第七魔法の使い手になりました   作:MISS MILK

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カルデアへの来訪

 どこかへ揺蕩うような感触。

 

 全身がふわふわの羽毛に包まれたの如く、体とそれ以外の境界が曖昧になる。

 

 それから幾らの時間が経っただろうか。

 急激にどこかへ引っ張られるような感覚がして…………。

 

 

 

「──────着いた、か」

 

 

 

 目を開ければ、ゲームやアニメでよく見たカルデアの管制室。

 

 ふむふむ、聖杯での転移ってのは一種の情報置換に近いかもしれない。置換魔術とは違い、物体同士ではなく、空間上にある俺という物体の情報を地点Bへそのまま上書きする……みたいな、ネ。

 

 感覚的には魔術師の必須科目、瞑想に近い。

 

 

「──────ロード・クロノアス!?」

 

 

 ロマニの声が聞こえた。

 

 背後を振り返ると、ロマニが驚愕した表情で立っていた。

 

 

「やあ、やって来たぜ」

 

「まさか、直接ここに転移するとは…………いいか。ロード・クロノアス、ようこそ我らがカルデアへ!」

 

 

 俺は俺自身へ集まっている視線に応える。

 

 流石は君主(ロード)の身分。それとも冠位(グランド)の方かな? 

 集まる畏敬の視線を振り切り、傍に倒れているオルガマリー嬢を抱き上げた。

 

 

「取り敢えず、オルガマリー嬢をどうにかしなくてはな」

 

「──―医務室はこっちの方です。付いて来て下さい」

 

 

 流石はドクターか。

 

 ロマニは直ぐに先導を始めた。

 

 

「………………これは」

 

 

 実際に来てみると分かる。

 

 このカルデアという組織自体がより高度な技術基地なのだ。

 

 科学と魔術を混合させるのは現代魔術科(ノーリッジ)の十八番だが、ここまで大衆的に上手く扱えるのはここの職員ぐらいであろう。

 

 古参の魔術師ならまだしも、現代の魔術師の中にはアナログの携帯どころか、電話ボックスの扱いすら分からん連中もいる。

 皆、創造科(バリュエ)の学生達を見習ってほしいものだ。まあ、俺はロード・バリュレエータに嫌われているが。

 

 

「よいしょっと」

 

 

 医務室のベッドにオルガマリー嬢を寝かせる。

 優しく優しく、ていねていね丁寧にだ。

 

 

「そうだね…………特に目立った外傷もないし…………脈拍も正常。至って健康体だ。よかったぁ……」

 

 

 軽い触診を終えたロマニがほっと一息つく。

 

 それには俺も安堵の声が漏れる。

 しっかし、声優のボイスを生で聞けるってのも凄い贅沢だな。

 

 

「ロード!」「ロアさん!」

 

 

 医務室に駆け込んでくる少女が二人。言わずもがな、リッカとマシュだ。

 走って来たようで、息を切らしている。

 

 

「あっ、所長!」

 

「安心してくれリッカちゃん。所長は無事だったよ」

 

 

 ロマニの一声に胸を撫で下ろす二人。

 

 

「君たちも無事そうで何よりだよ」

 

「はい! 私と先輩は丈夫ですから!」

 

 

 俺は、彼女ら三人と話しながら医務室を出る。

 他愛もない雑談をしながら歩く。

 

 

「じゃあ、これからはロードも人理修復に加わるのですね」

 

「まあそうだな。あと、俺のことはロアで結構だ。堅苦しいのは苦手でね」

 

 

 貴族の暮らしも楽ではないんだ、と付け加える。

 苦笑いするロマニ。残念だが、マシュとリッカちゃんには伝わらなかったみたいだ。

 

 

「あぁ……ロード・クロノアス、忘れていたが、カルデアでは気を付けて欲しいことが何個があるんだけど……」

 

 

 ロマニが懸念した表情で話題を切り出す。

 すると廊下の遠くから誰かが疾走してくる音が聴こえた。尋常なないくらいの速度だ。

 

 

「あちゃーもう来ちゃったかー…………。とにかく悪い人ではなんだけど、一応頑張ってくれ!」

 

「あっ……マシュ、私たちも行こっか」

 

