褪せた夢中の千年桜   作:rippsan

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Start Lineのサクラチヨノオー視点。
ギャルゲみたいに好感度振れてないとなかなかキツい。
積みギャルゲ周回しながら勉強する事とする。
作業BGMで流しててヤエノ、アルダン、チヨノオーでジブリールOPパロ出来るとか思い立ったけど多分出ないんだろうな。
そもそもジブリール自体知ってる人いないんだろうなと思う今日この頃。12年前は時が早すぎるんだあの名作シリーズ通してOPクオリティ高過ぎて悶えてる。
気付け「the first the last」に。そして再び増えろパロディアニメーション(薄汚れた願望)
PCギャルゲは平均して主題歌の品質が高い。


Start Line side チヨノオー

青々と晴れ渡る空。

グラウンドから香る芝の匂い。

人々の声。

 

「よし。頑張るぞ」

 

選抜レースの日がやってきた。

ウマ娘たちが積み重ねてきた力を発揮し、学園のトレーナーに実力をアピールする大切なイベント。今日もいつも通り早起きして準備を整え、レースの開催を待つ。

学園指定の体操着に着替えると、体に力が漲り、気が締まる思いがする。

グラウンドでは第一レースの準備が完了し、ウマ娘たちがゲートに入って行く。

 

「ついに始まるのかぁ」

 

程よい緊張感に高揚する気持ちを抑えようと深呼吸をして、すっきりとした気分で目を開くと黒いジャンパーを着た人影が見えた。

もしやと思い近寄って声を掛けると、振り返った人は私のよく知るトレーナーさん。

彼は私の姿を見ると、少しほっとした様に小さく微笑んで口を開いた。

 

「君も出走するんだね」

「はい!絶対勝ちますよー!」

「張り切りすぎて怪我はしないように」

「はい、気を付けますね」

「トレーニングの成果。存分に発揮してきてね」

「が、頑張ります」

 

トレーナーさんから教わった走り、しっかりと実践しないと。

 

「トレーナーさんも応援よろしくお願いします!」

「ああ、頑張れ。サクラチヨノオー」

「はいっ!」

 

他のトレーナーのように力強い応援ではないが、彼の気の抜けたような柔らかい言葉は不思議な安心感をくれる。

 

「サクラチヨノオーさん。レースの準備をお願いします」

「あっ。はい!すぐに行きます!」

 

担当の係員の方が私を呼ぶ。それに答えてトレーナーを振り向くと、彼は軽く手を振って去っていく。

 

「頑張ろう」

 

開門の音。第一レースが始まった。

ストレッチをしてレースの開始を待っていると、レースで競い合うウマ娘の声が聞こえる。

 

「今回は取材も多いらしいよ」

「本当に?負けられないね」

「クラブのトレーナーにもプロはいるかもしれないし、学園の外にも活躍が伝わるようにしないと」

「トレーナーと言えばだけど、珍しいトレーナーが来てるらしいじゃん?」

「あの目付き悪い人のこと?」

「そそ、あんなトレーナーいたっけ」

「え、結構有名人だよ。あの人悩み相談とかしてくれんの。それが超役に立つ答えくれてさ。もしかして知らなかったり」

「そんなトレーナーいるんだ。良い結果出したらスカウトとかしてくれんのかな」

「さあ、皆欲しがるでしょうそんな人なら」

「だよねー」

 

目付きの悪い。

彼の事だろうか。

話しには聞いているが、やはり話題になっているようだ。

 

「チヨちゃん」

「はい?」

 

振り向くと、仲の良いウマ娘が私の呼んでいた。

 

「チヨちゃん。今あの子達が話してたトレーナーさんといなかった?」

「え。あ、はい」

「何か言われた?」

「頑張れって」

「良いなぁ。そのトレーナー朝からウマ娘達に囲まれてて私は話せなかったよ」

「囲まれて、そんなに.....」

「とにかく凄い人気者だよ」

「そうなんだ」

「まあ、レースで活躍すれば私にもチャンスはあるでしょ。負けないからね。チヨちゃん。」

「うん!」

 

外で行われている第一レースの実況も終盤に差し掛かっている。

 

「ファイオー チヨノオー」

 

小さく決起の声を呟き渇を入れると、グラウンドに出る。

 

