●
薩摩が合流したことで研究に弾みがついた。
貴重な素材の供給に始まり尾張系とは異なる意見が出ることで、別角度のアプローチが可能になったのだ。また魔王軍との戦いを想定した場合、強力な白兵戦集団とコネクションを結べたことは大きかった。もっとも人間関係というものがある以上は全てを良しとするわけにもいかないが。
「何よ浮かない顔ね。そんなに焦ってる訳?」
「おう。伊集院兄弟とかスッゲー佳い男だろ? お前とか織田先輩とか盗られそうで怖いな。それと……」
「ちょっ、ななな。何言ってんの!?」
柴田晶子が茶化してくるので前田啓治は直球で返した。
この辺は一周目の人生がある分だけ経験が違う。既に一度死んでる分だけ達観しているので、NTRだとかそういうのはあまり気にして居ない。というか声を掛けようかと覆っていたマドンナは柴田哲章と良い雰囲気だし、お姫様に至っては出逢う前から織田信長とお見合いしそうな勢いなのだ。なるようにしかならんと覚悟を決めても仕方があるまい。もっとも本当に晶子辺りに熱烈なアプローチを掛けられたら何時までも平静でいられるかは判らないが。
「そりゃ……そうなんだけどね。お兄ちゃんも織田先輩とあんまり会えてないらしいし」
「それよりも、だ。俺が気に入らねえのは連中の参入で都合の良いように動かされてるって事だよ。いや、素材とかくれてるからその辺は良いんだ。しかしよ、スケジュールから腕利きの研究者の割り当てまで、全部競合だぞ。俺らがそう決めたツーなら構わねえが、他人様の都合で振り回されるのは勘弁だ」
赤面して兄たちを引き合いに出して逃れようとする晶子に対し、啓治は研究の話に戻した。
男女関係は二度目の人生でも必要な潤いでもあるが、イニシアティブを握られ続けているというのはどうにも面白くはない。極論だが薩摩の抜刀隊に最新版の神剣を供与して、大戦が終わってしまって飛行船が完成しませんでした……と言う事に成れば笑い話にしかならないだろう。自分たちの努力が不足して本来の歴史に届かないならば仕方がないが、他人の都合で遠のいたのではつまらない。
「佳い男振りで負けてるとか献身さがスゲエとか、そういうのは別に良いんだよ。ワーキャー言ってようが所詮は他人様だ、熱が冷めりゃみんなあいつらが自分の都合で協力してくれてんのに気が付くさ。しかしよ、成功も失敗もあいつらのお陰だけってのが、どうにも気に入らねえ」
せっかくの二周目の人生である。どうして他人任せで面白かろう。
結局のところ、啓治が気にしているのはそこなのだ。例え飛行船建造で物凄いショートカットが出来たとしても、それでは自分の人生ではあるまい。別の目標を持って偶々飛行船を活躍の場に選んだのとあまり変わりはしないのだから。ならば他人の人生を眺めて何が面白かろうか? では何をやるかと言われたら……。
「一つ目、薩摩の闘気魔法じゃねーが飛行制御呪文とか独自の魔法体形を作る。二つ目、もう少し現実的に登り降り専用の呪文とか飛行船の運用に使えそうなを作る。三つ目……」
「最初の二つは真似っこって言われそうだけど、まあ妥当そうね。三つ目は?」
ここで挙げた内容は啓治が生前から話題に出た呪文であった。
飛行船というものが運用されていく以上は、以前よりも便利な上級魔法を研究し、あるいは生活魔法のバリエーションとして『こんな呪文が欲しい!』という内容を予め作っておくと言う物だ。この辺は飛行船が未完成でも問題はないし、何なら建造するまでに作り上げて行けば良いのだ。早めに完成したとしても、何らかの役には立とう。ただ薩摩が闘気魔法を熱田内限定とはいえ公開してしまったので、後追いのそしりは避けられまい。
「小さな飛行船つーか、魔法の絨毯みたいに最低限の機能だけ持たせたナニカ……。鳥型ゴーレムでも佐久間センセに作ってもらって、どれだけ便利なのかを担保するって当たりかな? 飛行呪文とかの安全装備は先に作ってあるから、お空の旅行としゃれこむのも悪かねえ」
「あー! そういえば研修中も空飛ぶのだけは楽しかったわねぇ! いいんじゃない!?」
