ノルース星戦記   作:YUKANE

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なんとか頑張って早めに更新できました。今回も一方的にやられる回ですが,あと1話だけお待ちいただければ爽快な展開になると思います。

あと艦艇の設定集とか見たいですか?


合同軍と古代兵器

先進11ヵ国会議が開かれているカルトアルパスから西に500kmの海域に位置するマグドラ群島。海流の乱れや霧が発生しやすい為に,地元民すら近寄らず,島の殆んどが無人島になっている。

 

だがその状況を利用して先進11ヵ国会議中はカルトアルパスを母港とする神聖ミリシアル帝国海軍 第零魔導艦隊が周辺海域で訓練に勤しんでいた。

 

そんなマグドラ群島沖の海域では砲撃と爆発の轟音が絶え間なく鳴っていた。それは訓練ではなく実戦を行っているのだと周囲に明確に分からせていた。

 

第零式魔導艦隊は絶え間なく上空のミルメリア艦隊に向けて砲撃を行っていた。各艦の魔導砲から発射された砲弾は青い軌跡を描きながら,流星の如く飛んでいったが砲弾は標的に当たる前に速度を失い,重力に掴まってそのまま海面へと次々と落ちていった。

 

第零式魔導艦隊は航空戦力こそ有していないが,神聖ミリシアル帝国海軍の最新鋭艦のみが集められており,練度も含めて世界最強の艦隊として君臨していた。

 

だが今この場にこの艦隊が世界最強だと思うものは誰もいなかった。自艦隊の砲撃は全く当たらず,逆に10隻しかいないミルメリア艦隊の砲撃で艦艇は意図も簡単に沈む。

 

既にゴールド級魔導戦艦「ガラティーン」と重巡洋装甲艦「アルミス」等多くの艦が海中へと没していた。旗艦のミスリル級魔導戦艦「コールブランド」もショックカノンが1発だけ,魔法障壁で強化された帯魔性装甲材を簡単に貫いていて損傷していた。

 

「コールブランド」の艦橋内で第零魔導艦隊司令官アルテマ・バッティスタは苦い顔でミルメリア艦隊を見つめていた。

 

最新鋭の艦艇が敵艦を沈められずに,赤子の如く簡単に沈んでいく事実に彼は自分達が抱いていた世界最強の威厳は井の中の蛙だったことを痛感していた。

 

「第零魔導艦隊がこんなにあっさり沈んでいく········我々は案外弱かったんだな····」

「気を落とさないでください。あんな奴らを相手にするなんか想定されていませんし。」

「だな。()()()も苦戦している様だしな······」

 

艦長のインフィール・クロムウェルの言葉を受けてバッティスタは右を向く。視線の先には第零魔導艦隊とは全く別の艦隊がミルメリア艦隊に砲撃を行っていた。

 

その艦隊はミリシアル艦隊の白い船体とは真逆の灰色の船体に,円柱の構造物からは炭のごとく真っ黒な煙を勢い良く排出している艦艇のみで構成されていた。

 

グラ・バルカス帝国東征艦隊こと第61任務部隊はカルトアルパスに突入する「グレートアトラクター」の露払いと威力偵察の任務を受けていたが,ミルメリアという共通の敵が現れた為に本来戦うはずだった第零魔導艦隊と共闘していた。

 

だが第61任務艦隊も有効打を与えられず,オリオン級戦艦「プロキオン」とタウルス級重巡洋艦「プリマヒヤドゥム」・「タウタウ」等を喪失しており,状況が厳しいことに変わりはなかった。

 

2艦隊に対して上空に浮かぶミルメリア艦隊は1隻も失っていない処か被弾すらしておらず,ただ一方的に攻撃を行っていた。一定間隔で発射される砲撃は最早手を抜いているか,遊んでいると思えるほどだった。

 

「「クラレント」が!!」

 

「コールブランド」の同型艦 「クラレント」に戦艦(艦隊で一番大きな艦)が発射したショックカノン3発が命中して,霊式38.1cm3連装魔導砲の天板を簡単に融解させ,船体を貫き通す。

