日本国の首都 東京。豊臣秀吉によって故郷 岡崎から
明治に名を改めた後に一度灰燼と化したが僅か数十年で復興し,ノルースへの転移後は高層ビルが建ち並ぶ日本の技術力を象徴する都市という一面も手に入れていた。
そんな東京は黒煙と炎に覆われていた。東京を灰燼へと変えた1945年3月10日の東京大空襲から約70年後にミルメリアの手で東京は破壊された。
自衛隊の奮闘虚しく東京上空へと現れたミルメリア艦隊ことメディナ戦隊は,3連装カノン砲から放たれた緑色のビームによって高層ビル群を幾つも切り裂いた。高温のショックカノンは
轟音を伴って崩壊したビルは膨大な砂煙を巻き上げてメディナ戦隊の視界を奪ったが,レーダーによる支援を受けて射撃を行っているミルメリアにとっては何の障害にもならなかった。
一部の軽巡洋艦は煙突型の艦上構造物から拡散ランチャーの弾頭を発射した。本来は対空目標を全滅させる為に使用する物だったが,爆発の壁を形成する弾頭は地上の広範囲を焼き払った。
メディナ戦隊は日本一高い地上構造物のスカイツリーや赤と白で彩られた東京タワー・2つの高層ビルが纏まっている東京都庁・東京湾に架かる吊橋 レインボーブリッジなどの視界に入りやすい高層建築物から,数年前に当時の姿へと戻った東京駅 丸の内駅舎や飛行機の形をした東京国立博物館・日本初の屋根付き球場 東京ドームなどの名所も徹底的に破壊した。
ミルメリアによる破壊宣言で東京にいた全ての人々はこの地から離れようとしたが,離れる事が叶わなかった人々が数えきれない程いた。避難出来なかった人々は東京中に張り巡らせれた地下街や地下鉄の駅へと逃げ込んだ。
だがミルメリアのショックカノンはいとも簡単に地面を溶かして地下へと到達し,地上諸共破壊された。避難していた人々は逃げる事も出来ず,次々と殺されていった。
更に不運な事にメディナ戦隊は東京という
地球連邦軍第13艦隊第4戦隊によってメディナ戦隊は全て撃沈された為に攻撃は終わったが,受けた被害は計り知れないレベルだった。
直ぐに自衛隊の残存戦力や消防・警察を総動員して救助活動が始められたが,警察庁や防衛省等の指揮所や大型病院は完全に破壊されており,それによる犠牲者も大勢いた上に各種機材も失われていた為に救助活動は難航した。
魔法を使えるエルフ等の異世界人らは負傷者に対して治癒魔法を懸命に使用していたが,あまりの数と傷の酷さに対処出来ないまま亡くなる人も少なくなかった。
日本政府は避難先の札幌から各種情報を集めて救助活動の指揮を取ったが,情報が入る度に被害の甚大さと6桁に及ぶであろう死者数に絶望感が増幅していった。
◇
東京都の行政の中心地 東京都庁は
崩壊した東京都庁の逆側に位置していた新宿中央公園は,あまり被害を受けていなかった為に救助拠点として機能していた。ただ救助拠点と言っても医療品は店で売られている物しか無く,医療機関や自衛隊が保有していた本格的な医療品や医療設備は攻撃で失われたり,道路が不通になり届いていなかった。
その為救助拠点と言いながら異世界人は治癒魔法で,日本人は消毒液や絆創膏・包帯で傷の手当てを行う事しか出来ていなかった。
救助拠点にいる人々は攻撃を免れた民間人が大半で,警察官や消防士・医者などは少なく,その中でも自衛隊員はより少なかった。数少ない自衛隊員の中にはかつて魔王ノスグーラ討伐の指揮官だった百田太郎 一等陸尉が含まれていた。
彼は部下と共に横須賀市で避難活動を行っていたが,メディナ戦隊が攻撃を行わなかった為に生存する事が出来た。メディナ戦隊が第4戦隊へと戦闘に向かった後に,武山駐屯地に駐留する第31普通科連隊の高機動車で東京都内へと向かい,東京都庁周辺で救助活動を行っていた。
この場にいる自衛隊員の中で最高階級だった為に実質的な指揮官として各所に指揮を行ったり,自ら負傷者の手当てを行っていたが,殆ど休憩せずに行動していた為に心身共に疲労が蓄積されていた。
その様子を感じ取った医官から「指揮官が倒れたら,元も子もない」と言われた為に数日ぶりの休みを取っていたが,部下が倒れた連絡が入った為に
「どうした
野戦病院テントの中には魔王ノスグーラ討伐でブルーオーガを撃破した城島仁史 三等陸尉が顔を青くして,担架の上に仰向けで寝ていた。
「百田さん。わざわざありがとうございます··········うっ」
「大丈夫か。無理せず休んでいいんだぞ。猿渡,一体何があったんだ?」
無理して会話を行おうとした城島に対して百田は休む様に伝えると,直ぐに彼がこうなった状況を隣にいた猿渡に聞いた。彼も魔王ノスグーラ討伐で重要な役割を果たした
「城島は
猿渡の苦しそうな言葉を聞いた百田は,彼の右肩に手をかけた。
