第七魔法の使い手になりました   作:MISS MILK

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あらかじめ、私は言っておきます。

私は!オルガマリー所長が好きだ!
そして!レフ・ライノールが死ぬほど嫌いだ!

では、どうぞ。


別たれた手の行方

 ヘラクレスはやられ際に正気に戻る描写があったが、実際に対面してみると、その偉大さによく気付かされる。

 偉丈夫の肉体と精悍な顔立ち、雄々しい声は安心感を齎す。

 

 FGOファンとして再三、この世界に感謝を。

 

 

「さて、早く戻ろう」

 

「あれー? マスターさま、無視ですか?」

 

「説明はまた後でする」

 

 

 頬を膨らませるゴッホちゃん。

 

 あっ、可愛い(キュン死)

 

 

「まあ、そんな訳で頼むよ、ゴッホちゃん」

 

「ゴッホ、了解しました!」

 

 

 アインツベルン城まで飛ばされたので、移動は困難。

 だけど、マスターとサーヴァントにはこんな裏技もあってね? 

 

 

 

「──―令呪を以て命ずる、俺を連れて柳洞寺まで転移せよ!」

 

 

 

 俺はゼルレッチの爺さんにやられた時以来の感覚に身を委ね、意識を暗転させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その守りが真実がどうか確かめてやる!」

 

 

 マシュ・キリエライトはこの絶望に抗った。

 偉大なる大英雄、アーサー・ペンドラゴンの威光に。

 

 

「お願い、私を守って!」

 

「マシュ・キリエライト了解しました! 命令(オーダー)を遂行します!」

 

 

 敬愛する先輩の命令を受け、令呪から多大な魔力が供給される。

 

 今ここにはマシュとリッカとオルガマリーしかいない。

 

 頼れる最後の英霊たるクー・フーリンは、一度目のアーサー王の宝具解放時にマシュらを庇って脱落した。

 攻撃の要たる沖田総司は、何十合もアーサー王と鍔迫り合いした後に、吐血して脱落した。

 

 

「二度と、私は逃げません!」

 

「よくぞそこまでほざいた小娘!」

 

 

 マシュが魔力を蓄えると同時に、それ以上の魔力をアーサー王は反転した聖剣に収束させていた。

 紫苑と暗黒の色が明転する聖剣は、禍々しくも聖なる気を孕んでいる。

 

 

 

「──────卑王鉄槌、旭光は反転する。光を飲め! 『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)』!!!」

 

 

 

 迫りくる死という名の絶望を前に、マシュは己の今際を悟った。

 

 脳裏に過ぎるは、カルデアで過ごした日々。

 

 ロマニとの他愛のない会話。

 所長との談義。

 短いながらも濃密な先輩との思い出。

 

 浮かんでは消え、浮かんでは消え……現実が映し出された。

 

 

(過去なんか振り返ってる時間なんて──────私には、ないッッッ!!)

 

 

 マシュ・キリエライトは崖っぷち……それも奈落も落ち行く中、希望という名の藁を掴んだ。

 乏しい反応だった霊器が著しく反応し、四肢五臓六腑に力が巡る。

 

 

 

「私は未来を往きます! 誰にも邪魔はさせない! 

 

 真名、偽装登録──―宝具開帳! 

 

 ──────『疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』ッッッ!!!」

 

 

 

 まだ、自分のことは分からない。

 分からない。が、分からないなりにやりようはある。

 

 マシュは記憶ではなく、記録でそれを理解した。

 

 永遠たる白磁の城。

 巡回する清廉たる騎士。

 本来あるべきはずの金糸の髪の騎士王。

 

 展開されるのは、かつて鉄壁牙城を誇った人々の理想の城。

 いまはなき、遥か遠くの理想の城。

 

 

「止まれえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 青白い魔力を放つ、半透明の城は極光を飲む聖剣の光を受け止めた。

 ズドン、と大きく城が揺れたがそれっきり。

 

 かつての城は、今一度、城主を迎えたのだ。

 

 やがて、膨大なエネルギー量の魔力は霧散し、城と共に儚く散った。

 

 妙な沈黙を守る空間にて、聖剣を振り下ろした姿勢の騎士王が口を開いた。

 

 

「…………そうか。そうだろう。そうだろうな。私の城だ。私を受け止めぬ、理屈もないか」

 

 

 納得。

 あるいはもっと感覚的なものだったかは本人にしか分からぬが、納得はしたらしかった。

 

 

「フ、知らず、私も力が緩んでいたらしい。最後の最後で手を止めるとはな。聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に傾いたあげく敗北してしまった」

 

 

 カルデアの面々は静かに、騎士王の独白を聞いていた。

 義務はないが、それが使命のように感じたのだ。

 

 

「結局、どう運命が変わろうと、私ひとりでは同じ末路を迎えるという事か。

 用心せよ──────グランドオーダー……聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだ」

 

 

 グランドオーダー。

 

 カルデアはその意味を理解する間もなく、騎士王は座へと帰還した。

 

 

「…………セイバーの消滅を確認。私たち、勝利でいいのでしょうか?」

 

「やった! 勝ったよ! マシュ!」

 

『ああ、よくやってくれたマシュ、リッカちゃん! 所長もさぞ喜んで……あれ、所長?』

 

 

 歓喜に暮れる三人だったが、唯一、オルガマリーだけは浮かない表情だった。

 喜ぶどころか、眉を潜めて険しい表情を浮かべている。

 

「……冠位指定(グランドオーダー)……あのサーヴァントがどうしてその呼称を?」

 

「所長、どうしたの? 気になることでもあった?」

 

