二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

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進まない研究だからこそ

 新年度に入ってからの研究であるが、ちっとも進みはしなかった。

以前に前田啓治が評したことがあるのだが『結婚して子供ができるくらいの時間に基礎研究が完成』し、『そのまた子供が結婚する頃に飛行船ができあがるかどうか』というほどである。あれから一カ月くらいでは、精々が半年・一年分くらいの短縮であろう。

 

「丹羽先生。やっぱり芳しくないですね」

「大丈夫よ~。世間じゃ魔法金属が自然界に無いことを認めるか、認めないかでモメてるわ~。他所に比べてうちは研究成果が出ている方だもの」

 鉱物系の錬金術を担当する丹羽教諭が生徒を慰める。

織田家からの予算注入と熱田学院全体での人材投入により、以前よりはるかに研究は進んでいた。最新の理論を認めるどころか、錬金術で錬成することによ、魔法金属が成立しそうだ……という所までは理解できていたのだ。と評価に五段階あるとしたら第一段階をクリアしたに過ぎない。一足先に実戦を経験したメンバーなど、気が逸るあまり先に第三段階以降の研究を始めてしまっている。

 

「まーだー? うちじゃもう馬型ゴーレムと乗り込み型と甲冑型まで試しちゃってるよ―!」

「佐久間先生は気が早過ぎです。こっちは素材をそのまま利用する甲型と、マジックアイテムの為に使う乙型を決めたくらいっすよ。魔法金属のマの字もありゃあしませんぜ」

 研究室の内部どころか、気が急くのは次の段階まで足踏みしていた。

ゴーレム研究室の佐久間もであるが、啓治自体も付与科から顔を出しており、することがないから佐久間への説明役をやっておけと言われる始末である。理論の証明がなされただけであり、それも現物の素材が先にあるから『この反応はきっとそうだ』と思える程度である。熱田魔法学院以外では、今も議論の真っ只中。一番突き進んでいる研究室ですら、試して何の成果も得られないと 嘆いているか嘲笑って居るレベルだろう。

 

「だいたい肝心の素材も無しに研究して何を得るんすか?」

「可動域と騎乗した時の動作トレース型と思考トレース型の差だね。魔法金属がないお陰で、まるで歩けないか、根元からポッキリ折れるかのどっちかなんだけどさ」

「……中に居た奴ぁだいじょうぶっすか?」

 要するに堅いけど重い状態か、軽いけど密度が弱い状態で試してるらしい。

騎乗型ゴーレムは『ゴーレムへ伝えられる命令に限界がある』という命題へ挑む物だ。術者が脇に居たら命令を出し直せるのだが、その場合は槍で突くなり弓で射れば一巻の終わりである。ゆえに馬型で走りまわったり輸送用に用途を絞るとか、乗り込むことで安全を担保しようとしているというものなのだ。実用化できれば今までの様に警備用レベルでは留まらない活躍が見込めるだろう。

 

「オーガやトロール並からワンランク上げることで強度を解決してね! 後は軽量な金属で本体を作るか、堅牢な装甲を着せれば良いって事に収まったんだよ! いいかい、このメリットは……」

「こいつ! 安全性に関する質問を無視しやがった!?」

 てな感じで研究はサッパリ進んでいない。

第二歩である魔法金属の錬成がストップしていれば、それ以降の研究が進まないのも当然である。なおこれがクリアされたとして、強度や軽量さを確保しつつ、特殊性を維持するためにどの程度の合金化を行うかも問題だ。混ぜながら実現化するのか、それとも錬成してから混ぜるかなどを試さねばならない。もちろん佐久間が言うように、堅いだけの金属を鎧の様にゴーレムに着せるというも、解決手段の一つではあろう。

 

「ブッブー! 魔王軍との決戦に間に合わせるためには少々の犠牲は付き物なんでーす。付与科マイナスワンポイント分だけ、うちが素材を確保させてもらうからねえええええ!」

「……そこは教師に対する無礼を咎めておわりでしょうに。どんだけ必死なんすか」

 そろそろ佐久間のエキセントリックな部分に慣れてきたところだ。

この男は天才にありがちな部分があり、実現させるために他の何もかもを捨て去るところがある。偶に馬鹿なのコイツ? と思う訳だが、全身全霊で難関に挑む姿は中々に尊敬できる。リスペクトしようなどとはこれっぽっちも思えないのだが。

 

(それにしても、何か違うんだよな。つーか松永譲治も最初は研究に詰まってたろ? 魔王軍だから魔法を遮断する金属が残ってただけの話で。追放されて他の資料やら魔法陣やら何もない状態から始めたんだ。最初は魔法金属の研究何か……。うん? 魔法金属の研究? んなものあいつしてたのか?)

 ふと啓治はここで疑問を浮かべた。

はたして佐久間以上の天才児、松永譲治は最初から魔法金属の錬成が行えたかということである。現在進行形で佐久間は覗きに来ているだけで、錬金術の研究に力など化していないのだ。自分の所の生徒に、錬金術かじってる奴はこっちで手伝ってやれとしか言っていないだろう。松永が幾ら天才でも、それ上の成果をバンバン作り出せるだろうか? 他にも……もっと優先すべき研究があるのに!?

