第七魔法の使い手になりました   作:MISS MILK

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落下式レイシフト?/オルレアン式強襲?

 ふわり。

 

 俺がまず感じたのはそんな感覚。

 次いで感じたのは、全身を叩く風の音。

 

 俺は目を開けた。

 

 

 

「──────―………………はぁ」

 

 

 

 まあ。

 なんだ。

 その。

 

 お察しの通りだ。俺は今、上空を落下中のようであった。

 

 

「ロマニめ…………恨むぞ」

 

 

 浮遊感が体を襲う中、俺は状況確認にいそしむ。

 

 落下速度は上々、加速を続けているよう。

 それにここは上空…………二千メートルと少し。

 

 身体を捻り、姿勢を変えて周囲を見渡す。

 

 発見できたのは、ゴッホちゃんと沖田。

 

 

『ハサン、聞こえるか。俺だ』

 

『マスター殿!? 何処へ?』

 

『ああ、なんだ。レイシフトの座標が変わってしまったようでな。それとリッカちゃんたちは同じ場所にいるか?』

 

『はい、我を含め、リッカ殿、マシュ殿、騎士王殿が同じ場所におります』

 

『ならいい。お前は周囲の探索を申し出ておけ。気配遮断を忘れるなよ』

 

『了解致しました。マスター殿もどうかご無事を』

 

 

 俺はハサンとの念話を切る。

 

 向こうの方はまずまず大丈夫の様子。

 と、なると、問題はこっちか。

 

 

「ゴッホちゃん、大丈夫か!!!」

 

「マスターさまあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

 

 

 うん。大丈夫ではなさそうだ。

 

 俺は姿勢を変えてゴッホちゃんよりも下の標高へ落ちる。

 それから体を広げて、減速。イメージ的にはスカイダイビング。

 

 

「よっと。捕まえた」

 

「マスターさま!」

 

 

 ゴッホちゃんの腕を掴み捕まえる。

 

 残るは沖田だが…………。

 

 

「──────ごぷっ」

 

 

 吐血してる…………。てか、気絶してね? 

 

 英霊がそんなでいいのだろうか…………俺は、呆れながらも沖田に近付いた。

 ゴッホちゃんも居たため多少面倒だったが直ぐに捕まえる。

 

 あとは着地が問題だが…………。

 

 俺は適当にスーツケースから小瓶に入った魔術触媒を出す。

 中身は、とある霊地で育った昆虫の死骸と、幻想種の甲殻だ。

 

 

「“New Bee(生まれよ、新たな命)”」

 

 

 試験管の中に入っていた蜂の死骸が肥大化する。

 それに伴い、同封されていた甲殻が混ざり合い、溶け合う。

 

 

「──────Beeeeeeeeeeaaaaaa」

 

 

 試験を割って出て来たのは、堅牢な甲殻を纏った巨大蜂の魔物だった。

 俺の蝶魔術(パペリオ・マギナ)により生まれ変わった新たな幻想種の使い魔だ。

 

 

「頼んだぞ」

 

「Beeeeee」

 

 

 俺はゴッホちゃんを小脇に抱えたまま、蜂の足に掴まる。

 魔物と化した蜂はこれくらいでは落ちない。余裕を持ったまま、滞空している。

 

 俺は魔術回路を経由して指示を出し、沖田に近付く。

 

 

「ほれ、大丈夫か?」

 

「きゅ~………………」

 

「駄目だこりゃ」

 

 

 目を回している沖田を背中に背負い、俺は上空から着地出来る地点を探す。

 

 

「うっわ」

 

 

 俺は特異点下の状況の酷さに呻きが漏れる。

 上から見ているとこの特異点の酷さが如実に理解できるというもの。

 

 第一特異点は、フランスで起きた百年戦争の休戦状態の特異点だ。

 そこでは一度は処刑されたはずの魔女、救世の聖女ことジャンヌ・ダルクが反旗を翻し、虐殺の限りを尽くしているという噂が広がっていた。

 

 しかし、その正体はサーヴァント・キャスターの青髭…………ジル・ド・レェが聖杯が使い目論んだ、世界への復讐劇。

 魔女のジャンヌも聖杯によって作られたIF(もしも)のジャンヌ・ダルク。

 

 何もかもが不毛な特異点。それがこの第一の特異点だ。

 

 で、第一特異点では、二―ベルゲンの歌より邪竜ファブニールが登場するんだが…………。

 

 

