連載を始めたオリジナル作品はこちらです。
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「クルセイリース大聖王国か······」
日本国の政治的トップである内閣総理大臣を努める武田実成は、日本政府の臨時拠点が置かれている北海道庁の知事室を転用した執務室で、情報通信衛星が撮影した写真に写る十字架形の島を眺めながらボソリと呟く。
「ロデニウス大陸から南東に3000kmの場所に位置しているので、我が国が国交を有している国家の中で最東端のシルカーク王国よりも遠い事になります。我が国にとっては文字通り未知の領域です。」
「何の成果も得られずに燃料だけが無駄になった旧太平洋遠征が野党やメディアからかなりの批判を受けたから、迂闊に手を出せなかったしな。」
「衛星が打ち上がった事で
武田はクルセイリースの存在を伝えに来た外務大臣 佐藤渉と会話を交わす。
日本政府は人工衛星の打ち上げに先駆けて、燃料を満載した上に補給艦を付けた第1護衛隊群を旧太平洋海域へ出港させたが、1万km進んでも大陸どころか島の1つも見つけられずに帰投する無残な結果に終わった。
海自側は「良い航海練習になった」と肯定的な意見を述べ、同乗していた海洋学者は未知の海域に常に興奮する結果だったが、野党やメディアはこの失敗を深く追求した。
加えて野党やメディアの批判に転移直後に味わった燃料不足の危機が抜けていなかった国民が乗っかった事で事態は大事になり、計画そのものが日本の食糧・資源をかけたロウリア戦の最中に行われていたと判明すると批判は日本中へと広まる事になった。
この事態を受けて当時も総理大臣を務めていた武田は衆議院解散の後に総選挙を行う構えだったが、年明け早々にフェン王国へ侵攻したパーパルディアによる日本人観光客処刑事件が起きるとそれどころではなくなり、パーパルディアの皇族 レミールが
パーパルディア戦の終戦後も日本中からの批判で総選挙になる事態を恐れた武田総理は旧太平洋への進出を後回しに決め、第2文明圏や第1文明圏への本格的な進出が始まった事も相まって殆ど忘れ去られる事となった。
しかしながら、
「それで、私に報告するって事はこの国に何か面白い物でもあったのか?」
「えぇ、総理が確実に驚かれる物がありました。」
佐藤がそう前置きして渡した写真を見た武田は瞳孔を大きくさせた。
「戦列艦が······プロペラで空を飛んでいるだと!?」
佐藤が手渡した写真には船体上部に設置されたプロペラを回して空を飛んでいる戦列艦が写っていた。木製の船体にプロペラがついている姿は異質で加工されている様に思えたが、総理に堂々と見せている事がこの写真が真っ向な事実だと突きつけていた。
「この写真は防衛省にも送ったか?」
「勿論です。によると詳細こそ不明だが、パンドーラの飛空船と同じく対処可能だと判断したそうです。」
「パンドーラを訪問した際に試乗したアレだな。あれも驚いたが、それ以上に魔法が生み出した産物だな···にしても、我々を驚愕させた地球連邦の宇宙戦艦に似た物が
◇
「し、信じられん·······こんな巨大で鉄製の飛空艦が存在するなんて·······」
クルセイリースが誇る飛空艦隊で副司令を務めるターコルイズ・ド・フォールンドレは、第13艦隊第4戦隊の主力を担う第1342宙雷戦隊で旗艦を努めるドレットノート級戦艦「DDD-174 クロニクル」の艦橋で頭を抱えていた。
飛空艦隊司令官であるシエドロンの命で「クロニクル」へ乗艦した彼は、副艦長の案内で艦内を見学したが乗った時から驚きの声を上げ続けていた。
ドレットノート級が搭載するPNC-257型波動エンジンは無補給で星間航行を行える上に、やろうと思えば飛空艦より速い速度で航行出来るという説明はクルセイリースが持つ空のアドバンテージを遥かに上回る物であった。
加えて艦の武装はどれも木製の飛空艦を一撃で沈める威力を持っており、たった1隻で飛空艦隊を崩壊させない存在である事を認識させるには充分すぎた。
「こんなのを相手にすれば、我々は損害すら与えられん····しかも宇宙まで到達出来るなんて·······」