観客の歓声は会場を震わせるほどに響き、幕を閉じたレースを走ったウマ娘たちを称賛していた。

第二レース。私の出番。

しっかりと良い走りをして結果を出すんだ。

そうしたらあのトレーナーさんに声を掛けてもらえるかもしれない。そうでなくても、他のトレーナーさんの目につくようにしないと。

視界の開けたグラウンドから、少し窮屈なゲートの中に足を進め、大きく息を吸う。

両隣では次々とレースに出走するライバル達がゲートインを完了し、戦いの準備が進んでいく。

 

「落ち着いて。大丈夫」

 

肺に取り込まれる空気は、ピリピリとした会場の緊張感が溶け込んでいるようだ。その痺れる感覚を力に、レースの開始を待つ。

 

『各ウマ娘 ゲートに収まりました。芝2000m 間もなく開始します』

 

実況の声が会場に響き、歓声が静まっていく。

高まる緊張に抗い、最後に深呼吸をする。

 

......。

 

「落ち着けば勝てる。君にはそれだけの実力がある」

 

 

「......」

 

長く、長く息を吐き出し。閉じていた瞳を開く。

 

ガコンッッ!

 

開戦の鐘。ゲートの開門音に地を蹴って駆け出す。

ライバル達がターフに展開する。位置取りは先行区画。私が得意とする位置だ。

 

.....。

 

「ペースが早い!」

 

チヨノートに刻んだ彼の言葉。

 

「序盤は他を風除けに」

 

スタミナトレーニングはせず、他者を利用する。卑怯だろうと笑っていた彼だが、その言葉に迷いは微塵もなかった。

 

「信じます」

 

前を走るウマ娘の背を追う。受ける風の感触は僅か。集中することはただこの位置を維持する事一つ。

 

 

順調なレース運びのまま、第三コーナーに差し掛かる。再びチヨノートの彼の言葉を胸に刻む。

 

.....。

 

「先を塞がせるな。君がそうしてやれ」

 

「ここッ!」

 

地を踏み込む脚に一層強い力を籠める。

蹄鉄が土を抉る感覚。切り付けるような突風。並ぶウマ娘の目が驚愕の色に変わる。

先頭を走るライバルの背を抜き去り、ゴールラインを駆け抜ける。

 

『サクラチヨノオー 見事な勝利です!』

 

実況がレースの終幕を告げる。立ち止まって観客に向けて手を振ると、大きな歓声が巻き起こる。

これからもこんな体験を幾度となく積み重ねていく。そう考えると今から胸が踊る。

見ていてくれましたか。トレーナーさん。

ターフを後にしてグラウンドに戻り、整理体操をして休息を挟む。

既に次のレースが幕を開けた会場は再び観客の声に染まっている。

 

「.....ふう」

「すごいよチヨちゃん。あそこでまだ体力が残ってたなんて」

「トレーナーさんに見てもらったからかな。まだ少し息は苦しいけど、疲れてはいないんだ」

 

汗を拭い、息が整うのを待って会場に戻る。

 

「うう....ん」

 

陽の光を浴びて伸びをすると、周りにトレーナー達がゆっくりと集まってくるのが見える。

 

「わあ!」

 

ついにスカウトが来た。胸を踊らせながら、その中に彼を探す。

....いない。

 

「サクラチヨノオー!素晴らしい走りだったわ。是非貴女をスカウトさせて!」

「一緒にG1連覇を目指そう!君にはその才能がある!」

「え、ええと」

「君の夢を手伝わせてくれ!」

 

受け答えに迷っていると、一つの人だかりが目に飛び込んでくる。

中心に見えるのは遠目からでも分かる真っ黒な服装。困ったように笑うその表情は間違いなく彼のそれだ。

 

「トレー....!」

 

彼の元にレース係員が駆けつけ、その人に引かれて彼は移動していく。

取り囲んでいたウマ娘が後に続き、私は取り残される。

 

一人、また一人と駆け寄ってくるトレーナーにしどろもどろになりながらも対応していく。

 

「その、一度保留と言うことにしてもらえませんか。皆さんの言葉は嬉しいですし、とても有難いです。ですがどうしてもお話したい人がいるんです」

 

快諾する人も、渋る人も、反応はそれぞれに違う。

一足遅く彼を追い掛けるが、既に周辺からは離れてしまっているようだ。

会場を歩き回るが彼の姿はおろか、彼を取り囲んでいたウマ娘さえ見つけられない。そのうえ道中でもトレーナーに声を掛けられ、丁寧に対応しては時間をとられてしまう。

 

