因みに今回から地球防衛軍の艦艇の艦名はアルファベット表記の上に、読みをつける形に変えました。
「「EX-084」から連絡。“使節団搭乗完了まであと20分程度の見込み”だそうです。」
「今のところは順調といった感じか。」
第13艦隊第2戦隊で旗艦を担う「BBB-001
ワープ直後に波動砲を撃ち込む唯一無二の攻撃で第35艦隊に大打撃を与えた「アンドロメダⅡ」だったが、それをやった故にエンジン類のオーバーホールをすべく地球へ帰る事になり、ついでとして地球へ向かう使節団の護衛を任された。
「しかし──事情がアレとは言え、ミルメリアに狙われている星から2個分の艦隊を引き下げるのは後ろめたいな。」
「それは地球側も同じでしょう。
「まあ、そうだよな。」
副官と話し合ったアレヴィンが右を向くと、先程到着したばかりのアースエキスプレスの船列と、それを護る様に展開した第12艦隊が見える。
火星を根拠地とする第12艦隊は旗艦のオーバーホールに合わせて地球へ戻る第2戦隊と、第13艦隊の本拠地 惑星ベルーガ防衛に戻る第3戦隊と入れ替わりで、ノルース防衛戦力として派遣された。これと言った特徴こそ無いが、どんな戦場でも安定して着実な戦闘を行える艦隊として重宝されていた。
「第12艦隊旗艦「AAA-012
「ディスプレイに写せ。」
第12艦隊旗艦からの通信を受け取った通信士はアレヴィンの即答を聞き、直ぐに通信回線を艦橋上の巨大ディスプレイへ繋げる。
黒くなっていたディスプレイは少しばかりのノイズを経て動き出し、第12艦隊の司令官 ウェンダレブ・ボリソン大将の姿を写し出した。
『お久しぶりだな。アレヴィン中将。お変わりは無いか。』
「こちらもお変わりはございません。ボリソン大将こそわざわざこんな遠くまでご苦労でした。」
『貴方がたと同じ航路を辿っただけだ。それにアレヴィン中将はこの航路を使うのですぞ。』
「それもそうですな。ノルース防衛の任は任せたました。」
『凡庸な兵隊たる第12艦隊。全力を尽くす覚悟ですので、ご安心を。』
顔に沿って生えた短めの顎髭が特徴的なボリソン大将は、いつも通りの豪快な話し方でアレヴィンへ話しかける。第2、第3戦隊の役目を引き継いだボリソンは、ノルースの防衛を堂々と宣言して通信を切った。
「“凡庸なる兵隊”か───確かに目立った特徴は無いのが兵隊らしいな。」
第12艦隊旗艦を務めるアンドロメダ級戦艦「AAA-012 ヴァンガード」はパット見だと一般的な見た目をしているが、観察眼の良い者であれば艦底部にもAS-7 40.6cm三連装カノン砲を備えた個性を見分けられた。
空母型アンドロメダや3連装波動砲とは比べるのも烏滸がましい程に地味だが、逆にソレが個性に頼らない堅実な存在だと知らしめる。
「「EX-084」より“収容準備が予定より早く終わりそう”と連絡が入りました。」
「早まったか。なら、こちらも動く準備をしとけ。」
「EX-084」からの連絡を受け、アレヴィンは自らの艦隊に出発の準備を命じた。第2戦隊は地球人の生まれ故郷 地球へ、第3戦隊は第13艦隊の拠点である蒼き星へ向かうべく。
◇
「これが船の中だと───最早街じゃないか!!」
転移してきたノルースのありとあらゆる環境を調べる公的研究機関に加わった経験から日本国使節団に選出された自然学者の星野
荷物積み込みスペースに囲まれた居住区画はショッピングモールの様な階層が積み重なっており、それが2.8kmにもなる船体に沿って果てしなく伸びていた。
「まるで越谷レイクタウン位デカいぞ····」
「これはクルーズ船なんか比べ物にならないな······」
呆れ返った様に零した星野の言葉に、同じく日本国使節団に選ばれた航空力学や機械工学に精通した工学博士 井出
2人の周りには日本使節団の面々だけでなく、ロデニウス大陸諸国やアルタラス・フェンと言った第三文明圏周辺の文明圏外国の使節団もいたが、全員が船とは思えない内装と大きさに圧巻されていた。
「お二人とも見て下さいよ。この船の設備が見れますよ!