「猿渡,お前は城島についてやってくれ。俺はその現場に行ってくる。」
「了解しました。百田さんも気をつけて·····」
猿渡の忠告を受けつつも,百田はその場所へと向かった。破壊された都庁の瓦礫やそれらに潰された都営バス・燃え上がって黒焦げになった乗用車の残骸の脇を通って都営地下鉄大江戸線の「E28 都庁前駅」 A5入り口に辿り着き,明かりが消えた暗い階段を下っていく。
階段を下りきった百田の視線の先にはショックカノンで空いた穴から入り込んだ光と照明機材に照らされながら,各種機材で瓦礫を撤去するハイパーレスキュー隊員と,ミルメリアによって犠牲となった大勢の人々を遺体収容袋に収容する自衛隊員と救急隊員の姿が写った。
本来ならば大勢の人々が行き交う筈の場所は,僅か数日で防空シェルター兼墓場へと変貌した。大江戸線は比較的新しく作られた為に地下深くに通されていたが,ミルメリアのショックカノンはいとも簡単に最深部に到達して,避難民と共に駅構内を破壊しまくった。
避難民はショックカノンで体や首を切断されたり,崩壊した天井に押し潰されたり・爆発によって壁に叩きつけられるなど死因は様々だったが,死ぬはずの無かった人々が大勢死んだという事実に変わりなかった。
百田は大勢の死者に対して手を合わせる。手を合わせる百田に気づいた一人の衛生科隊員が彼に駆け寄っていく。
「百田一等陸尉,何かありましたか?」
「うちの隊員が迷惑をかけたって聞いてな。それにしても酷いな·········」
「ええ,最深部のホームにも地下鉄の線路を使って隊員が到達したらしいですが,かなり酷い様子とのことです·····こんなの見てしまったら,倒れてしまうのも納得できます。」
「········」
衛生科隊員の言葉に百田は返答できなかった。
ここで死んだ人々は顔も名前も知らないが,誰もがこの先に輝かしい未来を望んでいたのは間違いないだろう。
パールパディア皇国がフェン王国で観光客を殺害した事件の際も彼は怒りを覚えたが,その何百倍もの人々が今回犠牲になっていた。
日本を最低限の犠牲という恐怖で占領しようとしたパールパディアよりも,皇帝の歪んた自己欲求を満たす為だけに大勢の国民を殺したミルメリアに対してフェン観光客殺害事件の比ではない怒りが湧き上がってきた。
だがどうすることも出来なかった事を百田は分かり切っていた。
護衛艦や戦闘機をあるだけ投入しても止められなかったのだから,たった1人の一等陸尉が出来る事など無いに等しかった。
憤りの無い怒りを抱きつつも,どうする事も出来なかった悔しさが入り交じっている百田は隊員達の邪魔にならないように静かに去り,着た道を戻っていく。
暗い階段を上がりきって,A5入り口から出ると太陽光が彼に差し込む。眩しさに目を瞑った彼の鼓膜に聴き慣れない音が聴こえていくる。
「何だ?」
轟音が聴こえる方に目を向けると,白と灰色に覆われた4機の飛行機が写った。小さな翼には1つずつエンジンが装備され,胴体は箱型と6輪の装甲車らしき車を搭載している物に別れており,尾翼の形状は見慣れない形状をしていた機体の姿を百田は追いかけた。
「見た事無い飛行機だな········まさか!?」
何かを察した百田は拠点である新宿中央公園へと走り出した。
◇
百田が新宿中央公園に着くと,その場にいた殆どの人が4機編隊で公園上空を飛んでいる白の灰色の機体 コスモシーガルを見つめていた。
日本機の象徴である赤い日の丸がついてない機体に人々は疑問を浮かべていたが,同時に正体も意図も分からない飛行機に恐怖を抱いていた。
89式小銃を持ちながらコスモシーガルを見ていた犬神剛 三等陸尉は,百田が帰ってきた事に気がついて彼に駆け寄った。百田は犬神から9mm機関けん銃を受け取りつつ,彼に話しかけた。
「百田さん!!」
「犬神,あの飛行機は間違いなく地球連邦の飛行機か?」
「分かりませんが,あんな機体見たこと無いので恐らくそうだと·······」
百田と犬神が会話していると,視線の先を飛んでいたコスモシーガルの短い主翼が90°回転する。機体と並行していた主翼が垂直になった事で,主翼に取り付けられていたセルティアルム社製のEO-207Lコスモエンジンも同じ方を向く。
垂直になったエンジンの出力で機体は徐々に降下していく。
「マジか·······」
「まるでオスプレイだな······」
2人がその様子を見ていると,機体下部の着陸脚カバーが開いて中から降着装置が現れる。3つの着陸脚でコスモシーガル 4機全てが地に触れた。
コスモシーガルが着陸した事を確認した百田は犬神に指示を出した。
「隊員達に小銃を持たせて,機体を囲む様に伝えろ。」
「いいんですよね。あっちに悪印象を持たせるかもしれませんが。」