ゴーレム科の佐久間は獣型ゴーレムを作っていたはずだ。
基本的には馬のような形状で、輸送を担当したりするレベルだそうだ。人間型とちがって細々とした動作はできないが、一定距離を走るだけならば問題なかったと聞いている(正確には自慢と同時に成果を聞かされた)。
「だろ? 何時になったら完成するかワッカンネー現物を待ちながら呪文作るよりも、お空の旅行を兼ねた探検を繰り返してりゃあ世間様の評価も違わぁ。まあ都合よく魔王軍の砦を見つけるとかは無理だろうが、鉱山とか森を発見するとかはできるかもな」
「面白そうだけど乗ってくれるかしら?」
「闘気魔法が刀で発動するみたいに、ゴーレムを経由する魔法がどうのと言えば協力してくれっだろ。基本的にはガワを作ってもらうだけだしな」
未熟であるが理論や魔法装置自体は既にあるのだ。
極論を言えば鳥形ゴーレム全体に浮遊魔法を掛けて、その維持を魔力蓄積装置や強化装置に任せる事ができれば問題ない。それこそ啓治が飛行呪文を使用し、晶子が浮遊呪文という分担ならば現時点で絨毯くらいのサイズならば飛ばすことができるのである(そもそも飛行船は空飛ぶ絨毯からの派生なので)。後は飛び易い形状や、風を受けて飛ぶ場合の問題を計算するだけだ。もちろん未知の分野であり危険は大きいが、だからこそ今やっておく意味もあるだろう。最悪の話、地上スレスレを飛ばして地形を無視できる馬として実験しても良いくらいであった。
「ミスリルは佐久間センセが運動実験に使うだろうし、魔鉄やアカガネは薩摩の連中が刀を作るのに使いそうだな。ひとまずはアオガネでひたすら俺らの魔力を備蓄して置いて、ひと眠りしたら俺らが直接動かす力業になるかねえ。後は鳥の形状がどこまで飛ばせてくれるかだ」
「一々複数の呪文を使い分けるよりも、二人で一つの物を飛ばした方が早そうだしね。早速、佐久間先生に相談して見ましょ」
不思議なもので高速で移動する船と言われてもピンとこないが、地上を進む船ならば面白そうに聞こえる。
また船を飛ばして飛行船を作ると言われても本当にできるとも思えないが、空飛ぶ絨毯の応用でゴーレムを飛ばすと言われたら納得できるのだ。もちろんそこには先人の知恵があればこそで、実際に力業で飛ばして運用した魔法使いが居たりする。確か魔力量が多いという加護の持ち主であったはずだが、ゴーレムを飛ばして奇襲をかけた人物が居たそうな。なお二人が知る由はないが、天の鳥舟という飛行船の伝承もあるらしい。
「鳥型のゴーレムを作って空を飛ばす? これまた面白い事を考えるねえ。まあいいんじゃない? アオガネなら今のところ使い道はないしね。でも重量問題はどうすんのさ? 浮遊呪文とかモロに重いと厳しいでしょ」
「そこは実際の鳥を参考に、骨組み以外は中抜きしやすよ。最悪、俺らが跨る場所と備蓄装置以外は丈夫なの布でも良いくらいっす」
「流石にそれだと怖いんで、林先生にお願いして布型の呪符にしてもらおうかと……」
魔法金属には膨張率があるが、それでも金属は重い。
馬型などは木製のウッドゴーレムで済むが、空を飛ばすのに魔力備蓄装置頼りなので当面は金属製でいくしかない。段々と軽量化が進むか、イコールが作られれば話は別なのだが……。ともあれその辺りは布を呪符化することでそれなりの強度を保つという事になった。主に翼部分などは浮遊呪文を晶子が書き込む手伝いをするという事で林教諭と交渉が成立したのだという。
「あー。なるほど凧を参考にしたんだねえ。そういえば馬鹿話を知ってる? 魔法の絨毯を強化するのにさ、凧を参考にするのを思いつかなかった時期があったんだってさ~」
「そいつは判りましたんで、後はお願いしますね。もちろんゴーレム制御に面白そうな呪文が出来たら届けますから」
こうして薩摩の介入でズレ始めた計画を強引に戻すだけではなく、新しい計画を立ち上げることになったのである。
段々と人数増えたり、政治物に成って行ったりしたので調整。
ヒロインと二人でデートする路線へ。