設備がこんなに充実していれば、地球への道のりが長くても飽きる事が無さそうなのは有り難いですね。」
「図書館は分かるが、サウナ付き大浴場に運動場にプールまであるなんて、まるで豪華客船だな。」
「確かに設備がこんなにあると飽きないし、身体も鈍らないのは良いな。デカい総合病院もあると書いてあるから、怪我や病気になっても安心出来る。」
防衛庁防衛装備庁旧技術研究本部に所属し、ノルース固有のワイバーンや魔導艦の研究を専門的にしている小野龍輝は、近くにあったデジタルパネルを操作して船内図を興味深く見ていた。
星野は設備が充実した移民船を豪華客船に例え、井出も長いかもしれない道中で身体や精神を痛めずに過ごせる事に安心した。
彼ら3人を含む暫くして第二文明圏と一緒だった朝田大使らと合流し、全員が顔を合わせたところで各々割り当てられた部屋へ向かった。
「客室部分はビジネスホテルみたいで安心します。」
「中は4人部屋らしいから、どっちかと言えばフェリーに似ているな。」
「我々自衛隊は集団で寝るのに慣れてますが、政府職員や研究者らは慣れるまで大変でしょう───Jの73号室ありました。」
陸上自衛隊代表として統合幕僚監部から使節団に送られた長瀬弘信 二等陸佐と、海上自衛大湊地方隊から合流した坂野藤十郎 一等海佐、航空自衛隊西部航空方面隊から派遣された樋口浩介二等空佐の3人は、自衛隊向けに割り当てられた部屋へ揃って向かう。
先頭を進む長瀬が割り当てられた部屋の番号を見つけると、割り当て時に渡されてカードを翳してロックを解除し、室内へ入っていく。
すぐ横にお手洗いと簡易的なシャワーが設けられた玄関の奥には、カーテンで区切られた2段ベットが壁の左右に配置されていた部屋が広がっており、実質的な通路になっている真ん中には外を眺める窓がはめ込まれていた。
「こういう形態か───まんまフェリーの客室だが、護衛艦より良い設備を備えていて羨ましい。」
「護衛艦のベットってこれより簡素なんですか? でも、陸自はもっと酷い環境で寝る場合もあるので、こんな良い部屋で寝れるのは有り難い。」
「お二人とも、就寝で苦労していらっしゃいますね。空自はそう言うのが無いもんでして······」
「こんな体験、無い方が良いですよ。」
長らく護衛艦に乗艦していた坂野はフェリーを思わせるベッド周りに羨望を抱き、レンジャー訓練時に野宿を経験した長瀬はシャワーすら付いている部屋の設備に感謝し、その様な経験が一切無い樋口は同じ自衛隊ながら、就寝環境の差が激し過ぎる事に若干引いていた。
3人はそれぞれ決めたスペースに持参した荷物を置き、ベッド周りや室内の設備を一通り確認する。見たこと無い形のコンセントや画面が空中に浮き出るタイプのテレビ、ベットを囲う薄い壁に消音機能が施されていたりと、200年の間に様変わりした技術に一通り驚いている中、ノルース各国の使節団を乗せ終えた「EX-084」は出発した。
いきなりグラッと来た事で船の出発を知った3人は、窓から外の景色を眺める。
彼らに割り当てられたJ-73号室はノルースを見渡せる位置にあり、青々と輝く海とその上で棚引く白雲、緑を基本に灰色やら黄土色が混じり合った陸地をこれでもかと見る事が出来た。
「これがノルース。写真では見ていたが、生で見ると迫力が違うな。」
「ガガーリンもこんなに美しい地球を見て感動したんでしょう。」
「暫くのお別れだ。お、地球防衛軍艦隊がやって来たぞ。」
ノルースの美しさに感動しつつも、暫くの別れを告げた3人の前に護衛を担当する第13艦隊第2戦隊の艦艇群が姿を現す。その艦艇群は第2戦隊の主力とも言える第1322打撃機動戦隊に属し、ドレットノート級やエンケラドゥス級の船体横に刻まれた船名が見える程に近づいていた。
「「DDD-200
「説明によると英単語だそうですが、それにしても“朱色”に“三日月”に“大聖堂”、共通点が無いですね。葉巻型の艦──エンケラドゥス級は衛星から取られているので、より分かりにくい。」
「端末を存分に使いこなしてる······」
海自として色んな船に載った坂野がドレットノート級の艦名に類似性が見出せず悩む横で、樋口は室内に据え付けられた液晶端末を操作してドレットノート級とエンケラドゥス級の説明を読み、長瀬は初対面の軽々と使いこなす樋口に唖然としていた。
