今回は日本国の転移後から地球連邦の発足までを、ドキュメンタリー形式で解説します。
「EX-084」がノルースを旅立って一夜が開けた。使節団の面々の半分近くがワープ酔いに苦しめられたが、巨大なスペースと2215年の設備を備えた巨大浴場やフードコート・トレーニングルームに満足していた。
日本使節団の一行も設備に堪能しつつ、クワ・トイネやアルタラス、ミリシアルらノルースの各国使節団が日本で味わった感覚を体感する事になった。
未知なる体験をし、心地よい翌朝を迎えた全て使節団は朝食後に、巨大な船内の中でもかなりのスペースを持つ空間へ向かう様に言われた。
そこは“360°シアター”と命名され、文字通り上下左右全てを巨大な液晶ディスプレイで囲う事で、これまでの常識から思う浮かべるシアターよりも迫力のある映像を見せられる画期的な設備だった。しかし、今日は床面のディスプレイはカバーで隠され、その上に座席が置かれていた。
「シアターって事は何かを見せるんだろうな──にしても、このシアターは凄いな。」
「日本国で訪れた映画館に似ている。映画でも見せる気か?」
「ドキュメンタリー映画ならあるかもな。一同を集めて、コメディ映画なんか見せる訳ないだろうし。」
「2215年の映像はどんなモノを見せてくれるんでしょうか気になりますよ。」
国ごとに纏って用意された区画へ着席した使節団の面々は、国の仕切りを超えて呼び出された理由を考察しあう。ミリシアルやムー、グラ・バルカス、アニュンリール、そして日本国に存在する映画館を思わせる空間からか、一同の予測は自然に何かしらの映画を見せると言う考察へ至る。
全使節団が集まったのが確認されると、シアターを灯していた明かりは消えて、室内は真っ暗になる。
『皆様、お集まり頂き感謝致します。これから皆様には目的地である地球が歩んだ歴史や、宇宙に進出した我々が相対した星々について説明するドキュメンタリーを観て頂きます。
これは連邦が製作したもので、教育現場や正式な外交でも使われております。』
説明役を任された連邦軍士官が、これから見せるドキュメンタリーの説明を行う。地球の歴史を原始時代からなぞり、一度崩れた世界を立て直し、宇宙へ飛び出して新たな仲間を得た物語。
連邦公式として外交や教育にも使われるソレは、日本人以外だと地球を全く知らないノルース人に知ってもらう手段として最適だった。
説明を終えた連邦軍士官が去り、間もなくして正面のスクリーンに映像が映し出される。
『我々が住む星 地球。人類の母なる星がどの様な歴史を辿ったのかを皆様には知って頂く。』
青々と輝く地球を映してドキュメンタリーは始まった。
地球が誕生した瞬間から、生命の誕生、幾度もの大量絶滅、猿人から人類への進化過程を、機械音声が大まかながら説明していく。日本国との接触が早かった第三文明圏周辺の文明圏外諸国や、積極的に日本を知ったムーは輸入した日本製書籍で知っていたが、大半の面々は始めて知る事実ばかりで驚きの連続だった。当の日本国の面々は学校の授業で習う内容だからか、飽きた目線を向けていた。
人類が誕生してからは、火と石器を用いた石器時代、農耕の始まりと四大文明の誕生、宗教の成立、ローマ帝国の繁栄、十字軍の発足、モンゴル帝国の栄華、大航海時代、産業革命、2度の世界大戦、核の東西冷戦が簡略的ながらも重要な箇所を抑えて語られる。日本国と近しい国々も激動の歴史に釘付けになっていたが、その日本国は既知の内容な為か欠伸を零す者もいた。
『だが、2015年1月15日。突如として日本が消えた。
国が丸々一つ消えた事に全世界が驚愕した。しかし、その原因を調査する間もなく世界を異変が襲った。』
しかしながら、この一節が日本国が知らない歴史の始まりを告げた。飽きていた面々も転移後の地球がどの様な歴史を辿ったのか、興味を持った目線に変える。