「艦橋に来てからずっとこの状態ですが、そろそろ落ち着かれては? ずっとその調子ですと、声帯もメンタルも持ちませんよ。」
自分の常識を軽々と超えてしまう存在を目の当たりにした彼に「クロニクル」の艦長であり、第1342宙雷戦隊司令官でもあるレーザ・アスキュリーズ大佐が心配そうに話しかける。
利己的な彼女を表す様に冷たそうな声で心配の言葉をかけられたターコルイズが何とかして平常心を取り戻した事で、艦橋に響いていた声は消えていった。
暫くぶりに艦橋内が静かになるとレーザは、騒音の如きターコルイズの声によるストレスで溜まっていた溜息を吐く。
「驚かれるのは構わないが、ああまで大きな声をいつまでも出されると気が滅入る·····」
「自分の常識を遥かに超える存在を目の当たりにしたのですから、仕方ないでしょう。我々も国交締結に来た国の人々が飛行機に乗るとあんな風になると聞いてますから。」
ストレスが溜まったが故にキツい言葉を発したレーザへ、ターコルイズと同じく「クロニクル」へ同乗している八神恭一 空将補が話しかけた。
地球連邦への使節団派遣を前に同乗するであろう艦艇に乗り込んで問題が無いか確かめる役割で乗り込んだ彼は、レーザより高い階級も相まって彼女へ対等どころか上の立場から話しける事が出来た。
「我々はこういうのに慣れていませんからね。日本はこういうのがしょっちゅうあるんですか?」
「聞いた話ですとそのようです。私はまだ目の当たりにしてませんが、海自や海保には対処のマニュアルが配られてる様なので、あちらでは日常茶飯事になっているのでしょう。」
「これが日常茶飯事だったら、私は気が滅入るな······」
レーザと八神はあんな光景が日常的になっている外務省職員や海保・海自隊員の苦労を思いながらも、自分にこの面倒な役割が回ってきた事への運のなさを悔いて溜息をついた。
しかしながら、八神は自らの部下である田代清雅 三等空佐と航空力学に精通した工学博士 井出響介がターコルイズを質問攻めにし、それを諌める役割を任される事になるとは知る由もなかった。
◇
クルセイリース大聖王国が本土とする島は十字型をしており、十字を構成する500kmの縦棒と横棒が重なる場所に王族が住む聖都 セイダーが位置する。
かつて8つの頭と尾を持つ巨大な邪竜を倒した建国神話を持つこの国は複数の属国で成り立っており、それらが生み出す富が集まるセイダーは日々活気に溢れていた。
そんな活気が溢れる聖都 セイダーの上空を、「クロニクル」以下13隻で構成された第1342宙雷戦隊が聖王直轄艦隊所属の飛空艦による先導で航行していた。
聖都に暮らす市民や地方からやって来た人々は国の飛空艦より何倍も大きく、飛空艦とは似ても似つかない形をしたドレッドノート級とエンケラドゥス級の姿を恐怖に満ちた目で見上げていた。
自慢の飛空艦をいとも簡単に破壊出来そうな地球連邦艦艇を目にした人々は、恐怖のあまり未知の存在が攻めてきたと勘違いして少しずつながらも混乱が起き始めた。
聖王女 ニース・ラ・クルセイリースに率いられた兵士が“聖王直轄艦隊が率いている事から敵対意識は無い”として混乱の鎮圧を図っていたが、兵士だけでなくニース自身も巨大な地球連邦艦艇の姿に内心恐れを抱いていた。
市民に恐怖を植え付けながら聖都上空を堂々と飛んでいる我が物顔で地球連邦艦艇の姿を、聖王であるジュウジ・ル・クルセイリースは居城でもあるテンダー城のテラスから眺める。
「飛空艦があんなに小さく見える日が来るとは······人生何が起きるか分からんもんだな。」
「悠長にそんな事言ってる場合ですか? もしあの飛空艦が攻撃したら我々はひとたまりもありませんのよ。」
ジュウジの妻として聖母の称号が与えられたラミス・ロ・クルセイリースは、ジュウジとの息子である聖皇子 ヤリスラ・ル・クルセイリースをあやしながら、不安そうな視線を向けていた。
「そう不安になるな。
最も我が国と戦うのであれば、我々は既に攻撃されているからな。」
「確かにそうですが·······」
「聖王様、聖母様お話中失礼します!!」
