二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

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終わりのナゴヤ:後編

 複合魔法は呪文の改良を前提にした特殊な形式であると言える。

この世界の魔法は術式を組み込むことで、お仕着せの魔法を簡単に強化できる。決まったルールを組み込むたびに術式を入れても良いという形式ゆえに、個々の呪文をカスタマイズするのは非常に難しいのだ。一つのルールを変更するたびにその文言・数式・色彩などを全てチェックしなければならない。対して複合魔法はその面倒な問題に対し、最初から橙級まで拡大する前提の上で組み上げた儀式魔法専用と言っても良かった。

 

「コール・ライトニング? こいつは屋外専用じゃねえか。どうして外に向けて撃ってんだよ!」

 今回使用された複合魔法は風と光を融合させた、極めて強烈で広範囲に跨る呪文である。

追加されたルールの中に屋外専用と言う物があり、上空から見えない位置にあるこの場所の援護にはまったく向かない。現時点で見える範囲でも、外苑に位置するジャイアント・アントの一部を焼き払っているだけだ。あまりにも広大な術式ゆえに、その余波が上に建物の影があるこの場所にも及んだだけとも言える。しかし、これに意味があるとしたらどうだろうか?

 

「まさか、まさかそういう(・・・・)事なのか!?」

「そうだ。松永譲治の手の者かは知らん。しかし既に魔物の援軍が訪れているようだな。祥太郎はあれで優しい男だ、正面を生徒ごと焼き払うよりは援軍を松永と共に薙ぎ払う事を選らんだ。……のだがな」

 前田啓治を肯定する様に、複合魔法の手配をしていた林教諭が煙草を喫しながら訪れた。

啓治のあずかり知らぬ事だが、林サドこと複合魔法を教える林祥太郎は生徒の為を思って鍛えているスパルタ形式の男だった。倒れている生徒は絶望的だが、もしかしたら生きているかもしれないと思って正面を焼いて籠城するという選択肢を選べなかったのだろう。兄の林健次郎共々、表情筋の不足している兄弟と言える。

 

「居そうな場所を特定してぶっ放したんですか? なら死んだんじゃあ」

「ふむ。貴様は松永譲治の研究を詳しくは知らないのだったな。……奴の研究は主に三つだ。一つは生命の管理、貴族はペットを育てることもあるが奴は美しさや鳴き声では無く寿命に着目した。二つ目は交配という行為、これには生命の混血と言う意味もあれば儀式魔法に用いるという意味もある。最後にエネルギーを規定以上に詰め込むという物だ。前二者を思えば元の体のままだとは到底おもえんな」

 一つ目のエピソードは鈴虫で、寿命を野生の五倍に伸ばしたとか。

それだけならば素人でも犬猫でも野生の二倍・三倍に活かすことは可能なので、怪しい知識には思えない。しかし二つ目の交配というのはいかにもインモラルであった。生命と生命を掛け合わせて新たな生命を作り、それだけでなくセクシャルな儀式魔法を作り上げる。キメラ魔法の事を考えたら一見奇妙な取り合わせだが……新人類を作るという意味であれば一つに繋がるのだ。もしかしたらホムンクルス以上の存在を作り上げ、体を取り換えていても不思議ではないという。

 

「いや、マジでそこまで行ったら確実に禁忌じゃないっすか」

「だから奴は追放された。貴様が推測するには魔石を使って強化個体を作り出したかもしれぬというのだろう? ならば自分が使う体も強化個体化することで成果物に達している可能性はある。それに闇魔法をマスタリーしている可能性を指摘したのもお前だぞ。影の転移だけではなく、憑依操作の呪文(レイスフォーム)を覚えて居ても不思議ではあるまい」

 キメラで魔物を作るのはまだ許容範囲だが、新人類創造は大問題だ。

ゆえに松永譲治は禁忌に触れたとして追放されたのである。林教諭はその事を以前からの知識と啓治からもたらされた推測で結びつけた。もちろん間違っている可能性はあるが、啓治が思っている予想……魔人と化して魔王軍の四天王になるという物とそう大差はない。啓治はあくまで勇者に討たれた人物に『堕ちた魔導師が居る』という話から、魔人になったのだろうと予測したに過ぎないが、林健次郎はその手段を現状に当て嵌めただけなのだから。

 

