞いたような気がするけど、何だったかな?)

 

《……》

 

 ここで普通なら智慧之王(ラファエル)も聞いていたはずなのだが、コハクにこの部分だけはキッチリ妨害されて聞き取れなかったのである。

 

(う~ん、まあいいか。その内思い出すだろう)

 

 と、この状況でもどこかポジティブなリムルであった。

 

「お前、ユニークスキルや特殊能力なんかは獲得出来なかったんじゃないのかよ!?」

「嘘は言ってませんよ。身体能力だけは異常に発達しているって言ったでしょう?」

「ああ、そうだったな」

 

(さて、どうする? 殺さず制圧は、無理か。操られているにしても、ユウキは強過ぎる。殺したくない、が、手加減して勝てる相手でもない。ならば――)

 

 リムルは覚悟を決めて、直刀を抜き。

 

 漆黒の刀身に、自分の妖気(オーラ)(まと)わせる。

 

 紫焔(しえん)のように漆黒の刀身を(ほの)かに輝かせる、直刀。

 

 

「へえ……凄い刀だね」

 

 そう言いながらユウキも、少し小ぶりなブロードソードを左手に持ち。

 

 腰後ろに差していた、小剣を右手で抜く。

 

 二刀流にして、腰を落とした独特の構えを取るユウキ。

 

 

(俺の知る流派ではないな。我流なのか? それに――)

 

 リムルはユウキが構えたのを見て、今更ながらに理解した。

 

(魔法や能力(スキル)が通用しなくて焦ったが、ユウキは別に『物理攻撃無効』という訳ではないのか。という事は、超特異体質の『能力封殺(アンチスキル)』でも、剣で斬られれば傷付く、んん? ああ! そうかそうか。思い出した、コハクが言っていた事を。何だっけ、そう、物理で殴れだったかな?)

 

 ここでようやくコハクの言葉を思い出したリムル。

 

(俺の攻撃の場合、殴る攻撃にもスキルが影響していた。だから、ユウキにはほとんど通じなかったのか。コハクとツキハは、物理だけでも殴れる。古流武術、いや、この世界で更に発展させた天牙影千流の技術(アーツ)が。だとすると、妖気(オーラ)を纏わせない方が効果的だったりして?)

 

《否。それに関しては情報が足りない為、正しい解答が導けません。コハクとツキハに情報の開示を要請しましたが拒否されました》

 

(ですよねぇ。多分、ヒントは与えたから後は自分でなんとかしろ、という事なんだろう。とういう事で、実際に試してみよう。やるか――)

 

 と、そんな事を考えて実行に移すリムルであった。

 

 そして、リムルは地を蹴り一気にユウキに斬りかかる。

 

 

 リムル、ユウキの左脇腹目掛け、横()ぎ一閃。

 

 ギインッと金属音を響かせ、ユウキは左手の小剣で受け流す。

 

 身体能力が高いだけに、リムルのスピードに余裕で対応をして見せた、が。

 

 そこはリムル、ハクロウとの修行の成果もアリ、二手、三手と矢継ぎ早に斬撃を繰り出す。

 

 しかし、ユウキはそれにも難なく対応していく。 

 

 ユウキは右手の小剣を攻撃主体に置き、左手のブロードソードを防御に用いるスタイルだった。

 小剣の短いリーチを生かし、予期せぬ軌道からの斬撃を得意とする。

 

 剣の材質は両方とも純度の高い〝魔鋼〟製。

 皮肉にも、以前ルヴナンが卸した〝魔鋼〟で作ったもの。

 

 金属の進化を経て、その性能は飛躍的に向上し〝特質級(ユニーク)〟の中でも最上位に位置し、下手をすれば〝伝説級〟にも匹敵するほどだった。

 

 

 これは、リムルにとって厄介だが、思わぬ発見もあった。

 

 

《告。『能力封殺(アンチスキル)』は武器には適応されません》

 

(何と? 素手の攻撃だけにあのスキルは効果を発揮するんだな。ならば――)

 

 ここでリムルは、ワザと小さな隙を作る事にした。

 

 

 激しく斬り結ぶリムルとユウキ。

 

 そしてユウキは、リムルに極(わず)かな隙を見つける。

 

 

(……右が、ほんの少しだけ空いてる?)

