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大人たちが死地に向かって歩いていく。子供たちではなく自分の担当ならば良しと。
子供たちはその背中に憧れた、自分もいつかそうなりたいと信じて。中身が大人の前田啓治は、どうして自分がそこに無いのかと自問した。自分ならば共に並べた筈だ、多くの子供を導く教師よりもただの冒険者だった自分の方が死地に立つに相応しいと満足して死ねただろう。死など現象であり、全て自己満足に過ぎないとしても。
「佐久間君! 蟻型ゴーレムと魔力無効型ゴーレムについて何か判るかね?」
「前者は前田君の言うように蟻の死体を使ったフレッシュゴーレムかと。人間と違って乾燥させれば強固ですし、ハードレザーアーマー化するのは難しくないでしょう。ああ……マミーの類かと思えば強くても不思議じゃないのかな? 干し首とかも似たような……。失礼しました。後者に関しては素材次第ですねぇ。古代のミスリルは魔法に強かったそうですが、軽量化や精霊との融和の方が重要なのであまりデータは残ってません」
平手が黙って集中を始めたので、代わりに林が周囲を仕切る。
付与化の中でもゴーレム魔法を専門で研究している佐久間教諭に尋ねると、途中で脱線しながら色々と説明を始めた。彼は生徒警護用に作った量産品のゴーレムに指示を出しながら、前線で戦う林たちの片側を固める。そして時折に大地の鎧や大地の盾の呪文を唱え、ゴーレムに防御用装備として用意していた。
「ミスリルか。流石に見つかっても居ない金属は……。いや、前田。確か飛行船建造のためのレポートで何か書いていたな? 思い当たる事があれば佐久間先生に告げ給え。私の所には確定した情報のみをくれればいい」
「いきなり無茶を言いますね。……ええと素材系の最新のレポートにあったと思いやすが、自然界に無い以上は錬成したもんだという理論です。鉄の強固さとチープさを突き詰めた真鉄で、神の金属であった青銅はエネルギー保存性用で……」
「この場合は魔法抵抗に関してだけお願いします」
林に促されていろいろ述べ始める啓治だが、佐久間はこういう所だけ教師として簡潔を求めた。
人の生き死にが掛かっているので仕方がないが、先ほど自分の妄想で暴走していたのは見なかった事にするらしい。それはそれとして啓治の方も切羽詰まっており、いきなり思い出せと言われてスラスラと堪えられるはずもない。むしろ先ほどの通り、一から覚えて居ることを口にした方が早いまであった。
「魔法抵抗系の金属は確か銀から作るミスリルじゃないんすよ。ええと何か他の金属との合成で……じゃねえとそっちが重くて使いモンにならねえ……でもそれは飛行船だからで……」
「合成? 啓治、鉛じゃない? 木下君と相談したことあるもん。どうして混ぜてるのって」
「そいつだ! 錬金術で造られるんじゃないかと思われる魔法金属の中で、鉛を使った月土は滅多クソ重いのに柔いんすよ。だから軽くて丈夫なミスリルと混ぜたらいいんじゃないか感じで。そして古代王国時代のミスリルが魔法に強い月鋼だってのも、そこから来たんじゃないか……と言う理論だったかと」
この辺りは金属としての特質だけでなく、歴史的に抱いた神秘が関わっているとか。
金銀に混ぜて焼くことで精練したり、肌に塗っておしろいに使う、あるいはワインを甘くするなど……フィルターとしての効果があるのではないかと信じられていたから、錬金術で錬成してもそういった面の特質が浮き上がる。しかし重い鉛は錬成しても重くなりそのままでは使えず、似たような重さの筈なのにミスリル化することで軽くなる銀。これらを混ぜ合わせることで、魔法を防ぐ金属を作るのだという。
「重く柔らかい月土とバランスの良い月鋼、それは興味深いな……。しかし強度面では幾らも上がるまい? ザっと目を通した資料の中で、ミスリルがそこまで凄いという覚えはないが。いや、だからこそまだ正面に来ていない?」
「じゃないすかね? 量産型のゴーレムがハードレザーで、強化個体もそのくらいとして混成集団にするとバレない。しかし魔法を無力化する奴は脆いんじゃないかと。だとしたら重くて弱くて、消耗を待ってる居るのかと。ミスリルを実用化してないつーか、単純に魔族は長生きだから理論が残ってて、懲罰に使う金属だけが残ったってとこっすかね」
何度も脱線しそうになるが、話し合う事で理論が整理されてくる。
ミスリルと混ぜた優秀な金属がないのは、貴重以前に理論がまだ仕上がってないのだろう。松永譲治がいかに優秀でも専門は生物学であり、魔王軍に身を寄せたことで古代の情報を歪な形で手に入れたのではないだろうか? そう思えば魔力を封じる金属は役立つだろうし、向こうで増やしている間にゴーレムに使えば良いのだろうと閃いたのではないだろうか?
