ノルース星戦記   作:YUKANE

24 / 28
お久しぶりです。今年度中にもう一本投稿した方が良いだろうと思いましたので、投稿させて頂きます。

そしてしれっと章を追加したのですが気づきましたかね?


崩れた最強神話

第三文明圏の中心であるフィルディアス大陸と魔物が跋扈するグラメウス大陸は、70kmもの全長を有しながら横幅が最大でも200mしかないトーパ地峡で繋がっていた。かつての中国に存在した万里の長城の如く長細い地峡の真ん中にトーパ王国が存在している。

 

かつて魔王ノスグーラによって滅ぼされた国の名前を引き継いだこの国の北限には、旧日本軍こと太陽印の勇者が築き上げた城壁 世界の扉が存在しており、グラメウス大陸の魔物がフィルディアス大陸へ侵入するのを防ぐ「世界の守護国」として高い誇りを持っていた。

日本国との繋がりは転移から1年も経たない内に蟹を筆頭とする水産資源を求めて接触したのが始まりで、1万年ぶりに復活した魔王ノスグーラを日本国が派遣した陸上自衛隊が無傷で撃破した事もあり、異世界でも有数の親日国になっていた。

 

その魔王ノスグーラと日本国の戦場となった城塞都市 トルメスはトーパの最北に位置し、長い冬が終わっても暫く溶けない雪が日本製除雪車によって空き地に山積みされたいつも通りの光景が広がっていたが、ここの住民達は1つの話題で持ちきりだった。

 

「なあ、ミルメリアとやらに日本国が負けたって本当なのか?」

「お前まだ信じてないのか? あの世界のニュースですらそう言ってんだから間違いねえだろ!!」

「そうだけどよ······信じられるかよ。あの魔王を倒した日本国が負けるなんて。」

 

「5丁目の雑貨屋を経営しているレマークさんの息子さんって日本国に行ってるらしいのよ。無事であって欲しいわね。」

「漁師のネキマンさんの息子さんも行ってたからご主人慌ててたけど、無事だったみたいで安堵していたわ。」

「3丁目に住んでいる中野さんも家族が巻き込まれてないか心配していたわ。」

 

トルメスの市民は伝説の勇者4人ですら封印で精一杯だった魔王を無傷で倒した陸自の勇姿を見ていたからこそ、その敗北は凄まじい衝撃を撒き散らした。

未だに街のあちらこちらで日本のワードが飛び交う中、エルフの血が入った傭兵上がりの騎士 ガイ・ベルグソールと、純血エルフの騎士 モア・サルザ・バララトが石畳の街道を歩いていた。

 

「しっかし、何処もかしこも日本国の話ばっかりだな。煩いったらありゃしない。」

「あのノスグーラを倒した日本国が負けたんだ。驚くのも無理が無い。」

 

周囲が日本を連呼している事に嫌気が差したガイのボヤキにモアが答える。世界の扉の守備隊要員としてノスグーラの復活を誰よりも早く知り、陸自がノスグーラに勝利する光景を誰よりも間近で見ていた2人も日本の敗北には驚愕したが、軍人である2人はその事実を受け入れる事にした。

 

市民の喧騒が響くトルメスの街を歩いた2人はミサイサ地区に構える飯屋へ入っていく。ドアに繋がれた鈴の音色を響かせながら店に入ると、2人の幼馴染で捕らえられた魔王軍から助けたガイと付き合っているエレイ・ネニスンが笑顔で出迎えた。

 

「ガイ! モア! いらっしゃい!! 今日もいつもので良い?」

「あぁ、ロヒケイット*1とピッティパンナ*2のセットで宜しく。」

「俺もいつものケサケイット*3とカルヤランピーラッカ*4のセットでお願いな!」

「分かったよ!──あ、そうだ。今日はアールグレイって言う紅茶が入っているのだけどどう?」

「アールグレイか、それも貰おうか。」

 

注文を受け取ったエレイが厨房へ戻るのを見送った2人が幼少期から慣れ親しんだ店の雰囲気に落ち着いていると、店内にいつものBGMではなくラジオの音声が流れている事に気づいた。

魔王侵攻後の再建時に日本から輸入した古めかしいレコードプレーヤーが奏でる音色がこの店の自慢になっていたが、今日だけはレコードプレーヤーではなく魔信のラジオから発せられる放送が店内に響いていた。

ラジオの内容に耳を傾けたガイとモアだったが、市民と同じく日本国の敗北について語っていると気づくと顔を顰めた。

 

「ラジオも日本国についてか──何処もかしこも日本ばっかりでウンザリだな。」

「えぇ、ラジオも新聞も全部日本国の敗北で持ち切りよ。他に伝える内容があるだろうに何でなのかしらね?」

 