 

ショックカノンは第1砲塔下の弾薬庫内の38.1cm砲弾を誘爆させ,第2砲塔の弾薬庫も巻き込んで大爆発を起こす。2つの弾薬庫の爆発は「クラレント」の船体を内側から破壊して,船体を真っ二つに切り裂く。

 

ミリシアルが誇る最新鋭のミスリル級魔導戦艦ですらもたった1撃で沈んだ衝撃的な事実だったが,バッティスタは驚きもしない。もはや現実を受け入れられず,呆れる様な表情を浮かべていた。

 

「「クラレント」ですらもか·······もう叶う術はないな。」

「そうみたいですね·······あの航空隊も一瞬でやられましたしね。」

 

バッティスタの言葉にクロムウェルも答える。2人は最早驚く気力すらなかった。そしてとある光景が2人の脳裏に浮かぶ。

 

艦隊戦の前に周辺基地からエアカバーとして展開したジグラント2 25機と,東征艦隊の航空戦力を一任している第17任務部隊のペガスス級/ペルセウス級航空母艦から発艦した200機ものアンタレス07式艦上戦闘機やシリウス型爆撃機・リゲル型雷撃機の合同航空隊がミルメリア艦隊に上空から襲いかかったが,対空レーザー砲で瞬く間に撃墜され,双方とも戦果を上げられずに全滅していた。

 

グラ・バルカスの機体とミリシアルが誇る天の浮舟も緑色の光で簡単に落とされていく。最新鋭の戦艦と天の浮舟が文明圏外国のワイバーンや魔導戦列艦の如くやられていく様子に,世界最強のプライドは完全に破壊されていた。

 

最早抗う事は出来ない。抵抗しても1発も攻撃を与えられない。何にも変えがたい絶望が艦隊を支配していた。

 

「グラ・バルカス艦隊戦艦被弾!! 被害甚大!!」

 

見張り員の悲鳴に振り返ると,第61任務部隊の旗艦「ベテルギウス」に駆逐艦3隻のショックカノンの集中砲火を受け,爆発炎上していた。戦艦ではあったが,旧式となっていたオリオン級は瞬く間に燃え上がる。

 

ビルの如く威厳を醸し出していた艦橋は崩れ落ち,前甲板の35.6cm連装砲は上を向いたまま沈黙していた。真っ黒な黒煙を上げて激しく炎上する様子に,乗組員と艦自体の生存が絶望的な事が目に見えて分かった。

 

バッティスタは戦闘前に無線で話し合った第61任務部隊の司令官 アルカイド・パフティールの事を思い出したが,あんな状況での生存は絶望的だった。

 

旗艦がやられたことで残された艦艇が混乱し出す。辛うじて保たれていた冷静さが遂に失われ,不規則に四方八方に動き出した艦艇は,ミルメリア艦隊の絶好の標的だった。

 

最初に狙われたエクレウス級駆逐艦「ベレロフォン」は,ショックカノン3発が命中して,真っ二つに切り裂かれる。約100mの船体は直ぐに海中へと沈み始める。

 

周囲の残存艦艇は空のミルメリア艦隊に向けて砲撃する艦や,何としてでも攻撃から逃げ出そうと旋回する艦・混乱によって正常な判断力を失った為に何も出来ずにその場に留まる艦が混在して,第61任務部隊は集団では無くなっていた。

 

その結果は誰にも分かるように,“下手な鉄砲も数撃てば当たる”の理論で行われた砲撃はあらぬところに飛んでいき,無我夢中で逃げようとするキャニス・ミナー級駆逐艦「アンバーサー」は周りが見えず,タウルス級重巡洋艦「エルザー」と衝突する。僅か2000t程度の「アンバーサー」の船体が紙のようにグシャグシャになり,衝突の衝撃で「エルザー」の砲塔下の弾薬庫が爆発して2隻とも激しく炎上する。

 