「うう。どこにいるんだろう」

 

他のウマ娘と契約をしてしまっていたとしても、お礼がしたい。選抜レースに向けて私に手を貸してくれたのは他でもない彼だ。

疲れて耳も尾も垂れ下がり、沈んだ気分で会場を去る。

 

「あれ...」

 

視線の先に黒い革のカバーが付けられた手帳が落ちていた。

拾い上げて砂を払うと、裏にお洒落な英字の刺繍が施されているのに気付く。

 

「Sakuraba....落とし物かな」

 

黒い無地のシンプルなデザイン。誰かトレーナーの落とし物だろうか。

手帳を手にしたまま学園に戻り、とぼとぼと廊下を歩く。

 

「いけないいけない!あのトレーナーさんがいなくても頑張らないと!」

 

気合いを入れ直し、足を踏み出した所で声を掛けられた。

 

「元気無さそうだね。どうかした?」

 

顔を上げると、不思議そうな表情をしたミホノブルボンの担当トレーナーが立っていた。

 

「あ、いえ、何でもないです。少し選抜レースの事で」

「スカウトを受けられなかった?そんなはずないだろう。あれだけ完璧な走りを見て君に目をつけないトレーナーなんていないだろうに。そうでなくたってあいつが」

「あいつ?」

「ああ、前から君に目を付けてたトレーナーが居てな。養成所時代の同期なんだけどな。さっき何か落としたとか言いながら学園を歩き回ってたが」

「落とした.....もしかしてそれは」

 

制服から拾った手帳を取り出してトレーナーに見せると、彼はそれを観察する。

 

「おお、それだよそれ。櫻庭の手帳。何かよく分かんないけど大切にしてるんだよな」

「あの!その人は何処に!」

「櫻庭ならトレーナー室にでもいるんじゃないか?今日は鏑木さんもいるから気が立ってそうだけどな」

「ありがとうございます!」

 

手短に礼の言葉を告げると手帳を握って走る。

あの人だったなら。そう思ったからだろう。

トレーナー室を探していると、ある部屋の前で人と出くわす。

 

「あの!」

「ん?君はサクラチヨノオー君じゃないか」

「この手帳の持ち主を探しているんです!サクラバさんと言うのですが!」

 

私は捲し立てるように話すが、その人は薄い笑いを浮かべ落ち着いた様子で答える。

 

「櫻庭君かい。ならこの中だが.....なるほど」

 

扉を引いた時、中から覚えのある声で悔しげな言葉が聞こえた

 

「ったく。こっちはサクラチヨノオー狙いだったってのに」

「......え?」

 

トレーナー室の奥、だらしなく机に伏せた彼がいた。顔を上げた彼と目が合い、トレーナー室の空気が固まる。

 

「や、櫻庭君。大本命のご登場のようだよ。口は災いの元?それとも噂をすればなんとやら。かな?」

 

後ろから踊る様に弾む声がする。彼が引き攣った笑顔を返し、口を開く。

 

「鏑木先輩。少し話をしますのでお茶を追加注文しても?」

「任せたまえよ。後は若い二人で楽しむといい」

 

後ろで扉がピシャリと音を立てて閉められ、彼と私の二人が静かな部屋に残される。

入り口を塞ぐように立つ私を見て、彼が先に動いた。

 

「.....いらっしゃい」

「トレーナーさん.....ですか?」

 

クマの刻まれた目元に気の抜けた声。ジャンパーが無くとも彼だと分かる。

 

「そうだけど」

「本当に.....」

「えーと、何か?」

 

突然の来訪者に困惑しているのか、彼はなんとも言えない表情で疑問を投げ掛ける。

 

「そ、そうです!これを」

 

手帳を取り出して手渡すと、彼の顔色が僅かに変わる。

 

「俺の手帳。どこで」

「選抜レースの会場に。刺繍で名前が書かれていたので」

「ありがとう。助かったよ」

「いえ。お役に立てたなら」

 

彼は大切そうに手帳を手の中で観察し、礼の言葉を告げる。

 

「プレゼントなんですか。その手帳」

「ああ、前の担当ウマ娘からのね」

「前の担当」

「ワケあって契約は解除になってしまったから、担当していた期間は一年と少し。専属としては初めて担当したウマ娘だよ」

 

手帳の刺繍を指でなぞる彼の顔には安堵の色が見える。

 

