第七魔法の使い手になりました   作:MISS MILK

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第七魔法

 メイソン家。

 

 俺の御家はイギリスでルネサンス期に発展し、地位を築いた。

 

 今でこそ輝かしい貴族派閥系魔術師の家系だが、中世十三世紀前後、当時のメイソン家は王家に仕える魔術師であった。

 

 王家に仕えていただけあって、俺の祖父の代はSirの称号も女王から賜ったという。

 父や俺は残念ながら魔術の方へ傾倒していた為、その兆しもなかったが。

 

 メイソン家は植物魔術が得意とされているが、それも現代……中世から近世へ移った十五世紀後半からだ。

 

 どういうことか、分かるだろうか? 

 メイソン家は魔術師として至高であるはずの御家の魔術を手放したのだ。

 

 重大かつ、重要なことであるが、このことは魔術師界隈では僅かたりとも広まってはいない。

 それはメイソン家があらゆる力を使って誤魔化したが故に。

 

 

 何故か? 

 

 

 それはメイソン家のルーツを辿るところから始まる。

 

 メイソン家はかつて王家に仕えていた、と言ったのは既に話しただろう。

 俺のご先祖様はアーサー王伝説のマーリン如く、王家に付き、()()()()()()()()()()()()()()

 

 当時は星詠みの時代から脱却し、永遠の命を想像する時代だ。

 錬金術(しか)り、賢者の石(しか)り、エリクサー(しか)り。当時の王朝はどこもこぞって永遠を求めた。

 

 だがメイソン家の仕えた王家は違った。逆に余命を知り、逆算的に王政を成功させようとしたのだ。

 

 手法としては簡単。

 中世では各地で戦争が相次ぎ、死という概念が絶えなかった。そこに目を付けたメイソン家は()()()()()()()

 

 

 魔術一回の行使に、述べ五万もの人の魂と死体を要した大規模儀式魔術。

 

 

 それが真のメイソン家の魔術だ。

 中世でこそ成し得た手法で、メイソン家は一代ごとに神霊のサーヴァント……の下位存在の更に下位の分霊を呼び出し、王族の余命を宣告した。

 

 呼び出した最下級分霊の名は──―『死神(デス)』。

 襤褸(ぼろ)の外套を纏った骸骨のサーヴァントであり、人の余命を宣告し、生終わったその時に魂魄の回収に訪れる神霊だ。

 

 

 本題はここから。

 

 

死神(デス)』は分霊だが、分霊ならば本体がいるということであり、メイソン家はそれを歴代信仰する家系だ。

 

 口にするのも烏滸(おこ)がましく、畏れ多い、其の存在の名は──────。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────―ギリシャ神話の最高神『時の大神(クロノス)』である。

 

 

 

 

 

 

 

 クロノス。

 それは巨神族の長であり、全宇宙をウラノスの次に統べた神々の王。

 

 数多の混沌(ケイオス)を祖とするクロノス神を呼び起こし、力を賜るのがメイソン家の秘術。

 

 

 ────しかし、いつからだろうか? 

 

 

 秘術が随分とコスパの悪い魔術だと気付いてしまったのは。

 

 俺の父、前メイソン家当主は大規模儀式魔術に不便を覚えていた、とか。

 そこで父は俺を、()()()()()()()()()()()にしたそうな。

 

 手順はとても簡素であり、古代から受け継ぐクロノス神を召喚するための触媒『アダマスの大鎌』を俺に埋め込んだ。

 

 シンプル。だが簡素故に難しい。

 だから父は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 大量の神秘を含んだ聖遺物を俺ごと魔術によって錬成することによって、疑似的なホムンクルス型神格保有人間種…………──────現人神(まざりもの)の完成という訳だ。

 

 適当に言えば、デミ・サーヴァントの最上位互換とでも言えばしっくりくる。

 

 俺がそのことを父から知った時、二つの感情を覚えた。

 

 

 一つは、非日常への非人道的恐怖。

 二つは、根源到達への喜びだ。

 

 

(俺も人間ではなかったということかね?)