「はい。そうですね。……ロアさん、失礼します」

 

 

 俺は何事かと去っていく三人を尻目に振り返り……──────ナルホド、そういうことか。

 

 

「やっと見つけたぞ! 君がロードだかグランドだかのクロノアス君だね! ああ失礼私の名前はダ・ヴィンチだ! 気安くダヴィンチちゃんとでも呼んでくれたまえ! 所で荷物は重くないかな!? そのスーツケースなんか特に重そうだね!? 特別に私が持ってあげよう! ──────そのスーツも礼装かい!? というかひとまず君を解剖してみたいなッ!」

 

「…………落ち着け。荷物は重くないし、これはうちの家の礼装だから安々渡すわけにはいかん。それに解剖させん。貴様は執行者か何かか」

 

「失礼な! 私は世紀の大発明家にして大天才のダ・ヴィンチちゃんさ!」

 

「では、ダ・ヴィンチさん、俺はこれにて失礼する。マイルームへの案内をロマニに頼むところでね」

 

「おっと! 私から逃げようとしたってそうはいかないよ! マイルームへの案内ならこの私が──―マイルーム以外の案内も受け持とう! だからさっさと手術台へ乗ってくれ!あと私はダ・ヴィンチちゃんだ!」

 

「クソッ!? 何がダ・ヴィンチだ!? 手をワキワキさせるな! 近付くな! 顔を寄せるな! 触るな寄るな!?」

 

 

 俺は、鼻息荒く支離滅裂な言動ですり寄って来るダ・ヴィンチちゃんさんの攻撃を搔い潜り、どうにか脱出しようと考えるのだった。

 

 ………………マジでどうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────……すみませんでした」

 

「ふんっ」

 

 

 俺は手を払い、一仕事終えたとばかりに伸びをした。

 

 目の前には正座させられ、首から「私は研究したさに客人を襲った変態です」と書かれたプラカードを下げるダ・ヴィンチちゃんの姿。

 頭には大きなタンコブをこさえている。やったのは無論、俺。

 

 

「まず第一に解剖は絶対にやらせん」

 

「そっかぁ…………」

 

 

 俺の身体には、もはや心臓や魔術刻印、魔術回路と同化してしまっているアダマスの大鎌がある。おいそれと解剖なんぞされてバレては適わん。

 

 てか、誰だって病気じゃないのに解剖されるのは嫌に決まっている。

 

 見るからにシュンとなるダ・ヴィンチちゃんに溜息が漏れた。

 この変態英霊、キャスターとかじゃなくてバーサーカーの間違いだろ。

 

 

「だが、礼装のことなら考えてやらんでもない」

 

「──────!!! ほんとかい!?」

 

「ああ」

 

 

 このダ・ヴィンチとかいう女、技術だけは本物なのである。

 

 自らが描いたモナ・リザが美し過ぎて自らをモナ・リザの見た目に改造するぐらいには頭の悪い変態なのだが、技術だけは超一流だ。

 

 生物学や力学を始めとした科学、礼装や伝承を始めとした魔術、そのどちらにも精通しているダ・ヴィンチは俺としても願ったり叶ったりだ。

 こちらへ持ってこれなかった礼装もある以上、カルデアや特異点にある素材だけで再現するほかなく、手伝いはあるに越したことはないし、優秀であればあるほどいい。

 

 一人のファンとして見るなら兎も角なぁ…………相手にするとメチャクチャ面倒くさい。

 

 

「俺も一人の魔術師だ。ダ・ヴィンチちゃんほどの技術者の手は借りたいものなのだよ」

 

「そうかい!? 任せたまえ! 落胆はさせないとも!」

 

「そこは心配していない。これからは共同研究という形で頼む」

 

「モチロンだよ! さあクロノアス君、私が作り上げたカルデアを案内してあげよう!」

 

「はぁ…………分かった。分かったよ。だから引っ張るな」

 

 

 ………………早計だったかなぁ?

今回の話のゴッホの宝具のように、特殊タグを付けた「揺れ」や「色付き」はあった方がいいでしょうか?それともない方がいいでしょうか?

  • あった方がいい
  • ない方がいい
  • どっちでもいい

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