旗艦という名のリーダーを失い,無法地帯と化した第61任務部隊の様子を見ていたバッティスタはある覚悟を決めた。

 

「通信士!! 最大出力の魔信で呼び掛けよ!! “全艦全速で群島の基地へ退却せよ!! 敵は「コールブランド」が全て引き付ける”と!!」

「はっ····はい!!」

 

バッティスタの指示に通信士は直ぐに答えた。彼の指示は第零魔導艦隊の敗北を意味していたが,1発も命中弾を出せずに,半数の艦を失った現状では敗北処か完敗だった。

 

グラ・バルカス艦隊も崩壊した今では,彼らに抵抗する術が消滅した事を意味していた。

 

冷静さを保っていたバッティスタは1隻でも逃すべく,最大出力の魔導通信で全艦に指示を伝えた。最大出力ならばグラ・バルカスの機械式無線でも,拾える確立が上がるだろうという急場凌ぎの策だった。

 

だが急場凌ぎの策は効果があったようで,第零魔導艦隊も第61任務部隊もこの海域から何としてでも逃げるべく旋回を開始していた。

 

だが「コールブランド」のみは旋回していなかった。寧ろ速度を上げてミルメリア艦隊に突き進んでいた。

 

「皆スマンな·······この艦で時間を稼いでいる間に1隻でも多く逃すんだ!!」

 

バッティスタの決断にクロムウェル以下艦長要員全員が従った。魔導エンジンの出力を上げ,できる限りの魔力を装甲へと注いで硬度を増していた。

 

ミルメリア艦隊の前衛として展開している3隻の駆逐艦の3連装カノン砲が「コールブランド」へと向く。数秒のラグを開けて連射されたショックカノンが魔法障壁を纏った装甲を貫通して,「コールブランド」の船体を破壊する。

 

約20発のショックカノンが命中した「コールブランド」は艦内の弾薬や魔石が誘爆した為に,内部から大爆発を起こす。大爆発によって生じた爆風で駆逐艦の船体も少しだけだが揺さぶられた。

 

第零魔導艦隊の旗艦「コールブランド」は司令官のバッティスタ,艦長のクロムウェル等の乗組員全員と共に海の塵となった。内部からの大爆発で船体は粉々に引き裂かれ,残骸は艦の原型を留めていなかった。

 

「コールブランド」の犠牲で少しながら時間を稼いだかに思えたが,全て誤解にだった。直ぐ様残存艦隊に追い付いたミルメリア艦隊は容赦ない攻撃を続け,両艦隊を僅か30分足らずに海の底へと沈めた。

 

 

両艦隊を文字通り全滅させた10隻のミルメリア艦隊ことエルメ戦隊はついで感覚で,マグドラ群島に点在する基地を完全破壊した。砲撃の跡地には基地の面影など残っておらず,地形すらも原型を留めていなかった。

 

4隻を先陣として派遣した為に,僅か10隻となったエルメ戦隊は,戦隊唯一の戦艦で旗艦でもある「ディメイナライト」を先頭にしてミリシエント大陸(前方の大陸)へと突き進む。

 

400m越えの船体を持つ「ディメイナライト」の艦橋では,1人の見るからに不機嫌そうな男が,座っている椅子のひじ掛けを人差し指で一定周期で叩いていた。ひじ掛けから鳴る甲高い音に艦橋要員は怯えながら,自らの業務を行っていた。

 

エルメ戦隊の名前の由来でもあり,司令官のエルメ・ザフェ・ルエンベータ少将は不機嫌だった。自艦隊に損害を出していないにも関わらず,不機嫌な理由は“戦いが一方的すぎてつまらない”というミリシアルとグラ・バルカスからすれば非常にふざけた物であった。

 

()()()()()()()が,余りにも温すぎる。もう少し抵抗があった方が面白いのに。」

『馬鹿なこと言わないで貰える!! こっちは重巡1と駆逐艦2隻を失っているのよ!!』

 

