第七魔法の使い手になりました   作:MISS MILK

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ROUNDⅡ

 なんとも無理のあるスケジュール。

 

 ………………というか、この手の物語は常に薄氷の上で成り立っている。いくら強いとはいえ、部外者が入り込めば崩壊は必至か。

 ああ、だりー。

 

 俺は、世界の危機とは裏腹によく晴れた晴天を見上げる、

 世界は崩壊間際で、特異点にはカウンターのサーヴァントが現れるんだぜ? 聖杯でもそれぐらいしてくれるなら、アラヤとガイアも何かしらしてくれていいと思うんだが…………。

 

 

「沖田」

 

「? 何です、ロアさん?」

 

 

 首をコテンと傾ぐ沖田に俺は、呑気だなと感想を抱きつつもこれからの概要を伝える。

 ゴッホちゃんは、これから常に俺のサポートに回ってもらうので指示は今でなくともいい。

 

 

「ほら、あそこに見える街があるだろ」

 

「ええ、まあ」

 

「あそこの街の名前、リヨンって言うんだけどさ」

 

「はい」

 

「なーんか、サーヴァントいるっぽいんだよネ」

 

「はい!?」

 

 

 これに関しては原作知識とかではない。

 

 リヨンが見え始めて、距離が二キロ少し辺りからだろうか、街の方から魔力がすっごい流れてくるのよね。

 龍脈の流れとかも、供給量の大小が無茶苦茶でラインがズタボロ。

 

 恐らくだけど、聖杯に召喚されたバーサク・サーヴァントがいるんだろう。

 なまじ魔力リソースが足りないので、街の人達を吸魂して龍脈から魔力を吸い上げていると考えられる。

 

 そのせいで汚染された魔力が駄々洩れだが…………これ、ゼッタイに二体以上はいる。

 

 

「オルガマリー嬢、そっちの魔力計測器凄いことになってないかい?」

 

 

 俺がホログラムに呼び掛ける。

 ロマニの方は忙しいらしい。マルタとの戦闘が始まったのかね? 

 

 

『魔力の波が不規則に揺れています。周囲一帯の空気の魔力濃度も平均一定値を大幅に超えているので、サーヴァントが一体以上はいることが確実かと』

 

 

「だよね」

 

 

 原作通りにファントムだけなら沖田だけでも対処出来ただろうけど…………アタランテとかランスロットが来ては手に負えない。

 

 なるべく、リッカちゃんたちに早急に来て貰った方がいいな。

 

 

「こりゃあ、行商も全部食われた感じだな」

 

 

 リヨンからは人の気配がしない。

 まあ、サーヴァントがいるから当たり前なんだけど。

 

 と、俺は(おもむろ)に顔の前で右手を突き出す。

 右手をぐるりと回す。動作的には鍵開け。

 

 そして、捻った右手は高速で飛来する矢の胴体を掴んだ。

 

 …………ああ、こりゃアタランテ確定だな。

 

 

()ちち…………矢だってのになんつー回転量だよ」

 

 

 俺は摩擦で真っ赤に焼けた手を振りつつ、愚痴を漏らす。鏃ではなく、胴を握ってこれだ。

 

 どうして矢でそこまでの遠距離攻撃が出来るのか不思議でならん。

 俺的には神話を書いた馬鹿の誇張表記が原因だと思っているんだが…………。

 

 

「…………なんか、飛んできたんですケド」

 

「ああ、飛んできたな」

 

「飛んできました」

 

 

 沖田は真顔でこっちを見てくる。

 ゴッホちゃんは冷や汗を掻いていた。

 

 俺は手の中の矢を圧し折って、地面に放り捨てる。

 

 

「ま、そーゆー訳。沖田、血吐かないであそこまで矢避けながら近寄って、射ってるサーヴァント倒せる?」

 

「無理です無理無理無理無理…………っていうか、ロアさん普通に矢を素手で掴んでるですか。馬鹿なんですか?」

 

「喧しい」

 

 

 俺だって突然のことでビックリしたんだ。

 本当なら鎧纏って防御したかったわい。

 

 はぁ。神秘が強いってだけでこれだ。近代の銃器を扱うサーヴァントは形無しだな。これじゃ。

 

 

「大丈夫ですか、マスターさま」

 

「ん? まあな」

 

 

 俺はゴッホちゃんに焼けた右手を振って応える。

 破傷風とか化膿とか普通ならあるんだろうが、実際問題、俺は身体の中色々弄ってるし弄られてるから問題はないんだが…………見た目が痛々しいし、それなりに痛いので直すのが吉か。

 

 

「しばらく守ってくれるか、沖田?」

 

「んー…………矢だけなら大丈夫だと思いますよ」

 

「そうか。任せた」

 

 