『日本国の転移から数日後に地軸が大きく動いた。動いた衝撃で地球全土に地震が起こり、気候や温度が急激に変化した事で全世界に甚大な災害を齎した。砂漠に大雨が降り、乾燥地帯に雪が降り、急激な気温上昇で溶けた氷河は土石流を起こし、地震と津波によって呑まれた都市もあった。』
スクリーンには洪水で辺り一帯が冠水したギザのピラミッドや土石流に呑まれたレイキャビクの街並み、海に沈んだニューヨークを映した写真が映し出される。
日本人にとっては海外の象徴とも言えたピラミッドやニューヨークが、再興不能と思える程の被害を受けた光景は眠気を掻き消す程の衝撃だった。ノルースの各国も現実とは思えない程の被害を被った都市の数々に息を呑んだ。
『災害によって各国政府は大混乱に陥り、中には政府そのものが消滅した国すらもあった。政府の混乱は国民にも広がり、治安は悪化の一途を辿る。
生きる為に人々は争い続け、それは喧嘩から闘争・内戦へと発展し、次第に国家同士の戦争になり、最終的に世界中が戦乱に包まれた。』
写し出される映像は戦乱によって破壊され、業火に包まれて面影を失った都市に切り替わる。
エッフェル塔、コロッセオ、タージ・マハル、上海タワー、オペラハウス、ゴールデン・ゲート・ブリッジ、コルコバードのキリスト像と言った象徴的な存在が都市の名を辛うじて残していたが、街並みは面影が無い程に壊れていた。
『小さな国から瞬く間に全世界へ波及した戦乱を終わらせるべく、辛うじて保たれていた大国は核兵器の使用を決断した。しかし、これによって辛うじて保たれていた国家も消滅した事で、戦争は止める者がいない泥沼へ突入していった。』
映像に灰色の巨大なキノコ雲が映し出される。それは広島と長崎に落とされた核兵器が使われた証拠であり、二度と生み出してはいけない被爆国を生み出した事を示していた。
『戦いは絶海の孤島、気高い山岳地帯、未開の密林地帯、地球上のありとあらゆる場所で起こった。例え原始時代の生活を送っていた未開の部族ですら、証拠の無い言いがかりで戦いに巻き込まれた。戦いに巻き込まれなかった場所や人類など無い。
統率する大国が無くなった事で核兵器だけでなく、生物兵器も各地で使われた為に放射能と毒物で地球上の土壌が汚染された。連邦主体の除染作業は行われているが、未だに立ち入りが禁じられている土地も多い。
犠牲者の正確な数は未だに分かっていないが、戦乱だけでなく気候変動と生物兵器による飢餓、病気の蔓延も含めれば推定で40億人にのぼると言われている。これは当時の地球人口の半分にあたる。』
「40億···········」
誰かが思わず零した。犠牲者の数は各国が考えていた想定を軽々と越えた。
グラ・バルカス帝国は冬戦争や運命戦争を、ムーは転移直後の侵略や南北戦争と言った、総力を費やした戦争を繰り広げた経験を有していたが、国民の半分が犠牲となった経験など無かった。
ラヴァーナル魔法帝国相手であれば竜魔戦争やバラッカス戦争・魔王ノスグーラとの戦いを繰り広げ、中には種族の大半が死滅した戦いも存在した。しかしながら、同じ人間通しで星の人口が半分になる程の狂った戦乱を広げた事実は、人間の狂気さを知らしめていた。
『しかしながら、戦乱から逃れるべく、国家が存在してない為に戦火に巻き込まれてない南極大陸へ向かおうとした人々もいた。
気候変動による予測不能な自然災害、組織の統率を失って暴走する軍隊、無秩序にばら撒かれた機雷、証拠の無い同士討ちによって人々が乗った船は次々と沈み、多くの人間が亡くなった。
だが、「ノア・アーク2031」と名付けらえた船がこれらの困難を乗り越えて、南極大陸へ到達した。戦乱の無い地へ辿り着いた人々の前に現れたのは、氷床が溶けた事で露わになったアトランティス文明の遺跡だった。』
「──っ!」
アトランティスの単語はムーの人々に刻まれた過去を刺激する。1万2000年前の転移前まで世界を二分していた大国は、地軸のズレによって氷漬けとなって滅んでいた。
