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停滞していた素材研究は一気に躍進した。
欠けたピースが収まる事で止まって居た時間が動き出す。しかしそこからが織田家の予算を錬金術だけに、それも素材の錬成だけに注ぐという結果のなせる技であった。常であれば詳細にデータを取って異なる条件による再現から入る物を、同時並行で他の金属の錬成も行われている。理想的な魔力料などの諸条件は後回しであった。
「松永譲治の付けていた手甲は月鋼じゃないの?」
「だとしたら月土とミスリルには合金としての親和性があるのかもしれませんね。じゃあ次はそちらに行ってみます? 他にも軽量化メインの場合と、精霊銀としての特徴を延ばすとか」
「親和性って他にもないですかね? 聖銅の金色と黄金どちらも神聖性が……」
と言う風に言葉の投げ合いによるちょっとした思い付き。
それら全てに予算と人員が付き、成功した場合と駄目だった場合の両方でプランが組まれていく。過去の予算不足が嘘のような忙しさで、すること無い時代には仕方なくやって居たフィールドワークや素材収集は、他の研究室のメンバーが発言権欲しさに代行してくれる有様であった。
(聖銅とオリハルコンの合金がヒヒイロカネ……というかアカガネで、聖銅と月土でアオガネかあ。こいつは知らなかったなあ。アカガネは魔力を強化してくれるから魔法装置には必須だし、アオガネは魔力を備蓄するのに必要だからやっぱり必須。この2つの完成で飛行船への道がだいぶ開けて来たな)
前田啓治は一周目の段階で専門外だった部分を補う事が出来た。
素材部門で研究していたとはいえ、コネも無かった彼は根幹技術に関われていたわけではない。どんな魔法金属があるのかは知識としては知って居ても、どう作るのか、そしてどういう割合なのかなどはまるで知らなかったのだ。そして自分の俄知識などなくとも、着実に成し遂げ調べ尽くしていく専門家の努力には頭が下がる思いであった。
「乙型剤で造ってみたい魔法装置があるんですが用意してもらって良いっすかね? あとは水を錬成したイコールの開発状況とかどんな塩梅で……」
「ダメダメ! まずは甲型剤を揃えてもらわなきゃ! ゴーレムに一杯使うからね! それにこっちの方が完成は早いよー! うひひ」
最初にライバルとなったのはゴーレム科の佐久間であった。
ゴーレムは判り易い強さであり、素材を丸まる入れ替えるだけで相当に強く成れる。大きくし過ぎると歩けなくなったり脆くなる欠点が、真鉄やミスリルに変えるだけで強固になるのだから。
「完成が早くても性能は頭打ちじゃないっすか。オーガやトロールより強いのは良いっすけどね、その場での勝利限定っすよ。格の高い騎士とか魔法使いでも行けるじゃないですか」
「それを誰でも出来るのが重要なんじゃない。だいいち完成どころか何時になるか分からない飛行船と比べられないね」
ここでのポイントは一戦場の勝利であった。
魔王軍の主力はオーガやトロールであり、ゴーレムはそれに対抗して設計されている。これまでは術者を狙われると弱いとか、命令の幅に問題があるという欠点があったが、騎乗型ゴーレムによってそれを補えるのだ。ゴーレムが技を使えるようになるかは別にして、複雑な命令を与える事が可能なれば作戦に貢献するだろう。一つの戦場に数騎のゴーレムが居れば人類側戦力を補えるし、生命ではないので壊れても作り直せるという点で有利なのは間違いがない。だが戦場一つにしか役立たないというのが目に見えた欠点である。足も遅いので配置転換には向かないのだ。
「言いましたね? しかし魔力増幅器と魔力備蓄器が完成すりゃあ後少しっすよ。本体を軽くできる意味合いじゃあこっちも同じだ。もちろんミスリルじゃなくてもですわ。開発が多少遅くても、発展性と言う意味じゃ他の魔法陣に組み込めるこっちはスゲーっす!」
「残念でしたー。こっちも馬型ゴーレムやら馬車型ゴーレムで補えるんでーす! だいたいねえ、こっちが一台完全なのを作ってから、そっちに舵切ってもいいじゃない!」
対して飛行船の方は先が長いが、発展性が段違いである。
輸送面もさることながら、現時点で判っていない魔王軍の本拠地を探すことができる。空を飛ばすだけならば浮遊呪文を拡大すれば問題ないので、これまでよりも効率の良い拡大術式を組み込めれば十分に飛べるのだ。ただそれだけでは移動力が低いため、魔力増幅器や術者が休んでいるた時に魔力を溜めて置ける備蓄装置は必須である。そしてこの二つの装置は他の魔法陣などにも組み込めるため、様々な分野で貢献が約束されているとも言えた。だからこそ管制が遅くなりそうだというのもまた間違いなく大きな欠点なのだが。