「つまり連中は複雑な混成軍団に見えて、最初に与えられたコマンド通りに動いているという訳だ。だから前線担当に量産型が沢山いて消耗を誘い全体像を隠し、後方に本命を守る意味でそれなりに配置されてる。それは松永譲治がいない時の指令のまま……うん、ゴーレムに与えられるコマンド上限の壁はやはり破られて居ないね。つまりボクは負けてない……アー! サッパリした」
「佐久間センセ……この期に及んで理論的な勝ち負けで話さねえでくださいよ」
そして段々と相手の陣容が見えてき始めた。
性格に難があるようだが佐久間の予想は当たって居ると思われた。皆が消耗した状態で戦うとは啓治も想像して居なかったが、松永譲治もまた同じことを思っているはずだ。本来は直接指示を出し、真っ先に厄介な相手を奇襲して葬り、後は悠々と分散している教師や生徒を殺していくつもりだったと思われる。だからこそ、先ほど複合魔法の対象にされるような勢いで合流しようとしたのだろう。
「と言う訳でボクの役目は終わり! 後は適当に伝えといて」
「ちょっと! あーもう、あんた不良共より勝手だよ! ……林センセーよい! だいたい判ったぜー!」
「松永譲治が居ないんで敵は当初の命令通りにしか動けねえ! 魔力対策を施したやつは脆くて重いから後ろの連中の中に隠れてる! 今なら奴の研究成果を台無しにしてやれるぞ! 奴には学院への恨み、研究成果のテスト、発掘された遺品の奪取とやること多過ぎらあ! 今なら何もかも台無しにできる!」
佐久間に丸投げされた啓治は息を大きく吸い込んで話をまとめた。
ここで重要なのは重要視すべき敵の位置と、黒幕が何を考え何を重視して居るかと言う指針だ。敵後方に配置されている魔力を無効化するゴーレムを倒せば、松永譲治が何時までもこの場所に固執する理由も無くなる。もちろんシャカリキになって回収しようと、あるいは今のうちに教師陣だけでも殺そうと突撃して来るかもしれない。
しかしそうなればしめたもの、相手の思考をワンパターンに絞る事が出来るだろう。もし仮初の体が深く傷ついて居るならば、それを破壊して一発逆転も出来る筈だ。
「聞いたな健次郎! 正面はワシが切り拓く! 残りの全魔力を費やすゆえ、後は任せたぞ!」
「心得ました。しかし年寄りの冷や水ならぬ死に水と言うのは止めてくださいよ。笑い話にもなりません。森君と柴田たちは後から付いて来給え!」
ここで集中していた平手が最期の魔力で巨大な光の剣を作り上げた。
実のところ本来ならばソレに意味はない。拡大や強化の術式をどれだけ放り込んでも、呪文ごとに向上できる部分は限られているのだ。光の剣は強力であるからこそあまり上がり幅が無く、威力だけならば炎の刃に、継続時間であれ大地の剣に劣る。本来であれば同じ魔力を使って、何度も行使した方が戦い続けられるだろう。しかしソレでは状況を覆すことはできない。場合によっては松永譲治に合流されてしまう可能性があった。
「光、鷹と成れ、光、翼と成れ! 我が振るいしは光の翼! 光の鷹が翼成り! カカカカ! まとめて薙ぎ払ってくれる!」
ヴォン! 右から左に走り抜けただけで、まとめて蟻たちが薙ぎ払われた。
魔力の刃を普通に振っただけではこうも行くまい。魔物に対して威力の向上する光の剣ならばこそ。もし相手がもっと強力な魔物であれば、とうに両断していたに違いあるまい。二度・三度と叩き付け、あるいは林が呪符を操って初めて倒せるのだ。しかしこの攻撃で目の前が切り拓かれたのは間違いがあるまい。そして彼方からでも、この光景が見えたに違いあるまい。
