期末試験当日
一花(余計な事は考えちゃ駄目。今は赤点回避する事だけに集中しよう。)
そう、一花は心の中で葛藤しながら呟いた。
それには、一月上旬まで時を遡る。
三玖「って事で全部食べて感想教えて。」
純「い、いや・・・マジ今日は勘弁してくれよ。チョコ好きだけど・・・」
そんな困惑した姿の純を
一花「・・・。」
一花は直視できないでいた。
一花(うーん・・・困ったなぁ・・・あれからジュン君の事、まともに直視できないぞ。)
あれとは、以前旭高校野球部のグラウンドで行われた映画撮影での出来事の事だ。
あれ以来、一花は純の事をまともに見れなかった。
そんな中、一花は三玖の気持ちを察し、料理上手の知り合いの人に三玖のチョコ作りを任せようとした。
その日、一花は外廊下に面した居間の窓のカーテンからこっそり覗いていた。
一花(三玖、ファイト!お菓子作りなら、二乃は何とかしてくれる。これで三玖は無事、バレンタインチョコを渡せるね。)
すると、面格子を握って膝立ちしたまま、窓から頭を下げると
一花「ふふ・・・いくらクールなジュン君でもびっくりするだろうなぁ・・・」
そう自虐の笑みを浮かべて呟くと、今度は憂鬱な溜息が出た。
一花「はぁ・・・何で好きになっちゃったんだろ・・・」
そう呟いた。
その時
純「何やってんだ、お前?」
風太郎「大丈夫か?」
純と風太郎が現れ、声をかけられた。
これに
一花「ジュン君にフータロー君!?」
一花は動揺し、体を捻って立ち上がったがその拍子に
ガツン
手の甲が面格子にぶつかってしまった。
これには、一花はうずくまって手の甲を痛そうに押さえていた。
それを見た
純「マジ何やってんだよ・・・」
純は近付いてきた。
一花(やば・・・)
これにヤバいと感じた一花は
一花「な、何で?」
三玖の頑張りを無駄にしないよう、立ち上がって尋ねた。
風太郎「四葉が参考書忘れたって言うから、俺が取りに来たんだ。」
純「俺はこいつの付き添い。」
これに
一花「あ・・・あー!それ、この前捨てちゃったかも・・・」
一花は苦しい言い訳を思い付き、そう純達に言った。
純「え!?」
風太郎「はぁ!?」
これに、純と風太郎は驚きの声を上げたが
一花「今から買いに行くからついてきて!」
一花に背中をぐいぐい押され、本屋に向かったのだった。
そして、本屋に到着すると
風太郎「お、あったぞ。これだ。」
風太郎は参考書の他に目当ての本を棚から出した。
その本のタイトルを見た純は
純「お前、良い先生になりてーんだな・・・」
風太郎「うっせ!」
からかうように言った。
一花(トホホ・・・何でこうなっちゃうの・・・)
財布を確認した一花は、そう思いながら泣き笑いの顔を浮かべた。
すると
一花「ん?」
一花はスポーツコーナーに偶々目を向けると
一花「あ・・・」
高校野球の雑誌があり、その表紙には雄叫びを上げている純が写っていた。
一花(ホント・・・どんな姿も格好良いな・・・)
それを見た一花は、少し頬を染めながら見ていた。
その時
純「おい一花。見た感じ、結構良い値段だぞ。大丈夫か・・・?」
純がそう急接近して聞いた。
これに
一花「え、えっと・・・心配しないで。じゃあ、買ってくるね。」
ドキマギしつつ、参考書を取ってレジに向かおうとした。
純「っと、おい風。それも買ってあげなよ。」
風太郎「い、いや・・・別に良い!」
一花「え?他にもまだあるの?」
このやり取りに、一花はそう尋ねると
純「ああ・・・こいつもこれ買いてーみてーなんだよ。」
風太郎「お、おい!」
純は風太郎の手から本を取って、一花に見せた。
