霊長ですから、それは仕方がない。
自分の気持ちさえ、儘ならない。
まあ、悩みましょう。若いんだから。
人を好きになるというのは、キラキラと眩いモノだと思っていた。楽しくて、美しくて、誰もが祝福するモノだと。
だからそんなのは、遠い世界の出来事。私には縁の無い、遥か彼方の出来事。そう思っていたし、実際そうだったのだ。恋愛が出来るほど余裕のある人生でなし、お母さんから受け継いだ夢を果たすのに精一杯。
なのに今、私は恋をしようとしている。出来もしないのに、無理な思いにかられている。
大喜くんを可愛いと思うようになったのは、名前さえ知らなかった時分。ただ朝練で挨拶する程度の関係だった、あの頃。バドは専門外だけど、その頑張る姿には好感が持てていた。そして私があの日の涙を思い出すきっかけをくれた、あの時。私はとにかく、「この子と離れたくない」と思った。
その気持ちの正体はよく分からなかったけれど、それから紆余曲折を経て一緒に過ごすようになり、段々見えてきた。これはきっと、好意なのだと。
でもそれは劇的なモノではなく、暖かく優しい感情。話に聞く恋心とは、まったく違う気がする。
そして、もう一つ。私のなかには、それとも違う気持ちが育っている。大喜くんという男の子と一緒にいることで、度々身体が疼くようになって来たのだ。お腹の下の方がじんわりと熱くなり、その熱が全身へと伝播していく感覚。だんだん胸がチクッとしたり、気が付けば下着が汚れていたり。これはたぶん、発情なんだろう。
好意と発情、どちらも恋ではない。その筈だ。私はそう考えている。好意は緩やかだし、発情は生臭い。どちらも華やかではない。
そうなると、どうしたものか。
私は今日も考えるけど、答えは出ないまま。
無理に恋をする必要もない、と言われてしまえばそれまでだ。でも私は、してみたい。遠くない未来、私は今まで自分の芯だったバスケを失うから。プロになれるほどの才覚があればともかく、私のバスケは高校でお仕舞い。その先も遊びでボールを持つ事はあるだろうけど、選手として活動することは無いだろう。
まだまだ長く続く私の人生に、何か柱が欲しい。しかしバスケ以外何も知らない私に出来ることなんて、そうそう思い付かない。世界はなんとなくフワフワしていて、どうにでもなるモノだと信じてたのに。
そんな風に将来を少しずつ悩み出した頃、同じバスケ部で彼氏持ちの子が目に入ったのだ。幸せそうで、輝いていて、とてもとても羨ましくなったのを覚えている。ああなりたいな、と思ってしまった。
そうなると相手が必要なわけだけど、何事もガサツで雑把な私にそんなのがいるわけもない、
そうやって無い頭を絞った結果出てきたのが、大喜くんだったのだ。
問題は大喜くんの気持ちなのだけれど、それがまた難しい。
なにしろ相手は男の子、まったく違う生き物だ。どう扱えば良いものやら、見当もつかない。もし大喜くんが私を好きだったら、話は簡単だろうな。向こうから来てくれるだろうし。
どういう風に構えば良いのか分からないから、適当に弄ってはみたけれど、どうにも上手くいかない。もうちょっと器用だったらどうにか出来るけど、大喜くんが可愛くてそれどころではなくなってしまう。手先が器用になると生きる方が不器用になっていけない、とは言うけど私はどっちも不器用なんだし。
それどころか手をこまねいている内に大喜くん、どうも同級生の蝶野さんと付き合いだしたような気配がしている。こうなっては他所を探すしか無い気もするけど、そうも行きそうにないから困る。今の私はもう、大喜くん以外の男子では気持ちが動かない。下手をすると、蝶野さんを押し退けてしまいかねない。
付き合っているのが私の勘違いなら良いんだけど、どうだろうな。
すぐ隣の部屋で健やかに眠ってるであろう大喜くんを思い浮かべながら、私はベッドに踞る。大喜くんの気持ちは知りたいけど、手荒な真似はしたくない。……いやまあ、やれば一発だし絶対に負けないけど。
もしかしたらこのモヤモヤも、恋のうちなんだろうか。いつか振り返った時、輝いて見えたりするのかな。
考えてみれば別に急ぐこともない、同居が終わったって人生は続くんだから。
まずは明日、名前だけで呼んでみようかな。親しい感じがして、なんだか良い感じだ。大喜くんが嫌がらないといいけど、ね。
こうやって少しずつやっていけば、いつか恋も出来る日が来る。思えばあのお母さんにも出来たことなんだから、多分きっと大丈夫。
今日はもう終わるし、明日に期待しよう。きっと明日は、何かが起こる。そう信じて一日一日過ごしていこう。
お休みなさい、を口のなかだけで呟いて。私は考えるのを止めて眠りにつく。いつか恋をする、その日を夢見る為に。