ノルース星戦記   作:YUKANE

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2つの列強国

かつては地球上に存在しながらも1万2000年にノルースへと転移したムーは、転移による混乱と周辺国との軋轢・未知の魔法を用いる文明との戦争が重なった事で全土を収めていたムー大陸の半分を明け渡してしまったが、独力で唯一無二の科学文明を築き上げた事でミリシアルに次ぐ列強次席の地位を得ていた。

 

ムーの永世中立を証明するかの如く、1万年に渡って戦火に見舞われてない首都 オタハイトはレンガ造りの王城や建物が立ち並んでおり、整然としながらも日本から輸入された自動車が走り始めている街並みの一角にムー統括軍軍令部は設けられていた。

 

陸海空三軍を纏めて指揮する権力が与えられた統括軍軍令部は、各軍や部隊との連絡や情報収集を役割とする情報通信部を有しており、その一部署として情報分析課が設けられていた。

ムーで数少ない諜報機関として各国から集められた大量の情報を専門家が分析する重要な役割を請け負っていたが、情報技術に関する理解が乏しい上に仕事が地味な事も相まって窓際扱いされていた。

しかしながら、日本国との国交樹立時に同国に関する各種情報を各部署へ提供した事で、"ムーで一番日本を知っている"部署として知名度が上がっていた。

 

そんな情報分析課に所属しており、ムーへやって来た日本国外交官の案内やフェン王国の戦い時に観戦武官として赴いた経験からムーきっての日本通で、同部署の知名度を上げる大きな要因となった技術士官 マイラス・ルクレールは自らのデスクにバラ撒かれた写真を見ながら頭を抱えていた。

 

「全く持って何一つ分からん。」

 

先進11ヶ国会議の撮影に向かったカメラマンや日本国にいたムー人が、日本製のカメラで撮影したミルメリアと地球連邦の軍艦はマイラスの既存概念を軽々とぶち壊していた。

 

かつてこの世界を支配したラヴァーナル帝国が空中戦艦を用いていた事は彼も知っているが、それですら安々と撃破された事も中々の衝撃だったが、それはマイラスにとっては些細な事でしか無かった。

 

「日本国ですら倒せないミルメリア艦······その艦と互角に戦える地球連邦····もう何がなんだか······」

 

ムーと同じく地球から転移して来た仲間である上にミリシアルを凌ぐ技術力と軍事力を持っている日本国ですら、ミルメリアを撃退出来なかった事実が日本国へ心酔していた彼の混乱を促進させていた。

 

「もう何がなんだか信じられんな······」

「マイラス先輩大丈夫ですか!? 眼の下に凄い隈が出来てますよ!」

「あ、ありがとう·····隈が出来ているのか?」

「気づいていなかったんですか!? 見てくださいよ!」

「どれ·····おおう、これは酷いな。」

 

自分の常識が全く通用しない物を目にして自暴自棄になりかけてるマイラスに、情報通信部へ配属されたばかりのカーナ・ノイナータが心配の声をかける。

彼女が常用使いしている手鏡を受け取って自分の顔を見てみると、目の下に予想よりも深い隈が刻まれていた事にマイラスは苦笑いした。

 

「もしかしてですけど、寝ないでこの写真を見てたんですか?」

「あぁ、こんなに興味深い物を見せられたら寝れるわけ無いよ。」

「確かに空飛ぶ船は魔法帝国の空中戦艦と······第三文明圏にも似たのありましたよね。」

「それは恐らくパンドーラの飛空船だな。あれは数年前に乗ったこともあるが、この空中戦艦とは全く違うよ。」

 

彼は以前にパンドーラ大魔法公国で見学し、搭乗までさせて貰った飛空船を思い出す。

 

「あの飛空船は木造で水上にしか止められないから専ら輸送に使われていて、日本国で救助に使われてる飛行艇って奴にそっくりだ。それに対してこっちは地球やミルメリアとかの星から、ノルースと呼んでるこの星へ航行出来る時点で比べ物にはならないよ。」

「ミルメリアの艦はミリシアルの空中戦艦ですら容易に落としましたからね。下手すれば魔法帝国より強いかもしれませんね······」

「下手すればというか間違いないだろうな。この星の全国家が連合を組んでもミルメリアと地球連邦のどっちにも勝てないのは明らかだな。」

 

