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開発に関わる知見には幾つかの段階が存在する。まずは素材や概念が第一歩だ。
そして試験運用中に判明する不具合や改良点が時点で、この段階で何度も手直しされることも少なくはない。そして実用が始まって起きる現実との齟齬がその次の段階と言えるだろう。
「二日でここまで来たの初めてだけど……。随分と面倒くさかったね」
「主に人間関係がな。まあ、判っちゃいた事だけどよ。なんでまたお空の彼方にまで地上の出来事を考慮しねえといけないんだか」
柴田晶子と前田啓治は鳥型ゴーレムを使って尾張に流れ込む木曽川まで来ていた。
谷を越え山を越え川を越え、街道など無視して飛行することで実に二日の行程だ。それも途中で何度も魔力を回復しながら飛んだわけで、以前からは考えられないスピードであった。何しろ木曽三川は途中で何度も分流と合流を繰り返し、蛇行したり直行して移動を阻んでいる。中には橋が無い場所もあったり……極めつけは貴族たちの都合で移動を制限されることがあるからだ。
「信長公のお墨付きがなきゃどこかで足止めされてたと思うけど……途中で兵士じゃないのも追いかけて来たわよね?」
「多分だが野武士の連中だな。この辺りは河賊や山賊を連中が締めて、大人しくさせてるって論理でアガリを徴収してたはずだ。連中から見りゃあ貴族共以上に俺らは脅威だろうよ」
野武士と言うのは要するに豪族の一種である。
河賊・山賊とほとんど変わらないが、多少は話が通じ易いとか兵士・人足として雇えると言うメリットがあるヤクザ者でもある。河原者と呼ばれる自由人といえなくもなかった。明確な豪族と違うのは土地を所有するのではなく、何らかの収入に対して勢力圏が存在するという点であった。彼らから見れば新しい移動手段である『空』と自在に翔けている様に見える鳥型ゴーレムは相当な脅威であろう。
「あいつらに見つからないように移動するの?」
「何のかんのといって連中は町やら川ごとに居るんだ。連中同士で手を組まれたら、どこかで見つかって寝てる所を覆われそうな気がすんぜ。もちろん宿の中でもよ。そうなるとどのみち行き帰りの何処かで寝床を抑えられえそうな気はすんだよな」
ここで問題なのは経済活動によって流動する勢力圏に住んでいるという事だ。
川を行き来する船主や、馬を扱う馬借などに人手を提供している。野武士の全てを逃れるのは難しいし、かといって飛び続けられるだけの魔力備蓄量もなかった。行きは戸惑ったり情報不足で見過ごされて居ても、帰り道のどこかで広く浅く待ち受けられる可能性は高いだろう。というよりも……。
(他ならぬ木下クンの吟遊で語られてんだよな。詰めかけて来た野武士と交渉する話)
飛行船時代に語られる、遅れて来た若き成功者のお話がある。
遺産である古代の飛行船を飛ばせなくて困っており、方々の遺跡で遺物を集めたり鉱脈で素材を集めるというクエスト物の逸話であった。冒険者としては身近なストーリーなのだが、最初のスポンサーである松下財閥との別れや、野武士である蜂須賀党との協力は面白い話なのだ。ただそのまま鵜呑みには出来ないし、そもそも状況が違うだろう。木下勝平が雌伏して居た時は、既に二隻の大型船が就役しており、野武士たちも困っている状況だったのだから。
「じゃあどうするの?」
「俺が交渉とか得意な様に見えるか? 滝川サンの所に顔出して話を通してもらった方がいいんじゃねえかな。どんな条件なら野武士を味方に付けることができるかとか……少なくとも今は思い付かねえ。ほっといたら襲われることは判るんだけどよ」
冒険家である木下勝平と蜂須賀党の交渉は、約束組み手のような物だ。
困っている野武士が困っている冒険家と手を組んで、理屈をつけて飛行船業界の人足として乗り換える。探知魔法は野武士ならば十分に備えて居るだろうし戦闘技能もそうだ。彼らはwin-winで取引したであろうし、お互いに必死だったから一度納得すれば協力関係も強固だったに違いあるまい。野武士からしてみれば、その機を逃せば飛行船に拠点を抑えられ、地上・水上の物流が減る最中であったのだから。実際に冒険者仲間の中には、蜂須賀党以外の野武士も結構存在した。
「えーっと九鬼さんと同じく王都からこっちに鞍替えした人だっけ?」