 

 ユウキから見てリムルの左側に、ほんの僅かな隙が空いていたのだ。

 

(これは、罠かな? いや、この攻防の中そんなモノを仕込む芸当なんて出来るのかな……。うーん、どこか癖のある動きにも見えるし、これは……)

 

 時折、激しく火花を散らしながら一進一退の戦いを繰り広げるユウキ。

 

 しかしその隙も、リムルのある一定の動きから発生しており、ユウキにはそれが癖に見えていた。

 

 このリムルの一連の動きは、ツキハが達人などに使う技法の一つだったのだ。

 

 たまにだが、ツキハと手合わせをしていたリムルは、この技法にいつもやられていて、記憶に残っていたのである。

 

 それを、智慧之王(ラファエル)のサポートを受けながら動きを再現していたのだ。

 

(ちょッ、これ、足の運びとかムズくね!? 智慧之王(ラファエル)さんのサポートがなかったら、無理だわ。そういえば、ハクロウもこれと似たような技法をしていたような? お!?)

 

 リムルがそう思った時、ユウキがその隙に喰いついた。

 

 

「ハハッ、もらったよリムルさん!」 

 

 ユウキの攻撃を受け損ねた様に見せかけた時――

 

 それに吸い込まれるように小剣を突き出して来るユウキ。

 

 小剣には細工が仕込まれていて、長さが形状記憶合金のように、スルッと剣先が延びて来てリムルの間合いを狂わせる。

 

 ユウキにしては、一瞬の隙を突いた絶妙な不意打ちのタイミング。

 

 リムルの心臓、あるいは〝魔核〟がある位置で、ピタリと剣先が止まったのだ。 

 

(チッ、こんなものまで仕込んでやがったのか!)

 

 『絶対防御』で受けた剣先からは、精神に影響を及ぼす猛毒まで仕込まれていたのを確認したリムル。

 

 もし、本当にこの攻撃を喰らっていたら、いかなリムルでもダメージを負っていただろう。

 

「はい、残念! 素手で殴られた方が数倍効いたよ」

「嘘だろ、作られた隙? 出鱈目過ぎ――!?」

 

 自分がリムルの策に(はま)ったのを理解しながら、目を見開き文句を言うユウキ。

 

 ユウキはすぐさま後方に飛んで距離を空けようとしたが、それよりも早くリムルの一撃が飛んで来た。

 

 

 それは、つい最近出来たばかりの技――暴風黒魔斬(ストームブレイク)

 

 

 ヒナタの崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)を参考にした、魔法と剣技の複合技。

 用いる魔法は、『暴風之王(ヴェルドラ)』の『暴風系魔法』である。

 

 ヴェルドラの魔法は、一時被害よりも二次被害が怖い。

 

 受けた傷口から崩壊が始まり、全身を(むしば)む。

 

 暴風黒魔斬(ストームブレイク)も同様で、相手の生命を蝕む必殺剣技なのだ。

 

 だがしかし、ユウキはその特異体質のせいか、傷口が崩壊する様子はなかった。

 

 胸が大きく斬り裂かれているものの、致命傷とは言い難いようだ。 

 

 

「クッ……」

 

 リムルを睨みながら呻き声を上げるユウキ。

 

 そしてリムルは、ユウキの内面を解析する、が。

 

(うーむ……どうにもこうにも、黒い霧のようなものに阻まれてるように見通せないかぁ。やっぱり、マリアベルの〝強欲〟に染まり切っているな。これを取り払う事が出来れば、トドメを刺す必要もないのだけど……コハクならどうやるんだろうか、って、いかんいかん! これは俺がやるべき事だからな)

 

《解。『能力封殺(アンチスキル)』に阻まれ、干渉が妨害されました》

 

(無理だったか。ならば、取れる手段は一つだけ)

 

「俺の勝ちだ、ユウキ。 マリアベルの支配から解き放ってやりたかったが、それは俺にも出来ないみたいだ。ちょっと手加減できないけど、悪く思うなよ」

 

 死ぬギリギリの力で気絶させ、ユウキが意識を失ってる間にマリアベルを始末する。

 

 それで影響が消えれば良し、消えなければ、それはその時の話しだとリムルは考えた。

 

 悲しい事に、リムルでは素手で殴ってもダメージを与えられない。

 

 智慧之王(ラファエル)(いわ)く、能力封殺(アンチスキル)で無効化した分のエネルギーで、その他の運動エネルギーまで相殺してしまうらしい。

 

 そんな馬鹿なとリムルは言い掛けたが、それがユウキの体質だと智慧之王(ラファエル)は言った。

 

 では、コハクとツキハが何故ユウキに勝てたかというと、智慧之王(ラファエル)の推測では、〝打振〟を打ち込んだのだろうと言う。

 

 天牙影千流柔術の打撃技であり、魔法や能力(スキル)ですらもない、純粋な物理打撃技。

 

 魔人の身体能力で生身の身体のユウキがこれを受けたら、いくら身体能力が高くても、致命傷に成り得るだろうと。

 

 そして、本当に殺すつもりなら、〝打震〟を撃ち込んでいただろうとも付け加えた。

 

(まあ、アノ技は反則的でもあるからな。相手を殺す為だけに生み出された技、〝忍びの殺技〟。流石にアレは真似出来ないわ。今度教えてもらおうかな?)