「え……? そ、そうね。よくやったわ、リッカ、マシュ。不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします。とりあえず、あの水晶体を回収しましょう。どう見てもこの異常はアレでしょうし」

 

 一転し、明るい表情を見せるオルガマリー。

 彼女の指差す先には、莫大な魔力を放つ大聖杯の前に、不可思議な水晶体が浮遊していた。

 

 マシュは率先して動きだし──────。

 

 

「はい、至急回収を──―な!?」

 

 

 その時だった。聞くに堪えない、不快な声音を漏らす人物が現れたのは。

 

 

「──────いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。しかも何だ、あのふざけた魔法使いならまだしも、四十八人目のマスター適正者。まったく見込みのない子供だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」

 

 

 緑の礼服、緑のシルクハット、螺旋に巻かれたロン毛の男──────現れた人物は、原因不明の大事故によって死んだはずの、レフ・ライノールであった。

 

 

「レフ教授!?」

 

『レフ──―!? レフ教授だって!? 彼がそこにいるのか!?』

 

「うん? その声はロマニ君かな? 君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来てほしいと言ったのに、私の指示を聞かないんだね、まったく──―」

 

 

 ピタリと貼り付けたアルカイックスマイルで、溢れ出る不快さは隠そうともせずにレフは吐き捨てた。

 

 

「──―どいつもこいつも統率のとれていないクズばかりで吐気が止まらないな。人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」

 

「ッ! マスター、下がって……下がってください! あのひとは危険です……あれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 謙譲を是とするマシュが敬愛する先輩への敬語を忘れて叫んだ。

 

 

「────―そうよ、下がりなさいリッカ。あれは私の知るレフではないわ」

 

「おや?」

 

 

 オルガマリーも、魔力を滾らせて言った。

 彼女の右人差し指には青い魔法陣が幾重にもなって回転している。

 

 矛先──―指先は、最も信頼していた側近、レフへと向けられていた。

 

 

「どうしたんだい、オルガ? 君もその狂人に絆されてしまった訳ではあるまい?」

 

「黙りなさい! 私の……私の知っているレフではないわ! アナタは──────誰?」

 

 

 啖呵……いや、最早それは警告に近かった。

 

 

「…………本当に予想外の事ばかりで頭にくる。まさか、君もそうなるとは思っていなかったよ。爆弾は君の足元へ仕掛けたのだったがね」

 

「──―……やっぱり、やっぱり貴方だったのね」

 

『所長!? 待ってくれ! どういうことなんだ!?』

 

 

 訳も分からず、ロマニは叫んだ。

 もう、頭の中はグチャグチャだった。

 

 死んだはずのレフは生きていて、カルデアを無茶苦茶にしたのは本人だと言っている。

 しかもずっと管制室から呼び掛けていた所長が──―死んでいたなどと誰が信じられようか。

 

 

「いや生きてるのとは違うか。君はレイシフト適性がないのにこうして特異点にいられるのだから。今の君はトリスメギストスに拾われただけの残留思念という訳だ」

 

「知ってるわ。私の……才能の無さは私が一番知っているのだから」

 

「意外に驚かないのだね。では、冥途の土産に今のカルデアがどうなっているかを見せようじゃないか」

 

 

 楽し気に腕を振るうレフ。

 すると空間に裂け目が入り、広がる。

 

 裂け目の先には──―。

 

 

「これが! 君が生涯を捧げたモノだよ!」

 

 

 轟々と。蜿蜒とうねる炎に支配されたカルデアが移った。

 

 

「開いた穴は向こうと繋がっている! 最後に君の望みを叶えてやる、君の宝物に触れてくるといい!」

 

 

 途端、裂け目からは豪風が吹き荒れ、オルガマリーを吸い込まんとする。

 人間の肉体────―霊体だけのオルガマリーには抵抗する(すべ)はなかった。

 

 足が地を離れ、浮遊感がし、吸い込まれる。

 

 

「──―所長! 捕まって!」

 

「駄目よ。私はもう死人。生きている貴女たちに迷惑は掛けられないわ」

 

 

 リッカとマシュが手を繋ぎ、伸ばした手は…………誰も掴むことなく空振った。

 

 

「その裂け目はブラックホールと何も変わらない。それとも太陽かな。まあ、どちらにせよ、分子レベルで分解されるのは間違いないだろう。オルガ、君は随分と──────耳障りだったよ」

 

 

 救いはない。

 

 諦観した表情のオルガマリーと、哄笑を上げるレフ。

 

 仲睦まじかった主従は作られたものであり、相対的な今の彼女とレフの間柄はまさしく白黒(モノクロ)であった。

 

 リッカは慟哭した。

 

 マシュは叫喚した。

 

 ロマニは絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────―()()? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“Over the watch(正鵠穿つ時刻の封鎖)”」

 

 

 

 

 希望は意図せずやって来る。

 

 かの有名な復讐貴族、モンテ・クリスト伯は言った。

 

 

『待て、しかして希望せよ』

 

 

 ……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迎えに来たぜ、オルガマリー嬢」

 

 

 不意に体を襲う実体の感覚に戸惑いながらも、オルガマリーは泣き、笑った。

 

 

「──────―ロード!」

 

 

 離れた手は……今再び繋がれたのだ。




いかがでしたでしょうか。
異論は認める(寛容)これが私のグランドオーダーです。

今回の話のゴッホの宝具のように、特殊タグを付けた「揺れ」や「色付き」はあった方がいいでしょうか?それともない方がいいでしょうか?

  • あった方がいい
  • ない方がいい
  • どっちでもいい

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