第七魔法の使い手になりました   作:MISS MILK

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方針決定/急速な展開?

「じゃあ、今日はこのくらいで。いい加減夜も明けた」

 

『はい。失礼させて頂きます』

 

「ああ。短くても良いから仮眠はしっかり取るように。交代の要員ぐらいは居るだろう?」

 

『はい。了解しました』

 

 

 オルガマリー嬢は、隈の濃い瞳で頷いた。

 やがて数十秒のラグの後、通信とホログラムは切れる。

 

 俺は特異点下時間に合わせた腕時計を見た。

 

 時刻は、朝の六時半。

 太陽も顔を出し、白く眩しい光を放射する時間帯。

 

 俺は昨晩、マーリンとの会合を胸に秘め、朝を迎えていた。

 

 マーリンのお陰か、幸い獣の類は一切に来ず、襲撃してくるエネミーもいなかった。

 魔術師の修行過程で瞑想には慣れているので、睡眠は二日三日しなくとも支障はない。

 

 

「そろそろ起こすかな…………」

 

 

 焚火に乾いた木材を追加に投下する。

 パチパチと燃え盛る炎も落ち着き、メラメラと揺れている。

 

 

「まあまあ正史を辿っているようだが…………果たしてどこまで続くか…………」

 

 

 火の粉が宙を泳ぐ。

 俺はそれを見つめながら思考を巡らせていた。

 

 どうやらリッカちゃんの方は、無事………かどうか、意見が分かれるが所だが、取り敢えずあの場を切り抜けられたようである。

 

 オルガマリー嬢の報告によると、複数のサーヴァントの襲撃―――話によると黒王が大活躍だったとか―――を凌いだ後、原作通りにマリー・アントワネットとヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの二名と合流出来たらしい。

 

 順序や展開に大分ズレが生じているが、本筋からは大幅に脱線しないでストーリーが進んでいるようで一安心だ。

 

 また、本物のジャンヌ・ダルクと偽物の…………ジャンヌ・ダルク・オルタとも相まみえたとのこと。

 結構なスピード展開だ。

 

 

「さて」

 

 

 俺は膝に手を打つ。

 

 本日の朝食はどうしたものか。

 俺はスーツケースの中を色々と物色する。

 

 ………………昆虫食は絶対に嫌がられそうだしな。

 

 とやかく、昆虫食は気味悪がられるが、普段食べている抹茶とかも蚕の食べ残した糞だと知っている人間が日本に何人いるか。

 多分だけど、昆虫食が嫌がられるのは、蟲の姿のまま提供するからだと思っている。不快害虫って類もあるみたいだしネ。

 

 

「これかな」

 

 

 俺は朝食の食材を取り出す。

 無難に黒パンとベーコン、チーズ、鶏卵。

 

 フライパンを焚火の上に翳し、油を走らせ、ベーコンを並べる。

 適当に塩コショウを(まぶ)してしばらく放置。

 

 黒パンも遠火で温めて、チーズも表面を向けてじっくり溶かす。

 

 

「──────んぁ、んん…………朝ですかぁ?」

 

「ぬ…………ゴッホちゃん、お早う」

 

「ぁ、はぃ。おはようございます、マスターさまぁ…………ふぁ~」

 

 

 チーズの匂いに釣られたのか、ゴッホちゃんが目を覚ます。

 球体状の揺りかごから、欠伸を漏らしながら飛び降りる。

 

 俺は指を鳴らして術式を解除。ドングリは萎み枯れた。

 

 

「すみません。わたし、マスターさまのサーヴァントなのに一晩中休んでしまって」

 

「気にしなくていい。そう、気遣いが出来るだけマシさ」

 

 

 ほれ見ろ、と俺は沖田の寝ているドングリへ指を指す。

 

 

「ハッ! これは朝ご飯の気配! 沖田さんには分かります! 絶品の香りです! ロアさ~ん朝ご飯!」

 

 

 風で匂いを送るなり飛び起きて飯をせがむ沖田。

 お分かり頂けたでしょうか? これが日本の英霊です。ぐだぐだしてるなぁ…………。

 

 

「喧しい」

 

「あいたっ」

 

 

 指弾でドングリを額にぶつける。

 

 

「直ぐに出来るから待ってろ」

 

「はーい」

 

 

 ぐだぐだとした返事を聞き、沖田の方のドングリも術式を解除する。

 俺、寝ないんだったら寝床を作ったのは失敗だったな。

 

 ちょっとした後悔を残しつつ、俺はベーコンを裏返す。

 良い焼き目のベーコンの上に卵を割り乗せる。ちなみに俺は卵は半熟派だ。

 

 皆さんはどの焼き目がお好みだろうか? 

 

 

「ほれ、完成だ」

 

 

 木製の皿に目玉焼きの乗ったベーコンを滑らせ、軽くコショウを振る。

 そこに黒パンを添えて、そこにサバイバルナイフでチーズを押し乗せる。漂う香気と風味が食欲を誘う。

 おまけにコップにミルクを注いでやれば、簡易的ながらも朝食の完成だ。

 

 フォークを乗っけて二人に差し出した。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

 まあ、凡庸な食材を在り来たりに調理したが故に、味は特段失敗しなかった。

 

 俺は黒パンを齧りながら、スーツケースから適当に生肉を取り出す。昨日の調理しきれなかった分の余りだ。

 

 それをヒイロへと投げ渡すと、六足で器用に掴み取り啄む。

 蟲類の使い魔は雑食性でコストパフォーマンスの面でも助かる。

 

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

 

 朝食が終われば、旅の再開。

 野宿の痕跡を消し、道なき道を辿る。

 

 今朝の内にミーティングや擦り合わせは済ませている。

 

 昨日の目的地かつ集合地点の街はサーヴァント同士の戦闘で半壊。そのため、サーヴァントらしき存在の噂があるリヨンへと向かっているとか。

 

 距離的には俺たちの方が近いが、向こう側にはマリー・アントワネットのガラスの馬車がある。普通に考えれば、早く到着するのはリッカちゃん側。

 

 だがしかし、リッカちゃんたちにはマルタとの戦闘イベがある。恐らくだがリヨンに一早く着くのは俺たちの方。

 

 となれば、ファントムやファブニール、ジャンヌ・オルタやランスロットと戦闘する可能性が高いのも俺たち側。

 

 

「む…………」

 

 

 魔法の開帳をすれば全員座に叩き返す事も出来んこともないが…………逐一、使って殲滅していては魔力の運用コストが馬鹿にならないし、リッカちゃんたちの成長にもならない…………。

 

 ベストは良い感じに戦闘を長引かせて、途中乱入して貰うことだ。

 そうすれば戦ったという口実の元、戦闘経験も積ませられる。

 

 うむ。現状はその方針で行こう。

 

 

「げぇ…………こんなに距離あるんですか」

 

「沖田さま、一緒に頑張りましょう! ゴッホもいっぱい歩きますので!」

 

「うっ、純朴な瞳が心に刺さる……!」

 

 

 リッカちゃんの方は、黒王がいる。

 なんの問題もあるまいて。

 

 俺はぐだぐだとした光景を眺めながら、そう思うのだった。

 

 歩調を変えず、一定に、俺たちは歩き続ける。

 まだ見ぬ戦場へと向かって。

今回の話のゴッホの宝具のように、特殊タグを付けた「揺れ」や「色付き」はあった方がいいでしょうか?それともない方がいいでしょうか?

  • あった方がいい
  • ない方がいい
  • どっちでもいい

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