見よ、これが光の翼、光の大剣、世界を切り拓く希望の剣である。ソレを見れば生徒たちは立ち直り、彼方に黒幕が居れば焦りを覚えよう。絶望を切り裂く光の剣こそが、勇者の武装と言われる所以であった。
「砕かれよ諸々の邪悪、我が手にあるは明王の剣。降魔の利剣が悪党どもを絶やしてくれるぞ! 見たか我が剣、見たかこの有様を!」
「それは良くばり過ぎでしょう、平手先生。どれ、ブツがお目見えの様です。ここからは私が調査しましょう」
平手が妙に格好良く良く見栄を切り始めるが、本当に絶好調ならばするはずがない。
せめて仲間たちを奮起させようという老人に気遣いながら、林は素早く前に出た。自分が平手の左後ろを固め、魔力の障壁を再び飛ばして右後ろをフォローする。そして生き残りの中に居た怪しい個体に向けて呪符で造った槍を投擲して確かめる事にした。手に握っているからと言って投げて悪い通りは無く、使い捨てられるのが呪符の良い所であるのだから。
「ふむ。威力重視の手斧とあまり変わらぬ傷……。なるほど、脆いというのは本当か。どう思うね佐久間君?」
「これは興味深いですねえ。ゴーレムに応用するとしたら、追加装甲か盾にするべきかな。でないと本体を弱くしてしまいそうだ。もし仮に魔族に使うとしたら……ゴホンゴホン。うん、まだまだ未完の金属と見た」
林は槍を投げることで相手の回避力を確認し、同時に装甲も確かめた。
魔法と言うのは一定の成果を出すモノなので、量産しようが適当に作ろうが性能は変わったりしない。しかし装甲に使った素材であるとか、本体に使った金属で差は出る物なのだ。この短いやり取りで教師たちは巧みに松永譲治の手札を暴いていく。
そして佐久間が個人的な興味を打ち切って、結論を急いだのには訳がある。悠長な事を言って居られない事や……怪しいナニカが接近して来たからだ。その動きは先ほどの平手に匹敵しよう。
「誰かと思えば……。随分と姿を変えたのではないかね松永君?」
「ふふふ。林は相変わらずだ。涼しい顔をして英雄願望なのも昔のまま。……だから、ここで死ぬことになる」
現れたナニカは男とも女ともつかぬ姿をしていた。
そもそも意味がないのだろうし、男の筋力と女の俊敏性を良い所取りしている様に思われる。普通の生命であればどちらかに影響されようが、レイスフォームで憑依しているのであれば涼しい顔だろう。計算通りに動くかは別にして、本体が間違えて死ぬようなこともないはずだ。
「やってみるかね? こちらにはまだ人数が居る。私を殺す前に君の研究が壊れるぞ」
「……研究を見抜いたようだが、生憎とこの体は知恵あるトロールを元にしていてね。少々壊れた程度であればさして困らんよ。そして性能は折り紙付きだ。そうは思いませんか、平手先生?」
「ちっ! その手甲、魔力を遮断するか!」
林と話している間に平手が切り掛かった。
継続時間を延長して居ないこともあり、最後の機会と切り掛かったのだろう。だが巨大な光の剣が手甲で受け止められた瞬間にその部分だけ後ろに刃が伸びない。まるで幻影でも通り抜けたかと思った後……不意に平手が倒れた。
「平手先生!」
「ぬかった。……来るな健次郎、ワシが倒されている間に攻撃を……」
「申し訳ありませんがこの体に覚えさせた技を併用できましてね。ただの衝撃波でもトロールの一撃は効くでしょう? っそして君は相変わらず甘いな林」
今の一瞬で松永は逆の腕を振るっていた。