 毎度思うが、幕末日本の英霊は神秘が限りなく薄い環境のくせに能力が限りなくバグってやがる。

 神秘を肉体と技術で追い抜くとか魔術師泣かせだわ。馬鹿にしてんのかこの野郎。

 

 俺は、スーツケースからアロエを取り出す。

 薄ーく、そして水分過多なアロエを伸ばして右手に巻く。

 ひんやりとした低温が心地よい。

 

 左手を翳して魔術名(マジカルモットー)を唱える。

 

 

「“A wake(活力よ)”」

 

 

 ぽしゅん。

 

 急速に萎んだアロエは水分と葉緑素を右手に明け渡すようにその身を枯らす。

 カサカサになったアロエを外して捨てる。

 

 俺は、すっかり完治した血色の良い白色の右手を握る。

 問題なく治ったようだ。これが、神経まで逝ってたら今以上の快癒魔術が必要になる。表面だけで良かった。

 

 

「あ、治ったんですか? 良かったですね」

 

 

 目線を上げれば矢を弾く沖田。

「よっ」という気軽な掛け声と共に振るわれる刀は、空気を裂いて飛来する矢を弾いていた。

 

 何が凄いって、ほぼ音速にも近い速度の矢を、鏃を狙ってピンポイントで撃ち落としているところだ。

 ここまでくると最早、曲芸の領域だ。

 

 

「ほっと」

 

「沖田さま…………凄いです」

 

「ふふーん! もっと沖田さんをほめても罰はあたら──―ごふっ」

 

「やっぱお前馬鹿だろ」

 

 

 矢を弾いた数が二十を超えた辺りからか。調子に乗った沖田が吐血。

 その間隙を突いた矢が五つ飛ぶ。

 

 俺は呆れながらも特殊警棒を抜く。

 

 

「うい」

 

 

 まずは一撃。警棒の展開と同時に先頭の矢を叩き落す。

 

 

「ほっ」

 

 

 返す刀で振り上げて一射目の裏にあった矢を打ち上げる。

 

 

「よっ、っと」

 

 

 上段から弧を描き、横凪に一閃。沖田とゴッホちゃんを狙っていた矢を殴り飛ばす。

 

 

ひゃふと(ラスト)

 

 

 俺の顔面目掛けて飛んできた矢を歯で止める。

 

 

「ペッ」

 

「「おおー…………」」

 

 

 この間、二秒の出来事だ。

 

 ふざけてるだろ? 二キロ以上先から相手の動きを読んで五射も放ち、仲間を守ることも前提に入れて放っていると来た。

 

 適応出来てる俺も大概だがな。

 

 

「ん………………なんか来てね?」

 

「来てますね」

 

「来てます…………沖田さんより早くないですか?」

 

「弱気になるなよ。こっちが心配になる」

 

 

 目を凝らすと外壁から飛び降りる人影が。

 あー…………痺れを切らしたのか、埒が明かないと踏んだのか。

 

 まあ、どちらにせよ俺らからすれば好都合。遠くからチクチクされるよりかはマシだ。

 

 

「他にも何体かいるっぽいけど…………あれの相手したい?」

 

「遠慮しときます」

 

 

 首を横に振り、手を小さく上げる沖田。

 

 

「OK なら邪魔が入らない様に頼む」

 

「はい、了解────―しました!」

 

 

 沖田は満面の笑みで真後ろへと刀を振り抜いた。

 振り抜かれた刀は幾ばくかの拮抗の後、背後にいた人物を吹き飛ばす。

 

 土煙を上げて転がったのは、仮面を付けた陰気な男、バーサク・サーヴァントのファントムである。

 

 

「ああ! クリスティーヌ! 私のクリスティーヌ! 貴女は今何処へッ!」

 

「ええい! 私はくりすてぃぬではありません! 沖田総司です!」

 

 

 沖田は、再び起き上がり襲い掛かるファントムと戦闘を開始。

 ついさっき血を吐いたばかり、速攻で片を付けるようだ。

 

 

「さ、ゴッホちゃん、こっちもなるべく早く終わらせよう──────“Excitation(励起せよ)”」

 

「はい! ──────習作ですがどうぞ!」

 

 

 俺は鎧を纏う。

 ゴッホちゃんは鎧に絵を描く。タッチが変わって、戦火に燃える蜂の絵だ。

 

 

「悪いが、倒させて貰うぜ」

 

 

 俺は、警棒を握り直し、スーツケースを構える。

 目の前には正気を失った獅子の耳と尾を持つサーヴァント、アタランテの姿。

 

 

「ラウンド(ツー)開幕ってな」

今回の話のゴッホの宝具のように、特殊タグを付けた「揺れ」や「色付き」はあった方がいいでしょうか?それともない方がいいでしょうか?

  • あった方がいい
  • ない方がいい
  • どっちでもいい

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