第七魔法の使い手になりました   作:MISS MILK

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オルガマリーの絶望

 オルガマリー・アニムスフィアは絶望していた。

 

 

 

 時計塔の中でも栄えある「天体科(アニムスフィア)」の当代当主にして、人理保証機関フィニス・カルデアの所長である彼女は現状にただ絶望するほかなかった。

 

 今は亡き父の研究を引き継ぎ、右も左も分からない中、所長に就任した。

 

 幸い、彼女を支えてくれる人はレフ・ライノールを始めとして、ロマニ・アーキマンやマシュ・キリエライトなど、カルデアの職員たちがいた。

 

 しかし、それで彼女が安泰となったとは言えない。

 

 彼女を不安にする要素はこのカルデア内部だけでもいくつもあったからだ。

 

 

 当主の座を脅かす、キリシュタリア・ヴォーダイム。

 精神的幼稚さから来る地位と権力への重圧と責任。

 周囲環境への他組織の魔術師スパイの疑念。

 デミ・サーヴァント計画の非人道行為による英霊からの報復の恐怖。

 

 

 それこそ例を上げればキリがない。

 

 権威と立場から弱音は許されず、油断の余地もなかった。

 

 いくら外面で取り繕うとも、内面的な苦痛が消えることは一度として──────否、今も尚、その苦痛が消えることはない。

 

 

 極めつけには、この絶望的状況──―。

 

 

「マシュ下がって!」

 

「了解しました! 撤退します!」

 

 

 今の自分は何であろうか? 

 

 ただの人間がサーヴァントに適わないことは分かっていたはずだ。

 それは魔術師も例外ではなく、並の魔術師では……それこそ色位(ブランド)の魔術師でも、サーヴァントに勝てることは万が一にもない。

 

 なのに。

 

 なのに。

 

 なのに、なんだこれは? 

 

 何故、レイシフト適正が一滴程度しかない一般募集の少女が──―自分よりも役に立っているんだ? 

 

 

 分からない。分からない。分からない。

 

 どうしてこの状況下でまともにいられる? 

 一般人が、どうして魔術師よりも覚悟を決められる。

 

 

(私は……私は、アニムスフィア念願の──────)

 

「所長危ない!」

 

「えっ──―キャア!?」

 

 

 思考廻らす彼女の眼前に割り込むものがあった。

 大きく厚い盾である。

 

 デミ・サーヴァント計画の唯一の成功例、マシュ・キリエライトがオルガマリー、彼女への攻撃を防いだ。

 

 ランサー……紫色の髪をした妖艶な美女が振るう鎌をひたすらに耐えるマシュ。オルガマリーはマシュの後ろで尻もちをついて茫然と見上げていた。

 

 

「所長、先輩! 早く後方へ避難を! 長くは持ちません!」

 

「必死ですね、大変よい。でも、気を付けなさい。私の槍は不死殺しの槍。僅かでも受け損なえば、貴女は一生、サーヴァントとして不出来になるのですから!」

 

「くぅっ!?」

 

 

 マシュは苦悶の声を漏らす。

 彼女の持つ巨大な盾がミシミシと軋みを上げている。

 ……もしかしたら、その音はマシュの腕が軋む音だったのかもしれない。

 

 

「所長!」

 

 

 一般募集の少女がオルガマリーの腕を掴んで逃げる。

 言い方を正せば、第一線から退いたのだ。戦闘の邪魔にならないように。

 

 

「なんでよ……なんで私がこんな目に……!」

 

 

 恨み言を吐こうと事態は好転しない。

 苛立ちは募り、不甲斐無さと劣等感が立ち込むのみ。

 

 

『あっ! ようやく繋がったぞ! あれ、所長にリッカちゃん!? 強力な魔力反応のせいで繋がらなかったんだけど、どういう状況だい!? それにサーヴァント反応!?』

 

 

 虚空からホログラム映像が浮かび上がった。

 そこには橙の髪色をした青年が映っている。

 

「少し黙りなさいロマニ・アーキマン……!」

 

『ヒッ、ヒィッ! わ、分かったよ。だけどゆっくり出来る状態でもないんだろ? さっきからマシュのバイタルデータが凄いことになってるんだ』

 