厨房でアールグレイを淹れて来たエレイは、2人の前にアールグレイが注がれたティーカップと一緒にトーパ新聞を置く。日本から輸入した印刷機とノウハウを元に発行されたトーパ新聞の一面には、デカデカと日本国の敗北に関する記事が写真付きで載っていた。

 

「ミルメリア襲撃からそろそろ1週間経つってのに未だにこれが一面かよ──うちの国はどれだけ日本国に心酔しているんだか。」

「全くだ、これじゃあ日本国に飼い慣らされた腑抜け同然だ。」

 

母国が余りにも日本国へ頼り切っていた事実に呆れながら、2人はエレイが淹れたアールグレイを飲み始めたが、ラジオや店内BGMとは違う音が流れている事に気がついた。

 

「この着信音ってモア(お前)のじゃないか?」

「そうみたいだ。ちょっと御暇するよ。」

 

懐からモンキーモデルのガラケーを取り出したモアは店の外へと出る。日本国へ傾倒する自国を批判しながらも、自らも日本国の恩恵を受けているという矛盾を抱えたモアは店の外で電話していたが、店へ戻ってきた彼の表情は大いに驚いていた。

 

「が、ガイ、エレイ大変だ!! 王国が地球連邦へ送る使節団メンバーに選ばれてしまった!!」

「ほ、本当かモア!?」

「あぁ本当だ! 魔王討伐に貢献した立役者として国王自ら選出されたそうだ!!」

 

モアが大声で話したが故に店内にいた人々から歓声が舞い上がり、瞬く間に拍手の大合唱が始まった。

 

「モア! 地球連邦に行けるなんて凄いじゃないか!!」

「国王に指名されるなんて、後世に語り継げる名誉ね!!」

「地球連邦の奴らに魔王討伐の話を聞かせてやれ!!」

 

歓声と拍手に包まれる店内の様子に店主であるエレイの父親が驚きながらやってくるが、エレイから現状の理由を聞かされるとモアを幼い頃から知っている店主も拍手を送った。

 

「あのモアがトーパの代表として地球連邦に向かう大役を任されるなんてな·······よし─ガイ、モア、お前さんの大役を讃えて今日の飯はタダで良いぞ。」

「お、オッヤさんマジかよ!?」

「た、タダ!? いきなりどうしたですか!?」

「その代わりだ。地球連邦でしか買えない様な品をお土産として買ってきてくれ。もし買ってこなかったら、代金を請求してやるよ。」

 

店主の発言に店内に笑いが響き渡った。

 

 

エスペラント王国発見まで人類の最北端とされていたトーパから、フィルディアス大陸を挟んだ反対側に位置する島国 アルタラス王国。方角も気候も真逆に位置する国だったが、日本と良好な関係を築いている一致点を持っていた。

本州程の大きさを持つ島内に眠る膨大な魔石の採掘と、第一文明圏と第三文明圏を繋ぐ中継地として栄えたアルタラスは、一時期パーパルディア皇国によって占領こそされたが日本の支援を受けて無事独立を取り戻していた。

 

50万の住民を抱える王都 ル・ブリアスに建ち並ぶ建物は円を基調とした特徴的なデザインと持ち、南に位置しているが故に降り注ぐ紫外線から室内の温度を守るべく壁は白く塗られていた。その印象的な見た目から“純白の町”として知られる街並みの郊外に佇む丘には、国民の誇りであるアテノール城が聳えていた。

 

街並みと同じく白に塗られた城の執務室では、アルタラス王族唯一の生き残りにして女王のルミエス・リッツ・アルタラスが日本製の液晶タブレットを見ていたが、タブレットの画面を指でスライドさせる度にその顔は暗くなっていく。

 

「確認できただけで168名······行方不明も合わせれば400名にも·····」

 

タブレットの画面にはミルメリアの東京襲撃に巻き込まれて、死亡もしくは行方不明・音信不通になった国民の名前が写し出されていた。

ルミエス自身が日本への留学経験を有していた事もあって国を上げて日本への留学を推し進めていたが、それによってロデニウス大陸諸国以外では最多の死者が出る皮肉な結果となった。

 

ルミエスと一緒に日本を訪れたリルセイド・グアラ・シュルバットも、第二の故郷とも言える日本でこの様な悲劇が起きるとは想像出来なかったが故か、複雑な心境が表情に現れていた。

 

アルタラス再建以来の悲劇にルミエスが悲しみに暮れる中、従者がリルセイドに紙を渡す。渡された紙に書かれた内容を読んだリルセイドは目を見開いて驚きつつ、疑問を浮かべながらも自らの主へ報告する。

 

「姫様、日本国を経由して地球連邦から連絡がありました。」

「内容は?」

「我が国の魔石を50kgほど購入したいとの事です。」

「魔石を?」

 

