第七魔法の使い手になりました   作:MISS MILK

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序章
特異点F 炎上汚染都市 冬木


「ちょ、ちょっと待てよ……」

 

 

 少し……いや、大分混乱している。

 なんで、冬木市がムカ着火ファイヤーしているんだ? 

 

 俺は近くの電灯に寄り掛かり頭を抱える。

 

 確か俺は冬木市に来ただけだ。

 予め時計塔にも協会にも、死徒は無理だがアトラス院にさえ釘を刺して冬木市に来た。

 

 

 しかし……これはどうなっているんだ? 

 

 

 まったくもって分からん。

 

 

 

「どうなっているんだ、一体……」

 

 

 

 俺は懐とカバンをまさぐる。

 

 こんな場合に余談だが、俺の礼装はスーツとスーツケースを模したものだ。

 他意はないが前世のせいか、この格好の方が落ち着くからだ。

 

 尚、今の季節は夏だったので青ワイシャツ姿だ。

 勿論、性能はそこらの色位(ブランド)の礼装よりも数段上の品物。

 

 特にスーツケースの方は、知り合いの魔術師に作って貰った特注で、空間拡張がなされた逸品だ。

 いやー大変だった。虚数魔術の属性を持つ魔術師と知り合うのは。

 …………代わりにバカ高い触媒を要求されたがな。

 

 他にもスーツケースの中に、魔法と魔術に必要な触媒や魔術礼装を入れてある。

 

 はあ……御三家がいるから、と一応だが一式持ってきておいて正解だった。

 

 取り敢えずだが、スーツケースの中からウエストポーチを取り出して装着。そこにスーツケース内の試験管を三本挿し、小瓶を同じく三つ押し込む。

 後は万が一に魔眼殺しの眼鏡を掛けて、俺の主兵装となる礼装の特殊警棒をシャツの袖に隠せば終わり。

 

 これが俺の主な戦闘装備。

 見た目は地味だが、性能は折り紙付き。

 外見もまともだから疑われにくいし、ロード・エルメロイにも感動された実績がある。

 

 

『──―ロードにもこんなまともな人がいたなんて……!』

 

 

 てな具合に。

 

 ま、他にも手札はいっぱいあるが、魔術工房も何も無い中、何事にも対応しやすいのはこの装備だ。

 

 

 

 

「さてさてさーて…………」

 

 

 

 

 これでようやっと落ち着いて考え事が出来る。

 

 まず、ここはどこだ? 

 

 

 

 ──―冬木市だ。

 

 

 

 ならば、この状況はなんだ? 

 

 

 

 ──―分からないが、見覚えはある。

 

 

 

 さっきまでは混乱していて忘れていたが、FGOプレイヤーならば誰しも見たことがある光景。

 人理修復の第一章オルレアンに行く前の話で、チュートリアルとしてプレイさせられるエリアにして、プレイヤーの最初のメンタルブレイカーとして立ちはだかる物語……──―

 

 

 

 

 

 ────────―特異点F 炎上汚染都市 冬木だ。

 

 

 

 

 

 この景観はやはり見たことがある。

 アニメでもゲームでも見た。炎上した冬木だ。

 

 

 

「ああ……なるほど、そういうことか!」

 

 

 

 何故こんなことになっているかが分かった。

 

 そもそも俺の転生した世界が、FGO世界線ではなく、FGOの序章で登場する炎上汚染都市の世界線だったのだ。

 

 特異点Fでは数々の不思議があるが、その謎が「汚染された聖杯が現存し、第五次聖杯戦争が完遂された世界線なのではないか」という考察や発言があった。

 

 つまり、俺はFGOの主人公たちが生きていて人理修復に挑む世界線ではなく、第五次聖杯戦争が完遂された世界線にいた訳だ。

 

 よく考えれば分かった話なのに……情けない。

 だって原典の世界線では聖杯が解体されているので、亜種聖杯戦争は存在しないのだから。

 

 

