狂ジャックを召喚した時みたいにふわっとした理由でカルデアに召喚された、ジャックさんとフラット君のお話。

2019年くらいに書いた話です。
fake最新刊を読んで思い出したので再投稿します。
内容は当時のままなので、設定の矛盾はスルーでお願いします。

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カルデアにバーサーカーのジャックが来る話

 その日、カルデアには登録されていなかった新たな霊基のサーヴァントが召喚された。

 クラスはバーサーカー。けれど、そのサーヴァントは狂人と言うにはあまりに理性的で、戦士というには明らかに肉弾戦に向かないであろう体つきをしていた。

 

「……で、その話を何故私に持ってきた?」

 

「いやそれが、どうもエルメロイ先生に連なるサーヴァントらしくて……

 先生の意見をお伺いしたいなー、と思いまして」

 

「II世をつけてくれ、マスター。

 言っておくが、バーサーカーの心当たりなんて私には──」

 

 ない、と言い切ろうとした所で、先生の唇が固まる。

 唇だけではない。私に遅れてやってきたバーサーカーを見て、先生はその瞬間だけ生きていくために必要な全ての機能を放棄した。

 

 要するに、気絶したのである。

 

「師匠? ……師匠!?」

 

 内弟子あって先生の気絶癖(?)に慣れているグレイも、この時だけは動揺を隠しきれなかったらしい。

 そして先生が気絶した原因のサーヴァントを一歩遅れて眼にし、普段はポーカーフェイスなグレイもその時ばかりは動揺を隠せないまま黙り込んでしまった。

 

「お久しぶりです教授! ……あれ、教授? 

 いくら仕事が立て込んでるとはいえ、こんな時間にこんな場所で寝てると風邪ひきますよ?」

 

「……何処をどう捉えようとも、私には彼が気絶している以外には見えないのだが? 

 それとも君の眼にはそれ以外に“視えている”とでも言うつもりか?」

 

「あ、やっぱり気絶してるように見えます? 

 いやー、あまりに綺麗に倒れ込むものだから、ドッキリか何かかと思いました!」

 

「彼がそんな無駄しかないことを実行する人物には見えないがね? 

 いや、君の思考が読めないのは今に始まったことではないが」

 

「あ、あの! フラットさん……!? 

 どういうことですか……?」

 

 バーサーカーのサーヴァントはどうやら二人で一つの霊基を共有しているようで、その様子を簡単に表すならば『青年が身につけた腕時計と会話している』というものだった。……比喩ではなく、そのままの意味で。

 とにかく漫才のような二人のやり取りは、耐えきれなくなったグレイが彼らに質問を投げかけたことで打ち切られた。

 いつのまにか意識を取り戻していた先生も、未だ働かない頭を無理に働かせているかのような仕草でゆっくり口を動かしたのだ。

 

「……ファック……」

 

 時計塔のお偉いさんが口にしそうにないスラングを口にしつつ頭を抱える先生を見ながら、フラットと呼ばれた青年は相変わらずのテンションの高さで答えた。

 

「俺も予想外というか、まさかジャックさんと一緒にサーヴァントになるとは思わなかったというか……

 確かに俺、聖杯戦争の時にジャックさんの霊基とごちゃ混ぜになったことはありましたけど……

 魔力の流れとか色々弄ってたら、なんか繋がっちゃって」

 

「それは『なんか』という一言で片付く話ではないぞ、マスター。

 いや、今のマスターは君ではなくカルデアの少女なのだから、君をマスターと呼ぶのは不適切だったな」

 

「……待て。聖杯戦争? 

 フラット、君は一体何の話を……」

 

「あ、もしかして俺と教授やグレイちゃんが召喚される前の時系列って、もしかしてズレてます? 

 もしかしたらズレてるのは世界の方かもしれないけど」

 

「毎度のことだが、そうやって過程を全てすっ飛ばして結論だけを語られても分からん! 

 君の言い分だと、君は私の元の時代よりも先の時代で聖杯戦争に参加している……と聞こえるのだが?」

 

「それで正解だと思います! 流石教授! さす教ですね! 

 それにしてもカルデアって凄いですよね! 

 この空間に色んな英霊が闊歩しているなら、英霊とも友達になりたい放題じゃないですか! 