エルメの呟きに激しい声で噛みついたのは,東京を攻撃中だったメディナ戦隊の司令官 メディナだった。無傷のエルメ戦隊とは真逆にメディナ戦隊は自衛隊の総攻撃によって大損害を出していた。

 

思いもよらない大損害に艦隊司令官のペイン大将への報告をどうしようか頭を抱えていた所にエルメの発言が聞こえてきた物だから,彼女は吠えるしかなかった。

 

メディナな通信越しでも吠えたりなさそうな雰囲気が感じられたが,それを止めようとする者がいた。

 

『まあまあ落ち着け。戦闘で損害が出るのは当たり前だ。司令だって怒ったりしないだろう。』

 

メディナを宥めたのは同じく戦隊を率いてグラ・バルカス帝国に侵攻していたベリメサ・バンル・ヘンフェルメサ少将。彼はメディナと同じく空母を旗艦として為に,結構な頻度で話し合う中だった為に,彼に宥められたメディナも吠えることをやめた。

 

第35艦隊に所属している4つの戦隊の司令官の中では冷静なベリメサは,自らの戦隊で得られたデータと,エルメとメディナ・そしてアニュンリール皇国を攻撃しているクレビトから送られたデータを分析して,とある疑問を抱いていた。

 

『にしても,少し違和感はあるな。2つの国は()()が使っていた兵器を使っているが,残りは見たことすらない兵器を使っている。これは流石におかしいぞ。』

「それは同意だ。私が戦ったもう片方の艦隊は見たこともない形の艦で構成されていた。ここまで丸ごと違うのは流石に違和感があるな。

それにメディナの方には誘導魔光弾(ミサイル)があったそうじゃないか。これでどういう文明が支配している星なのかより一層分かんなくなってきたぞ。」

 

古の魔法帝国(ラヴァーナル帝国)の遺物に全てを頼っている神聖ミリシアル帝国。

 

魔帝の遺物を完全に解析して成り立ったアニュンリール皇国。

 

ユグドで幾重もの戦争を繰り返して成り立ったグラ・バルカス帝国。

 

一度国土が焦土に化しても,僅か数十年で越える発展をした日本。

 

彼らが攻撃している国はそれぞれの世界で異なる理由と経緯で発展し,世界でも有数の力を手にしていた。それ故にそれぞれの世界で最新の技術で作り上げられた兵器は唯一無二だった。

 

全く結び付かない技術で作られたそれぞれの兵器はダメージを与える,与えない関係なく彼らに難解な疑問を抱かせていた。難解にさせている理由の大半はこの星由来ではない国が2つ混じっているからなのだが,彼らにそれを知る術はなかった。

 

『それは今考える事なのかね?』

 

ベリメサの思考に水を刺すような返事をしたのは,クレビトだった。

 

艦隊の先陣としてノルース1の観測基地と駐留していたパトロール艦 2隻を全滅させたクレビト戦隊は,アニュンリール皇国首都 皇都マギカレギアの攻撃に入っていた。

 

ミルメリアの人間からしても,異常なほどの皇帝への忠義を持っている彼からすれば,ベリメサの考えている事などどうでも良かった。

 

ただ皇帝の指示通りにこの星を焼き尽くす事こそが我々の指名。そういうように考える人物だった。

 

『そのような難しいことは政府の組織がしてくれるだろうさ。今,最優先にやるべき事はこの星を不当に支配している屑どもを1人残らず消し去る事ではないのか。

それに相手は()()()()()()()()()じゃないか,今の我々に勝てない理由なんてあるのかい?』

『まあそうね。私達はそういうことは専門外だからね。私達は任せられた役目をこなす····え,ちょ·····やめてやめて!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

『またやられたか·········』

 

メディナもクレビトの意見に賛成の証明をしていると,彼女の悲鳴が通信越しに響く。また1隻やられたのかとベリメサは溜め息をつく。

 

エルメも五月蝿い声に嫌気がさし,メディナの音声だけを一方的に切断する。

 

「ん?·······これは·······」

 