一花「へー・・・良い先生になりたいんだ?」
風太郎「う、うっせ!」
すると一花も、純同様からかうようにニヤニヤしながら言い
一花「良いよ。どうせだし、参考書と一緒に買ってあげるよ。」
買ってあげると言った。
風太郎「自分で買えるって。」
風太郎は照れながら断ると
一花「遠慮しないで。もしかしたら、今度こそ落第になっちゃうかもしれないからね。」
と一花は苦笑いを浮かべながら言った。
これに
純「今度こそ?」
風太郎「どういう意味だ?」
純と風太郎は『今度こそ』という言葉に反応した。
一花「あれっ!?言ってなかったっけ?私達、前の学校で・・・」
これに、一花は前の学校の話をしたのだった。
そして、話を終え、会計を済ませようと向かった一花。
風太郎「じゃあ、これ宜しく。」
ついでに風太郎が手にしていた本も一緒に。
一花「ジュン君は特にないの?」
純「ああ。俺は良い。」
一花「そっか・・・じゃあ、支払いしてくるから待っててね。」
純「ああ。」
すると
純「一花。」
一花「?」
純が一花に声をかけ
純「お前は姉妹で一番器用で呑み込みもはえー。仕事との両立を保てているのが何よりの証拠だ。」
純「お前ならきっと合格出来る。頑張れよ。」
そう励ましの言葉をかけた。
これに
一花「・・・うん。やるだけやってみるよ。」
一花は少しはにかみながら返したのだった。
そして、会計を終えて書店を出ると
一花「うう・・・本当に高い・・・貯金もギリギリなのに、お姉さんぶって見栄張ってしまった・・・」
涙目になっていた。
しかし、すぐに顔を緩め
一花(でも・・・ジュン君も笑顔を浮かべてくれたから・・・)
そう思っていたのだが
一花(って駄目駄目!仮に私とジュン君が付き合って・・・ジュン君がプロ野球クビになって、私が貢ぐという形になったら、ジュン君ダメ男になっちゃう!)
何を想像したのか、すぐにマズイという顔になり
一花(だから諦めよう。うん、それが正解。)
そう言い聞かせ、先に店を出て待っている純と風太郎の方へ歩いて行く。
純「お、買ってきたか。」
風太郎「大丈夫なのか?」
そう、手に持ってるボールを弾くように弄りながら純が、単語帳を持ってみていた風太郎が言った。
一花「うん。買う物買ったし、行こっか。」
そう、ビニール袋を手渡すと
純「ん?その手・・・」
純は、一花の手の甲が赤く腫れている事に気付いた。
風太郎「ホントだ。お前、どうしたんだ?」
風太郎も気付き、そう尋ねると
一花「あ、さっきアパートでね。そんなに痛くないから心配しなくても・・・」
そう一花が笑顔で返した。
すると
純「・・・ちょっと待ってて。」
純がそう言うと、本屋の隣にあるドラッグストアに向かった。
そして数分が経つと
純「悪い、待たせたな。」
純が戻ってきて
純「一花、手ぇ出して。」
そう、一花に優しく言った。
一花「え?うん・・・」
これに、一花は疑問の表情を浮かべながら手を差し出すと
そっ
一花「っ!」
一花の手を優しく取った。
これに一花はドキッとしたが
純「ちょっと待ってろよ・・・」
純は湿布を取り出して、手の甲に貼った。
貼り終えると
純「これで良し。お前、やっぱドジだな。」
純は端整な顔にニッと笑みを浮かべ、そう言った。
これに、一花はドキッとし、頬を赤く染めた。
風太郎「お前、突然一言言ってどっか行くから驚いたぞ。」
純「悪い悪い。でも、女優っつーのは見られる仕事だからさ、もし腫れた状態で見られたら何か色々言われそうだなとおもってな。それに、何か痛々しくて可哀想だったし・・・」
