二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

10 / 41
研修と言う名の探索活動

 魔法学院の研修は安全になったとされる古代遺跡で行われる。

魔物の類は激減したが戦う訓練も出来るし、何よりも当時の遺物が遺跡自体に残っている事もあるからだ。持ち去る事の出来ない物は、当然ながら国の所有物。それらを眺めながら研究室ごとの議論・実践を行うモノのである。熱田魔法学院に避ける二重遺跡ナゴヤの本来は研修も同様であった。

 

「こいつが航空図です。それと付近の鉱物反応がこいつでさ」

「大したことがないのは知っているが……。この組み合わせは面白いのう。森君はどう思うかね?」

「自分の専門ではありませんが夢が広がりますね。今までにない着想です」

 前田啓治は最初の日程をとにかく地図作成に充て、付与の教師たちに提出した。

まずは長老である平手学に手渡し、そのまま森明夫に流れていく。最初の一枚はただの地図だが上空から見た建物や移動経路を示し、二枚目はその付近に存在する鉱物の分布である。それぞれは既存の地図が山ほどあるのだが、この二つを見比べるという視点が面白かった。三枚目にこれを重ね書きし、色の違うペンで上書きすれば猶更である。

 

「この後は振動探知のアイテム借りて宿舎や研修所の近くから改めて調査を始める予定っすが、何かあれば先に片付けときますよ?」

「ああ、魔王軍がここを襲ったという前提だったな。振動探知と言う事は地下壕に領主が使う秘密の通路を探すという感じか」

「さいです」

 堕ちた魔導師の手段として啓治が想定したのは地下からの奇襲だ。

浮遊都市が別の都市の上に落下したという事は、下の方の都市が持つ地下区画だけでなく建物が潰れて出来た空洞がある。現代の建物ではひとたまりもないが、古代王国時代の建造物ゆえにまだ無事な場所が存在してもおかしくはない。そして中途半端通り道であったとしても、問題の人物が拡張している可能性はゼロではないのだ。

 

「領主が使う逃走経路にせよ、領主の縁者が魔王軍の幹部になったという設定にしろ考察にゃあ役立ちますから。ま、実際には通路じゃなくて建物と建物の隙間になると思いますがね」

「徒労に終わる可能性の方が大きいが、実際の建物でやるわけにはいかんしな。実際に使う事は稀だろうが何事も興味は大切だ、やって見ろ」

 話自体はリアルっぽくこじつけた架空の推測である。

しかし研修中に調査活動を行うには十分な理由になるし、そもそも堕ちた魔導師が穴を掘って居るかの調査なので道が無くとも問題はない。宿舎や調査区画から探査を始めるのは居城と言う設定だからというのもあるが、自分たちの寝床へ奇襲されたら困るというのもあった。こうしておけば最初の奇襲で何人かが死んだとしても、残るメンバーで籠城くらいは出来るだろうという算段である。

 

「念の為に聞いておくがこの辺りに居る魔物は知っているな?」

「コブリンの他はトロールっすよね。同じ穴に潜むならジャイアント・アントの方が材料になるんで助かるんですが、装備も借りてますし注意はしときますよ」

 この辺りに住む魔物はスタンダードである。

ゴブリンを中心としてトロールやオーガが隠れ潜んでおり、その数も多くはないので殲滅自体は難しくない。問題は遺跡が大き過ぎるので、封鎖など出来ないのだ。何度も入り込まれて繁殖されるので、半ば軍隊の訓練用になっている。勿論研修前には一定数を狩る事に成って入るのだが……。

 

(お役所が『この位なら大丈夫』だと思ってる数に加えて、持ち込んだ手持ちの魔物で戦うって所かな? 特殊な魔物と強化個体を加えりゃ負けることはまずねえもんな。それに……教師陣さえぶっ殺せるなら魔物が負けたっていいんだ。もしジャイアント・アントやケイブ・ワームの巣でもあれば言うことなしで楽勝なんだろうが)