氷漬けになっていた都市の成れの果ては、自らもそうなっていたかもしれないと言う恐怖を与える。ムーも魔法文明の侵攻で大陸の半分を失ったが、それすらもまだマシと思えた。
『辿り着いた人々の調査によってアトランティス文明の存在と、21世紀の文明すら上回る技術力が判明した。彼らのリーダー格だったアーサー・ライエネンによって、アトランティスの技術を用いた地球の復興を行う事が決められた。
それから10年の月日を費やしてアトランティス文明の解析が行われ、“ブラックナイト衛星”と呼ばれていたアトランティス文明が打ち上げた通信衛星を用いて全世界にその計画が発表された。』
そこから映し出された写真や映像には遺跡の調査や演説を行うアーサーが写っており、壊すだけの戦乱を見続けた面々にもそこで行われている事が久々に見えた希望に繋がるのだと認識出来た。
『10年の間に兵士も物資も無くなった事で戦乱は終わり、誰も統率出来ない無法地帯に生き延びた人類も希望を失っていた。この通信は廃れきった未来を変える唯一にして最後の希望だと抱き、生き延びていた多くの人々は彼の元へ集った。
集結した人類の間でも数々の混乱があったが、日本の消滅から66年が経過した2071年に全ての国家は正式に解体され、地球連邦が発足した。』
スクリーンの写真は多種多様な人類が集い、1つの旗の元で手を合わせている様子を写した物へ切り替わる。国家を失って、
全世界で戦争を繰り広げる程に対立していた人類が再び1つに集った光景は、亜人によって地球以上に多種多様な人種が共存しているノルースの人々に“強大な相手の前に世界を纏めろ”とのメッセージを与えている様にも思えた。
『地球連邦は地球の復興を最優先で進め、都市の復興と汚染された土壌の除去が行われた。
加えて戦乱で破壊された自然保護区や世界遺産の再興も始まったが、戦争で情報と資料が失われた為に現状では全体の1割も完了していない。』
(だから、世界遺産の資料を求めてたのか)
アトランティス文明と残っていた人類の技術をベースにしたロボで行われる土壌の除染を見ながら、日本国の外交官は地球連邦が欲しがったモノの意図を汲み取った。
転移した日本国には壊された自然保護区や世界遺産の詳細なデータが残されており、それらの再興を行う為に不可欠と言える資料だった。これらだけでなく、地球上各国の文化に関する資料も集めていたとも聞いており、外見だけ元に戻せても根付いた文化は元に戻せないのだと認識させた。
『地球連邦は150年もの月日をかけて地球を復興していった。それは初代大統領となったアーサーの宣言であったが、彼は宇宙に飛び出す事も宣言していた。
復興の傍らで進められた宇宙進出の計画はアトランティス文明の力を得て急速的に進み、設立から58年目を迎えた2129年に地球の衛星 月への再上陸を果たした。160年ぶりに降り立ったその一歩は、地球連邦の躍進と新たな仲間を得る始まりだった。』
見慣れた様相のロケットによって月へ降り立った光景で、ドキュメンタリーは締められる。文明の崩壊寸前から、宇宙へ飛び出す程に再興する姿はドキュメンタリーながら映画の如き感動を与え、終わってから間もなくしてシアターを拍手が包む。
案内役によって次の章まで一時の休息が宣言され、使節団の一行は長きに渡るドキュメンタリーによって疲労した身体を解したり、乾いた口を直す為の飲み物と軽食を買いに行った。
・ノア・アーク2031
2031年にアメリカで建造された軍隊向け輸送船を改造した南極到達船。
船首に砕氷能力を与え、船内には各種物資の貯蔵庫や食料の自給設備が備えてられている。甲板には自衛用の火器や携帯式対空ミサイルを流用した対空ミサイルが装備されたが、無防備だと偽装すべくコンテナに囲われている。
南極大陸へ辿り着いた後もアーサーら人々の拠点として機能し、現在はアトランティス大陸で保存されている。