 俺、ナポレオンと初めて会いました!」

 

「…………」

 

 再び言葉を失うロード・エルメロイII世。だが、その目は明らかに笑っていない。

 そして一呼吸置いてから、その規格外すぎる青年に対してのストレスが爆発した。

 

「馬鹿! この大馬鹿! 

 聖杯戦争が未来で再び勃発する可能性があるのは気になるが、それより何故君がその聖杯戦争に参加している!? 

 いや、そもそもその世界の私は何をしている! 

 君が聖杯戦争に参加するのを、君の教授が許可したとでも言うのかね!?」

 

「それが俺の早とちりというか、勘違いで……

 流石に悪かったかなー、って反省してます。

 あ、でも教授がくれたレプリカのナイフで俺、ジャックさんを召喚できたんですよ! 

 教授のお陰です! その節はありがとうございました!」

 

「本気で申し訳ないと思うなら、少しは態度に示したまえ! 

 今の君の態度からは、反省の色が全く読み取れないのだが!」

 

「し、師匠! 落ち着いてください!」

 

 どんどんヒートアップしていくエルメロイ先生を止めるために、グレイが割って入る。

 とはいえ自分の師を宥める弟子の行為は、意外と慣れたものに見える。

 冷静さを欠いた先生というのはなかなかレアだと思うのだが、もしかして彼らの元の世界では意外と日常的なものだったのだろうか。

 エルメロイ教室では事あるごとにそんなやり取りが……? 

 

「そういえば藤丸さんも時計塔所属でしたよね? 

 世界を救ったマスター……なんて、超かっこいいじゃないですか! 

 いいなぁ、それまで一般人だった人が最終的に世界を救うなんて、ドラマチックで憧れちゃいますよ!」

 

「えっ!? 

 あ、ありがとう……?」

 

 突然話をこちらに振られて思わず驚いてしまうが、それでもお礼を返すことはできた。

 正直、お礼を言う場面だったのかは分からないけど。

 

「同じ時計塔の魔術師としても、羨ましい案件ですよ! 

 まあ時計塔所属とは言っても時計塔のやり方は効率が悪いと思うし、政治とかも正直よく分からないんですけどね」

 

「うん……うん?」

 

 効率が悪いという言葉に一瞬違和感を覚えたが、大した意味はないのだろうと思い直す。

 ただその違和感を突き詰めてしまえば、何か世界との決定的なズレが露わになる……何故だかそんな気がした。

 

 私とフラットが会話している間に、エルメロイ先生は再び意識を手放してしまっていたらしい。

 魘されたような声を出しながらも、彼の手だけはしっかり胃のあたりに置かれていた。

 今でこそ擬似サーヴァントとはいえ、彼がカルデアに来る前は彼は確かに生身の人間だった筈だ。

 ……元の世界でのこの人の健康状態が心配になるな。

 

「マスター、いや、元マスター。

 世界が変わろうとも私は変わらず君に従うつもりだが、その前に一つだけ聞いておきたい。

 君の視る世界は、今も……サーヴァントとして現界した今でも変わらないのだね?」

 

「はい。……でも、大丈夫です。

 俺は魔術師である前に、エルメロイ教室のフラット・エスカルドスなんですから」

 

「そうか、それを聞いて安心したよ。

 たとえ世界の常識が変わろうと、君は変わらないらしい」

 

 ジャックさんからフラットへの問いかけもまた妙なものではあったが、敢えてその意味は問わなかった。

 そのやり取りは彼らの中で完結しているように見えて、同時に彼らが抱えているらしい問題もまた、彼らなりに答えを導き出した後であるかのように見えたからだ。

 だから、問わない。

 きっとそれは、彼らだけが共有するべき事柄だ。

 

「教授が居る限り……例え教授と離れたとしても、俺は俺ですよ。

 どの世界でも俺が教授と出会えているなら、それだけはきっと変わりません」

 

 それは『教授がこの世界に居る限り、自分と教授はかならず出会う』と言わんばかりの言葉だった。

 そしてそれは同時に『もし教授がロードとなっていなくて、教授と自分が出会えていない世界があるならば、その世界の自分がどうなっているかは分からない』と言うに等しい言葉ではあったけれど。

 その青年が瞳に映す世界の姿は、少なくとも私には暗いものには見えなかった。


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