「ワイバーンかな」

 

 

 第一特異点では、ファブニールの取り巻きとして、亜竜のワイバーンが大量に湧く。

 それはもう大量に湧く。

 

 眼下に広がる焼き尽くされた農村や街、焦がされ黒炭と化した死体。

 

 鼻腔を突く、皮膚の焼ける匂いが不快だ。

 

 

「取り敢えず、着地だ」

 

 

 俺の居る場所はもう誰も生存者はいない。気にせず降りていいだろう。

 

 フランスとかで気を付けることは魔術と思われるような行為をしないことだ。

 この時代は根強く、信心深いキリスト教徒が大勢いる。魔術など見せようなものなら弾圧の一途だ。

 

 ………………最終手段は街一つ丸ごと使った暗示かな。

 

 

「ロマニ、聞こえるか」

 

『ぬぅ~ん…………繋がらないな────―ってロード!?』

 

 

 虚空に呼び掛ける。

 

 タイムラグは数十秒ほどで、直ぐにホログラムが空中に浮かんだ。

 

 

「そうだ。俺だ。まず初めに言っておこう。何をどうしたらあのような座標にレイシフトする?」

 

『座標が違った…………? それってどういう…………』

 

「上空にレイシフトしたと言ってるんだ」

 

『上空に!? 馬鹿な!? ボクの計算は完璧だったは──────ぎゃあ!?』

 

 

 と、ホログラムの画像が切り替わる。

 映ったのはオルガマリー嬢だった。

 

 オルガマリー嬢は気丈な振る舞いでロマニを罵った。

 

 

『ロマニ、退きなさい。結果が全てよ。貴方はリッカの方を担当。私よりも貴方の方が仲が良いしお似合いでしょう』

 

『そんなぁ…………』

 

『…………ロード、うちのロマニが大変ご迷惑を御掛けしました。カルデアを代表して謝罪させて頂きます』

 

「それは大丈夫だが…………リッカちゃんの方はどうなってる?」

 

 

 心配の種は向こうの方だ。

 ハサンから念話も来ていないし、問題なくシナリオ通りに進んでいるんだろうが……。

 

 

『はい。リッカの方はつい先程、ロードのサーヴァント、ハサンが発見しました現地人を救出。そのまま接触を図り、砦へと侵入した模様です。ロードの位置から南西の方角です。現地人の話によると処刑されたはずのジャンヌ・ダルクが蘇り、各地を襲っているとか』

 

「ジャンヌ・ダルクねぇ…………」

 

『はい。何か気掛かりなことでも?』

 

「いいや、な。あのジャンヌ・ダルクが、と思ってな。十五世紀のフランスのヒロインにして清廉潔白な女傑の軍人。御旗を持って戦った彼女は、後世で聖女と呼ばれるまでに至った。そんな人物がわざわざ各地を回って復讐? サーヴァントならば、裁定者(ルーラー)で呼ばれるような人物だぞ?」

 

『………………何か、裏があるのではないか、ということでしょうか?』

 

「ああ。無論、何か事情やら何やらあるのかもしれんが、得てして聖人、聖女と呼ばれる人物が復讐などに走るとは思えん。リッカちゃんの方にも伝えといてくれ」

 

『分かりました。ワイバーンの目撃情報が多数確認されていますのでお気を付けて』

 

 

 それっぽい感じで情報を流す。

 

 流石に全部の情報を渡す訳にはいかないが、ヒントぐらいにはなるだろう。

 

 

「ゴッホちゃん、大丈夫か?」

 

「えっ、ええ…………わたしが生きてた頃には体験出来なかったことが出来ました……。もう二度とやりたくはないですがね。ヒヒッ」

 

 

 なんのスイッチが入ったのかゴッホちゃんは腹を抱えて笑い始めた。

 

 うん…………疲れている……んだよな? 