 堕ちた魔導師に視点を移すならば良い博打と言えるだろう。

消耗品の戦力自体は現地に居るわけだし、通路を掘る準備だけして手持ちの戦力を隠しておけば良い。穴を掘る魔物と魔法を無効化する魔物を数体ずつ、後は魔石を使って強化個体を作る実験だけしていれば使い捨ての軍隊が出来上がるのである。所詮は現地に居る魔物が死ぬだけだし、実験用の個体はいずれ死ぬのでやはり問題はない。

 

「ホントーにここから調べてくの?」

「あったりまえだろ。足元に大穴あった日にゃ積み上げた諸説が全部吹っ飛ぶぜ。まあ実際に穴があって魔物が隠れてたら大事になるけどな。……失礼ーしやーす」

 柴田晶を連れて啓治が向かったのは教師陣の詰め所だ。

そこは学術主任の林教諭ほか数名が詰めており、彼らの元で研究している生徒もまた入り浸っていた。ここで何をやるか聞いているであろう囃子はともかく、生徒たちは奇異の視線を向けてくる。

 

「森先生から話があったと思いますが、探知魔法を使用させてください。呪文の起動時間を越えてお時間は取らせませんし、魔力反応があると問題がある実験中であれば出直します」

「問題は無い。……確認だけするが、魔王軍が都市を攻めるとしてどの程度の戦力を考察に入れている?」

 啓治の渡した許可証をつまらなさそうに受け取った後、林教諭が尋ねて来た。

少しばかり戸惑ったが以前の話を思い出し、英雄願望があると聞いたことに至る。おそらくは暇潰しにその辺りの考察に付き合うつもりなのだろう。誤魔化しても良いがここで話を振るのも良いかもしれない。念の為に部外者が居ないの確認して、啓治は話を進めた。

 

「幹部候補の野心ある魔導師が、都市に眠る資料を奪いに来るレベルで考えています。危険思想で追放された領主の縁者、あるいは学園で禁術を行った生徒とかですね。もちろん自身も優秀であり、足りない戦力を実験中の魔物で補うという想定にしています」

「……厭に具体的だが吸血鬼や知恵あるトロールではないのだな」

 啓治は事件のあらましをオブラートに包んで話してみた。

すると林は定番の魔物を上げ、いかにも四天王でございというメンツを列挙する。何百年も生きる吸血鬼であったり、トロールであっても古代種などは危険だと知られている存在だ。強力かつ格好良い敵と戦うのはロマンであろう。

 

「先生が宮廷魔導師であったとして、その辺りの危険性を見逃すとは思えません。むしろ厄介なのは身内かと。お礼参りに来る生徒の中に、天才の一人や二人は居ませんでしたか?」

「まったく夢も希望もない話だ。さっさと済ませ給え」

 林は許可証に目を通した後で啓治渡し、手を振ってもういいと話を終わらせた。

本当は議論するなり追放された生徒について尋ねてみたいところだが、あまりその話をすると藪蛇になる。また人間関係というものもあるだろうし、元は友人だったりすると面倒なことになるからだ。

 

「……なんだが意外ね。あの林先生が夢とか希望を語るなんて」

「浪漫ってのは誰にでもあるもんさ。大きな空間の他に、現在進行形で穴掘ったり溶かしてるような音が聞こえたら教えてくれ」

 教条主義者の林が魔王軍の話をしたのが意外だったのだろう。

話したくなるが流石にそれは居心地が悪い。喋るとしても二人きりになった時に口止めしてからになるだろう。ひとまず本拠地に当たる場所の警戒を行いながら、徐々に捜索場所を広げていったのである。

 

そして振動探知で何もない空間や工作作業を確認していくと、やがて目立たな場所でソレを見つけた。上空からは見えない位置であり、また教師陣が本拠地にしている場所へ短時間で強襲する事が可能な場所であった。それは現代で言えばビルに当たるような高い建物だ。どうやら敵は溶解液か何かを上層階から垂らすことで、大きな建物状の瓦礫を空洞にしていたのである。




 サクサクと調査、特阻む物はないので次回戦闘になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。