ラミスがジュウジへ話している中、軍王 ミネート・ガ・ブラハウェルは聖王の横へ向かうとその場で膝まづく。
「ミネート、何かあったのか!?」
「聖母さま落ち着いて下さい。わたくしは地球連邦の船についての情報を伝えに来ただけです。」
「なるほど、あの艦について何か分かった事を教えてくれ。」
ジュウジはラミスを落ち着かせつつ、ミネートに報告を促した。
「地球連邦の艦が備える大砲は実弾だけでなく光線まで放つ事ができ、船内には対空・対艦などの様々な用途の誘導魔光弾を何十発も備えているとの事です。」
「光線兵器に誘導魔光弾も持っているとは······一応聞くが空中戦艦でアレと戦えるか?」
クルセイリースは古の魔法帝国が開発した空中戦艦に初代聖帝の名前を与えて運用しており、数は少ないものの誘導魔光弾を装備している為に“ヤマタノオロチ”すら倒せると豪語する者もいるが、その単語を出されたミネートの反応は芳しくなかった。
「恐らく勝てないでしょう。「聖帝ガウザー」は疎かキル・ラヴァーナルですら対抗できるかどうか······」
「なんですと·······」
「最早そんなに次元が違うのか·······復活したラヴァーナル帝国と相まみえても、簡単に滅ぼせそうだな。」
空中戦艦と共に切り札であるキル・ラヴァーナルですら勝てないと言い切られた事に、ジュウジは最早呆れ混じりの発言すら出来なかった。
ラミスはミネートに絶対的な信頼を寄せている事も相まって、彼の言葉が真実だと受け入れるしか無かった。
「それと信じられないと思いますが········あの艦の先端の穴からは惑星すら破壊可能な光線を出せるとのこと·····」
「惑星だと·······彗星や流星の聞き間違えではないのか?」
「わたくしも聞き間違いかと思いましたが、惑星で間違いないとのこと。昨日、空に伸びた青白い光があの光線らしいです。」
「最早意味が分からん····
ジュウジは星を破壊する兵器が目の前にある事実を信じれずにはいたが、自らの常識から余りにもかけ離れた存在を呆れながら受け入れるしか無かった。
その後、クルセイリースは艦隊に同乗していた日本国外交官によって第1・2文明圏の存在を知り、彼ら含む3文明圏との国交締結と進出に向けて動く事を決めた。
同時に地球連邦への使節団派遣を行う事も決め、徹夜の議論で選ばれた使節団は「DDD-269 サーヴァント」に乗り込み、地球連邦に行く前に日本国含む各文明圏の見学へと赴くのだった。
・燃料を満載した上に補給艦を付けた第1護衛隊群を旧太平洋海域へ出港させたが········
こちらは2巻にしれっと書いてあったので入れてみました。この一文以降は何一つ記述が無いので忘れている人も多いのでしょうが、よくよく考えると野党やメディアから質問攻めにあう大問題ですよねw
・パンドーラを訪問した際に試乗したアレだな
本編では総理どころか大臣すらも国外訪問した描写が一切無さそうですが、戦いが何も無かったであろう1641年にはロデニウスやフィルディアス大陸諸国には行ってそうなので、訪問したとしました。
・クルセイリース人の名称
クルセイリース人はエル・ガンエンしか本名が分かっていないので、本話で出てきた人の本名は全てオリジナルです。
名前と苗字の間に一文字入れることで差分化しましたが、なんかグロンギみたいになりましたねww
・飛空艦隊で副司令を務めるターコルイズ······
シエドロンの後継として艦隊司令になった彼ですが、副司令であれば役職的にも自然かと考えてこうしました。
・海自や海保には対処のマニュアルが配られている····
日本国と国交締結を結びたい国家は無数にある事が本編内で記述されていますが、どうやって接触したのかについては何一つ書かれてないのでオリジナルとして考えました。
ロデニウスや第三文明圏諸国と接触するのが無難だと思いますが、アポ無しで日本本土へ向かう国家もありそうなのでそれに対するマニュアルがあってもおかしくないですよね?
◇
前書きに書いた通り、新連載の作品に全力ブッパするので今作はとりあえず今話で一時連載休止です。
気が向いたら投稿するので、それまでさよなら~