二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

22 / 41
途上の道

 それから木曽三川と呼ばれる流域を前田啓治たちは巡って来た。

濃尾三川とも呼ばれ木曽川・長良川・揖斐川の三つが構成する流域は膨大で、かつ山間から流れ出る土が濃尾平野と呼ばれる肥沃な大地を作り上げている。一介の貴族でありながら、織田信長が豊かな経済圏を所有する一因であった。しかし同時にこれらの川は折に触れて氾濫を引き起こし、この土地が龍神の御料地とも称される原因でもある。

 

「これが空から見た地図ってやつか……」

「表に出す時は色々隠すと思いますが、少なくとも信長公や熱田の教師陣には全部見せると思います。ヤバイ情報が有ったら、今のうちに教えといてくれると助かりますね」

 三川の中央、長良川の墨俣流域で測量を行っていた滝川賢二。

彼は冒険貴族というやつで、貴族階級としては下層に位置するために軍務と称して色々な地域で偵察やら魔物退治に関わって居た。魔法金属を完成させた信長の寄子に鞍替えしたのも、魔王軍来襲の気配を肌で感じ取っているからだ。そんな経歴を持つ人物だけに、航空図の持つ価値を誰よりも実感する。

 

「俺らが散々駆けまわって手に入れた情報が丸判りじゃねえか。しかも判ってねえエリアとか、下からじゃ見えない位置まで確認してやがるし」

「技術の進歩ってやつっすかね。まあ……風向きとか魔力の補充で手一杯とかまだまだ課題は大きいっすけど、もう少し進歩すれば鉱物探知や魔力探知くらいはできるかと」

 飛行中に描いたわけではないが、魔力の補充中は実際暇である。

ゆえに適当な高地に移動してから描けば、魔力の補充を兼ねつつ十分に休息できる。現時点では野武士たちの反応がどうなるか分からないこともあり、警戒しながらの移動であった。それが良い地図の作成に繋がっているので、どこ転ぶか分からない物である。

 

「それでこんな土産を持って何しに俺んところに来やがった? 時間の無駄でしたなんて言う気はないんだろ?」

「ソレをやるなら別の場所で十分すよ。滝川サンに話を通してもらいたい連中が居まして。その辺をやるなら、今のうちにやった方がお互いの為かと」

 滝川の言葉に啓治は笑って頷いた。成果の収集ならば揖斐川でも木曽川でも良いのだ。

何も滝川が集めている情報と被らせて、彼の成果に喧嘩を売る必要などないのである。現時点で集めているデータは飛行情報にしても航空図にしても初見のものであり、何を持ち帰っても関心を集めるだろう。

 

「話をねえ……。オジキじゃなくてこの場合は野武士の方か」

「へい。空飛ぶ技術はこれから飛躍的に跳ね上がり、いつかは空飛ぶ船が一日中飛ぶようになるでしょうよ。そうするとドンドン野武士の領域を喰っちまう……しかし今ならばまだ連中も鞍替えする準備にゃ良い頃合いだ。魔王軍に対抗する為とか理由は付くんじゃねえっすか?」

 野武士は人足や戦力ではあるが、馬借や船主として流通と情報取得にも関わる。

これから飛行技術が出回り、彼らの仕事にバッティングすることは確実になるだろう。初期は貴重品や情報が主体になるだろうが、大型船が飛ぶようになれば話は別だ。貴族や大商人とコネのある者以外は次々に追われることになるだろう。

 

「判らねえなあ。そいつは野武士が心配することでお前さんが心配することじゃねえ。そりゃ俺や賢雄オジキにとっちゃ死活問題だがよ。それにしたって前田啓治には無関係だろ?」

「これがそうでもなくてですねえ。新しいゴーレムは次のが作られてますが、野武士は知らねえでしょ? 実験してる俺らを始末したらそこで話が止まると思いかねません。後……こいつが一等重要なんですが。実際に飛んでみると欲しい呪文が多過ぎるんすよね。その辺を用意するのにゃ、一人二人じゃどうにもなりやせん。時間を掛けるにしても、今度は魔王軍って問題もある」

 そう言って啓治は滝川に下書きの方の地図と資料を見せた。

下書きには推論でしかない情報なども乗せており、資料の方には欲しい探知呪文や水中行動などの呪文も記載してある。その多くは生活にあまり関係ない物であり、研究者である啓治たちには殆ど使用する可能性がない物もあった。しかし同時に、これらは野武士たちにとっては1つ覚えて居れば食い扶持を稼ぐに困らぬ呪文なのである。

 

