どこかへ揺蕩うような感触。
全身がふわふわの羽毛に包まれたの如く、体とそれ以外の境界が曖昧になる。
それから幾らの時間が経っただろうか。
急激にどこかへ引っ張られるような感覚がして…………。
「──────着いた、か」
目を開ければ、ゲームやアニメでよく見たカルデアの管制室。
ふむふむ、聖杯での転移ってのは一種の情報置換に近いかもしれない。置換魔術とは違い、物体同士ではなく、空間上にある俺という物体の情報を地点Bへそのまま上書きする……みたいな、ネ。
感覚的には魔術師の必須科目、瞑想に近い。
「──────ロード・クロノアス!?」
ロマニの声が聞こえた。
背後を振り返ると、ロマニが驚愕した表情で立っていた。
「やあ、やって来たぜ」
「まさか、直接ここに転移するとは…………いいか。ロード・クロノアス、ようこそ我らがカルデアへ!」
俺は俺自身へ集まっている視線に応える。
流石は
集まる畏敬の視線を振り切り、傍に倒れているオルガマリー嬢を抱き上げた。
「取り敢えず、オルガマリー嬢をどうにかしなくてはな」
「──―医務室はこっちの方です。付いて来て下さい」
流石はドクターか。
ロマニは直ぐに先導を始めた。
「………………これは」
実際に来てみると分かる。
このカルデアという組織自体がより高度な技術基地なのだ。
科学と魔術を混合させるのは
古参の魔術師ならまだしも、現代の魔術師の中にはアナログの携帯どころか、電話ボックスの扱いすら分からん連中もいる。
皆、
「よいしょっと」
医務室のベッドにオルガマリー嬢を寝かせる。
優しく優しく、ていねていね丁寧にだ。
「そうだね…………特に目立った外傷もないし…………脈拍も正常。至って健康体だ。よかったぁ……」
軽い触診を終えたロマニがほっと一息つく。
それには俺も安堵の声が漏れる。
しっかし、声優のボイスを生で聞けるってのも凄い贅沢だな。
「ロード!」「ロアさん!」
医務室に駆け込んでくる少女が二人。言わずもがな、リッカとマシュだ。
走って来たようで、息を切らしている。
「あっ、所長!」
「安心してくれリッカちゃん。所長は無事だったよ」
ロマニの一声に胸を撫で下ろす二人。
「君たちも無事そうで何よりだよ」
「はい! 私と先輩は丈夫ですから!」
俺は、彼女ら三人と話しながら医務室を出る。
他愛もない雑談をしながら歩く。
「じゃあ、これからはロードも人理修復に加わるのですね」
「まあそうだな。あと、俺のことはロアで結構だ。堅苦しいのは苦手でね」
貴族の暮らしも楽ではないんだ、と付け加える。
苦笑いするロマニ。残念だが、マシュとリッカちゃんには伝わらなかったみたいだ。
「あぁ……ロード・クロノアス、忘れていたが、カルデアでは気を付けて欲しいことが何個があるんだけど……」
ロマニが懸念した表情で話題を切り出す。
すると廊下の遠くから誰かが疾走してくる音が聴こえた。尋常なないくらいの速度だ。
「あちゃーもう来ちゃったかー…………。とにかく悪い人ではなんだけど、一応頑張ってくれ!」
「あっ……マシュ、私たちも行こっか」
「はい。そうですね。……ロアさん、失礼します」
俺は何事かと去っていく三人を尻目に振り返り……──────ナルホド、そういうことか。
「やっと見つけたぞ! 君がロードだかグランドだかのクロノアス君だね! ああ失礼私の名前はダ・ヴィンチだ! 気安くダヴィンチちゃんとでも呼んでくれたまえ! 所で荷物は重くないかな!? そのスーツケースなんか特に重そうだね!? 特別に私が持ってあげよう! ──────そのスーツも礼装かい!? というかひとまず君を解剖してみたいなッ!」
「…………落ち着け。荷物は重くないし、これはうちの家の礼装だから安々渡すわけにはいかん。それに解剖させん。貴様は執行者か何かか」
「失礼な! 私は世紀の大発明家にして大天才のダ・ヴィンチちゃんさ!」
「では、ダ・ヴィンチさん、俺はこれにて失礼する。マイルームへの案内をロマニに頼むところでね」
「おっと! 私から逃げようとしたってそうはいかないよ! マイルームへの案内ならこの私が──―マイルーム以外の案内も受け持とう! だからさっさと手術台へ乗ってくれ!あと私はダ・ヴィンチちゃんだ!」
「クソッ!? 何がダ・ヴィンチだ!? 手をワキワキさせるな! 近付くな! 顔を寄せるな! 触るな寄るな!?」
俺は、鼻息荒く支離滅裂な言動ですり寄って来るダ・ヴィンチちゃんさんの攻撃を搔い潜り、どうにか脱出しようと考えるのだった。
………………マジでどうしよう。
§ § § § §
「──────……すみませんでした」
「ふんっ」
俺は手を払い、一仕事終えたとばかりに伸びをした。
目の前には正座させられ、首から「私は研究したさに客人を襲った変態です」と書かれたプラカードを下げるダ・ヴィンチちゃんの姿。
頭には大きなタンコブをこさえている。やったのは無論、俺。
「まず第一に解剖は絶対にやらせん」
「そっかぁ…………」
俺の身体には、もはや心臓や魔術刻印、魔術回路と同化してしまっているアダマスの大鎌がある。おいそれと解剖なんぞされてバレては適わん。
てか、誰だって病気じゃないのに解剖されるのは嫌に決まっている。
見るからにシュンとなるダ・ヴィンチちゃんに溜息が漏れた。
この変態英霊、キャスターとかじゃなくてバーサーカーの間違いだろ。
「だが、礼装のことなら考えてやらんでもない」
「──────!!! ほんとかい!?」
「ああ」
このダ・ヴィンチとかいう女、技術だけは本物なのである。
自らが描いたモナ・リザが美し過ぎて自らをモナ・リザの見た目に改造するぐらいには頭の悪い変態なのだが、技術だけは超一流だ。
生物学や力学を始めとした科学、礼装や伝承を始めとした魔術、そのどちらにも精通しているダ・ヴィンチは俺としても願ったり叶ったりだ。
こちらへ持ってこれなかった礼装もある以上、カルデアや特異点にある素材だけで再現するほかなく、手伝いはあるに越したことはないし、優秀であればあるほどいい。
一人のファンとして見るなら兎も角なぁ…………相手にするとメチャクチャ面倒くさい。
「俺も一人の魔術師だ。ダ・ヴィンチちゃんほどの技術者の手は借りたいものなのだよ」
「そうかい!? 任せたまえ! 落胆はさせないとも!」
「そこは心配していない。これからは共同研究という形で頼む」
「モチロンだよ! さあクロノアス君、私が作り上げたカルデアを案内してあげよう!」
「はぁ…………分かった。分かったよ。だから引っ張るな」
………………早計だったかなぁ?
今回の話のゴッホの宝具のように、特殊タグを付けた「揺れ」や「色付き」はあった方がいいでしょうか?それともない方がいいでしょうか?
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あった方がいい
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ない方がいい
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どっちでもいい