第七魔法の使い手になりました   作:MISS MILK

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同盟協定・称号解明

「ミスタ・メイソン……いいや、この場においてはこう呼びましょう。魔法使い殿、本件においてはどのような処置を致されるので?」

 

「ふ、む……」

 

 場所は打って変わり廃墟内部。

 一応、安全は目の前の銀髪少女……オルガマリー・アニムスフィアが敷いた魔避けの結界が辺りを覆って防御している。

 

 キャスターとマシュには席を外して貰い、正真正銘に魔術師しかこの場にいない。

 

 リッカちゃん? 彼女は一応だが瞬間強化の魔術を扱える。

 魔術師とまではいかなくても魔術使い程度には認めてあげてもいいだろう。

 

 

『ボクもそこは気になっていた。魔法使いとして()()()()()()()の貴方と言えども……“壊れた時計(ジ・ストップ)”の貴方と言えども、サーヴァントがいるこの特異点を生き残れるとは思えないんだ』

 

「む……まず、俺のことはノア、またはロアって呼んでくれて構わない。俺はその渾名が好きではなくてね」

 

『まさか! 魔法の域まで至った人を魔術に携わる者が呼び捨て出来るとでも!?』

 

 

 ロマニは大袈裟に声を出した。

 

 俺としては困るばかりだ。

 そう言えば、うちの使用人はどうなっただろうか? 無事だと良いんだが。

 

 

「あの、ロード……一つ、ご質問が」

 

「む。何だい、オルガマリー嬢」

 

「魔法についても気になるのですが……その…………渾名が好きではない、とは?」

 

 

 俺は突然の質問に些か、疑問を呈する。

 

 何せ、今まで出会ってきた魔術師の多くが魔法理論、術式形態についてしか聞いてこないものだったから。

 

「い、いえ! 答え辛かったのなら構いません! 単純な好奇心で──―」

 

「新鮮な質問だ。実に面白い」

 

「ふぇ?」

 

 前世でも目上にこれくらい意見出来る同輩が欲しかったものだ。

 

 実に面白いことだが、魔術師においては魔法と根源が神聖化され過ぎて、一般教養が欠けている。それでもこの少女は自己ではなく、他人のジンクスへの興味を優先させた。

 これはオルガマリー嬢が未だ魔術師というキチガイへ足を踏み入れていないことを示している。

 

 

「そもそも俺の母方の家の名前は分かるかな?」

 

「え、ええ、まあ。確か……レイシンシア・O・ハワードかと」

 

「その通り。そして、俺の渾名“壊れた時計(ジ・ストップ)”の前の通称は分かるかな?」

 

「…………“鍵付き(ザ・ロック)”。私の記憶が正しければ、ロードが封印指定される前の通称であったと記憶していますが……」

 

 

 俺はこれに頷く。

 

 

「そこだよ」

 

「え?」

 

「俺の通称、実は“壊れた時計(ジ・ストップ)”でもなんでもないんだよ」

 

「は!?」

 

 

 まあ、驚くよな。

 

 魔術界、引いては時計塔での通称や渾名というものは、コードネームだったり相手の真名に関するものであったりするので慎重に取り扱われ、畏怖を込めて呼ばれる。それが違っていたなどと思うまい。

 

 

「元々の俺の通称は元の“鍵付き(ザ・ロック)”に母方の性のOを入れてもじった単語、O’clockが渾名……“正鵠封鎖の懐中時計(ジ・O・クロック)”って渾名だったんだ」

 

「だ、だじゃれ……?」

 

「その通り。俺も、最初は困惑したんだが、こちらの方が本質に近くてね。これではマズイと思ったんで、“壊れた時計(ジ・ストップ)”の方で通しているんだ。The()The()なのは、その名残だね。有難く使わせて貰っているよ」

 

「な、なるほど……真名の隠ぺいの為にもそういう名前に……」

 

 

 俺は今、苦笑しているだろうか。

 目の前のオルガマリー嬢とロマニの唖然とした顔を見れば……あ、リッカちゃんがいるのを忘れていた。

 

 

「ぬ……これは失礼した。俺の名前はクロノアス・メーガス・メイソンだ。こんなんでも、君主(ロード)冠位(グランド)の位を頂いた魔法使いだ。ロアでもノアでも好きに呼んでくれ」

 

 今のリッカちゃんはカルデアの礼装も着ていないので、翻訳機能も何もない。普通に日本人なので、日本語で話さないとこちらの会話も分からないだろう。

 

「わっ……すっごい流暢な日本語……──―あっ、よろしくお願いします、ロアさん! 私は藤丸リッカです!」

 

「リッカ! この御方になんて言い草を! 魔法使いなのよ!」

 

「ふふっ……気にしないでくれ。そっちの方が気軽で良い」

 