『本艦はこれからワープ航行に入ります。使節団の皆様は気をつけて下さい。』
「ワープ航行──SF作品でよく見るアレか?」
「十中八九そうでしょう。いざ体感するとなると、怖いです。」
「“気をつけろ”と言うことは、強い衝撃でも来るんでしょうか?」
3人は聞き馴染みこそあれど、フィクションだけの存在だったワープに三者三様の推測を抱く。
間もなくして「EX-084」は加速を始め、徐々に速度を上げていく。8kmもの全長の船は一直線に加速を続けていき、速度がある地点に到達するとこれから通り抜けるであろう宇宙空間に裂け目が生じる。
ブラックホールの如き漆黒に染まった中央の穴は見る者に永久に抜け出せない深淵を思わせる恐怖を抱かせるが、その周りで鮮やかに光り輝く金色の線は人類が平等に惹かれる美しさを放っている。
恐怖と美しさを兼ね備えたワープホールへ「EX-084」は速度を緩めずに突入していく。ソレに触れた瞬間、金色の光が船体に沿うように広がり、巨大な船体は深淵の穴へ少しずつゆっくりと吸い込まれる。
8kmの巨大船は10分もの時間をかけてワープホールへ進入し、その全てが入り終えると裂け目は一筋の青白い光となって消え、元の宇宙空間へ戻る。「EX-084」を囲んでいた第2戦隊と第3戦隊の艦艇も、同じ様に進路上に現れたワープホールを通って消えていく。
裂け目の先に広がっていたのは、真っ暗ながら鮮やかなオーロラが棚引く摩訶不思議で現実味の感じない空間であった。
(これは!?·······)
(何だ───この感覚は!?)
(気味が悪い感触だ····)
長瀬と坂野・樋口の3人はワープへ突入すると同時に、既視感の無い感覚と感触に見舞われた。
床に触れているにも関わらず、無重力の様な浮遊感が全身へ伝わり、上下左右の感覚が消え失せる。暗闇の空間を彩るオーロラの光は窓を通じて船内にも入り、室内をステンドグラスの様に染め上げる。
現実的ではない感覚と光景は、まるで夢の中にいると勘違いさせる程だった。
暫くして、船の進路上に先程と同じワープホールが現れ、それを通る事で「EX-084」は宇宙空間へと舞い戻る。ワープホールを抜ける際に船体に張り付いた氷は、進む度に少しずつ剥がされていく。
「EX-084」の周りでは第2戦隊と第3戦隊の艦艇が次々とワープアウトしており、同じく船体に纏った氷がバラバラと砕け散っていく。
『ワープ終了しました。体調や気分が優れない人は各フロアの医療AIの元へお越しください。』
「も、戻ったのか·······」
「何とも言い難い感覚だったな······」
「えぇ───うっ····」
「やられたみたいだ。医療AIとやらに連れて行くぞ。」
「えぇ〜と、医療AIの場所は───あ、この小さい奴は持ち運べるのか。」
艦内放送で人生初のワープ体験を終えた3人は、床にへたり込んで味わった感覚を共有しようとしたが、その前に顔色の優れない長瀬をどうにかするのが先決だった。
見るからに病人の見た目になった長瀬を坂野が担ぎ、樋口は医療AIの場所を確認すべく液晶端末を弄る中で、持ち運べるタイプの存在へ気づく。
壁に張り付いていた画面を持ち運び可能なタブレット端末へ変えた樋口は、それで素早く医療AIの位置を確認して坂野を先導していく。
(初っ端からこのザマか········中々キツい旅になりそうだ)
長瀬は3人の中で唯一ワープで体調不良になった事実に、この旅が苦難の連続になるだろうと察した。最もこのワープによって、各国使節団の中から一人ずつ体調不良者が出ており、地球への長旅に幸先を思いやれたのは彼だけではなかった。
・ウェンダレブ・ボリソン大将
モデルは自由惑星同盟軍第12艦隊司令官のボロディン中将です。藤崎漫画版、DNT版どちらも登場シーンが少しでしたが、今作ではもう少し増やす見込みです。
・アースエクスプレスの船内
復活篇の船内描写は短かったですが、パット見でショッピングモールみたいな作りをしていたので、今作でもそうしました。
・日本使節団の面々
星野と井出の名前はどちらもレーシングドライバーが由来です。小野に関しても、苗字が似ている小河諒から取りました。
自衛隊の3人は本編でこの頃に出番の無い方々を選びました。余談ですが坂野は長年船に乗り慣れているから、樋口は戦闘機パイロットとして対G訓練を受けていた為にワープ酔いしませんでした。