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活動的な目標は意識を活発にさせる。
当初はあまり協力者も居なかった鳥型ゴーレムだが、実働試験が終わる頃には飛べない者までが持ち出し、『やり過ぎだ馬鹿』と空中での試験運用を禁止されるほどであったそうな。
「やっぱり飛ばないとあんまり距離が伸びないわね」
「そりゃ風を捕まえられねえからな。もしこいつが水上型だったら、水流操作と海流を組み合わせてかなり伸びてたはずだぜ」
馬へ二人乗りする様な、抱きつくような姿勢で試験飛行を行っていた。
安全のために海上で試験運用することに際して、柴田晶子は最初だけは当然の配慮だと口にしていた。しかし実働試験が終わる頃には、早く空中を飛びたいとばかりに不満を貯めていた。環境の変化で意欲は向上することもあるし、気分は慣れると段々と大胆な事をしたくなるものだ。
「それじゃあただの船じゃない。何が面白いのよ?」
「既存の船より早くて、しかも何もない場所でも移動できる優れモンだぞ? 九鬼や村上じゃあ既に新型船を建造し始めてるはずだがね」
魔王軍来襲の話はまだ信じられていないが、魔法金属の再現は大きな話題であった。
熱田魔法学院のある尾張には様々なオファーが飛び込み、薩摩のみならず安芸や萩を束ねる長州などの諸勢力が接触して来た。また王都組の中でも末流の九鬼家などは織田家の寄子に鞍替えを約束して技術を得ていたのだとか。
「いずれにせよ退屈な海上試験もここまでだ。減っていく魔力感や時間管理にも慣れて来たし、いずれはアカガネを使った強化装置も考慮してくれるってよ。俺らが試験旅行から戻ってくる頃にゃ、飛躍的に移動距離が伸びてるだろうな」
「楽しみね! ……あ、変な意味で言ったんじゃないからね? 啓治ったら勘違いしないでよ!」
鳥型ゴーレムの運用で一番最初に出た問題は、飛行時間の管理であった。
浮遊呪文を全体に掛けて、飛行呪文で後押しするのだ。人間数人分の重量を一気に移動させられるのは爽快だが……。逆に言えば同時に呪文を2つ起動している。効率よくなるように時間延長の拡大術式も組み込んでいるが、慣れないとどうしても試験中に落下してしまうのである。堕ちた時の為に飛行用のマジックアイテムを作ってはいるが、中には緊急起動用の魔力も使い果たす馬鹿が続出したのだ。それでも空を気軽に飛べるのは爽快らしく、教師たちは早々と空中試験を禁止したほどである。
「へいへい。そういうのはお互いに気分が乗ったらだろ? 成るようになるし、乗らないならそれまでさ。それよりも飛行計画を立てちまおうぜ。柴田のアニキがうるせえからな」
「判ったわよ! 濡れたの着替えて来るから、ちょっと待ってて!」
流石に海上で試験していると濡れることもある。
昔は『そんなの気にすること無いだろ』とか言っていた前田啓治であるが、流石に二度目の人生ではデリカシーのデの字くらいはあった。とはいえモテまくっていたわけでもないし、そういうコミュニケーションが多いわけではない。研究者や冒険者の中でも妙にモテる奴と、まるでモテない奴が居るな……デリカシーとアプロプ-チくらいの差を覚えるくらいは重要なのだなと覚えて居るくらいであった。
そして啓治は晶子と共にフライト・プランを練り上げると皆の前で提示する。
「今回の飛行計画は七日行程の予定がどれだけ変動するかを計測するもんです。風に乗って労力を減らすことで五日未満に成るのか、不具合や魔力切れを起こして十日以上になるのかを確かめる事が前提に成ってます。途中で何か有益な物を発見しても記載以上に関与せず、基本的には余計な事をしないツー感じですね。例外は人の生き死にが関わった場合だけになってます」
「うむ。やはり基本が大事だからな。晶子も何かあったらすぐに戻って来るんだよ」
「お兄ちゃんは心配し過ぎだって」
保護者の強力な要請によって今回のプランは基本に忠実となった。
魔力を備蓄して飛行を繰り返し、魔力回復まで何もできない時は睡眠以外は基本的に地質調査などに充てる。仮に有望な鉱山・ダンジョンなどを発見したとしても、それは後で報告するに留めて、定めた計画がちゃんと行えるかどうかを考慮することに成って居た。
