二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

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終わりノナゴヤ:中編

 二重遺跡ナゴヤでの事件を、前田啓治の一周目では『終わりのナゴヤ事件』と呼んでいた。

実績のある魔法学院の中でも神剣を目指す付与系が強い熱田はかなり有名どころで、王都からの共同研修組を含めて多くの教師と上級生がナゴヤで死んだ。この事で学府としての熱田は、ほぼ完全に絶たれたと言っても良かったからである。後に木下勝平が名を馳せた時も、むしろ冒険家としてである。

 

「松永? 貴様、その名前を何処で聞いた? 何処まで掴んでいる」

「王都組の連中が言ってたんですよ。俺らから資料を奪う時、ここに松永譲治の残した研究資料があるかもしれないって。俺が知ってるのは最近妙な奴があちこちの遺跡をうろついてるって話と、もしかしたら……ですが、魔物の強化個体を作る技術でも開発したんじゃねーかなと思って」

 早速戻って学術主任の林教諭に泣き寝入りをして見せた。

事が事だけに万が一を考えれば権限は大きい方が良いし、そもそも知って居そうなのが長老である平手とこの男くらいしか思い当たらなかったのもある。熱田魔法学院にはキメラの研究室はないし、追放された人と仲が良い相手なんか知り様がなかったからだ。啓治はこの時に場当たり的に説明しつつ……手持無沙汰を誤魔化すように魔石を弄って見せた。

 

「……。どうしてそう思う?」

「コイツですよ。俺らが色々探知魔法を駆使して地脈やら瘴気溜まりやらを見つけて作る魔石。こいつが偶然に魔物の体内から見つかる事が何例かあったそうです。それも決まって強化個体。かといって魔物が強くなったとか、進化したって話は聞きません。で、怪しい魔導師の話を聞いたら……そりゃね」

 そういって啓治は魔石を転がした。

推論自体はでっちあげだが、偶然に魔石が見つかる事態だけは冒険者の佐々香奈から聴いていた。後は彼女が知らない魔導師の話をくっつけ、他の冒険者から動員にそういう怪しい人物がいたかどうかを聞いておけばでっち上げ自体は可能だ。そういう傍証を狙って横断的に情報を集めている訳だから、『後から見ればそうだった事件』も、狙って集める事自体は可能なのである。

 

「とはいえこの辺が結びついたのは今です。さっき王都組が漏らした名前を聞き、先生がいきなり剣呑になる前は普通に俺だってただの妄想でしか考えてませんでした。今朝がたまでだしたレポート通り、面白そうだからとか話の整合性が整うから魔王軍の襲来とかストーリー仕立てにしたわけで……あれ? もしかしてセンセ―達は魔王軍を疑ってなさる?」

「それ以上余計な事を言うな。判ったら平手先生を呼んで来い。あの人と話を付けて……」

「大変です! 魔物がいきなり増殖しました!」

 啓治が話の落着点に収める前に、事態は動き出した。

急な話であると言うなかれ。啓治が二周目を始めるときはある程度警戒していたはずだが、今ではその警戒心を解いてしまっている。大それた事をしでかそうとしている堕ちた魔導師が、己の所業を探ろうとする者を監視して居ない訳がないのだ。それが啓治だけならば近くを探した……だけで済もうが、王都組が集団で捜索していては動くなという方がありえまい。

 

「状況を知らせ! 必要な事だけで良い」

「ジャイアント・アントの酸型が多数! 何処かにコロニーがあったと思われます。ただ……その数と強さが異様です! 周辺で研修していた王都から来た生徒の一部は、既に……」

「あちゃあ。寄りにも寄って蟻んこの方だったか」

 啓治の想定ではジャアント・アントとケイブ・ワームの二種があった。

どちらも酸で地形を融かしつつ、同時に凝固液を撒いて自分たちだけの住処を作り上げる種族の魔物である。しかし野生生物に近い生命体ゆえに魔物探知が壁越しでは効果を発揮し難い。そして何より……マザーを中心とした母系社会を築くことにあった。マザー一体を強化して操って支配下に置けば、効率的に作業させることも出来る。手出し禁止のフェロモンを付けておけば、末端の個体に食われることもないので楽なのだ。

 

「前田。貴様のレポートと予測は知っている。確認するがどうして蟻の方が厄介だ? 対策上の問題として聞いておこう」

「蟻は殻がある分強固です。それと数が増えると頻繁に巣内の株分け、巣自体の巣分けを行う性質があります。数と防御力の面で倒し難いんで、ワーム種よりも余程厄介ですね。こっちから攻め立てるならワームの方が深くて生命力が高けーんで厄介なんすけど。それと……」

 林教諭はあくまで冷静に啓治の反応に大した。

手元では緊急用の連絡網で他の教諭や一部の上級生を呼び出しつつ、即座に対応策を組み上げていく。啓治はそれに対して個体の強さ、数の厄介さを面倒な点として挙げた。

 

「それと?」

「蟻だけなら大火力の魔法で押しきれます。もし松永譲治が悪意を持って用意したなら、数だけ居る蟻で済ませるとも思えません。火力対策なら生命力のあるワームの方がよほど厄介っすから。なんで魔法が効かないナニカを潜ませて、先生たちの魔法を無力化する準備はしているかと。今日は夕刻なんでみんな魔力すり減ってますが、それを期待するのは馬鹿のやる事っすよ」

 少しゲームの様に考えてみて欲しい。

一人の魔法使いが儀式魔法や魔法陣抜きで、当たり前に出せる火力が平均で20~30ダメージくらいだとする。ジャイアント・アントは数こそ多いがそれ以下であり、範囲も拡大して吹っ飛ばせば一気に片が着いてしまうのだ。対してワームは個々の能力が低く鈍重だが、生命力が50を越えてる個体は珍しくない。マザーであれば100に達するだろう。その意味で単一種であるならばワームの方が主力足り得るのだ。