 こうして二人が話している今も、マシュとランサーの戦いは続いている。

 

 

「この槍で傷付けられたものはもう二度と治らない呪いに掛かるのです。さて、貴女はいつまでマスターを守っていられるでしょうか? ほらっ!」

 

「ぐぅっ!? 先輩はっ、私が守りますっ」

 

 

 それはもう戦いとすら呼べない。

 

 ランサーの振るう鎌をマシュが大盾で必死に受けているだけだ。

 マシュが這う這うの体で防いでいるの対して、ランサーは本気だろうが、全力ではない。ランサーの顔に浮かぶ嗜虐の感情がそれを指し示していた。

 

 

「ロマニっ、どうにかしなさい!」

 

『ええっ!? どうにかって……無理だよ! こっからじゃ情報のサポートが精々だ!』

 

 

 情けない。

 

 根っからの魔術師と技術者が揃ってこの体たらく。

 正規サーヴァントでもない、デミ・サーヴァントが苦戦し、魔術の「ま」の字も知らない少女までが指示を飛ばしているにも関わらず、オルガマリーらは何も出来ない。

 

 

 

 

 出来ない。

 

 出来ない。

 

 出来ない。

 

 出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 何も──────

 

 

 

 

 

 

 

「出来ない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けば。

 

 目の前に。

 

 鈍銀色に。

 

 光った刃。

 

 

 

(死ん──────)

 

 

 

 オルガマリーは終わりを悟り、目を閉じる。

 最後に見たのはこちらへ何かを叫ぶマシュと、必死に手を伸ばす藤丸(ふじまる)リッカであった。

 

 オルガマリーの瞼には走馬灯が走っていた。

 

 優しき父の姿。

 

 魔術練習の風景。

 

 初めて見たアニムスフィアの展望台。

 

 輝かしく見えた社交界パーティー。

 

 全てが宝石のような思い出だった。

 この幸せな記憶を抱いたまま、死ねるのならば後悔は──―無い。

 

 

「…………?」

 

 

 だが。

 

 

「……?」

 

 

 どれだけ待てども。

 

 

「?」

 

 

 終わりはやって来なかった。

 

 待つこと刹那。

 

 オルガマリーは。恐る恐る。目を。開けた。

 

 

「──────もう少しまともな移動はないのか、キャスター?」

 

「間に合ったんだからいいじゃねぇか、マスター」

 

「キャスター貴様ッ! 何故、漂流者の味方をする? それにマスターまで……」

 

 

 紅く、眩しく映る彼は、キラキラと映る金髪が輝かしく、メッシュに入った褪せた銀色の前髪が色めかしい。

 

 久方振りに聞く、イギリスのネイティブイングリッシュが耳に心地よく聞こえた。

 

 

 

『……おいおい、嘘だろ……? ()()()()()()()()()()使()()()()()()()!』

 

 

 ここは特異点。

 カルデアからのレイシフト無しでは来れないはず。

 

 だとしたら目の前の彼は、カルデアが死力を尽くして修復しようとしている人理焼却に個人で耐えたことになる。

 

 在り得ない。

 けれども、目の前の光景は在り得ないことを証明していた。

 

 それに、だ。

 目の前の彼には見覚えがあった。

 あれは社交界でのことだ。

 

 そう、確か名前は……──―

 

 

「────―“壊れた時計(ジ・ストップ)”クロノアス・メーガス・メイソン」

 

 

 

 

 現代でも類を見ないレベルの魔術師もとい魔法使い、“冠位(グランド)”ロード・クロノアスであった。

 

 

 

 

「おや? 俺のことを知っているのか。立てるかい、お嬢さん?」




まず、言っておきます。
矛盾点と疑問点は分かります。

「特異点の世界線に生まれたのにFGO世界線のオルガマリーと面識があるんだ?」

でしょう?

理由としましては、現状二つくらい候補を考えています。
一つ目は、「転生したからどの変更世界線にも主人公が同時発生した」。ですがこれはFGO世界線にも主人公がいることになりそうなのでNG。

二つ目は「ゼルレッチとの戦闘時に並行世界へ送られた時に知り合った」。これなら……なんとか、ですかね?
いや、ちょっと無理ありますね。もう少し、練ってみます。失礼。

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