「おう。どうも王都組でも熊野の連中は非主流派らしいな。そういやお姫様の居る斎宮がある伊勢も王都からは離れてんなぁ。せちがらいというか、だからこそ魔法金属やらの話に乗っかってるんだろうよ」
人間三人居れば派閥ができるという。
熱田学院と仲の良い熊野学院や女子のみの斎宮は非主流派である。貴族関係という複雑な物が無ければただの魔法学園生活なのだが、権力基盤がそのまま力関係に現われているために面倒な事に成って居た。その中でも滝川と言う男は、野武士やら筋者の話に詳しいと評判の学生冒険者である。啓治は学院での話以上に、佐々香奈からもその辺りの話を仕入れていたのだ。
「ともあれこのまま木曽三川を確認してUターン。墨俣の辺りで測量してるらしい滝川サンを見っけて話を通してもらうなり、交渉材料を貰って何とかする感じかな。……と、その前にちっと魔力節約して飛ぶぞ。連中が見上げてるから、話が通じそうな感じを装ってみる。見つけたら適当に手を振ってやんな」
「何処に居るのよ? 全然見えないけど」
啓治は風の流れに乗ると、浮遊呪文のみを維持し飛行呪文を継続しなかった。
定期的に魔力を消費して呪文を継続できるのがゴーレムの良い所だが、意図的に解除しないと何時までも継続するという欠点もあった。そしてソレは長距離移動を可能にすると同時に、効率的な飛行とはかけ離れる欠点でもあった。ゆえに時々こうやって、浮遊呪文のみの意地で滑空すうrことで魔力を節約するのだ。
「暫くしたら風を捕まえるまで回転すっから、そん時に探して見な。下から見上げるから判ると思う」
「はーい」
この辺りの目配りは一周目の人生で冒険者であった啓治ならではの物だ。
もっとも彼からして別に詳細な位置を見つけたわけではない。目標地点の一部に光の反射を見つけて、ソレが川の反射ではないと気が付いた程度である。いくらか飛ぶうちに近寄ったことで、やはり自然物ではないから、住居なり移動中の野武士が持つ武装と判断しただけの話だ。
「あ、見えた見えた。アレね。ポカーンとしてる~おーいおーい!」
(この辺は勢力圏が均一な辺りだと思ったんだけどな。連絡が行き届いてねーのか? 良く判んねーな)
もっと近づくとやはり馬借と御芸の野武士であったようだ。
槍に被せ物もせずに歩いており、こちらがノンビリと空中で数周している間にずっと眺めていた。啓治としても野武士たちのネットワークは侮れないと冒険者仲間から聞いた程度だ。ソレがフカシであったのか、たまたま連絡が行っていない相手なのかは分からない。少なくともあの野武士が見た報告が、何処かの宿場町か河川でで別の野武士に伝わるということだ。
「でもこんなことに何か意味があったの?」
「逆に考えてみろよ。お堅い兵士が任務の最中にこんなことするか? どこかの学院で実験中の学生か教師だと思うんじゃねーかな。そしたら向こうも友好的に話しかけて来るか、何かの依頼でも頼むと思うぜ。実際、伝令とか手荷物運ぶのは場所次第だがスゲー早いしな」
飛行技術で速度があがっても、まだまだ一定の範囲である。
それこそ『駅』が整備されて早馬が繋がれていれば、そちらの伝令の方が早いとも言える。しかしそれらは街道に制限される訳で、また急ぎの用事があった時に民衆が気楽に使える訳でもなかった。そして啓治はかつて飛行船に一度だけ乗った時や、その後でどんな事に使えるかを考えたのを思い出していた。
「……軍や商人なら大型船で定期航路とか砦の周囲だけだろうしなあ。もし俺らが飛行船を手に入れる事が出来たら、薬やら手紙を町に届けたり、鉱山や遺跡を探して移動すんのも面白いかもな」
「何言ってんのよ。今から作るんでしょ? なら自分用のも作っちゃえばいいじゃない」
将来を知るからこそ啓治は自重していた。維持もシガラミもきっと大きくなる。
しかし晶子はそんなことは知らないし、若さゆえにどこまでも我儘で居られた。若さゆえの特権とも言えるが、その言葉が随分と重く……そして暖かい気がしたのだ。
「そうだな。そうすっか。そしたら何かスッゲー機能とか、面白い能力付けようぜ」
「何言ってんのよ。そん時は快適な空の旅とかでしょ? いつまでも落ちないように抱きついたままとか、面倒過ぎて嫌なんですけど」
そんな風に笑い合いながら何時までも居たい。それこそが新しい目標であろうかと思うのであった。
空飛んでデータを出したり、トラブルに巻き込まれる予定だったのですが……。
面白くないので、将来の目的を語り合う話に書き換えました。
いわゆる『何でも屋』というやつですね。