片手で光の剣を受け止め、もう片方の手で衝撃波を放つ。なんのことはない、その辺の傭兵でも強い奴ならばこの位の事はできよう。問題なのは手甲は魔力を阻み、衝撃波はそれだけで重傷を負わせる威力があるという事だ。
「生命としてシンプルに強い。それはこういう事だよ!」
「馬鹿な、魔力障壁が一撃で!?」
松永は右手と左手で同時に衝撃波を放った。
しかもしれだけではなく、高速詠唱でカマイタチを放って来る! どれも無色透明で見え難く、三つの風が次々と命中することで呪符を束ねた障壁を瞬時に砕いたのだ。
(ヤベエ。伝説の魔将とかいうクラスじゃね? つーかこいつ魔王軍の四天王になるんだった。……勇者さま達はどうやってこいつ倒したってんだよ。高速詠唱使えるって事は、別に風じゃなくて闇でもいいんだよな? 隙が全くねえぞ)
啓治は情報として見ると聞くとでは大違いであると理解した。
先ほどまで頼もしかった教師たちが見る影もない。次に攻撃されたら林も無事でいられるとは限るまい。高速詠唱で呪符を展開してもまた砕かれるだけだし、魔力を消耗した現在では分が悪かろう。それに倒れた平手を狙われては守るべき対象が二つになるのだ。いつまでも守り切れるはずがない。どちらかと言えば非力とされる風魔法と闇魔法しか使って居ないのに、どうやっても勝てるビジョンが見えてこなかった。
「あー!? ボクのゴレームがあああ!」
(柴田のアニキと森センセで押し切れるか? 当たり続ければトロールの体でも倒せはする。しかしそれはこいつが黙って殴られ続ければ、の話だ。考えろ……こいつが前線に出張るわきゃーねえ。勇者たちは連戦で魔王と一緒に倒してんだ。何かしらの欠点か、限界があるはず……)
見守っている間に佐久間が出した護衛用のゴーレムが瞬時に倒されている。
殴り掛かったのを容易くかわし、手甲が傷つかないように殴り倒す強さがあった。だいたいからして知恵あるトロールはそれだけで屈強だ。それが堕ちた魔導師が憑依することで、強大な魔力を追加していると言える。あえて言うならば研究者肌だから物見高いとか、確実に殺す追い込み技を持っていないことくらいだろうか?
(待てよ? こいつ研究者って事は、必殺技なんて幻想で追い込むための手順を知らねーんじゃねえか? 案外、さーさん達が合流出来たら意外といけそうな気がしてきた。……つまり攻めるべきは戦闘経験の不足ってところか)
必殺技というのは物語の中でしか存在しない。
冒険者をやって居た時もそんな物は見たことが無く、先ほどのような連続攻撃も強くはあるがそれだけなのだ。『この技とこの呪文を組み合わせたら確実に死ぬ!』なんてコンボは警戒されて当然だし、暗殺者のような初見殺しでも無ければ防がれて当然という事も多い。と言う事は戦い方次第で行けるのではないだろうか? 流石に佐々達がいきなり現れるとは思えないが、逆に言えばそういう介入者を松永は警戒しているはずなのだ。
「林センセーよーい! そいつ、未完成ですぜ! 強いように見えて、まだ強いだけの魔物と代わりねえっす! そこに三人いるとか、騎乗用ゴーレムが完成したんだと思ってくだせええ! 残り魔力だって……」
「ほう。よく囀る雛鳥だ。惜しむらくは……」
「止せ、注意を引くな!」
啓治はある程度の覚悟を決めて忠告を放った。
松永は嘲笑いながら腕を動かし、林は忠告を返す。だがこの流れは啓治の予想通り、むしろ理解できていた事だ! ゆえに彼は予測していた行動で受け止める!
