遅れながらもお待たせしました。どうぞ。
「目の前にしてみるとお前さんは本当に不思議な生物だよな」
「フォフォウ」
俺は寝そべった状態で両手でフォウを持ち上げる。
フォウはカルデアに住み着いてリッカちゃんやマシュに懐く不思議生物だ。
見た目は猫とも狐ともフェネックとも似ているが、どれも違う。特徴的なのは初雪を思わせる純白の体毛だ。
(その正体が実はビーストだなんて誰も思わないんだろうなあ)
「フォウ?」
「いいや、何でもないさ。これでも食ってな」
「フォウ♪」
俺はフォウに木の実数種を混ぜた特別製のチョコレートバーをあげる。
イギリスでは更にそのチョコレートバーを油で揚げる、揚げマーズバーなる料理があるんだが…………止めとくか。あれ一本で三日分のカロリー獲れることもあるしな。
ちなみに俺は割と好きだ。礼装の改造を夜遅くまでやってると糖分が必要になったりするからな。なんなら前世からこの揚げマーズバーの存在を知っておけば良かったと思ってすらいる。
「じゃあな」
「フォフォフォウ!」
元気に返事を返すフォウを尻目に俺は立ち上がり、トレーニングルームから出る。
ゲームでしか見ることはなかったが、仮想敵との戦闘は中々リアルで楽しい。倒しても倒しても湧いて出てくるのだから神秘どうこうの問題もない訳だし。
「この後の予定はっと…………」
懐からメモ帳を取り出し、今日の予定を確認する。
「お」
今日はそれなりの一大イベントがある。
なんと今日は英霊召喚の予定日だ。
俺としては、ついに来たかという感想が大きい。
英霊召喚、これが何を意味するかというと………………。
「────―ガチャの時間だ」
俺は指を鳴らし、服に付いた汗を揮発させる。
ネクタイも直し、スーツの皺を伸ばす。
準備は万端。
「あ、ロアさーん! こっちこっち」
「やあ、リッカちゃん、ご機嫌だね。マシュにオルガマリー嬢もお早う」
「おはようございます。ロアさん」
「ご無沙汰しております、ロード」
元気に手を振るリッカちゃんと恭し気に頭を下げるマシュとオルガマリー嬢。
俺は軽く笑い挨拶を返す。
「皆揃ったようだね! じゃあ行こっか」
「さーて皆大好き英霊召喚の時間だ♪」
英霊召喚にはシステム・フェイトを起動するため、一級の技術者としてロマニとダ・ヴィンチもいる。
彼らの方で出てくるサーヴァントのクラスを特定したり、概念礼装の排出を防止したりするらしい。…………ゲームの時でもやれよ。
「君たちにはこれを渡しておこう! 召喚するために必要な触媒の呼符さ!」
俺とリッカちゃんはガチャ券をそれぞれ六枚ずつ渡される。
「リッカちゃん、先にどうぞ」
「いいの? じゃあ遠慮なく……」
リッカちゃんのガチャタイム。
さあ、原作主人公としての実力を見せて貰おうか!
「いっくよー!」
結果。
・エミヤ(弓)
・クー・フーリン(槍)
・メドゥーサ(騎)
・沖田総司(剣)
・アルトリア・ペンドラゴン・オルタ(剣)
・カレイドスコープ
「何だこのグループは……」
「よし、今度はランサーで召喚されたな。これでテメェに負けることは万が一も無くなった訳だ。ま、元々無かったがな」
「…………フッ、陳腐な挑発だな」
「あ? 負け惜しみかぁ?」
「黙れ駄犬が。貴様の軽口に付き合うつもりはない」
「あの……もう少し静かに出来ないのでしょうか?」
「な、なんなんですかこの状況は!? 沖田さんもビックリなんですけど!」
「エミヤ、私はハンバーガーなるものが食べたいです」
ぬあああぁぁぁぁぁぁぉぉぉおおおおおおおぉぉぉおぉぉぉ何故だあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!
これが…………これが、主人公補正とでも言うのか!?
その後、Fate/SN組と沖田は、リッカちゃんとマシュに先導されて召喚ルームから退場していった。最後にメドゥーサが「どうしてこんなことに…………」と呟いていたのが印象的だった。
それにカレイドスコープまで…………許せねえよ。
桜セイバーまでは認めよう! だって特異点Fで縁繋げちゃったしネ! でもさ! なーんで黒王まで来てんだよッ! 可笑しいだろ!
「さて、次は俺か」
「頑張って下さい、ロード」
俺の
結果。
・呪腕のハサン(暗)
・激辛麻婆豆腐
・目覚め前
・聖者の行進
・フォンダン・オ・マーボー
・ヴァン・ゴッホ(降)
………………………………。
…………………………。
………………。
…………。
ふぅ……。
なんだろう。もはや、怒りを通り越して「無」って感情が出て来た。
今の俺なら悟りが開けそうだよ。
てか、呪腕のハサンはありがたいけど、ゴッホちゃん以外のラインナップどうなってんだよ。
概念礼装の確率下がってんじゃないのかよ。
え? 何? 俺に代行者になれとでも? 外道神父になれとでも? ラスプーチンを召喚しろとでも?
「ふむ……これからよろしく頼む、ハサン」
「こちらこそですぞ、マスター殿。新しいマスターが常人でこちらも嬉しい限り。微力ながら力を尽くしましょう」
俺とハサンは握手を交わした。
「オルガマリー嬢、失礼だがハサンの案内を頼めるかな?」
「はい。分かりました」
オルガマリー嬢はハサンを伴って召喚ルームから退室する。
俺もハンドサインでロマニとダ・ヴィンチに出て行っていいと伝える。
静かになった召喚ルームで俺は彼女と向き合った。
「よく来たね、ゴッホちゃん。また会えて嬉しいよ」
「イヒッ! わたしもですマスターさま。ゴッホ、ずっと。ずっとずっと。ずっとずっとずっと召喚されるのを待ってまして…………もし来なかったらどうしよおーって考えてました」
弛緩した表情でそう嬉しそうに語るゴッホちゃん。
とかいう俺も再来にかなりの嬉しさを感じている。
俺と彼女は「似ている」のだろう。
見た目とか、性格とか、感性とか、好みとか、価値観とか、ではなく。
俺とゴッホちゃんは本質が同じなのだ。
本来ならヴァン・ゴッホとしての霊器を一割しか受け継いでおらず、残りの九割を他の霊器と継ぎ接ぎにされた彼女。人格こそゴッホとして残っているが、逆にその一割が無くなれば、いつ壊れても可笑しくはないのだ。
対して俺はどうか。
実の所、俺自身、俺のことが分からない。
分からない、というのは今の俺が前世の■■■■の俺なのか、今世のクロノアスの俺なのか、それともそれらとアダマスの大鎌が混ぜられた第三の俺なのか、という点だ。まあ、全て俺なのだが。
似ている。
俺とゴッホちゃんは継ぎ接ぎでツギハギな体と魂なのだ。
故に共感できるし、お互いに認めたくないし、馴れ合える。
ある意味、最高のパートナーではないだろうか。
「さ、て…………俺も来たばっかりだが、カルデアを案内しよう」
「はい。お願いします、マスターさま」
俺は召喚ルームを出た。
隣には彼女が寄り添うように、居る。
密かに俺は、この人理修復は大丈夫だと思うのだった。
今回の話のゴッホの宝具のように、特殊タグを付けた「揺れ」や「色付き」はあった方がいいでしょうか?それともない方がいいでしょうか?
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あった方がいい
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ない方がいい
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どっちでもいい