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もしその日の出来事に評価を付けるのであれば、誰もが間違えたというべきだろう。
敵も味方も介入者も保護者の、誰も彼もが少しずつ対応を間違えていた。前田啓治であれば二周目を始めた時の用心深さを放り投げ、熱病へ浮かされる様に熱心な探索をしてしまっていた。その姿を誰かが見ていると思いもせずに……。
「結局、何も無かったね。骨折り損のくたびれ儲け」
「それでいいんだよ。この辺までに何かあったら宿舎にしてる場所が魔物に襲われ易いって事だからな。もうひと踏ん張りしたら今日の所は終わっとこうゼ」
啓治は柴田晶子と共に振動探知の魔法を掛けて回った。
上空から見て直接確認できないエリアの内、ベースキャンプへ直接移動できる……ほど近いエリアには何も無かった。正確には探知魔法に反応があるほどの際立ったナニカがなかったというべきか。この呪文は接触したエリアで動くナニカが居るか、あるいは何もない空間があるかどうかを振動で探知する魔法だ。姿を隠した存在や、隠された空間を探知できる呪文と言える。特段の反応が無いと言う事は、寝込みを襲われでもしない限りはキャンプは無事で済むという事である。
「おやおやおや。こんなところで熱田の新入生たちと出逢うとは奇遇だねぇ」
「ええと、細川先輩でしたっけ? それと同級の明智君だったかな」
「そーですね。こちらは細川武人先輩です。僕の事は彰でいいですよ」
暫くして出逢ったのは王都から来て合同で研修している細川と明智だった。
よく見れば他にも取り巻きが居るが、傍に寄る事を許可されていないのか遠巻きに眺めている。モブと言えば聞こえは悪いが、走って行っても抜け出せそうにない感じで囲んでいるので気分が悪い。やっている事が不良とどこが違うのだろうか。きっと言い訳と教師の評価だけは違うのであろう。人は世間体やらコネクションで評価する物だから。
「もう帰るのかい? 奇遇だねぇ。私たちは交代制で今から探求を始めるんだよ。せっかくだから地味な探索を引き継いであげようかと思ってさ。グッスリ休んでまた明日外延部をやったら良いんじゃないかな」
「……資料が必要ならセンセ達に提出しますよ? 明日にでも請求したら放っておいてもコピーもらえると思いやすけど」
言い方だけは丁寧だが露骨に成果を奪おうとしている。
啓治ならずとも顔をしかめるし、計画の最初からならともかく飛び回ったこの段階で顔を出されると機嫌が悪い。寮監であり研究室の先輩でもある柴田哲章から気を付けろと言われているので猶更でもある。ただ後から言わせてもらうならば、細川兄弟のイケメンぶりとゲスさをもう少し忠告しておくべきであったろう。半端な情報が啓治に隔意を持たせてしまった。
「それじゃあ時間の無駄じゃないですか。先輩のおっしゃる通り僕らはこれからなんで。もし見つけたとしても今だと危険じゃないです?」
「彰! 余計な事は言わなくてもいい! それにアレが……なんでもない」
(ハハーン。こいつら、俺が何を探してるかまだ絞り切ってないな。ヤバイ魔物だと考えてる奴と、古代遺跡のマッサラなヤツが埋まってるってとこかね?)