「大地の壁よ! ……そして」
「高速詠唱? 学生にしてはやるが、何処までもつかな?」
啓治は隠しておいた高速詠唱で壁を打ち立てた。
松永の放った衝撃波とカマイタチがソレを砕くが、その間に彼は身を隠しつつ次の詠唱を行っている。壁が砕け散り土煙が晴れた時、当然ながらそこに啓治はいない。気が付けば怖ろしい程の速度で前へと移動していたのだ。
「勇敢だ。しかし、蛮勇ではある。その速度で突っ込んで何をする気かね?」
「何もしねえよ! 今ん所はな! あんたをぶっ倒せる火力が揃うまでの時間稼ぎさ!」
改めて放たれる連続攻撃、しかし今度は松永も移動しながら放っている。
タイミングを変えることで例え壁を出しても防ぎきれないし、少しくらい避けても当てることは難しくなかった。もし啓治が加速の呪文を唱えたのであれば、瞬時に殺されていただろう。
「飛んだ!? 前田が唱えていたのは飛行呪文か。しかしそれだけでは……」
「いいえ、これでいいんすよ! 奴には決め切れる攻撃がありやせん! しかしこっちは月鋼のゴーレムがいる事を前提に用意した装備があります! 俺や先生が防いでる間に、そいつで狙撃すれば終わりっすよ。俺らの残り魔力と勝負してみるかよ松永さんよ! まだまだ不完全な体の評判ガタ落ちになっぞ!」
考え方の差であった。相手は凄いが魔法使いが全力で防御すれば突破しきれない。
対してこちらはトロールでも倒しきれる装備を整え、何度か攻撃してその内に当てれば良いのだ。流石に一撃では死なないだろうが、その間に他の者が攻撃を行えばよいだけの事。こちらには人数が居るわけだし、全員が攻防の両方を一人で担当する必要はないのだ。
「やってみるかね? 未熟な生徒程度を始末するのは難しくない。そこの教師たちを葬るのもな。試してみるか?」
「やってみろよ。そんで勇者とも戦えずに無駄死にするんだな。見たところ精々が部隊長レベルだ。今すぐ魔王軍が攻勢を始めるとしたら、四天王を名乗るのも烏滸がましいぜ。……ここでぜーんぶ台無し居なったら、あんたはいつまで下働きなんだい?」
そう、松永が持つ最大の欠点は彼一人であるということだ。
研究者と交渉役と指揮官と兵士をすべて一人でやってしまっている。それだけ優秀だということだが、ゆえに何処かに限界が生じていた。効率的な体は凄いが、一撃必殺の能力はない。戦闘経験は専門家には及ばない、交渉術だって部隊長の地位を固めるのが精々だろう。もしここで研究成果をすべて失い、途中の記録からやり直せば……彼は果たして魔王軍の再侵攻に間に合うのだろうか?
「たかが生徒の分際で……何処まで気が付いた? いや、何処まで知っている!?」
『……二周目の加護って知ってるか?』
まるで見て来たように物を言う啓治に、さしもの松永も訝しんだ。
これこそが啓治が張った最後の罠、いや、唯一のハッタリだった。ここまで警戒させておいて、彼が持つただ一つの切り札を唇だけを動かすことで伝えたのである。
『このままじゃ、お前は四天王一の小物で終わりだぜ』
「ふん。……私には魔王すら一目置く大教授になる、多くの頭脳を奪い最高の頭脳を作り上げるという夢がある。ここは貴様のハッタリに乗ってやろう」
果たして啓治の言葉は通じたのか?
それとも警戒したのが狙撃や複合魔法の方だろうか? いずれにせよ時間稼ぎを食らった事実を認め、松永は撤退することを決めたようだ。蟻の軍勢たちを地下へと逃がし、己は影へと姿を融かして何処かに消えてしまったのである。
こうして終わりのナゴヤ事件は大きく様相を変えた。
と言う訳で第一部終了、四月二日以降で第二部の予定です。
第二部は飛行船を研究しながら魔王軍に備える話ですね。