地球連邦からの打診にルミエスも驚きと疑問を抱く。日本人と同じく魔素を持たない地球連邦にとって魔法は創作(フィクション)でしか存在し得ない物であり、それが故に魔素を含んだ魔石や魔導砲といった魔法関連の代物はノルース(ここ)に来るまで知らなかった存在と言える。

日本国ですら漸く科学技術と魔石をミックスさせた機器の試作を終えたばかりにも関わらず、知ったばかりの地球連邦が魔石を求める意図がルミエスには理解出来なかった。

 

「地球連邦は日本国と同じく科学文明な筈······何故魔石を欲しがるのでしょうか?」

「それに関しては添え書きがありまして、どうやら研究材料にする様です。」

「なるほど、研究材料ですか。それならば欲しがるのも納得ですわ。」

 

アルタラス国内に存在するシルウトラス鉱山で採掘された魔石は一般的な質でありながら膨大な埋蔵量である事が知られ、その埋蔵量だけで第三文明圏と文明圏外国の魔石需要をカバー出来ると言われる程であった。

パーパルディアに侵攻される要因となった膨大な魔石埋蔵量は国家再建に大きく貢献し、日本製品の輸出で最盛期よりは衰えつつも国家運営には充分すぎる利益を未だに齎していた。

 

「にしても50kgですか──量だけなら備蓄から出せるのですが、どうやって運ぶのでしょうか·····まさかあの空中戦艦が来たりするのかしら!」

「どうやらその様です。日本国に展開中の航空母艦一隻が我が国の沖合へ派遣され、艦載機を用いて積み込むと書かれています。」

「まあ! 見学出来ないか是非問い合わせないとね!」

 

ルミエスが初めて日本国を訪れた時の様な笑顔を浮かべた事にリルセイドは安堵するが、ルミエスの笑顔は直ぐに消えて、その視線をル・ブリアスの街並みへ向けた。

第三文明圏と第一文明圏を繋ぐ交通の要衝だった為に、両文明の建築技法が入り混じって出来上がった独特なアルタラス様式で構築された街並みは、パーパルディアによる破壊を免れて現存しているが一歩間違えば全てが破壊されていてもおかしくなかった。

 

「リルセイド──ル・ブリアスは奇跡的に破壊を免れましたが、東京は再び悲劇に見舞われた。このアルタラスを救った英雄が困っているのであれば、助けを差し伸べるのが礼儀だとは思いませんか。」

「ご尤もだと思います。姫様。ですが我が国が出来る事は限られております。」

「それは分かっております。ですが、我々には魔石販売で培った財源とコネがあります。それを使って助けに向かう国々を増やすのも1種の助けだと私は思います。」

「姫様の仰せの通りです。直ぐに連絡を取るように伝えてきます。」

 

王族直轄の上級騎士としてルミエスの亡命に尽力したリルセイドが、駆け足で去っていくのを見送ったルミエスは再びル・ブリアスの街並みを眺める。

 

刻石流水(こくせきりゅうすい)*5──私を生かして下さった恩義、ここで返させて頂きます。」

 

ルミエスの瞳は自らと国を救ってくれた日本へ恩義を返そうとする強い意志に満ち溢れていた。

*1
サーモンや馬鈴薯(じゃがいも)・人参等が入ったクリームスープ

*2
茹でた馬鈴薯や玉葱・ソーセージを炒めて目玉焼きを乗せた料理

*3
馬鈴薯や人参・季節の野菜が入ったミルク風味の野菜スープ

*4
ライ麦粉と小麦粉の生地にミルク粥やマッシュポテトを乗せて焼いたパイ

*5
「かけた情けは水に流し、受けた恩は石に刻む」という意味で、受けた恩は忘れずに恩返しをすることを意味する




・トーパ王国
以前も書いたかもしれませんが、日本国召喚の登場国には類似する地球国家と紐付ける事で設定の充実性を図っており、トーパにはフィンランドを紐付けました。当初は地形の面からパナマにしてましたが、気候が全く違う為に気候が類似したフィンランドへ変更しました。

トーパ王国の章で名前が出た料理は全てフィンランド料理としてWikipediaに載っているもので、登場したキャラにはフィンランドで人気なWRCのドライバー名をアナグラムにしてつけてますw

・モンキーモデルのガラケー
高価な上に大半が軍隊で使われる小型魔信より安価で使いやすいとしてロデニウス大陸で普及しており、1642年(今年)になってからフィルディアス大陸への進出が始まっている。

・アルタラス王国
紐付けた国家はトルコ。理由としては第三文明圏と第一文明圏を繋ぐ立地がトルコの立地に類似している上に、漫画版の建物や衣装もイスラーム圏に類似した見た目をしていたため。

・刻石流水
普通に書いても良かったのですが、それだとつまらないと思ったので調べてカッコよかったのを選んで書きました。意味に関しては最近出る様になったAIによる解説文をそのままコピーして流用。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。