エルメはレーダー員の小さな呟きを聞き逃しておらず,話しかける。

 

「どうした? レーダーが壊れたりでもしたか?」

「いえ,1時方向に巨大な物体を確認しました。大きさは凡そ250m程度です。上部のモニターに写します。」

 

エルメは艦橋上部の空中に投射されたディスプレイに写されたレーダー画面を見て驚いた。そこに写っていたのは直径が260mもの円で,画面で少しずつ動いているのでこれが稼働している兵器だと認識していた。

 

エルメはレーダー画面に写っている物が,()()()()()()()()()()()()()()()()だという確信を得ていた。

 

「これは·······まさかあの()()()()()()()か?」

「詳しくは分かりませんが·······あと数分でカメラの範囲内です。確認されますか?」

「無論だ。なんなら今すぐにでも使ってくれ。」

「ぼやけますが,いいですか?」

「大体の形さえ分かれば充分だ。」

 

エルメの指示で艦底の下部艦橋に内蔵されているカメラがレーダーが捉えた艦の方を向く。カメラが最大まで拡大すると,その先には空に浮かぶ1隻の空中戦艦パル・キマイラが写っていた。

 

「やはりパル・キマイラか··········」

 

思わずエルメもそう呟く。大きさこそミルメリア艦より小さかったが,リングの船体から醸し出されるインパクトは劣っていなかった。

 

エルメ以外の3人も興味津々そうにパル・キマイラを眺める。

 

『まさかあの兵器の実物を見れるなんて········これは感謝しなければ』

『今からすれば宇宙ステーションみたいだな·······』

『どちらかといえば,宙域監視要塞じゃない?』

 

3人も歴史の教科書でしか見たことのない兵器に思わず興味を抱く。

ミルメリアからすれば()()()1()()()()()()()()()()()貴重な品物で,歴史学者が喜んで調べそうな物だったが,軍人と今の状況からすれば目の前のパル・キマイラは破壊しなければいけない存在だった。

 

「貴重な物だが,今は敵だ。あれは撃沈しなければいけない。主砲は撃てるか?」

「射程圏内です。充分いけます。」

「主砲発射ぁ!!」

 

エルメの指示で艦上部と艦底部の3連装カノン砲がパル・キマイラへと向き,緑色のショックカノンが発射される。

「ディメイナライト」に続くように重巡洋艦・軽巡洋艦・駆逐艦も3連装カノン砲を向け,ショックカノンを発射する。

 

何十本もの緑色の光が流星の如く空を飛ぶ。切り裂くように飛んでいったショックカノンはパル・キマイラ 1番機に次々と着弾する。

 

何十発ものショックカノンが直撃したパル・キマイラは煙に覆われる。煙が晴れると,そこには()()のパル・キマイラが鎮座していた。

 

「砲撃を防いだだと!? あんなに硬いのか!?」

 

対空魔導弾に対応すべく魔素で強化されていた装甲によって砲撃を防いだ事実にエルメは驚愕する。今までの相手はショックカノン1発で沈む事すらあったにも関わらず,パル・キマイラは沈む処か被弾すらしていなかった。

 

()()()()ながら予想以上の強敵だと感じ取ったエルメは沸き立った。漸く自分を沸き立ててくれる存在な上に,その存在は我々が残していった考古遺物だという事がより一層沸き立てた。

 

「まさかこんなバケモンだったとは!! これは倒しがいがあるぞ!!

主砲が駄目なら魚雷だ!! 艦首魚雷発射!!」

 

艦首の魚雷発射管から8発の魚雷が発射される。8発の魚雷はパル・キマイラの上下に4発ずつ別れて接近していく。

 

魚雷に対してパル・キマイラは外縁のリングと艦橋を結ぶ支柱に上下1基ずつ取り付けられたアトラタテス砲を稼働させた。3連装の砲身から分速3000発もの速度で光弾が発射され,豪雨の如く魚雷へと降り注ぐ。

 