「万が一だ。何が起きるか分からんしな。あっちだってこっちの状況を理解してくれるだろうしな。」
百田の指示を受けて犬神や猿渡ら隊員が89式小銃や64式小銃・9mm拳銃等の銃火器をコスモシーガルへと向けた。百田も犬神から受け取った9mm機関けん銃を向けた。
隊員達がコスモシーガルを囲む様に広がると,箱型の胴体後部の貨物扉が開き出す。上下に別れて貨物扉が完全に開き切ると,胴体内に数名の人間がいる事が認識出来た。
胴体内の人間を警戒して百田らは
降りてきた男は黄土色の戦闘服と同色の鉄帽に身を包み,胸部に防弾チョッキを装備していた。武装はベルトの右側に取り付けられた小銃以外装備していない事を確認しつつも,百田らは警戒を緩めなかった。
彼は周囲を見回して現状を確認すると,首元のチョーカーに手を伸ばした。
「どうも日本人の皆さん。私は第13艦隊直属歩兵機動連隊第4支隊隊長のアヴェダ・センテベーロ中佐です。
艦隊司令官より救援を支援するようにとの指示を受けて,参りました。敵意は無いので,銃を降ろして頂きたい。」
彼から話された流暢な日本語に一同は驚愕する。全員が話の内容を理解できたが,相手に対する疑念は消えなかった為に銃を降ろすことが出来なかった。
その様子を察した百田が意を決して話しかけた。
「私がこの場の暫定的な司令官の百田太郎一等陸尉だ。」
百田が差し出した右手をアヴェダは掴んだ。
「言葉が通じていた様で良かったです。我々は日本政府からの救援要請を受けて先遣隊として参りました。」
「先遣隊という事は本格的な救援部隊が来るという事で宜しいですか?」
「ええ,我々は現地の救援部隊との交渉と現状調査を行うべく派遣されました。」
「そういう事ですか。我々は人員や機材・医療品等全てが足りていないので,あなた方がそう言ってくれるのは非常にありがたいです。」
「という事は我々と協力してくださる事で宜しいですか?」
「ええ,勿論です。」
百田とアヴェダの立ち話で話は纏まった。日本語で会話した為に犬神や猿渡らの隊員らも話の内容を理解出来た。
理解を得れたアヴェダの指示でコスモシーガルのコンテナ内から複数名の兵士が降りてくる。同時にコンテナの代わりに装輪装甲車を搭載していたコスモシーガルは,釣り上げていたアームが切り離されて,装輪装甲車が地面に降ろされる。
「こちらは装輪装甲車ですか?」
「ええ,これは地球連邦軍が使用している装輪装甲車 La-87 APCカーゴです。」
陸自が保有している96式装輪装甲車に形状は似つつも,各所に未来的なデザインが施されているLa-87 APCカーゴを百田らは興味津々に見る。
アヴェダや他の隊員にとっては最早見慣れた光景だった為に気にせず,上空から見渡すドローンやサーモカメラの準備を進めた。
ドローンが飛び上がって隊員らが調査を行う準備を終えたが,ある問題に気がついたアヴェダは百田に話しかけた。
「カーゴは移動手段として持ってきましたが,この現状では徒歩で行ったほうが良いですね。先導役としてそちらから隊員を寄越して欲しいのですが,宜しいですか?」
「それならば·······犬神,先導役頼めるか?」
アヴェダの頼みを受けて百田は犬神を呼んだ。
「了解しました。出来る限り先導致します!」
「そう言ってくださるとありがたいです。」
犬神とアヴェダは握手を行った後に素早く周辺の現状確認へと向かった。
その様子を眺めていた百田は誰にも聞こえない声量でボソリと零した。
「もし彼らがもう少し早く来てくれればこうはならなかったのに············」
・百田太郎 一等陸尉
原作では二等陸尉でしたが,ノスグーラ討伐の功績で一階級上がったとしています。
犬神さんや猿渡さん・城島さんも同じです。
余談ですが,私は特撮好きなので百田さんをしょっちゅう“桃井太郎”と読み間違えてしまうんですよねw
そう考えてたら魔王ノスグーラ戦×ドンブラザーズという二次創作を思いついてしまいましたww········誰か書いて。
二次創作のネタは直ぐ思いつくけど執筆が追いつかない現象分かる人います?
・横須賀市をメディナ戦隊が見逃した理由
メディナ戦隊迎撃の為に横須賀に配備されていた護衛艦や米艦艇が総出港しており,メディナ戦隊が来た頃には掃海艇や補給艦・潜水艦救難艦・試験艦ぐらいしか残っておらず,脅威と判断されなかったという経緯です。
一応試験艦の「ASE-6102 あすか」には
・La-87 APCカーゴ
地球連邦軍が使用している装輪装甲車。コスモシーガルで輸送できるほど小柄で使いやすい為に,殆どの部隊に配備されています。
外見は漫画版宇宙戦艦ヤマト2199でヤマト搭乗時に登場した装輪装甲車です。