カーナへ自論の説明を終えたマイラスは小さく呆れが混じった笑い声をこぼす。不意の笑い声に恐怖と疑問を抱いたカーナが質問する前に、マイラスは笑い声の理由を話し出した。

 

「私は彼らを案内すべく初めて会った2年前から今まで日本国へ心酔していた。あの国は魔法帝国ですら倒せるだろうと勝手に思っていたが、その国は別の星からやって来たミルメリアに負けた·········私はプライドに固執するムー人より優れていると思っていたが、結局は井の中の蛙だったんだよ。」

 

乾いた笑いを零すマイラスにカーナがどう声をかければ良いか戸惑っていると、部屋の外から廊下を駆ける音が聞こえてくる。

壁越しに聞こえる走る音は1秒毎に大きくなっていき、2人がいる情報分析課の部屋のドアが大きな音を立てて勢いよく開けられた。

 

「ま、マイラスはいるか!?」

「そんな大声出さなくても聞こえるわ。息を整えてからで良いが、そんなに焦って何があった?」

 

マイラスは自分と共に観戦武官として日本国へ赴いた経験を持つ戦術士官 ラッサン・デウリン中尉へ、息を整える様に諭しつつ彼が急いでやって来た理由を聞いた。

 

「ち、地球連邦の艦隊の半分が地球へと帰還するらしいんだが、その際に地球やケイン神国・インペリアル星系連合へ赴く使節団を同乗さても良いって各国へ打診したんだ。」

「·········その使節団に私が選ばれたって事か?」

「その通りだ。日本国へ精通しているお前なら信用できるって上が判d」

「よっしゃあぁぁぁぁ!!」

 

ラッサンの返事を全部聞かずにマイラスは目の下の隈を掻き消して、室内に響く大声を上げた。それまでの雰囲気を忘れさせるかの如き大声に、驚きつつも恐怖を抱いたカーナは離れるべく下がり、ラッサンはこの展開を分かり切っていたかのような苦い顔をしていた。

 

「使節団に選ばれたという事は地球連邦へ行けるという事か!?」

「あ、あぁ、地球連邦だけでなくケイン神国やインペリアル星系連合の首都にも行けるらしいぞ。」

「よしよし!! 首都に行けるという事は色んな星の船や最新技術も見れるという事だな! これを待っていた! いつ出発なんだ!!」

 

さっきまでの疲れが一瞬で消して子供の様に喜ぶマイラスの姿にカーナは化け物を見る様な視線を向け、ラッサンは呆れきった表情をするしか無かった。

 

 

中央世界と呼ばれる第1文明圏からべリアーレ海を挟んだ先に、第3文明圏の中心地であるフィルディアス大陸が位置していた。

第1・第2文明圏とは技術や国力といった多くの面で劣っている事からそれらの者から蔑まれていたが、転移してきた日本が積極的に進出した事で僅かばかりながらも注目度が上がっていた。

 

世界からの見方が変わり出した第3文明圏で唯一の列強国として君臨していたパーパルディア皇国は、日本との戦争に敗北した事でフィルディアス大陸の半分に及ぶ属領と国力を失った事で列強の地位を日本国へ明け渡す程に弱体化していたが、独立しながらも国家運営がままならない属領を州として迎え入れる事で、実質的な合衆国として現在でもフィルディアス大陸の長に君臨していた。

 

グラ・バルカス帝国へ呑み込まれたレイフォルとは違って国として生き残れたパーパルディア皇国が、属領から絞り上げた富を元に1から築き上げた首都 エストシラントの郊外に建てられた邸宅の1室で皇国の舵取りを担う2人の幹部が相対していた。

 

「地球連邦へ向かわせる使節団のメンバー選出を手伝って欲しいね·······確かに貴方は使節団に選ばれる側だったから、選ぶのは経験が無いわね。」

「分かり切った事を言うな、第3が送るのは割譲地の視察団と皇国監察軍ぐらいで経験が無いんだ。それに先進11ヶ国会議への参加者選出にも加わったお前の助言を受けたかったんだ。」

 

日本戦以前は対応する国の文明レベルごとに3つに別れてた外務省を纏めるエルト=オルスドネアは、煙管(キセル)型の煙草を吸いながらテーブル越しに座るカイオス=ディスファイアへ話しかける。

 

