彼女は稲葉諒から餞として贈られた蝶の
密かにこう想って……。
(旦那様。私はあなたに似ているあの方を、旦那様と思って抱かれます。旦那様は知っているのでしょう? あの方を。だからわざとぼやかしたのですよね…?)
紅い襦袢姿になった紅碧は奥の座敷の布団の上で胸が高鳴るのを自覚していた。
部屋の外では零無が賢治に対して二、三個確認をして紅碧が待つ奥の座敷へと消えていった。
彼も浴衣姿になって、紅碧という遊女の水揚げを始める。
「お待たせ……。綺麗な簪だね。その蝶の簪」
「旦那様がわっちへの餞として贈っておくんなんした」
「似合っているよ。旦那様はいい感覚をしているね」
「零無さんは旦那様に似ています……あっ」
「
零無は優しく諭すとそのままゆっくりと紅碧を布団へ横たわせる。
覆いかぶさる零無。
月夜のみが照らす夜の桜の座敷は静かな時間が流れた。
そのまま空いた手で襦袢を広げふくらみを触り始める。
人差し指と親指で小さな乳首を摘む。
紅碧の身体が少し跳ねた。
零無の唇は首筋を這うように舐めて、蕩けるような声で感想を聞く。
「どんな気分だい? あの人に似ている男がこうしている気分は?」
「胸がすごくドキドキして……零無さんの唇が気持ちいいんです……っ」
「脱がしたらどうだい? 俺の浴衣」
紅碧が零無の浴衣を外した。
素肌を晒した彼は接吻したいのを我慢して、唇をふくらみへいかせて緩急をつけながら刺激を与える。
紅碧が喘いだ。
彼の両方の腕が彼女の細い腰に回り、次第に激しさを増していく。
まるで雨のように紅碧の身体に唇を這わす零無。
紅碧は艶めかしく動く目の前の男性の声が段々と甘く聞こえてくるのを感じる。
「君の身体の味がする……とても芳しい匂いもいい……もっと、もっと喘いでみせてくれ……紅碧」
「アッ……アッ……零無さん……気持ちいい」
「そうだね……ここは俺を待って熱く濡れている。初めての男性を受け入れようと必死になって……」
熱く濡れるそこを零無の舌が襲いかかる。
紅葉の時とは比較にならない程の激しさでそこを愛した。
「アアン。そこは……!」
「知っているようだね……禁じ手は?」
「でも、初めてなんです……っ。こんな感覚……」
「せっかくだ。知っておくといい」
「何も知らないよりは経験しておいた方が何かといい……」
妖しく輝く銀髪が紅碧の下半身で蠢くように動いている。
月夜に照らされた部屋は段々と熱を帯びてきた。
零無の口は巧みに動いてそこを徹底的に味わう。
紅碧の声が掠れた声で喘いで興奮していく。
「感じてはいけないのに……感じちゃう! 気持ちいいのを感じちゃいけなのに……!」
「無理なことだよ。本来ならこれは俗世では女性は大好きなものなんだ」
「特に愛する男にされるこれは、ね」
紅碧を抱きながら零無は記憶の底の女性にこの行為をしていた事を想い出す。
こんな甘い夜が確かに存在していた。
女性と身体を重ねる度に感覚が甦るのを感じる。
そうだ……こうして俺はその人と確かめあった。自分の気持ちを。
今はここで性を教授する立場だが。
紅碧が昇りつめていく。
さすがに気を遣らせるのはまずいな。
零無は唇を離す。
ねっとりと紅碧の愛が纏わりつく。
充分に奮起してしまった自分に零無は紅碧に休む時間を与えた。
「すまない……つい興奮してしまった……少し休んで」
「休ませないで……続けて……零無さん」
「無理することはないよ…?」
「零無さんが私に興奮してくれている。だからそのまま続けてください。最後まで」
零無は苦笑しつつ、嬉しそうに声をかける。
「君が気を遣ってもしらないよ?」
紅碧が少し怯えると零無が抱きしめて体温を感じさせて安心感を与えた。
「怖いかい?」
「少し怖い……」
「なるべく痛くしないように入れるね……」
「怖いと感じたら俺の唇を吸いなさい……」
「ここまできて禁じ手だなんだって細かい事は言ってられないでしょ?」
「いくよ」
紅碧と零無が結ばれた。
少しずつ彼女を蕾から花へ咲かせる。
紅碧が思わず零無の唇を自分の唇で包み込む。
零無も舌を絡ましながら彼女の中へ入る。
そしてゆっくりと回すように腰を動かす。
紅碧が唇を離して喘いだ。
「アウッ…! す、すごい……」
紅碧の腕はもう零無の身体へ絡みつききつく、きつく抱きしめている。
零無は瞳を閉じてゆっくりと彼女を味わう。
唇は気持ちよさそうに歪み、笑みを浮かべる。
お互いに甘い吐息を絡ませながら、その行為に溺れる。
紅碧の襦袢が外れた。
彼女は喘ぎながら零無の顔を見る。
月夜に照らされた彼は艶やかに喘ぎながら腰を自由自在に操る。
その顔は、あの座敷ではけして見せない、男性の歓びに満ちた顔だった。
汗が滲む。
零無は蕩けた声で紅碧に言った。
「紅碧……! もう、もう…! いく! うあッ…!」
軽く痙攣した花びらの中の彼は、そのまま彼女の中で果てた。
脱力する零無。
覆いかぶさるように紅碧に身体を預け、そして瞼を閉じて、その左手を紅碧の右手に重ねて、軽く微睡む。
「零無さん。初めての人がこんなに情熱的に求めてくれて私、嬉しいです……」
紅碧は脱力してそのまま微睡む零無を布団に横たわらせ、姉花魁に教えられた後の処理を静かにして、手水に立った。
そうして紅碧の初夜は更けていく……。