「魔王軍に対して『使える』と思った技術は何でも一気に進みます。少なくとも飛行技術はその一つになるでしょう。そんな時に命を博打に晒す意味があるのは判りますが、それにしたって野武士じゃなくて魔王軍のチョッカイであるべきでしょうよ。ここでさっきの呪文に戻って来るんですが、そこまで研究しといて、貴族や大商人に成果だけを喰われるのはどうにも気に入らねえ」

「なるほど。野武士を敵に回せば足踏みするが、味方にすればこっちの時間を縮められるって寸法か」

 下手をすると実験中に襲われて死ぬかもしれないが、ロマンとしては割り切れる。

しかし話を通せばその可能性は大きく減るし、味方にすれば欲しい呪文を手に入れ放題だ。啓治は探知呪文を他人に任せて、研究用や戦闘用にスキルポイントを集中できるだろう。そして何より、飛行船の建造競争が始まった時に枠を都合してもらえる可能性が大きく違うのである。実験に関わり、野武士たちにコネクションがある啓治へその内の一隻が回される可能性は非常に大きくなるだろう。

 

「さいです。枕を高くするって意味でも、味方を増やすって意味でも連中を敵に回すべきじゃねえ。しかし生憎と俺にはそんなツテありやせんし、野武士に関して知ってるのは蜂須賀党が大きいって事くらいですぜ。そんな中で連中の元へ飛んでいき、地図なんて見せてごらんなさいよ」

「逆にお前さんの懸念通り殺されかねないわな。まあ、判った。理屈もある、お前さんの利益もあるから騙されてるわけでもなさそうだ。じゃあ、次は報酬の件に移るか」

「そう言ってくれると話が早え!」

 滝川は信長に賭けたが、地に足を付けた人物なので利益を重要視している。

だから啓治が自分には欲がないと言えばむしろ信じなかっただろう。将来に飛行船時代が来るとして、その恩恵は大きい。だからこそ啓治は命を賭けて、更に野武士を説得して自分用の飛行船を得ようとしている。そういう人物ならば利益ゆえに裏切らないし、信長が野武士を切って捨てようとしても、自分の利益の為に守るだろうと断じたのだ。勿論そこには滝川の利益も入っているのだが。

 

「お前さんがくれた地図で俺は先に動ける。信長公にも先見の明がある奴だと思われてるはずだし、その考えを強くしてくれるだろうよ。だから話を通すところまでは問題ない。じゃあ野武士への利益と、俺も説得に回る利益を考えねえとなあ?」

「もちろんタダとは言いませんよ。とりあえず熱田に戻れば二台目のゴーレム込みでこの辺を回る事に成ってます。何処の捜索に協力すれば良いのかまでは俺が直接口を出せます。その上で三台目以降の実験に、何処かの勢力へ任せる研究用に投げるくらいっすかね? 別に兵士相手じゃなくても良いはずですし」

 確約の報酬として次回の調査でも滝川に協力する。

そして彼が交渉に回ってくれる代わりに、啓治自身も熱田で説得する訳だ。信長傘下の下級貴族の誰かにゴーレムを託し、軍務としてどれほど役に立ったかを情報蓄積する研究。そこで滝川組にゴーレムを配備するという交渉を担うと持ち出したのであった。後は飛行技術の有用性や野武士とのコネクションにどこまでの価値を見出すか……であろう。

 

「あいつを俺にくれるって言うなら文句はないな。何処まで信じるかは所詮口約束だが……一番良いのは『身内』になる事なんだがねぇ。お嬢さんが居る以上は内の誰かを嫁にってわけにはいかんし、女同士を交換ってのもマズイわな」

「それは勘弁してくださいよ。女盗られてまで飛行船が欲しい訳じゃねえ。これからの成果でもぎ取る方がナンボましかって話っす。……やっぱ野武士の方が問題っすか?」

「納得してくれるかどうかだからなあ。身内なら話は早いんだよ。顔で商売してる訳だしよ」

 まず排除したのは昔ながらの政略結婚だ。

野武士たちは土地を持つ領主になれずに虐げられているとも言えるし、利益と血によるつながりを重視しているとも言える。しかしそれ以上に『地域で通じる名誉』とか『メンツ』というものを大事にしているのだ。身内の紹介に対して、『頭を下げて来たから力を貸した』という理屈は通り易い。逆に金で頬を叩かれて、納得するかと言われたら話は大きく異なるだろう。あえていうならば飛行技術への就労に関してだが……。

 

