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時間の針が刻一刻と動き続ける。
特に取り返しのつかない大きな針が魔王とその軍隊の存在だ。彼らは人類社会を滅ぼすために動いているので、日頃は仲が悪い国々でさえ協力し始める程である。例え悩んでいても無視できる事では無かった。
「確か……最初の予兆はウチの学校を始めとした各所への襲撃なんだよな。当時は魔王と関連付けもしなかったが。判って見りゃこれ以上ない組み合わせではある」
進学が決まり中等部は暇なのを利用し、図書室でお勉強と称して考えをまとめ直す事にした。
時系列的に魔王は既に代替わりしており、その軍隊は着々と手を広げている。その手始めに幾つかの場所を襲撃する訳だが……、熱田魔法学院がその一つとして選ばれたのも幾つかの理由が存在した。例えば後に魔王軍四天王と呼ばれる存在の一人が、危険思想で追放された上級生徒であったという事実だ。調べれば判る事もあるし、記載されて居ないこともある。不名誉などはその一つと言う訳だ。
「確か怪しげな研究に手を出して追放されたんだっけな。何に手を出して追いだされたかまでは知らねーが、そりゃ恨むだろうよ。資料集めを兼ねて襲撃の一つも企てるわな」
いわゆる『堕ちた大魔導師』が魔王軍の予兆事件における黒幕だ。
邪な研究が発覚して追放されるのだが、その人物は学園に関連する全施設での記録と資料に関する閲覧権から排除されていた。それゆえに研究施設からの追放は、もはや学問を放棄せよと言うに等しい。この男、前田啓二は卒業生ではあるが……研究職を辞めて冒険者にドロップアウトしたがゆえに、その苦労は察して余りある物があった。
「とはいえ同情はするが見て見ぬフリをするのは論外だ。世話になる人らが殺されるってのはゾッとしねえし、何よりもその後が随分と違うだろうしな。専門分野を学んで終わりにするにしても、研究職に進むにせよ差はデケエ」
ここで重要なのが教育者の担当人数と、そのコネクションだ。
一人の教師が生徒の力を伸ばせるのは三名から五名、教養や講座などの聴講生も二十名強が限界と言われている。仮に面倒見の良い生徒など教師の才能がある者を選び、指導補佐として据えたとしても若干の増加が精々である。こんな状態で教師と上澄みの上級生の多くが死ねば大変なことになるだろう。専門教育を学べる相手が居なくなる上に、研究職や魔法使い向きの仕事に推薦してもらえなくなるという点では絶望的である。
「研修に参加するのは無理すればできるとして……問題はどうして大事になったか、だよな」
堕ちた大魔導師が引き起こす事件の発端になる研修は、掘り尽くされた古代遺跡の探求である。
上級生以外でも教師が見込んだ優秀な生徒であったり、将来の志望的に役立てると見込まれた者がメンバーに選ばれる。ゆえに教師が好む分野で己を鍛えたり、最悪の話だが……研究に有用な素材収集を専門とする冒険者じみたフィールドワークの研究者志望だとでも言えば良いのだ。しかし問題なのはこの事件がどうして大問題になったか公表されていないのだ。自分の学校が関わる事もあり尋ねはしたが、むしろ冒険者に成ってから確かめたことが多かった。
「セイガク共は役に立たねえとしても、教師陣はあれで立派な魔法使いだ。掘り尽くされた遺跡とはいえ十分な護衛や、場合に寄ったら指導員として冒険者を連れてたはずなんだよな。首謀者がソレを出し抜くのは当然としても、どうやって殺して回ったんだか……」
実戦経験のない学生は何処まで行っても学生だ。
しかし教師陣の多くは優秀な魔法使いであり、攻撃魔法を覚えている者がゼロとは到底思えない。他にも有用な魔法は色々あるし、護衛や冒険者に付与系や強化系の魔法を掛けるのが一番建設的だろうか? そんな手段を誰も思いつかないとは思えないのだ。
「あー止め止め。ここで考えても意味はないし、やっこさんは考え付く全部の事をやっただけと思っとこう。後は情報を集めて現地でも色々やるって方向でいくしかねえな。どうせ二度目の人生で知っているとか言っても信じてくれねえだろうし、英雄願望の教師や冒険者に頼んでもたかが知れるってもんだ」
中等部にある資料では調べられることが限られる。
高等部なら多少はマシな筈だし、上級生から研究職になってる先輩ならば経験者として色々聞くことも出来るだろう。それを考えたらやるべきことは一つしかない。
「てーこたあ、することは何をするか決める事だな。可能な事の全てが有効じゃねえし、その後の人生も考えれば無意味な選択も無しだ。覚えることを捨拾選択するっきゃねえ」
学生が一人入れ替わっても普通ならば大したことはないが、彼は二周目の人生である。
一周目の人生から引き継げる僅かな知識を活かし、基礎学問や古代魔法語などの言語系はそれほど覚えなくても済む。教師が関心を覚える程度に若き日の自分が覚えてない事でも質問して見せれば良いだろう。余った時間で魔法のいずれかを使い物になるレベルで習得し、戦闘経験を活かせばそこそこの活躍は可能だろう。その力で失われては困る数人を助けて回れば良い。問題なのは全てを戦闘のみに費やしたら、その後の人生は戦闘で埋まる事になってしまうことだ。
