クー・フーリン。
ケルト神話の最強格にして世界各地、どこでもそこそこの認知がある英雄。
影の国の女王に教わった槍技もさることながら、ドルイドとしての魔術とルーン魔術も卓越している。その技量は、ケルト神話内の英霊で
但し、クー・フーリンを正しく強く活用するには、良きマスターが必要である。ここ大事。
「なんでここに……」
確か正史では、クー・フーリンはカルデアのメンツと共にランサーのメドゥーサと戦っているはず。ここにいるわけがないのだ。
いや、時間軸は正確に明記されているわけではないので、もっと後かもしれない。
「ん? どうした坊主……ん? 坊主って歳でもなかったか?」
彼はそう言うと快活に笑った。
一方で、俺は笑えない。
もしもここでキャスターに敵認定されてしまえば、サーヴァントとの戦闘になるからだ。
クラスがランサーの時の宝具、『
第一、英霊は舐めて掛かれる程、甘い存在ではない。
それは俺がかつて亜種聖杯戦争に参加した時に痛い程よく知ったことだ。
俺は英霊を舐めて掛かった魔術師が死んでいったのを何度も目撃している。
特に印象的だったのはエルメロイのケイネス氏だ。
「おい、どうしたよ? もしかして名も名乗れない奴なのか?」
まずい! 深く考えすぎて返答が遅れた!
キャスターの顔は敵対とまではいかなくとも渋面を作っていた。
「……ああ、悪い。こっちもこの状況に驚いていてな」
「そりゃあ仕方がねえな。いきなりこんな場所に放り込まれりゃ誰でもそうなる」
キャスターは、やれやれとおどけた様子で手を振った。
けれども真正面で相対している俺には分かる。
キャスターは俺の一挙一動を逃すまいと神経を張り巡らせている。
だよな。分かるぜ。
神秘がカス程も残っていない現代なのに、馬鹿げた神秘と魔力を秘めている人間がいたら誰でもそうなる。
俺だって、ゼルレッチの爺さんを見た時はそう思った。
とりま、警戒を解くことが最優先だ。
「紹介が遅れたな。俺の名前はクロノアス・メーガス・メイソン。気軽にロア、とでも呼んでくれ。こう見えても
「──―…………魔法使い。お前さんはその意味を正しく使ってるってことでいいのか?」
「無論。俺は冠位指定を受けている、現代に於ける五人目の魔法使いだ。もし興味が有るなら体験してみるか?」
「……いいや、
一応、俺も貴族。表情の隠し方は熟知しているつもりだったが、これには冷や汗が出た。
キャスターの眼が一瞬光ったのを俺は見逃さなかった。
マジかよ。遠慮しとけよ、冗談じゃねえ。
これだからケルト神話の鯖は嫌いなんだ。
「オレも紹介がまだだったな。オレの名前はクー・フーリン。今回の現界ではキャスターのクラスで召喚されている。現状の説明は必要かい、ロア?」
「出来れば頼む。俺も状況がさっぱりでな」
当然ながら嘘である。
俺はキャスターの話を半分聞き流しながら適当に相槌や質問をする。
知っている話をもう一度される程、面倒なことはないが致し方ない。
「──────ってな、訳で今はセイバーがこの状況を作ってる」
「ふ、む……なるほど。では、そのセイバーを倒せば状況が解決すると見ていいのか?」
「おう。多分だが、奴さんを倒せば解決すると思うぜ」
それからキャスターはこれ見よがしにニヤリと笑うと、手を差し出す。
「でだ、魔法使いさんよ。今は非常事態だろ」
「……そうだな」
「ここら一つ、オレらで共同戦線を張れねえかなーって思ってな?」
「それは…………仮契約ってことでいいのか?」
「おっ! 知ってんのか? こりゃ話が早くて良い。どうだ?」
「昔、他の聖杯戦争に参加したことがあってな……。っと、こちらこそ現状を知っている人と手を組めるのは本望だ。よろしく頼む」
俺はキャスターと握手を交わす。
同時に魔力のパスを繋ぎ、仮契約を済ませる。
体と魔術回路がキャスターと繋がったことを感じた。
右手に火傷を負うような違和感が走り、令呪が三角刻まれる。
カルデアの令呪は、カルデアからの供給で成り立っているものだが、こちらは俺の魔力で作られたものだと思う。
カルデアのものよりも幾分か強力なものになっていることは確実だ。
「令呪まで回復したのか? おいおい、どんだけ魔力あんだよ、
「これでも魔法使いなんでな、
お互いに笑みを交わす。
「それとだな、マスター。実はオレたちの他にも生存者が──────危ねえッ!!」
キャスターが話を切り出したと同時に俺は袖から特殊警棒を引き抜き、背後へと振る。
動きとしてはレイピアのターンに近い。
だがして、遠心力で引き伸ばされた警棒は虚空であったはずの背後の空間を捉えた。
「ナッ!!?? グギィャァアアアァァア!?!?」
「キャスターッ!」
「おうよ! ──―“
俺が殴り付けたのは、黒い外套を纏った人型──―サーヴァントだ。
殴り付けて吹き飛ばした直後、キャスターがルーン魔術で追い打ちを掛ける。
敵対したサーヴァントは火達磨になって吹き飛んだ。
攻撃の直前まで気付けなかったのは、
そうなると、相手は特異点Fで汚染されたアサシンのサーヴァント──―シャドウ・アサシンのハサン・サッバーハだ。
通称、呪腕のハサンと呼ばれる奴は、アサシンの語源ともなっている「山の翁」の一員である。
「大丈夫だったか、マスター!?」
「ああ、大丈夫だ。触れられてすらいない。…………しかし、直前まで分からんとは。サーヴァントと言うものはつくづく恐ろしいな」
「そうだぜ、マスター。どれだけマスターが強かろうと気付かない内にザクッとやられちまえばそれまでだ。気を付けてくれよ?」
「心得ておこう」
魔法使いとはいえ、無敵ではない。
かの青崎青子が最強ではなかったのと同じように魔法が扱えるからといって、俺は無敵ではないのだ。
前提として、俺の魔法は
油断は禁物だ。
「おやおや。ハサン殿、まさか人間相手に不覚を取った訳ではありますまい」
「グッ、グギッ、ダマレッ! キサマトハ、アクマデキョウトウダ。イツデモコロセルトイウコトヲワスレルナッ!」
シャドウ・アサシンのハサンに次いでやってきたのは、真っ黒に染まった槍兵のサーヴァント。
名はシャドウ・ランサーの武蔵坊弁慶。
「マスター……面倒なことになったみたいだぜ?」
「そうか? あれぐらいの相手ならば、俺とキャスターで事足りるだろ?」
「ははっ! 分かってんじゃねえか!」
キャスターは杖を槍のように持ちながら、俺の背中を叩いた。
蒼い髪を逆立てて犬歯を剥き出しにする様子は猛犬を思わせる。
かく言う俺も自然と口角が上がった。
憧れのFGOについに、やっと参戦出来るのだ。興奮するなと言う方が無理だ。
俺は魔術回路を起動して、礼装を展開する。
「キャスター、お前はランサーの方を頼む。俺はあのすばしっこい方をやる」
「サーヴァント相手だが本当にいいのか?」
「くどい。あの程度──────障害にもならんよッ」
「頼もしいこって!」
俺とキャスターは同時に飛び出した。
迎え撃つはシャドウ・サーヴァント、ハサン・サッバーハと武蔵坊弁慶。
FGOで初の対サーヴァント戦が開幕した。