現在は実質的な国家元首であるカイオスが局長を務めていた第3外務局は、周辺を取り囲む文明圏外国を担当していた為にそれらの国から利益をどれだけ搾り取れるかに注力していた為に、列強諸国への対応には慣れていなかった。

 

エルトは吸っていた煙管を灰皿に置き、代わりに万年筆を持つ。

 

「まずハンスは確定ね。あの子は11ヶ国会議に参加した経験もあるから団長も任せられるわ。

それと経済局に農務局・情報局・軍部からそれぞれ1人ずつを派遣する事にして、あと私直属の諜報員も送ろうかしら。」

 

エルトは第1外務局局長時代から愛用している万年筆で使節団のメンバー候補を書いたメモをカイオスへ手渡す。

カイオスは自身が寝る間も惜しんで苦悩していたメンバー選びを意図も簡単に終わらせたエルトに驚きつつ、自分を差し置いて彼女が華の第1外務局局長に選出された理由をマジマジと味わった。

 

「そんなに驚かなくても良いのに。私も先進11ヶ国会議に行かなかったら、こんな即興で書くなんて無理よ。」

「行った経験があるだけで完敗さ。私は結局行けなかったのだから。」

「でもそれよりも貴方が日本国との仲介を担った事の方が価値があるんじゃない?」

「そうかもしれんな。これはこれで大変だけどな。」

 

この国の国政を担う2人が雑談を混ぜた会話をしていると、木製の扉をノックする音が扉越しに響いてきた。

 

『カイオス様、食事を持ってまいりました。』

「ご苦労、入ってくれ。」

 

カイオスが壁越しの会話を終えると観音開きの扉が開き、白いコック服に身を包んだ男が入ってくる。元は皇族専属だったコックは2人に礼をし、後ろに置いていた銀メッキのワゴンに載せられた料理を両者の目の前へ運んでいく。

 

コックがワゴンと同じく銀色に光る半球形のクローシュを取ると、白地に金の装飾が施された皿に赤いトマトソースが芸術的にかけられた鶏肉のソテーが姿を現した。

 

「これは日本の品種改良技術を用いて飼育された火喰い鳥だ。まだ研究段階だから世に出回ってない代物だ。使節団メンバーを選んでくれたお礼として食べてくれ。」

「噂には聞いていたけど、食べられるとは思っていなかったわ。有り難く頂かせて貰うわ。」

 

世に出回ってない物を先行して食べれるという事実に、少しばかりの優越感と喜びを感じていたエルトは襟元に紙ナプキンを巻き、毒殺対策を兼ねている銀製のナイフとフォークで火喰い鳥のソテーを切り分け出した。




・"ムーで一番日本を知っている"部署
日本への初接触と初来日を体験したマイラスがいるんですから、こう呼ばれてもおかしくないよね?

・日本国へ心酔していた彼
マイラスがムーきっての日本通であり、日本贔屓である事は絶対に負ける事が無いという気持ちを与えてしまうのでは無いかと思ってこんな感じにしました。
日本の影響を強く受けているクワ・トイネとかに意外といそうだな·····

・パンドーラの飛空船
絶対に登場したら面白そうな筈なのに言及しかされてないの何でなんや?
クルセイリース編が書籍になった際に何かしらの形で出て来て欲しいな。

・パーパルディア人の名前
パーパルディア人は誰もフルネームが分かっていないので、他国人との区別として名前と苗字の間に=記号を入れて見ましたが、=記号を使うのって問題ありますかね?

・日本の品種改良技術を用いて飼育された火喰い鳥
最後に無理やりねじ込んだ形だけど、地味にやりたかった展開ですw
地球でも牛や馬といった動物が輸送に使われていますが、これらの動物って大半が食用としても使われているので、ワイバーンの搭乗で輸送に用いられている火喰い鳥には食用で飼育されていても可笑しくないと思ってます。
異世界の火喰い鳥に日本が有する家畜の品種改良技術や調理法を混ぜるとか面白いですよね?


以前から言っていたオリジナル作品の設定が纏って連載開始が見えてきたので、次話辺りで更新が止まるかもしれません。
この作品を楽しみにしている方には申し訳ありませんが、元々オリジナル作品連載開始までの繋ぎとして考えていたのでご容赦ください。
あと、オリジナル作品の息抜きとして投稿する可能性もあるので、その時は楽しく読んでください。
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