「この計画が上手く行ったら、その頃には完成する二台目のゴーレムも使って二度目を行います。これは経験則や地形の報告を活かし、どれだけ日程を縮められるかを計測。もちろん山風・谷風がキツそうな場所は避けて、不意の天候変動に備えるという感じっすね。一台目のゴーレムは一回目のゴーレムと同じコースで経験則を流用、二台目は積極的にショートカットを行います」
「五日もあれば完成してると思うよ。流石にアカガネによる強化装置は無理だけどね」
「あれはまだ汎用目的の開発の目途が立ったところですしねえ~」
ゴーレム科の佐久間教諭と錬金術科の丹羽教諭が口添えを行う。
ひとまず同じゴーレムをもう一台作って計測を繰り返し、啓治と晶子以外でも同じようなデータが出るかを調べる予定であった。その後にアカガネを使った強化装置や、まだまだ開発中のイコールによる伝達装置が完成すればもっと便利になるだろう。それまでは必死に魔力を備蓄して、移動中にも再生産された魔力ともども溜めては使うという運用で精一杯であった。
「前田くーん。肝心の運用場所の方は?」
「それほど風のキツくないと知れている谷や山を横断するほか、町の近くでの発着に関して清州で安全管理を確認します。それとこれは信長公からの命題で、三川をどんだけ眺められるかを調べて欲しいと」
「昔から三川の流れは重要ですものねえ。龍神の御料地にも例えられたものよ」
鳥型ゴーレムには魔力備蓄装置を常備し、呪文の継続を代用できる。
その為に魔法使いが単独と比べて長期飛行が可能であることが大きかった。例えば山野を横断的に移動し、また街道などを無視して移動できるのは魅力的だろう。ここで問題視されたのが、人々の上を飛ぶことに関して少なくとも町の付近では遠慮する事。そして尾張へと流れ込む三つの川の監視を要求されていた。流石に嵐や大雨の中を飛ぶのは難しいだろうが、その翌日にでも確認できれば、大幅に危険度が違うのだ。『拡声』の呪文が使える者を乗せれば、それなりに住民に避難を呼びかけることも可能であろう。
「とまあ色々することはありますが、まずは予定通りに飛んで戻る。楽しい事はその後にって方針は間違ってないとは思いますね。飛行船が建造できれば不要になるかもしれませんが、駅伝式で鳥型ゴーレムを使うとか運用法に一工夫も二工夫も出来るかと」
「その辺はこっちでやっておくから問題ないね。幻像の呪文を装置に組み込めたら一番なんだけどさ」
「なかなか欲しい呪文の使い手は現れませんものねえ。さすがに呪文を覚えて居るかどうかだけで研究室入りを優遇するわけにもいきませんし~」
啓治は一周目の知識があったので、自分が望む方向に必要な呪文を覚える事にした。
しかしそれでも『これがあれば便利かも』という呪文全てを覚える余裕などない。当初は高速詠唱などの目標があり、今だとマスタリーレベルまで挙げる必要があるからだ。これが他の生徒であれば猶更であろう。もっとも魔王軍との戦いが始まれば、研究室の規模自体が水増しされるので、教諭たちもそれほど悲観視していないのであるが。
「それにしても町の周囲での研究なんて何処でもできるし何時だって可能なのに、なんでまた清州なの? 直ぐそこじゃない。帰り道に寄らなくても、帰ってから待機中に試せばいいのに」
「木下クンが上を目指してんだろ? いっちょ試作品を見せてやろうと思ってよ。……飛行船を目指すなら、夢があと一歩だと知れるのは大きいぜ」
「啓治……」
割りと感動している晶子には悪いが、啓治としては言い訳染みた理由があった。
今の自分が未来を目指して歩けているのも、飛行船を知っていたから。そして一周目で乗せてくれた若きホープが居たからだ。自分たちが鳴かず飛ばずで終わった後、苦労して飛行船技術の立ち上げに関わっている。探検家である父の見つけた古代の飛行船を飛ばすという夢があったとはいえ、中々の苦労であったろう。
そんな彼が付けるべき足跡に、自分がしゃしゃり出て代わりに名前を残そうと居ている。名誉なんてどうでも良いのだが、代わりに彼へ夢と言う物を実感させてやりたかったのだ。それが代償行為でしかないとは知っていたが、啓治なりのお礼であり、未来のライバルへの発奮材料であった。
計画終了! 次回飛行旅行になります。