「サクラバ.....」

「病院で見た桜の庭から貰った名前なんだそうだ」

「温かいお名前ですね」

「そうだな。俺も気に入ってる.....それで、用は手帳の事で良かったかな」

「いえ、その事ですが」

 

机から一歩距離を取り、背を伸ばして深く礼をする。

 

「櫻庭トレーナーさん。私のトレーナーになってもらえませんか!」

 

レース前とはまた違う緊張感に心拍が早まる。

彼は少し考えるように私を見て、答えとは別の質問をした。

 

「他のトレーナーからスカウトは受けなかった?」

 

彼と出会った日にも似たような事を聞かれた。

 

「勿論受けました。選抜レースの結果が良かったとたくさんのトレーナーさんに言ってもらえたのは嬉しかったです」

「それでも俺の所まで来てくれたってことか。何か理由が?」

「今回スカウトに来てくれたトレーナーの皆さんも素敵な人たちでしたけど、どうしてもトレーナーさんと話をしたくて、保留にさせてもらいました」

「ふむ。俺を気に掛けてくれているとは、それは有難いね」

「初めて私に手を差しのべてくれた人でしたから。私を見つけてくれたトレーナーさんと話したかったんです」

 

決して注目されるような器ではなかった私に、彼は真摯に向き合ってくれた。

それはこの髪飾りが招いた偶然かもしれない。

 

「マルゼンさんと走りたい。心が折れそうになった時、この夢を信じて応援すると言ってくれたのはトレーナーさんでした。そんなトレーナーさんとなら夢を追える。そう思ったんです」

 

彼ほど熱心にこの夢を支えようとしてくれるトレーナーは多くない。いや、何も言わずこの夢を認めてくれたのは彼だけだ。

彼の口から聞いた諦めるなという言葉は、今も心に響いている。

 

「私を信じてくれるトレーナーさんと走りたい。そして夢を叶えた後の景色をトレーナーさんと見たい。ですからどうか!」

 

彼となら遠慮せず夢を追える。そして叶えられる。

だからこそその夢の果てを彼と見て、彼の言葉で称えて欲しい。

 

「俺みたいなトレーナーで良ければ、こちらこそよろしく。君の夢、精一杯手伝わせてもらうよ」

「っ!よろしくお願いします!トレーナーさん!」

 

跳びはねたくなる思いを抑えるが、顔に喜びが出ていたようで、彼が疲れのたまった顔で微笑んだ。

そこで後ろの引き戸が開かれ、入り口で出会った鏑木と呼ばれたトレーナーが戻ってくる。

 

「結果はどう....いや、聞くまでもないね」

「ええ。無事に」

「それはよかった。ではご希望のカフェオレを。チヨノオー君もお茶でよかったかい?」

「あっ、ありがとうございます」

「良かったね。探していたトレーナーがみつかったみたいで」

「はい!」

 

彼女は私に優しく笑い、続いて彼に向いてまた別の笑いを見せる。

 

「まあ心配はいらないと思ったよ。そこの彼は選抜レースが終わってからもサクラチヨノオーがサクラチヨノオーがとぼやいていたから」

 

彼が飲んでいたカフェオレを吹き出し、激しく噎せる。

私も突然の発言に驚いて手が止まるが、彼女はそれが面白いのかクスクスと笑う。

 

「何故それを」

「彼女が狙いだったんだろう?今更隠す理由があるのかい?それに自分で言っていただろう。チヨノオー君も聞いていたようだし」

「っ!?」

 

鬼のような彼の視線が飛ぶ。クマが歌舞伎役者の化粧に見えてその迫力を強くする。

 

「はっはっはっ。あまり睨むなよ。チヨノオー君が驚くぞ?」

「覚えとけよ....」

「まあまあ、話は後日聞くよ」

 

鏑木トレーナーが満足げに笑ってトレーナー室を出ていく。

彼はばつが悪そうに視線を逸らして本棚を眺めている。

 

「あの、トレーナーさん。今のは」

「.....事実だよ。そうでもないと担当なんて受けるつもりもなかったから」

 

不機嫌そうな顔を無理に歪めて、彼は下手くそな笑いを溢す。

 

「じゃあ、私の才能を?」

 

才能は言い過ぎかもしれない。私は平凡なウマ娘で、誇れるような才能はないのだから。

 