 

「なるほど、正論だな。仮に現時点での対策は?」

「付与魔法や強化魔法を一点に絞っての、有力者による特化点を作ります。いわゆる勇者戦法ってやつっすね。流石に魔法の武器は数を揃えられないっすけど、威力向上や活性化で個人の能力を引き上げれば、魔力を無力化するナニカにも対応できるかと」

 林と啓治は短い時間で最低限の話を終えた。

幸いにもというか、啓治はこれまでの間に考えていた推論がある。ソレを今の状況に当て嵌めつつ、蟻である理由とワームである理由を引き合いに出し、ナニカを混ぜやすいから蟻にしたのではないかと提案したのだ。もちろん一周目で情報が無いながらも、優秀な魔法使いであった教師陣が何もできずに倒されたことも推測を裏付けているのだが。

 

「筋は通るが少し足りんな。弟の祥太郎に複合魔法で焼き払わせよう。あえて向こうの誘いに乗って弱い部分を見せる。……まあ貴様の言うように皆の魔力が残ってないからでもあるがな。さて、話はここまでだ」

「……センセが出陣なさるんで?」

「私は事務方で魔力が残っているからな。それに……貴様の推測が当たって居るならば私の方が平手先生よりも戦えるだろう。この機会は逃せまい」

 そういって林は煙草でも入って居そうな袋を服の中に放り込んだ。

口元には細巻きを咥え、不敵な笑顔を浮かべて前線となっているエリアに向かい始める。教条主義者であるこの男にそんな顔が出来たのかと言う驚きがあった。後、ついでに言うと、話の筋からして長老である平手がいかにも強そうではないか。

 

「貴様はもういい。私は祥太郎に話を付けてからそのナニカとやらに対処を行う。今のうちに森先生や寮監の柴田と話を付けて置け」

「へい。御武運を」

「言うまでもない……それと貴様もな」

 颯爽と去る林を見ながら、一周目ではどうして良く知ろうとしなかったのかを悔やんだ。

もちろん知っていたとしても死なせていただろう。しかし人の生き死にを知り、誰かのために戦おうという姿勢を知る事は重要ではないかと思う。きっとこれが知識で知る事と、実体験で知る事の差なのだろうと……何となく理解できるものがあった。

 

「さてうちの先生と柴田のアニキはッと……晶、何処に居るか判るか?」

「あそこ。ピョンピョン跳ねてるのは平手先生ね。信じられないけどすっごく強いわ」

 昼頃まで調べていたエリアまで戻ると、そこではジャイアント・アントとの戦いが繰り広げられていた。

無数の蟻たちは人間よりも一回り小さいのだが、それでも一般人の兵士よりは遥かに強い。そして兵隊蟻になるとさらに強くなり、それが量産されるという危険性があった。そして驚くべきは、その兵隊蟻に対して無双している老人の姿である。

 

手にはヴォンヴォンと唸る光の剣。パパッと跳ねて飛び掛かり、切断しつつ周囲から吹きかけられる蟻酸を光の盾で防いでいる。それぞれ技量も然ることながら、魔物対して優位性を持ち、バランスの採れた光魔法ならではの強さであろう。覚えるのが難しいが、それだけに完全に習得すればこの強さなのだ。

 

「もしかしてこのまま行けるんじゃない? 勝てるかも」

「いや、無理だ。確かに強いが平手先生が強いのは強いが、その事を松永ってのが知らない訳がねえ。知って居て蟻んこをぶつけたんだとしたら……魔力を消耗させるのと、注意力を割く為だな。光の剣はあくまで魔力の刃だ。魔力を無効化する魔物が居たら勝てねえんだ。晶、今のうちに柴田のアニキと森先生に連絡を取るぞ」

 平手学という教師陣の長老は、実力で頂点に立って居たわけだ。

まさかと言う驚きもあったが、だからこそ絶対に勝てないと悟る事が出来た。全ての教師よりも強い教師が居たとして、堕ちた魔導師が対策を立てない訳はない。老人である平手の体力・魔力・判断力を奪い、消耗した所で本命をぶつける気だろう。

 

「森先生! 忙しい所すんません! この蟻たちは魔王軍の陰謀かもしれねーって話覚えてますかね? アレの可能性が出てきやした。その内に魔法が効かない奴がいるかもしれないんで、柴田のアニキと一緒に一時的に下がってください」

「前田か? そうは言うが私たちが下がったら押し切られかねんぞ」

「そこは問題なく。弟の方の林先生が複合魔法で焼き払う準備をしてるはずっす」

 既に倒れている生徒もいるが、ここで彼らを救えとは言い切れない。

現実的に魔力も残り少なく全滅しかねない状況だ。出来るだけ場所を選んで倒れている生徒を巻き込まない配慮をするとは思うが、そんな事を言って居られる余裕は既になかった。それに……相手が酸を吐く蟻である。噛み疲れ倒れて酸を巻かれた時点で、かなりの確率で助かるまい。少なくとも王都組は絶望的であった。

 

「みんな聞いたな! この場を明け渡して守り易い場所まで下がるぞ! 力を合わせて一時的に蟻共を引かせろ!」

「「はい!!」」

 ここで遅れては自分たちも大規模魔法に巻き込まれる。

生徒も教師も日ごろのいがみ合いや喧騒が嘘のように一致団結してジャイアント・アントを押し返していった。神鳴る雷、龍の如き雷、コール・ライトニングが周辺を撃ったのは暫く後の事であったという。

 




 とりあえず戦闘の始まりと解説回。
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