「ふぅ…………なってしまったものは仕方ない。切り替えよう」

 

 

 いつまでもここでウジウジしていては始まらない。

 それに……

 

 

「おお、盛大に引き連れて来たじゃねぇの?」

 

 

 周囲を見渡せば、視界いっぱいの骨、骨、骨。

 おおよそ現代では確認のされようもない天然の幻想種、骸骨兵(スケルトン)だ。

 

 天然ものは珍しいが、俺にとっては……魔術師にとってはポピュラーな幻想種として有名だ。

 スケルトンは最も初歩的な死霊魔術で作られる使い魔にして、魔術師の墓地とか紛争地帯とかでもよく見られる。

 

 かう言う俺も、何度も戦ったことのある相手だ。

 しかし、こんな弱いエネミーに礼装使うのは勿体ない。

 

 

 なら、どうするかと言うと……

 

 

「──────“A wake(目覚めよ)”」

 

 

 物理でぶん殴る、だ。

 

 どんなに魔術の学歴が短くとも、魔術師にとって強化の魔術は必須科目。

 かの貧弱なロード・エルメロイですら使える。…………出力は初心者と変わらないのが欠点だがな。

 

 

 

「よっ」

 

 

 

 立ち上がり、地面を蹴って正拳突きを頭蓋にお見舞いする。

 腕はそのまま頭蓋を貫通して、スケルトンは粒子になって消える。

 

「ふぅ……」

 

 残心。

 

 

「さあ、次はどいつだ?」

 

 

 この男、Fate世界に転生したから調子に乗ってる。

 そう思っていただろう? 

 

 だがしかし、俺の家系はイギリスでも名家中の名家、メイソン家だ。

 魔術の他にも武術は必須科目。

 

 それに植物科(ユミナ)は近代のメディアに傾倒傾向があり、軍事産業にすら手を出している学科だ。近接の技術を教わるのは簡単なことで、それ故に俺も扱える。

 

「お世辞にも達人とまではいかないが──―なっ!」

 

 摺り足の歩法で近付き、回し蹴りで四体を巻き込み破壊する。

 かと思えば、身体をコンパクトに畳んで回避。

 

 なまってないようで良かった。

 

 俺の武術は、総合格闘技を中心にイギリス特有の貴族剣術や騎士剣術も混ざっている。

 単純な体術であれば、どこぞの外道神父や伝承保菌者(ゴッズホルダー)に劣るが、武器を用いた戦闘では負けない自信がある。

 

 俺は貧弱な魔法使いではないのだよ。

 

 …………それにしても数が多いな。

 

 

「……“Turn,around,growing for your king(回れ、廻れ、成長せよ。汝が王の為に)!」

 

 

 ウエストポーチから試験管と小瓶を取り出したぶん投げる。

 ガチャンと割れた中身は、魔術によって変異させられた特殊な植物の種子と俺の血液を混ぜた魔術触媒だ。

 

 これで魔術が完成する。

 

 割れた中身は空中で混ざり合い、魔法陣を一人でに形成する。

 魔法陣から現れるのは紫色をした太い蔦。

 

 現れた()()は、鞭のようにヒュっとしなりを効かせて振るわれる。

 当然、俺の魔術よりも弱い神秘のスケルトンが耐えられるはずもなく……。

 

 

「全滅か……」

 

 

 存外大変だったな。

 

 

 本来なら使う必要のない魔術まで使ってしまった。

 触媒だって無限じゃないのに。俺は俺が思ってた以上に緊張していたのかもしれない。

 

 ここは一つ、深呼吸を…………

 

 

 

 

 

「────────よぉ、良い戦い振りだったじゃねえか坊主」

 

 

 

 

 

 突然掛けられた声にふと視線を上げると、そこには……特異点Fの主要人物にして、英霊の中でもトップの知名度を誇る男……キャスターのクー・フーリンがいた。

 

 

「げお゛えっ」

 

 

 むっちゃ(むせ)た。


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