「そんなところかな。真面目に努力出来て、誰に注目されなくてもそれを続けられる。そんな君を応援したいと思ったんだ」

「っ。ありがとうございます!」

「お礼を言いたいのはこっちだよ。ありがとう。俺に君と夢を追う機会をくれて」

 

彼が椅子から立ち上がり、机の前に進んで手を差し出す。

 

「改めて。櫻庭春馬だ。これからよろしく」

「はい!サクラチヨノオーです。よろしくお願いします!櫻庭トレーナーさん!」

 

彼の手をしっかりと握り、握手を交わす。

父のとも兄のとも違う手の感触。ゴツゴツとして、しかしどこか柔らかさを感じる包み込むような優しい心地に、僅かに安心感を覚える。

 

「では記念に格言を。出会いは人参の大きな栄養である!」

 

チヨノートを取り出してペンを走らせる。

彼はきょとんとした顔で私をみていたが、すぐに小さく笑みをこぼして机に座り契約書類を引き出しから取り出す。

 

「トレーナーさん。ありがとうございます」

「ん?何が」

「私が入って来た時の独り言です」

「.......何の事だ」

 

彼がペンを持っていた手を止め、再び居心地が悪そうにする。

 

「こっちはサクラチヨノオー狙いだったってのに.....嬉しかったです」

「ゴブッ!?」

「わわっ。トレーナーさん!?」

 

激しく噎せる彼は、スーツを口に当てて咳を殺す。

 

「あ、スーツが」

「大....丈夫。ゲホッ」

 

机の下を向いて息を整えると、彼は床に落ちたペンを拾う。

 

「.....まさかそっちから来てくれるとは思わなかったな。次の選抜レース待ちのつもりでいたんだけど」

「他のウマ娘を担当するつもりはなかったんですか?」

「君じゃなきゃ断ってたよ」

「そうなんですか?」

「そもそもトレーニングの手伝いだって君じゃないなら二日目以降してないよ」

「え....」

「そう毎日同じウマ娘を相手するなんてしないよ。専属トレーナーでもないのに」

「でも私には」

「君だったからだよ。才能なんてなくても必死に努力して、夢を追い掛けていた君だったから手を貸しただけ。そうでもないとあんなことしないさ」

 

私だから。その言葉に胸がほんのりと温かくなる。

彼は椅子の足を浮かせ、目を閉じて船を漕ぐように揺らしている。

 

「それにウマ娘に才能だとか家柄を求めるつもりはないよ。周りに何と言われている相手でも、俺は支えたいと思ったウマ娘しか担当しない」

「そう.....なんですね」

「君が俺を選んでくれたのと同じ。あの走りみたいにね」

「見ていてくれたんですね」

「ああ、君が俺を信じてくれたから、俺も君を信じようと思ったんだ」

 

カタンと椅子の足を床に付け、彼は持っていたペンを私に向けて突き出す。

 

「追い付いて、抜かそう。マルゼンスキーを。君はそこに立てる」

「はい!」

 

眉を歪めて悪役みたいに笑う。彼にはそんな笑顔が良く似合うなと思った。

 

「今日はレースもあっただろうし、ゆっくり休んでトレーニングに備えること。無理は禁物だからね」

「はい」

「ああ、それとこれね」

 

彼が手帳から折り畳んだ紙片を取り出す。

 

「君の走りをまとめておいたから、気になるところがあったらリストアップしておいて」

 

中を見ると、レースの様子が詳細に記録された大量のメモがびっしりと書かれていた。

 

「すごい。こんなに」

「誰だって出来るよ。他のトレーナーがやりたがらないだけ」

「そんなことないです。ありがとうございます!」

 

彼は私が思っている以上に凄い人なのかもしれない。

メモをチヨノートに仕舞い、トレーナー室を出る。

 

「今日からよろしくお願いします。トレーナーさん!」

「んー。よろしくね」

 

カフェオレを飲みながら返事をする彼は、ペンを握った手を振って私を送り出す。

 

「.....やった!」

 

トレーナー室の扉を閉め、小さくガッツポーズをする。

頑張っていこう。憧れのマルゼンさんを目指して、彼と一緒に一歩ずつ。




クーデレもまた乙なタイプ
オグリキャップとかと八重さんとかあのタイプのクールヒロインに狂う日がまだあるのです。
人懐こい妹属性にも狂います無節操野郎です許してクレメンス。
前書きで書いたけど魔界天使ジブリールの認知度どんなもんあるんだろうか。
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