 

 思わず彼女らの漫才に笑ってしまう。

 なんだろう? ずっとむさ苦しいキャスターといたせいかな。キャスターといた時よりも空間が幾分も清涼なものに思える。

 

 

 

「所長所長。魔法使いってどれくらい凄いんですか? 私、ロードとかグランドとか難しいの分かんなくて」

 

「あのね、リッカ。冠位(グランド)というのは魔術の世界での最高位の権力を持つ称号よ。君主(ロード)はその次位に凄い称号。魔法使いは、貴女のような一般世界で言えば、『宇宙の謎をすべて解明した』くらい凄い御方なのよ」

 

「ええ!? ロアさんってそんな凄い人なんだ!?」

 

「だからあんたねえ!」

 

 

 姦しく喧嘩を始める彼女ら。

 

 その横で俺とロマニは会話を続ける。

 

 

『ロード・クロノアス。貴方はどうやってこの特異点へ? まず、普通の術式では耐えられないと思うのですが?』

 

 

 ゲームとかアニメで見る剽軽(ひょうきん)な彼は鳴りを潜めている。

 これが外向け用の面か、素なのか……うん、外向け用だな。

 

 声が上擦っているし、表情筋が硬い。

 

 ここで、カルデア一行と会話する時に気を付けることは、人理焼却については話さないことだ。

 現時点のカルデアはこの人理焼却がゲーティアの手によって引き起こされたことを知らない。そのため俺が人理焼却について話したら「何でそんなこと知ってるんだ!お前が主犯だな!」みたいな感じになりかねない。

 

 

『なっなにか?』

 

「ああ……いや、緊張している君の様子が面白くてね。で、なんだっけ? どうやってこの特異点に耐えたのか、だっけ?」

 

『ええ……』

 

 

 ここらでの暴露なのだが、俺はこの特異点Fに関して重大な勘違いをしていたみたいだった。

 

 そう、俺は当初、「俺が転生した世界が特異点FになるFate系列の世界」だと思っていたのだが……。

 

 

『特異点化に巻き込まれたぁっ!?』

 

「ああ、そうみたいなんだ。俺もキャスターに話を聞いて理論立てたんだが、最初の方はゼルレッチの爺さんに嫌がらせに並行世界に送られでもしたのかと思ってた。しかし、少々毛色が違くてね……」

 

『宝石翁のことを爺さん……? ──────ああ! 所長との記憶ですね!』

 

「正解。俺が特異点化した世界の人間ならばオルガマリー嬢との面識や記憶があるはずないんだ」

 

 

 今言ったことは、ほとんど正解に近いと思われる。

 

 要約すると「俺が冬木市に行ったタイミングで人理焼却が執行され、特異点F化された冬木市に巻き込まれた」だ。

 

 原点となる世界に俺はいたのだ。

 だから俺はモデルとなった冬木市にいたので、特異点化した冬木に巻き込まれた。

 

 トンでも理論だが、俺にレイシフト適性があり、莫大な魔力、由緒正しい霊地が揃えばそう難しいことではない。

 

 レイシフトに関してはただのラッキー、その他は完璧に材料がそろっていた。

 魔力は俺が魔法使いの時点でお察しだし、冬木には龍脈も存在している。

 

 う~ん、都合が良い。

 

 オマケにダメ押しとばかりに聖杯とかいう願望器が特異点に使用されている。

 

 

『確かにその理論なら納得がいく……では、ロード・クロノアス。貴方はこちら、フィニス・カルデアに何を要求しますか?』

 

「何とも物騒な声色だ。そう難しいことを頼む必要はないよ。頼むことはたった一つ。()()()()()()()()()()()

 

『英霊に……?』

 

 

 ここら辺の理由は、原作キャラには分からないだろう。

 俺達FGOファンがどれだけ英霊に会いたいか、なんて。

 

 俺の頼みをどう受け取ったのか、ロマニは慎重な面持ちで頷いた。

 

 

『本当にそれだけならば、こちらは是非を問いません。こちらこそよろしくお願いします、ロード・クロノアス』

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 

 

 頭を下げるロマニに思わず苦笑い。

 本人を目の前にすると、人理修復への熱意が事細かに分かるというもの。カルデアは本気で真剣に人理修復に挑んでいるんだな、と実感させられる。

 

 俺は未だ口論を繰り広げている少女ら二人に声を掛けた。

 これにはロマニもこめかみを抑えている。

 

 

「同盟を組むことが決まった。遅れるなよ」

 

 

 聞くや慌ただしく付いてくる彼女らに気が抜ける。本当に命が掛かっているのを理解しているのかさえ疑う。

 

 俺は、キャスターとマシュのいる方向へ歩みを進めた。


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