「なあ。俺んところにゴーレムを配備できるかもって話だよな? 場合によっては他にも?」

「あくまで熱田の中の話なんで、研究用に意味があれば問題ないっすよ。飛行できる鳥型じゃなくて、舟型とか……説得は厳しいですが作業用とか。逆に戦闘用は難しいっすね。戦うだけなら学院でできやすから」

「……なら決まりだな。何台か配備してもらって、野武士の連中にも触らせりゃあ良い。俺の任務に連中を雇えばいいだけだ……」

 現在の熱田魔法学院は魔法金属の使用法をメインに研究三昧であった。

予算の都合もあって基本的には魔法金属を増産し、ソレを使った産物を色々と研究している事に成る。だから学生でありながら飛行技術へ成果を出して居る化時であれば、飛行型ゴーレムは何とかなるだろう。その派生でゴーレム科の佐久間に声をかけ、動かしてないゴーレムを回してもらったり、面白そうな研究用として新アイデアを焚きつける事だけならば可能性はあった。逆に戦闘用は騎乗型込みで別の場所で使用できる為に、滝川の元で研究を行う必要はないのだ。

 

「ここからは信長公に依頼された任務で、秘密の話になる」

「構いません。言うなと言われれば信長公以外にゃ内緒ってことで」

 要するに滝川が受けた軍務の話だが、当然ながら測量などではない。

それだけならば担当の役人が居るわけだし、彼らが適当に雇った冒険者なり護衛の兵を引き連れて来ればよいだけの話だ。経験者というか現役冒険者である滝川を回す必要はないだろう。そしてここで話を切り出すあたり、野武士を使う意味がある事なのだ。

 

「実はな。『越』方面に掛けての魔王軍は主導者が居ないらしい。ラミア族を中心として鬼族がいくらか。どうも有力な王が魔王軍の将として討ち取られたままか、あるいは後継争いのままらしいな。鬼王もナーガラージャも不在だとさ」

「なるへそ。そんで滝川サンはその調査……いや、この辺りに砦を作って、逆侵攻を掛けるためってとこですか?」

 越前・越中・越後と国名で言えばただの地名だが、『越』という名前ならば勢力になる。

現在の調停が連合王朝であったころ、越の国といえば強力な対抗勢力であったのだ。蛇神侵攻や龍神信仰も多く残っており、鬼族の伝承もかなり残っていた。例えば酒呑童子や茨城童子は越の出身であり、その御座所であった鉄御所は実在の大江山ではなく、架空の位置に存在して洞穴の中を通って移動するとすら言われていたのだ。

 

「そんなところだ。なら野武士に力を借りる意味はあるだろ? その上で、連中が掲げてる大義名分にも意味が出て来る」

「あー。確か……親王血族説でしたか。まあその名前と対魔王への協力と言う名目ならってとこですかね」

 美濃や木曽と言う土地は東への通り道であり、同時に複数の霊山に囲まれている。

ゆえに朝廷での権力闘争に敗れた王たちは東に逃れ、その多くは美濃や木曽で旗揚げしようとしていた。もちろん朝廷の権力者たちはその前の、美濃に至る段階で捕えようともしている。その事が土地も権威も持たぬ野武士たちには大義名分となっており、『自分たちは親王の血を引いており、君即の奸に操られた朝廷には向かっている』というスタンスなのである。まあ血を引いているかどうかだけならば可能性は十分にあると言えなくもないだろう。もちろん現在の貴族たちの方が政略結婚で、貴い血を引き易いと言えなくもないのだが。

 

「と言う訳でここは俺が野武士を雇って魔王軍に対抗する。その為に役立ちそうな物を送ってもらえるか? 当たり前に砦を作ろうとしても、ラミア族に襲撃されるだけだからな」

「そうっすね。連中は川を伝って襲撃できるし時間を掛けたら砦なんか無理っすから」

 そう言いながら啓治は木下勝平と蜂須賀党の吟遊を思い出そうとしていた。

酒場で語られるくらいの面白い逸話であり、その一つの中に、一夜城を作ったと言われてはいる。実際には城ではなく砦であったのだろうと当たりを付けていたが、吟遊では語られぬ思わぬ目的があった物だ。一周目の人生では詳しく知らぬ物語の裏側を聞けて、それなりに満足しつつも、どうやって建設したのだろうと頭を悩ませる啓治であった。




 本当は昨日完成してた話ですが、前話を書き換えていたのを忘れて
話してる相手が別人だったのを忘れて居ました。なので急遽修正し、次回の話も修正中です。
(蜂須賀と直接話 → 滝川を介して話 → 修正中)

今回の人。
滝川一益 + 浜田賢二。
オジキ(滝川父の複数説、および婿の滝川雄利から)。掘内賢雄
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。