 

 と、そんな事を考えながら、ギリギリを見極め刀に力を乗せていく。

 

 ユウキを峰打(みねう)ちにしようとするリムル。

 

 この峰打ち、実際の剣術には存在しない。

 

 あくまで、テレビや映画の演出で生まれた技法であり、それは終戦後GHQの政策で、たとえテレビや映画であっても殺人シーンを許可しなかった為である。

 

 決闘シーンのない時代劇に、敢えて決闘シーンを入れる為に編み出した苦肉の策だったのだ。

 

 実際の刀の峰部分は刀身と違い、焼入れ時に刀身は強度の強い性質となるが、峰の部分は材質の粘り強さ、壊れにくさの柔らかい組織となるため、強度が低くなる。

 

 では、日本刀で実際に峰打ちをすると、どうなるか?

 

 たやすく曲がり、下手をすると破損してしまう事になるのだ。

 

 ちなみに、〝忍者〟という呼称が生まれたのは昭和三十年代以降であり、当時の小説や漫画で広く使われ普及したと言われ、〝忍び〟も飛鳥・奈良時代の軍事呼称〝志能便(しのび)〟がルーツとも言われている。

 

 

(壊れない頑丈な刀で良かったよ。マジに峰打ちなどしようものなら、普通、曲がるか折れてしまうかもだからな)

 

 それでも力加減を間違うと、ユウキを一刀両断にする恐れがある。

 

 リムルは慎重に力を乗せたのを確認すると。

 

 刀の背を前にして持ち替え、それを振り下ろそうとした時――

 

「お、お待ちくださいませ!! ユウキ様を殺すのは、どうか、どうか御一考して頂きたく――ッ!!」

 

 必死の形相でカガリ女史がそう叫び、立ち上がってユウキに駆け寄ろうとしていた。

 

「おい、危ないって! ユウキはマリアベルに操らているんだぞ!」

「いいえ、大丈夫です! あれほどまでに意志の強いユウキ様ならば、あのような少女に心の強さで負ける事なんて在り得ませんわ!」

 

 そう言いながらカガリ女史はユウキへと(すが)りつき、そんなカガリ女史に追随する調査団の隊員達。

 

「そうだ、そうだとも! グラマスはそんな柔じゃねーって!」 

「そうです! いつも飄々(ひょうひょう)として絶対に弱みを見せない人だったんですから!」

「ああ、そうだとも。俺達の前でカッコつける為なら、一人でドラゴンにだって挑んで勝っちまう人なんだよ!」

 

(何か、すんごい慕われてね? これ、俺が悪者に見えなくないか? でもあれだ、ツキハなら()ると決めたらどんなに懇願されても()るんだろうな。はあぁ……まだまだ俺も甘っちょろいってとこか。でも、ここは非常だと(ののし)られようと、やらねば、あの二人に笑われてしまう)

 

 リムルは、刀の刃を反対にしてにして握ってるよと、カガリ女史達によく見てくれというように皆を見回した。

 

 しかし、カガリ女史達はそんなリムルの行為を見もしないでユウキの後ろに駆け寄り、口々にユウキに語り掛ける。

 

 リムルは、そんな事でマリアベルの精神干渉の影響を打ち消せるなら苦労はしないんだけどなと思いつつ。

 

「俺だって殺すつもりはないから、ここは――」

 

 リムルはそう言って、邪魔をしないようにと注意を口にすると。

 

 まさに、その時。

 

「お、お前ら……」

 

 ユウキが小さく呟き、苦しそうに表情を(ゆが)めたのだ。

 

 

《告。個体名:神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)の変化を確認。〝強欲〟による精神干渉が解除された模様――》

 

(……えっ!? いや、そんなあからさまな、御都合主義みたいな結果とかある?)

 

 半信半疑のリムルだったが、先ほどまで殺気に満ちたユウキから殺気が消えていたのだ。

 

(殺気が消えて、いつものユウキに戻ったの、か? 嘘だろ、ってか、本当に正気に戻ったみたいだ……)

 

 

 ユウキが正気に戻ったのを喜ぶカガリ女史と隊員達を見て、納得をせざるを得ないリムルであった。

 

 

 悪は全てを欺く。

 

 

 ユウキは下を向いたまま、一瞬、口端に薄く笑みを浮かべる。

 

 

 それに気付いた者はいない。

 

 

 リムルもまた、それに気付きはしなかった。

 

 

 





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