誘導魔光弾を迎撃すべく造られたアトラタテス砲は製造理由を叶えるが如く魚雷を撃ち落としていく。僅か8発もの魚雷は一瞬で消え去った。

 

「まさか魚雷までも撃ち落とすなんて········こんな代物だったのか·····」

「パル・キマイラ主砲展開!!」

 

外縁のリング部に設置された15cm3連装魔導砲がエルメ戦隊へと火を吹いた。青い尾を引いて飛んでいく魔導砲弾の内2発は「ディメイナライト」に直撃する。

 

「ディメイナライト」は戦艦であったと同時に戦隊の旗艦であったために,装甲は厚く造られていた。その為に2発の魔導砲弾による被害は外壁が歪む位だった。

 

だが隣を航行していた駆逐艦「リシメス」の被害は甚大だった。15cm魔導砲弾は駆逐艦の装甲を貫通し,艦内で爆発を起こす。

 

台形の様な形をした艦橋が爆発し,艦橋前の3連装カノン砲が大爆発で海面へと落下していく。追加で命中する魔導砲弾の爆発で,駆逐艦の船体は内部から破壊され,真っ二つに引き裂かれた船体は爆発と共にそのまま海面へと落下していく。

 

沈んでいく「リシメス」にエルメは驚きを隠せなかった。

 

「駆逐艦だが撃沈させるとは!? やむ終えん9連装重衝撃ビーム砲を展開させろ!!」

 

エルメの指示で艦底の第1砲塔の前にポッカリと空いた空間から箱形の物体が競りだしてくる。競りだした物体は長方形をしており,艦首には9つの黒い穴が空いていた。

 

ショックカノンの発射装置が9つ取り付けられた9連装レーザー砲はミルメリア戦艦の最終兵器と言っても過言ではない。

 

艦正面を向いていた9連装レーザー砲は斜め下を向く。「ディメイナライト」はパル・キマイラを確実に沈めるべく,エンジンの出力を上げて上空へと上がっていった。

 

周りの8隻はショックカノンと魚雷を撃ちまくって,注意を引き付ける。牽制をしている間に「ディメイナライト」はパル・キマイラの斜め上へと到着する。

 

9連装レーザー砲の砲口には緑色の光が集まりしだす。砲口に集められたエネルギーが一定まで達すると,エルメの指示で9本の重衝撃ビームが発射された。

 

主砲から発射されるショックカノンの何倍もの威力を誇る重衝撃ビームは別物と言っても過言ではない。9本の重衝撃ビームはパル・キマイラをショックカノンから守ってきた装甲を貫いて,船体を貫通する。

 

パル・キマイラの船体を貫いた重衝撃ビームは主砲の魔導砲弾や機関の反重力魔導エンジンに使用される魔石,そして艦内に6発搭載されている超大型魔導爆弾ジビルを誘爆させた。

 

ジビルに使われている火属性魔石は崩壊する際に周囲の酸素を大量に巻き込む。それが6発全部で起きた為に広大な範囲の酸素が一気に吸い込まれる。

 

ミルメリア艦は大気圏内の運用も考慮されているので,大気を測る機器類が下部艦橋に取り付けられているので,エルメ戦隊がこの変化を見逃す筈がなかった

 

「酸素濃度が急速に低下しています!! 危険です!!」

「不味い!! 全艦離れろ!! 機関フルパワーだ!!」

 

エルメの素早い指示で「ディメイナライト」はエンジンをフル出力に上げて,上昇を開始する。残る8隻も急いでパル・キマイラから離れていく。

 

周囲の酸素を大量に取り込んだ火属性魔石が崩壊し,6発のジビルが爆発を起こす。パル・キマイラ 1号機の船体は内部から破壊され,艦長のワールマン以下魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部の乗組員を巻き込んで,崩壊していく。

 

ジビルが酸素を巻き込んだ為に周囲は一種の真空状態へと化し,超高圧力と衝撃波が周囲を襲う。エルメ戦隊はもろに衝撃波を食らってバランスを崩したが,各艦がエンジン出力を上げて乗りきった。