 

「そういう事か、そういう事だったんか! ちくしょう。アプローチを勘違いしてた!」

「ちょっと啓治! あんた何を叫んで……」

「はい、痴話喧嘩はこんどまたやってね。……で、前田く~ん。君ぃいまなーにを思い付いたのかなあ?」

 叫ぶ啓治に柴田晶子が詰め寄ろうとする、しかいニタリと笑った佐久間がこれを止めてしまう。

しかし自分の考えに没頭し始めた啓治は、そんなやり取りなどまるで頭に入らずに色々と考えを巡らせ始めていた。何かしらのヒントを得たのだ、おそらくは素材研究に関する何かを。彼の生前は素材分野であり、しかも鉱物系であった。それなりに閃く物もあったかもしれない。特に素材研究がちょっとやそっとでは実を結ばないという事実も含めて。

 

「逆だ! 段階がまるで逆だったんすよ。松永譲治はキメラ畑の人間っす。生命を強化する実験の中で失敗を重ねて少しずつ成功に近づけてった。そん中で失敗作を使ってフレッシュゴーレムを作ってただけなんだ。だから蟻んこ型てのが最高率なのは間違いねえ! 月土に目を付けたのはそん後!」

「うんうん。確かにそんな気はするねえ。それでそれで?」

 最初に三種類の蟻が居たから勘違いを誘っていた。

強化個体である兵隊蟻の量産はキメラ化技術の集大成だ。そして実験の失敗で死んだ蟻を使ってフレッシュゴーレムを用意する。月土に着目したのはその後であり、蟻やらゴーレムを使って研究室の拡張を行うとか、魔王軍の中でなにがしかのデモンストレーションを行った後ではなかろうか? 魔法を無効化するゴーレムが誕生したからこそ計画を前倒しにすることはあっても、最初からこのゴーレム完成を目指していたわけではあるまい。

 

「松永譲治は最新の研究を知ってたかもしれません。もしかしたら上手くいかないから試したでしょうし、魔王軍には現物が残ってるから複数ある説の中で採用するキッカケにはなったでしょーよ。しかし奴が最初に実用化した技術を考えたら、魔石から逆流させる技術の方でがしょ!」

「あーそういえばそうだねー」

 予兆となる件の後、ビルディングとでも言うべき場所から松永譲治の研究室は見つかった。

最初に屋上付近から影の転移で蟻たちを送り込み、酸性の蟻酸で階下を融かしていったのだ。この種の蟻は固める唾液も持っているので、古代王国時代の魔法が切れて居ない構造物も含めて、相当な部分が掘り下げられていた。松永譲治の研究はその一つにあり、蟻たちが魔物としては瘴気が低いながらも、数が数だけに時間を掛ければ集める事が出来たらしい。それで作り上げた魔石を、蟻自体に埋め込むサイクルを繰り返していたと色々と証拠があがっていたのだ。

 

「何言ってんのよ! それで成功したとして、禁忌の魔法なんか使えないわよ? やるとしたら信長公にお願いして解除しないといけないんだから!」

「別に最後までやり切る必要はねーんだよ! 今やってる研究と並べてどういう差があるか判りゃ良いんだ。データ取りと実現さえ進んじまえば、従来型の方が上手く行くのは判ってんだ。最初の一回だけ、それで駄目でも何回か試す内に十分なデータは取れるぜ! だいたいキメラを作るんじゃねえよ。鉱物に試すだけだから命の危険もねえしな」

「すばらしい! さっそく実験しれもらおうじゃないの! ねー丹羽ちゃーん!」

 啓治の気付きはあくまでキカッケに過ぎない。

しかし松永譲治ですら成功しなかった物を、今始めたばかりの研究室が成功するはずがない事を理解させるには十分であった。そしてどういうサイクルで魔法金属が実現したかが判明し、専門家である錬金術師たちが実験すればやがて成功するだろう。問題なのはその最初の説得を誰がするかであるが……佐久間が強引に手はずを整えれば、あれよあれよという内に段取りが出来上がってしまった。

 

魔石自体は啓治が計測のついでに幾つか作成しており、信長の許可が下りた段階で実験が叶ったのだ。そして完全成功こそしなかったものの、計測結果の上では第二段階を突破。従来の方法に置き換えつつ、第三段階・第四段階に進んだのであった。

 

そして……。

 

「佐久間殿の研究室ではこれで実験が進むと申しておりました」

「ふうん……」

 ゴーレムの剣戟モーションの為に招かれていた剣客が数名。

その内の一人が故郷に帰還した時にその事を伝えたそうだ。剣客として招かれるくらいであるからには、藩属国の中でもそこは剣技の国。ひとは薩摩ではなく『殺魔』であるという。

 

「なあ光。ゴーレムの小太刀を人間用に使わせてもらうのは女々しいと思うか?」

「いえ。名案にございましょう。冴子さまの思うがままに」

 実際にはもっと強烈な方言で交わされたはずだが、この様な仕儀に相なった。

神刀鍛造を目指し熱田魔法学院に、剣技の国から来客が訪れるのは当然のことであろう。




 材料は出来た! 次は何に使うかの分捕り合戦だ!
と言うのが次回ですね。
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