そう、純は風太郎に言って
純「気を付けなよ、一花。」
一花にも優しく言った。
一花「・・・うん・・・」
これに、一花は顔を俯かせ一緒に肩を並べて歩いた。
一花(きっと・・・こういうトコなんだろうなぁ・・・)
クールでイケメンだけど、時折さりげなく見せる笑顔と優しいところに、一花は常にドキドキしていた。
一花(これ以上好きになっちゃいけないのに・・・)
そう思いながら、一花は一緒に帰ったのだった。
そして、月日が経ち、二月十四日の夕方。
一花は階段の上にいる三玖と話した。
三玖「この期末試験で赤点回避する。しかも、五人の中で一番の成績で・・・。そうやって、自信を持って・・・ジュンに好きって伝えるんだ。」
この決意の言葉に圧倒された一花は、言葉を探しながら無理に笑顔を作り
一花「い・・・良いんじゃないかな。それが三玖なりのけじめの付け方なら。」
一花「三玖なら出来るよ。」
そう三玖に言った。
すると
三玖「私は一花を待ってあげない。全員公平に・・・早い者勝ちだから。」
三玖はそう一花に言い
一花「・・・うん。だけど、私も手を抜いてられる余裕なんてないから。頑張ってね。」
一花もそう返し、手すりをギュッと握りしめたのだった。
その日の深夜、一花は一人、こたつで勉強をしていた。
一花(三玖がどんどん変わっていく・・・頑張って・・・なんて、何様なんだろ自分。)
そう、複雑な気分でいた。
すると、次第に眠気が襲ってきて
一花(もうダメ・・・今日は寝て明日・・・)
そう思ったのだが
パンッ!
両手で頬を叩いて気合を入れ直し
一花「もう少し!」
一花(もう・・・少しだけ・・・)
勉強を再開したのだった。
そして、試験当日を迎え、全てが終了し、結果が返ってきた。
五月「四葉、やりましたね!」
三玖「おめでとう。」
風太郎がバイトで通っているケーキ屋の待合スペースで、五月と三玖が笑顔で四葉を抱き締めた。
四葉「えへへっ。私史上、一番の得点です。合計184点とギリギリでしたけど・・・」
五月「私は合計224点。少し危ない科目もあったのが今後の課題です。」
そう、自分の成績表を取り出した五月は、少し残念そうな表情を浮かべた。
しかし、224点と無事赤点回避を達成した。
五月「三玖はどうでした?」
五月はそう尋ねると
三玖「私は・・・238点。」
三玖は事もなげに点数を口にしたが、三玖も過去最高得点だ。
これに
四葉「えー!凄い!」
五月「流石三玖ですね。」
二人は三玖を称えた。
すると
四葉「あっ、一花も来たよ。」
入口のドアベルが鳴り、一花が入ってきた。
純「三玖。お前スゲぇじゃん!」
風太郎「お前が一番の成長株だな。」
純「そうだな。三玖、良く頑張ったな・・・」
そう、純はベンチから立ち上がって、そう三玖を褒めた。
これには、三玖は胸がキュンとなり
三玖「ジュン・・・私・・・」
拳を握りしめて思いを言おうとしたその時
四葉「一花は合計何点だったの?」
四葉が一花の合計得点を尋ねていた。
すると
一花「えーとね、240点。」
一花がそう言った。
その瞬間
三玖「!」
三玖の表情が強張った。
純も驚きの表情を浮かべ、風太郎も同様だった。
四葉「って事は・・・」
五月「一花が一番じゃないですか!」
四葉と五月の言葉に
一花「あ、そうなんだ・・・やった。」
一花は挑発的な笑みを浮かべたのであった。
中野一花、合格。
大変良く出来ました。
投稿出来ました。
最後のあの挑発的な笑みの一花・・・ちょっと手段を選ばない雰囲気の片鱗でしたね・・・。
春場ねぎさんも上手いですね・・・。
それでは、また。