「レイスフォーム! あれを使えば危険性を無視して実験体を自分で試せるって事か!」

「おそらくな。貴様から影の転移で魔物を送り込んだのではないかと言う予想を聞くまで、私も思いつかなかった。たとえ新人類が創造できたとしても、自らの体を捨てるには拒否感が強いし、同時に反乱の危険は常に付きまとう。しかし憑依であれば試作品を試すにはそれほど難しくは無かろう。さて、そろそろ悠長に話す暇は無くなって来たか」

 戦況に変化が訪れ始めたがそれも当然と言えるだろう。

元より拮抗している状態で有望な戦力を引き抜き、後の戦いに当ててしまったのだ。それを補うべく投入された複合魔法は敵増援を焼き払ったに過ぎない。戦況は不利なままスライドしているし、敵増援の全てが焼き払えたとも思えなかった。そして最大級の味方戦力である平手学にも限界が訪れようとしていた。

 

「すまぬな。ワシも寄る年波には勝てそうにない」

「交代しますので今のうちに休んでおいてください。切り札の一枚目は私が処分しておきます。松永の魔人モドキは平手先生にお任せしますよ。……前田、ルールに則るということと、アレンジするという意味を教えてやろう」

「林センセー……」

 折角の機会だと笑う林健次郎。その姿からは日ごろの嫌われ者は何処にも居ない。

やがて来る黒幕との前に自分が捨て石であり時間稼ぎである事を理解して、勝ち目のない戦いを少しでも優位にすべく打って出る武将のような男がそこに居た。これが最後の機会かもしれないからこそ林は見ておけと言ったのに、啓治の方には話せる事が何も無かった。二周目の人生の何だのと言って、合計しても大した人生ではないかもしれないと啓治が悔しく思った瞬間である。

 

「呪符騒霊術。三番から五番を視点起動。人は三人寄れば派閥を作りいがみ合うという。凶角よ、転じて我が盾と成れ。そして我が手にあるは剣と槍成り」

 林は三枚の呪符で正三角形を作り上げ空飛ぶ壁を作り、両手にインスタントの魔剣と槍を用意した。

三角形の盾は浮遊して彼の視界の何処かに移動し蟻酸を防ぎ留め、魔剣と槍は敵を白兵戦で傷つけていく。まずは相手の生命力を確かめる様に、連続攻撃で一体を素早く仕留める。そして次の敵は時間を掛けて、剣と槍のどちらが有効かを調べながら歩いて行った。

 

「啓治、援護しなくていいの?」

「だーってろ! 林センセは俺らに貴重な情報くれてるんだ。やるとしたらセンセが囲まれないように忠告飛ばすぞ。援護魔法はそれからだ」

「それでいい。素人の援護ほど余計な物はないからな。だが……確かに堅いな。ジャイアント・アントの酸型はまだ柔らかい部類と聞いたが。ふふ、これが実戦と言う物か。さて……このままではラチがあかんか」

 何かしようとする晶子を啓治は必死で止めた。

この後に戦いがあり、本命である魔力の効かない相手が来るのだ。その対処もあるし、そもそも数が居る蟻たちとの戦いをいかに有利に進めるかが重要であった。啓治はともかく完全な素人である晶を前に出すなど自殺願望でしかない。とはいえ相手は無数である、一体・二体を倒したところで大したペースではない。このままでは数の暴力に押し切られるだろう。

 

「呪符騒霊術、第二楽章。六番から八番を視点起動。そは剣林弾雨、手掌の動きにて舞い踊れ。我が見えざる手にありしは斧成り」

 林は三角形の障壁を一度降ろし、代わりに新たな三枚の呪符で手斧を三丁用意する。

手斧は投げられる武器の中で最も単純火力が高く、達人が使用しないという前提ならば投げ槍よりも強力である。ここから判る事は呪符による武装はあくまで形状に固定される事。そして林が同時に操れる呪符は五枚までと言う事だろうか? 事実、林は浮遊する手斧で遠距離攻撃を掛けつつ、手にした魔剣と槍で戦い抜くのだ。これにより倒すペース自体は確かに上がった。どちらかとえいば平手の攻撃力は過剰戦力だったこともあり、単純に戦うだけならば林の方が有利と言うのは確かであるように思われた。

 