 

 

 俺は、移植された魔術刻印が解放されるのを感じた。

 

 今から行使する魔術は、正に魔術の最奥と言うべき秘術だ。

 

 

 ────―原初、六人の魔女が居た。

 

 

 一人の魔女は、『無を否定した』。かくて彼女は世界を創造した。

 ──―それは後に第一魔法と呼ばれる。

 

 一人の魔女は、『多くを認めた』。結果として並行世界への渡航を可能とした。

 ──―それは後に第二魔法と呼ばれる。

 

 一人の魔女は、『未来を示した』。そして魂を物質化させ、聖杯を創った。

 ──―それは後に第三魔法と呼ばれる。

 

 一人の魔女は、『姿を隠した』。隠したが故に、総ての痕跡は消滅した。

 ──―それは後に第四魔法と呼ばれる。

 

 一人の魔女は、『意義を失っていた』。失ったが、意味を成さぬ全能となった。

 ──―それは後に第五魔法と呼ばれる。

 

 一人の魔女は、『終わらせた』。原初がある、ならば終焉があった。

 ──―それは後に第六魔法となった。

 

 

 

 

 じゃあ、第七(おれ)は? 

 

 

 

「──────“Tick-tock,Tick-tock. Hear the tone(チクタク、チクタク。音がする)”──────」

 

 

 

 謳うように読み上げる。

 

 第六魔法が終焉を告げるなら、第七(おれ)はそれを定着させ『無の証明をする者』だ。

 

 終末のラッパが吹き鳴らされ、俺は終わりを綴る者。

 

 

 

「──────―“The hands of the clock stopped.(時計の針は止まったようだ)”──────」

 

 

 

 繰り返すこと、つど五つ。

 

 警棒の円管がそれぞれ、ゆっくりと回転を始めた。

 

 

 

「──────“Stopped(止まった),stopped(止まった),stopped(止まった),stopped(止まった),stopped(止まった)──────」

 

 

 

 終結は何処(いずこ)へ? 

 

 

 

「──────“Everything is corrupted and right is lost.(あらゆる全ては退廃し、正しさは失われる)”──────」

 

 

 

 消失した。正しき場所は、者は、時は。失われた。

 

 まさに、正鵠を欠くように、正しさは封鎖された。

 

 

 

「──────“End of Quod Erat Demonstrandum(終わりの証明式)”──────」

 

 

 

 手軽く終焉を俺は認識する。幻想の懐中時計の蓋を開く。

 

 

 

 

 

「──────―“Cronus(クロノス)”」

 

 

 

 

 

 ピタッと。

 

 世界が静止する。

 

 落ち行くゴッホちゃんのインクは垂れ、空中に固定されている。

 さざめく木々の葉は停止し、燃えゆ火は陽炎を不気味に残す。

 

 俺の保有する魔法、第七魔法の本質は「終焉の証明」。

 

 

「手こずらせてくれたよ」

 

 

 終焉とは何か。終わりだ。

 

 第七魔法はその終わりを証明する魔術。

 

 要するに、第六魔法が物質的な滅びを齎し、第七魔法は精神的な──―エネルギーを消失させ、万物の消失を証明する魔術だ。

 

 詰まる所、今この場では俺しか動くことは出来ない、ってコト。

 

 熱エネルギーは消失して形だけ残って、魔力のエネルギーも消失して形だけ残る。

 それは俺の魔術も例外ではなく、木の鎧も強化魔術も剥がれている。

 

 

「熱がない物体はただの伽藍洞ってね」

 

 

 俺の持つ礼装……警棒だけは特別製。俺の骨や血、髪を寄せ集めて作ったもんだ。

 唯一この閉鎖空間で熱を持つことを許されている。

 

 

「往くぜ?」

 

 

 俺は目の前のデカブツに連打を叩き込む。

 何度も何度も、何度も。

 

 叩いて壊して、伸ばして、崩して。

 

 魔法が解ける頃には、英雄ヘラクレスも()()()()()()()()()()

 それが法則(きまり)さ。

 

 

 

 

 

「────────証明終了(Q・E・D)

 

 

 

 

 

 

 遂には英雄も堕ちん。

 

 

「────────―見事」

 

「さっさと落ちろ、英雄」

 

 

 対サーヴァント戦。ヘラクレス対、俺&ゴッホちゃん。

 俺の勝ち。

 

 

 

 

 

「えっ!? どういう状況ですかコレ!?」

 

 




説明は後ほど行います。

今回の話のゴッホの宝具のように、特殊タグを付けた「揺れ」や「色付き」はあった方がいいでしょうか?それともない方がいいでしょうか?

  • あった方がいい
  • ない方がいい
  • どっちでもいい

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