 

だがそれがかなわなかった艦もいた。上昇に出遅れた重巡洋艦「アルファニオア」は衝撃波でバランスを崩し,建て直す前にジビルの爆発が艦を襲った。

 

機器では計測不能な高温が艦を襲い,船体に深刻なダメージを与える。「アルファニオア」はエンジン出力を最大まで上げて,一刻でも早く逃れようとしていた。

 

その判断が功を奏して「アルファニオア」は脱出に成功したが,艦底の3連装カノン砲の砲身は融解しており,使い物にならなくなっていた。下部艦橋に至っては溶けきって,原型を留めていなかった。

 

「あれは酷いな·······急いで待避させろ。代わりに重巡洋艦2隻ぐらい寄越して貰おう。」

 

エルメは予想以上の被害に直ぐ様退却を命じた。「アルファニオア」はその指示に従って,そのまま青い空の彼方にあるミルメリア艦隊本隊が展開している黒い宇宙へと向かっていた。

 

パル・キマイラ1号機は自らの犠牲でエルメ戦隊に駆逐艦1隻撃沈,重巡洋艦1隻大破の損害を与えたが,進行を止めるまでには至らなかった。




・第零魔導艦隊
後述のグラ・バルカス艦隊とは違ってあまり改変はありませんが,今話登場した「アルミス」はWeb版から取ってきました。当初は「シルバー」という名前でしたが,ミリシアルの艦艇にネームシップは内との事なので変更しました。

バッティスタとクロムウェルさんのフルネームもWeb版で使われていた名前と合体させました。

・第61任務部隊
これはオリジナル設定で,Web版で登場した第44任務部隊から発想を得て,グラ・バルカス帝国海軍は任務部隊制度を採用している事にしています。
東征艦隊は“第61任務部隊と後述の第17任務部隊”で編成された艦隊という設定です。

この設定は私が前書こうとしていた“日本がムーとミリシアルの間に召喚される作品”で作っていた物で,それを流用したという経緯です。後述の設定もその際に作った物です。

因みに上述の作品は書くのを諦めました。でも色々作品のアイデア自体は思い付いていて,最近は日本国召喚×太平洋戦争突入寸前だった大日本帝国とか面白そうだなと思っている。

それをやる前にこの作品を一区切りさせないといけないけど。

・第17任務部隊
東征艦隊の航空戦力を担っている艦隊。第61任務部隊と同じく監察軍(特務軍)所属という設定です。旗艦はペガスス級航空母艦「ヘルウェティイ」

艦隊編成はペガスス級1隻とペルセウス級数隻······って感じかな? 実を言うと旗艦以外全く決まってないというオチ。一応司令官は決まっているけど出ませんでした。

・ペルセウス級航空母艦
ペガスス級航空母艦の前級。外見は蒼龍型航空母艦。
ペガスス級の就役で現在は監察軍(海軍特務軍)の主力空母として使われている設定。
これ以上のこと? 今話はたたでさえ後書きの量が多いので書きません。

・タウルス級・エクレウス級etc·····
オリオン級やペガスス級は外見が分かっていますが,重巡洋艦以下は分かっていないので,私の独断で酷似している艦を決めました。
公式設定ではないのでご注意してください。

タウルス級重巡洋艦→妙高型重巡洋艦
レオ級巡洋艦→阿賀野型軽巡洋艦
キャニス・メジャー級巡洋艦→長良型軽巡洋艦
エクレウス級駆逐艦→秋月型駆逐艦
キャニス・ミナー級駆逐艦→陽炎型駆逐艦
スコルピウス級駆逐艦→吹雪型駆逐艦

・駆逐艦「トエハ」を失った理由
前話でメディナ戦隊が駆逐艦「トエハ」を失った理由ですが,“他司令官と話をしていて注意が向いていなかった”というものです。
··········こう書いてみるとふざけた理由ですね。

・パル・キマイラについて
なんか色々と伏線?的な物が出てきましたね。これに関しては本編で追求する予定です。

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