啓治が年齢相応の学生であれば聞き取れなかったかもしれない。
だが前世の冒険者暮らしでは、身内間の会話や敵対するチームのサインを見抜くことは重要だ。話の全てを聞き取りれずとも何となく内容は察せるし、まして相手は学生でしかない。この連中は重要そうな情報を確保したのだろう……その程度の認識ではないかと判断した。だから交渉で適当に使おうなどと思ってしまったのだ。後から思えば、この時点で何もかもブチまけて『魔王軍の連中かもしれない』とでも言えば、全員はともかく何人かは信じたかもしれないのだから。誰かが警戒して居れば、それだけで初期対応は違っただろう。
「そこまで言うなら構やしませんが、一つ忠告いいですかい? 一応でも聞いてくれるならお渡ししますよ」
「ちょっと啓治! せっかく私たちが調べたデータなのよ? 横から取られたら……」
「幾分か判って居る様じゃないかね。後で便宜くらいは図ってやるとも。お嬢さんはちょっと上がって向こうに行っててくれないかな」
啓治の言葉に晶子は騒然とし、抗議しようとした。
しかし細川武人が手を伸ばそうとしたので、啓治が強引に肩を抱いてその位置を退かせつつ守れる態勢に入る。こんな事で顔を赤らめて黙るくらいなら文句を言うなと言いたいが、学生同士の恋愛とかだとこんな者だろうかと今更ながらに思うのであった。
「っち。まあいい、忠告とやらを聞かせてくれるかな? 一応は聞いてあげようじゃないか」
「戦力想定の話っす。ケイブ・ワームかジャイアント・アントのコロニーがある可能性があるんですわ。どうも卒業生の誰かが有望な場所を見つけて放り込んだと見込んでるんですけどね。奴らは建材は溶かしますが魔法の品は溶かしませんので」
「放り込んだって闇魔法の影渡りでですか?」
最初は舌打ちをしていた細川武人だが、啓治から資料を受け取ると相好を崩した。
目の付け所はともかく、データの意味するところを瞬時に理解する頭脳は持っているのだ。だからこそ啓治が系統だって調べて回っている事を、何らかの情報を得たと気が付けたのだろうし、地味な探索を他人にやらせておいて美味しい所だけを攫って行こうとするゲスな部分が見え隠れていると思われた。
「……確かに松永譲治なら可能なのかな」
「松永? そいつは禁忌の研究でもして追放……」
「彰! そんな奴は放っておけ。チームを別けて一気に攫って行くぞ」
ここで得られた情報としては、松永譲治という男の名前だけだった。
もしとか、あの時にこうすれば……というのは良くあるイフであるが、ここで腹を割って全員で相互認識を共有して居れば話は違ったかもしれない。ただそれを行うには常時はもっと前の段階から彼ら王都組の性格を理解する必要があったし、そのためには遠巻きに無視するのではなく積極的に交流を図るべきだったろう。彼らにもこちらで色々と成果を上げる必要はあったのだろうし、『有望な情報を手に入れたが手が足りない、熱田の者は信じてくれなかった』とでも言えば、交渉に応じた可能性はあったからだ。しかしそれらは全て過去の話である。
「ねえ? 良かったの? せっかくあれだけ啓治が苦労したのに」
「そこは良いんだよ。……実はヤベエ奴がうろついてるって話を聞いてな。胡散臭いどころのはなしじゃない奴が色々と何かをやってたって噂さ。最初は信じてなかったんだが……あの様子だともしかするともしかするかもな。ちょいとセンセーたちのところに戻ろうぜ。松永譲治って奴の事を聞かにゃあならん」
肩を抱いたまま顔を赤らめてる晶子に啓治は囁くように語った。
これだけ飛び回って得られた収穫は怪しい奴の名前だけ。しかもそれは王都組が想像してるだけで違う可能性があり得る。しかし啓治としては徒労になりそうな部分を他の連中がやってくれるならばアリかと思ったのだ。彼にとっての本命は外延部からの包囲であり、遺跡の外壁に穴を空けて援軍を呼び込む算段であると思っていたからだ。
最終的に啓治が警戒すべきことはもう一つあった。肝心の堕ちた魔導師が、自分を探そうとする者を警戒しているかどうかという話だ。王都組が名前に思い当たった通り、この辺りにその人物が研究成果を隠していた可能性はあるのだ。ソレを考えたならば警戒してしかるべきだったろう。もし全ての話を細川武人や明智彰と話して居ればもっとこの後の話は変わっていたのかもしれない。
ワクチンの副作用からようやく復帰。とりあえず戦いの前の話ですね。
ちなみにアキラという名前が多いのは、偉い人にそういう名前の人が居て
その名前にちなんだ名称が多いため。人とか信とか、もそういうのが年代でずれてる感じです。