「啓治、回り込んできてる!」

「ッセンセよい! 両方から回り込んで来てんぞ! 三角のどっちかに寄ってくれ。どうしても無理ならこっちで壁を立てる!」

「要らん! この程度ならばまだ問題ない。いいか、急くな(・・・)よ?」

 晶子の言葉を啓治は判り易く伝えた。これに付属して大地の壁を提示したのだが……。

林は首を振って拒否、単純に三角形の障壁と建物を利用して敵を一方向に絞った。そして三丁の斧を蟻の一体にぶつけた後、動きを止めて代わりに三角形の障壁の位置を移動させたのだ。その途中で追加の呪符を投げたのを見ると、呪符一枚を追加すると減った耐久力を回復できるようだ。そして……彼の言葉のニュアンスを解釈するならば、高速詠唱は隠したまま取っておけと言う事だろう。おそらくは林を奇襲から守れるとしても。

 

「前田君。悔しいかもしれぬが今は我慢しておきなさい。健次郎はあれでやる子だよ。それに君の情報と推測だけで我々は随分と助かっておる。残りの魔力は残しておくのだ。それですら本命を足すところまで、松永君が来たら勝てるか判らぬのだろう?」

「はい……もうじわげ、ありまぜん……」

 悔しいが平手に返す言葉がない。悔しいが林の為に何も出来ないことを悲しいと思う日が来るとは……。

一周目の人生では決して味わった事のない悔しさだ。せいぜいが柴田哲章や平手が死んだことで己の人生に影が差し、晶の笑顔がすり減った事に悔しさを覚えただけだった。それから後は勝負から逃げるように、無難に無難に生きてきたような気がする。

 

しかし、ここで奮起する意味はない。命を懸けるとしたら、根性を出すとしたらもっと後なのは間違いがない。その為に目を見開き、少しでも情報を集めるべきであった。そしてその努力は……無駄ではない!

 

「それにしても随分としぶといの。強化個体が居るとは聞いたが偉く硬い。ワシが光の剣を早めに出したのもそのせいじゃが……。これに加えて魔力を無力化する魔物など用意できるのか? しかも蟻と併用して傷つけさせず」

「併用の方は匂いで何とかなります。蟻は匂いで行動を決めるそうなんで。今は林先生とか他の連中にぶっかけた、見えない匂いに殺到してるって……あ?」

 平手が苦労しているのも、林が苦労しているのも同じ理由に起因する。

ジャイアント・アントの数は多く、しかも強化個体である兵隊蟻がやたらに多い。そして何よりそれぞれが妙に通常よりも強いのだ。魔石を使った個体でもなさそうなのだが……。そんな時、啓治は妙な事に気が付いた。フェロモンで仲間の窮地を聞きつけ、敵を判断しているならば……どうして後方で悠長に構えている個体が遊撃隊の様に構えて居るのだろうか? 先ほどの複合魔法で周辺の風がかき乱されて居るというのに!

 

「そうか! ゴーレムだ! 林センセ! そいつらの中にゴーレムが混じってます! 蟻んこの死骸を使ったゴーレムだ! てーことは……本命は魔力を遮断する石で防具を作ってるゴーレムに違いねえ! 松永譲治は蟻が同じ形状をしている、堅いっていう常識を利用しやがったんだ! こいつらはジャイアント・アントと蟻型ゴーレムの混成集団です!」

「なんと! 良くぞ見破った前田少年! そうと判れば恐れるに足らず! 健次郎、暫く持たせよ!」

「平手先生、せっかく良い所なんです。もう少し格好つけさせてくださいよ。だが前田……良くやった」

 ここに来てようやく啓治は全ての罠を見破った。

思えば王都組が松永譲治の拠点となる建物を見つけた時、効率的に反攻を判断できた理由はなんだ? 事前に幾つか用意した命令に従い、ゴーレムが出動したからに決まっている。後は内部にあるケースに入れておいたフェロモンで蟻たちを促すだけだ。

 

そうと判れば話は早い。未知の脅威ではなく、既知の脅威だと理解した教師たちは本命対策のメンバー以外を残して逆襲を始めたのである。ここに終わりのナゴヤ事件は……集結するかに見えた。かの松永譲治が現れなければの話ある。




 とりあえず情報を知ってた割りにピンチな佳境は終わり。
次回に第一部のボスと対決です。

なお、4/1に向けて別の話を用意するので、先にスケジュールを書いておきます。

27日:終わりのナゴヤ:後編(本日)
28日:第一部最終話
29日:設定衆。(最終話を前後で分ける場合は無し)
30・31・1日:エイプリルフールで色々。
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