 

 俺は、ゴッホちゃんから目を反らし、倒れ伏している沖田の傍にしゃがむ。

 頬を何度か叩く…………が、目覚める様子はない。

 

 俺は沖田の額に人差し指を立てた。

 

 

「“A wake(目覚めよ)”」

 

「──────はっ、お早うございます!」

 

「馬鹿者め。武士が安々と隙を見せてどうする」

 

 

 俺は目覚めた沖田の手を引っ張り起こす。

 あまり手荒にやると「病弱(A)」が反応してしまうので、あくまで丁寧にだ。

 

 

「うぅ~……ロアさんって英国(イギリス)の人なのに武士を知ってるんですね。沖田さん嬉しいです」

 

「いや、仲間の英霊の逸話ぐらい調べるだろう。これくらい」

 

「うっ! 胸が痛いです……」

 

 

 胸を押さえて撃沈する沖田をほっとき、俺は周囲を見渡す。

 

 

「やっぱ何もねぇな…………」

 

「な、なにがあったんでしょうか?」

 

「ワイバーンとのことだ。まあまあ上位の幻想種だな。対空能力があれば大して問題もない」

 

 

 俺はゴッホちゃんと周囲の探索をする。

 

 後ろからドタドタと沖田が追い掛けた来た。

 

 

「沖田さんを置いてかないでください! 死なせるつもりですか!?」

 

「ああ」

 

「即答ッ!?」

 

 

 沖田の下らない話に付き合い、今一度生存者の確認を行う。

 

 主に俺の探知魔術と、沖田の「心眼(偽)(A)」で探す。

 

 沖田は流石にこの光景に不快感を感じたのか、口元を手で押さえていた。顔色も心なしか悪いように見えた。

 

 

「──────…………まあ、いないよな」

 

「なんて酷い…………薩摩人じゃあるまいに」

 

「薩摩だからいいという訳ではないだろ」

 

「いいえ、いいんです」

 

 

 コイツ、割と元気だろ。

 

 俺は取り敢えず沖田をどついた。

 

 一方、ゴッホちゃんに至っては絵を描き始める始末。

 

 

「何もないな。じゃあ、リッカちゃんの方と合流を──────」

 

『マスター殿! 緊急で御座います!』

 

『ロード! サーヴァントの反応が接近中です!』

 

 

 南西に向かおうとした瞬間のことだ。

 

 ハサンの念話と、オルガマリー嬢のホログラムが同時に警告を発した。

 だが、ハサンの方は念話が直ぐに切れ、魔力パスから流れる魔力の消費が早くなった。ただ事ではない。

 

 

『ロード! リッカの方が敵対サーヴァントと戦闘を開始しました! ロードの方にも二体のサーヴァントの魔力反応が迫っていま──────』

 

 

 ぷつん。

 

 ホログラムはそれっきり切れた。

 

 理由は、はっきりと分かった。眼前に迫る大量の魔力反応がホログラムの通信に影響を及ぼしたのだろう。

 

 

「“Excitation(励起せよ)”“Growing up(延び給えよ)”」

 

「お花畑でゴッホッホ! …………なんちゃって。イヒッ」

 

「──────ハァッ!」

 

 

 俺たちは突如として現れた巨大な────―回転する亀の甲羅? ────―に防御陣を組んだ。

 

 最初に俺が樫の木の鎧を纏い、ゴッホちゃんが鎧に向日葵を描く。

 更に、迫る甲羅へ蔦が纏わり付き回転数を落とす。沖田はその間に亀の甲羅へと斬り掛かり勢いを削いだ。

 

 

「“A wake(目覚めよ)”“Spring up(湧きあがれ)”“Beat me(鼓動せよ)”──────ぬんッ!!!!」

 

 

 俺はありったけの強化魔術を己に掛け、沖田に続き、甲羅を特殊警棒で殴って打ち返す。

 

 右腕が軋むが、ヘラクレス程ではない。

 

 

「『愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)』──────って噓でしょ!? 打ち返されたぁ!?!?」

 

「チッ……使えない女。やっぱり所詮は堕ちた聖女ってトコかしら」

 

「あ゛あ゛?」

 

 

 一息ついて声のした方を見れば、十数頭を超えるワイバーンの群れと、それに乗る二人の女性。

 

 俺は彼女らの正体を知っていた。

 

 キリスト聖堂の修道院(シスター)服に、聖杖を付く清らかな女性──―聖女マルタ。

 

 そして、露出甚だしい恰好とは裏腹に気品を感じさせる女性──―伯爵夫人カーミラ。

 

 

「さぁーて…………どうしよっかなー♪」

 

 

 俺は、鎧の下で喉を鳴らす。

 

 ここなら一般人もいないし、存分に暴れられる。

 

 密かに俺は目を細め、舌なめずりをするのだった。

今回の話のゴッホの宝具のように、特殊タグを付けた「揺れ」や「色付き」はあった方がいいでしょうか?それともない方がいいでしょうか?

  • あった方がいい
  • ない方がいい
  • どっちでもいい

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