「議論はその辺で休憩して話を聞いていただけませんか? 私たちも魔法金属に興味がありましてね」
「あんたは一体? 見たところ剣士っぽいが」
此処で割って入ったのは刀を腰に佩いた青年である。
貴族風の装束にも見えるが全体的に厳つく、標準語ではあるが言葉のイントネーションにも鈍りがある。顔立ちは美形で見た目は偉丈夫なので、周囲の女性陣が目をハートにしそうな勢いであった。
「もしかしてこないだ帰てった薩摩の人の友達? まだ剣技組み込むにも完成してないんだけど」
「はい。手前は伊集院光、言います。島津の統領たる冴子姫の名代に仕りました」
(島津冴子つったら魔王軍に少数精鋭で切り込んでったつー女傑じゃねえか。確か闘気魔法を完成させたんだっけな)
やって来た伊集院何某など知らないが、島津冴子と言う名前には啓治も聞き覚えがあった。
島津の抜刀隊を率いて参戦し、大戦の中で闘気魔法という新しいジャンルを完成させて戦闘に明け暮れたそうである。九頭龍衆とか殺魔とか言われる剣客集団であり、派手な戦いゆえに戦闘には素人の啓二ですら知っている破格の存在である。
「作り易いゆうたら刀です。ゴーレム用の小太刀ば手前どもの太刀として共通化させてくれませんでしょおか? もちろん薩摩から素材も持ってきますし、貴族会合では尾張と共同歩調ば取りもす」
「いやー。そういうのは殿……信長公にいってくんないかな?」
「佐久間先生に同感です。我々では判断できませんし。既に交渉したという事なら話合いになりますが」
この申し出に佐久間も啓治も共同で織田信長に放り投げた。
何分、伊集院某の態度からして貴族っぽい。戦闘を主体とする武闘派貴族に逆らいたいわけでもないし、貴族である以上は弁も立つだろう。ソレを避けて一番頭の良い人物に降るのは定石である。
「おお、それは良うござった。信長公はみなさんがええゆうたらええと」
「あー。話を付けてから来たんすね。じゃあ配分の問題を話し合うとしましょうや。そうですね。俺の方は刀を甲型と乙型の両方で造って、その技術を回してくれるんなら取り下げてもOkっす」
「ちょっとちょっと! なに勝手に決めてんのさ。ゴーレムには一杯使うって言ったでしょ? 薩摩の連中に刀何振りも作ったら……」
啓治はここで佐久間を止めた。
信長に話を付けてから来る連中に貴族でもない彼らが話し合いで勝てるわけでもない。その代わりに別の物を提供して貰うべきだろう。具体的に言えば、自分が作りたい物を薩摩との共同歩調で作るとかだ。
「佐久間センセ、ここは現実を見ましょうや。薩摩から持ち込まれた銀で軽量級ゴーレム作る方がなんぼか強いっすよ。それに……薩摩にも魔王軍との戦いで開発するナニカを持って来てんでしょ? そいつをゴーレムやら俺たちに見せてくれるんなら、十分有意義っすよ」
「……具体的には何でしょか?」
「魔力を伝達する刀とか? 薩摩が殺魔って言われるんなら、そういう神刀の作り方でも研究してるかと思ってさ」
啓治が目を止めたのは二つ理由がある。
一つ目は刀の特質上、メインは真鉄の堅さであり粘りを演出する合成する他の金属である。ということは銀素材はメインではないので、代わりに尾張の方で使える分量が増える。流石にゴーレムサイズの銀を尾張だけで集めるのは馬鹿馬鹿しい。そして闘気魔法と言う新ジャンルで培った技術……特に刀に魔法を伝達させる技術は、飛行船やらゴーレムでも役に立つだろう。現時点ではエネルギー伝達効率の高い『イコール』という物質が開発されてないこともあり、代用手段は重要であった。
「何処で聞いたか知らねど、薩摩もんの前でそれは口にせんでいただけると助かりもす。あくまで冴子姫がええゆうてからでないと。でねえとヒノカグツチがみなさんに振るわれることになるかと」
「……察するにヒヒイロカネつーかアカガネっすかね? イコールの方かもしれませんが。こっちでも似た物を試してるんですわ。殺気を収めてくれると助かりますがね」
おそらくは魔力を増幅する金属を使っているのだろう。
薩摩が魔族退治に没頭するために、秘かに伝えた技術であると思われた。ソレを使用した技と魔法を使う事で、闘気魔法と言う魔力を特殊な強化に使う魔法が融合できたのだと思われる。啓治の知識では悪魔で魔法としか知らなかったが、まさか素材も重要だとは思いもしなかったと言える。
こうして素材協定と貴族間交渉での提携が決まり、少なくとも魔王軍との戦いに関しては、また一歩前進することに成ったのである。
少し話を修正したので、いつもの時間とずれました。
話がスムーズに言っても面白くないのでちょっとしたライバルの登場です。
素材を奪っていくライバルであり、交渉相手であり……と言う感じ。
薩摩の伊集院+緑川光。