魔王軍が時計の長針であるならば、その後に来る発展が短針というところだ。
図形で言えば、形を決める縦の線と横の線と言い換えても良い。何もかもを選べない以上は、スケジュールの進行に合わせて決めていくしかない。
「基礎の魔法をどう割り振るか、専科も何にするかは悩みどころだが……将来を見越せばおのずと絞れる」
魔王軍に対抗する為、通常時では考えられぬ予算と人材が技術開発に投入される。
古代王国が滅びて新しい国家に成り代わり、既に三度目の襲来だ。相手も代替わりしたり傷ついて復活に時間を掛けたりしているが、その度に大きな変革があった。魔物の素材を活かすことで、古代王国時代よりも劣った技術でも魔法の武器を作れるようになったり、魔法の様に即効性のあるポーションの開発。あるいはそれらの発展形と本来であれば大きく悩む選択肢ばかりであった。基礎魔法も関わって来るのだから悩みも大きくなるのだが……。
「付与魔法や召喚魔法も悪かねえんだが、やっぱ飛行船の登場は外せねえだろ。何が違うかって移動力がダンチ過ぎる」
技術の発展でこれまでの技術が向上するし、これまで出来なかったことができるようになる。
啓治が生前に研究していた素材関連だと魔法金属の再発見と再現だろうか? 錬金術ではとうに卑金属から貴金属は作れないと研究されていたし、ミスリルやオリハルコンと言った金属も自然界には存在しないと判って居た。それらが結びついて花開き、魔法金属を貴金属から魔力を精製し神秘を昇華する方法で疑似的に造れるという事が判ったのだ。そして魔物の素材を使って劣った技術でも魔法のアイテムを作る技術と結びつき、個人でも製作可能になったり、これまでとは違ったモノが作れるようになる。その集大成が飛行船なのだ。
「まずは対案として光メインで考えてみるか、強さとロマンの両方を兼ねるってのを越えなきゃ意味がねえ。光メインの幾つか有用な他の魔法をつまみ食いするって路線と飛行船の話を比べる」
魔法には得意不得意があるが、光は対魔物を得意とし優秀な魔法が揃ったハイ・バランス型だ。
基本的な戦闘は光だけで十分に揃うし、光と同じくらい難しい闇魔法が吸収や精神系で相手を選ぶのとは対照的である。攻撃力の高い火魔法は不要としても、風魔法で空を飛んだり加速したりと言う風に有用な魔法だけ覚えて魔法技能そのものは低レベルで抑える手が有用なスキル構築だろう。もし勇者が器用貧乏に走って居たらそいつの持つ加護次第だが、こっちの方が強いとも思える程だった。学校で覚える専科を付与魔法にして武器でも作っておけば安心できそうだ。
「戦場を駆け回る光の剣士。勇者が育って来たら主戦線を譲って第二軍を率いてバックアップに回る……良いじゃねえか。少なくとも悪くはねえ。その上で、こいつを上回る魅力が必要っと」
攻撃や防御を光魔法で揃え、低レベルでも済む補助魔法を覚える。
それが冒険者が思い描く戦闘の理想形だが、実際にそれに近いことを勇者や聖女は可能であったという。おそらくは有用な加護で効率的に魔法を覚えていたのだろう。その事がロマンに流されそうになっていた啓治を思い留まらせる。何処まで行っても勇者の基本戦闘力留まりであり、闘い慣れない頃の勇者を導くとか、勇者が育てば二番隊を率いてフォローに回るのが限界であろう。
「類似第一案、補助魔法を闇魔法に絞ってアイテムを作り、継続戦闘や長期行動を可能にする。類似第二案、光魔法から基礎二系統に変更してマスターリーレベル手前で留め、最初から付与魔法での白兵戦闘をメインに据える。……うん、どれもその場限りの誤魔化しだな。姫サンに惚れでもしね―限りはねーわ」
まず戦闘に走るという案を残して、パターンを変えてみる。
闇魔法にはアイテム収納するとか、影を伝って向こう側に移動したりと面白い魔法がある。食料やら移動手段を付与魔法なりゴーレム魔法を研究して用意して置けば、純戦闘型よりはマシだろう。しかし限界線としては対して差はない。光魔法メインと比べてもあまり魅力を感じなかった。それこそ姫の為の騎士を目指すというロマンでも無ければやらぬ方がマシと思えた。
「つーことは飛行船を運用するのに有用な魔法を覚えるべきだ。それに引き替え光が対魔物特化ってのは格好良いが、それだけしか出来ねえのが痛い」
光魔法なら魔物との戦いで活躍できるが、ソレだけ。魔王軍との戦いが終われば無用の長物。
その後は冒険者や軍人になるのが精々だろう。運が良ければ国仕えの騎士として隊長格の一人というところか。しかし基本の地・水・火・風の方が覚え易い上に、飛行船運用で役立つことが判って居る。これから人類の活動圏が大幅に広がるのであれば、これに関わらないのは嘘だろう。今から開発される物であり、その開発や運用試験に関われるのならば猶更である。
一話目の話を少し詳しく説明。
世界背景を語ってる感じで、今回は魔王軍が居るから技術開発したんだよ!
と世界大戦みたいな理由があれば、なろう系技術があってもおかしくないな。と言う話。