二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

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飛行船は近からじ、されど遠からじ

 滝川賢二と野武士に関する交渉を行った前田啓治は、当初の予定を済ませる為に西へ。

濃尾三川のうち最も西にある揖斐川を巡ってから、中央都市である清州へ、そして熱田学院へと戻る予定になる。

 

「どうだったの? 何とかなった?」

「おうよ。代わりに頼まれたモノもあるが、まあコイツの三台目とかを佐久間センセに頼んどきゃ何とかなるだろ。んじゃあ西を回ってから清州の木下クンに会いに行こうぜ」

 難しい話になる事もあり、魔力の充電を兼ねてゴーレムの管理をしてもらっていた柴田晶子と合流。

進路を西に向けて終わりの北西まで翔けた後、清州に向かうコースをとる事になる。これから二台目込みでもう一周する間に、これからの移動経路や飛行方法も最適化されるだろう。後は魔法装置の性能が向上することで、中心部の清州からは隣の藩属国までは、一日で来れるようになると思われた。

 

「戻ったころには魔力の強化装置も完成してると良いわよね。補充の繰り返しなんて面倒でたまらないわ」

「そういうなよ。そんなに簡単に出来上がったらこれまでの研究者は何してんだって事になっちまわぁ。まっ、アカガネ使った強化装置は完成してるが……こいつだけをゴーレムに組み込むので精一杯。次は備蓄装置との併用を研究ってとこだろうよ。魔法金属だって幾つも段階があったろ?」

「それじゃあ今度は維持できないじゃない!」

 一朝一夕に技術が進んだりはしない。

今は飛行型ゴーレムが有益だと示す段階であり、テストフライトの後で魔力備蓄装置が完成したから長距離飛行を行っているのだ。今回の成果が認められたら発展させて何台か作って行こうという話になるだろうし、魔力強化装置が出来上がったらそれが満足に機能することを確かめる。もちろん最初は両立できないことは目に見えているので、強化装置だけからやり直すことになるだろう。そうなれば魔法使いが自分で維持する事に成るので、やはり管理は面倒なのであった。

 

「それで滝川さんたちは何をやってんの?」

「長良川を中心にラミアが増えて来たからその警戒だとよ。もしかしたら北の魔王軍が復活したのかもな。単純に松永譲治みたいなのが声掛けて回っただけかもしれんけど」

 信長に頼まれて拠点や逆侵攻案を立てている事は秘密である。

それはそれとして後で佐久間にゴーレムを作ってもらうためには、外堀から埋めていく必要があるだろう。興味を誘っておいて色々なゴーレムを作ってもらうという塩梅だろうか? ひとまず鳥型ゴーレムで飛行し、船型ゴーレムで水上移動すればそれだけで今よりは格段に楽になるはずなのだが……。

 

(問題は……どうやって墨俣に砦を立てるかなんだよな。吟遊詩人はそこまで詳しく語ってなかったし、野武士が協力することで飛躍的に進んだくらいしか知らねえんだよな。木下クンが何か思いついたんならいいが)

 野武士はあちこちに居るし、それぞれの党の間に縁故もある。

蜂須賀党から始まって尾張や美濃の野武士を動員すれば、正規兵を派遣するよりも目立たないし人足としての作業慣れしてる上、流通を抑えているから物資を運び易いのは間違いない。しかし問題なのは相手がラミアということだ、川から奇襲を繰り返すのは簡単であるし、気が付けば敵集団に囲まれているという事もあるだろう。何らかの方策が無ければ、砦を作るよりも先に拠点を攻め落とされかねない。

 

(測量は今やってるし絶好の場所は判る。人足を兼ねて野武士が輸送も担当する。美濃は森が多いし切り出して運ぶのも楽勝だわな。……だがそこまでだ。運ぶのに一週間から十日、おっ立てるのに最低でも一カ月。しかし相手は十日もありゃあ血族に連絡付けて総動員すんのも簡単だ。ゴーレムがあったった、さーさんみたいな力自慢を揃える代わりにしかならねえ)

 普通に運んで十日、野武士を動員して一週間で材料集め。

そこから砦を立てると三カ月だが、これも野武士やら専門家を引き連れて形だけなら一カ月で可能だろうか? 対ラミア専用ならば高い壁や堀では無く、二重三重になった柵を用意し、見張り台を兼ねた射台をあちこちに立てれば済むからだ。後は寝床に成る陣幕を安全な位置に設定するだけなのだが、その僅かな時間が足りないのである。こちらが思いっきり人数を集めて一カ月に短縮したとしても、相手は十日で集結してしまうのだから。

 

(ダーメだ。なーんも判んね。木下クンとの話でヒントの一つでも見つかれば御の字かね)

 そもそも木下勝平もまた蜂須賀党との会合中に思いついた可能性もあるのだ。

吟遊詩人の歌では面白おかしくするためにその場で思いつき、現地メンバーがアレンジして実行したことに成っていた。しかし吟遊詩人が面白おかしく脚色したストーリーなど信じられるはずも無く、現時点では物語よりも更に数年前であり、ヒントがあるかどうかすら怪しいといえるだろう。啓治はそう思い直し、揖斐川上流まで飛び続けるのであった。

 

 揖斐川上流から取って返し、清州近郊まで啓治たちは帰還した。

信長が居る居ないに関わらず無礼だとか言われない為、町の周囲をゆっくりと飛んで徐々に下降していく。役人やら兵士には熱田を出立する時点で話を通しており、上空を飛ばない限りは挙動を見咎められることはないし、兵舎で預かってもらえることに成って居る。その上で信長から報告要請がない以上は、特にアポイントメントを取ってないのでそのまま城下へ向かう事に成った。

 

「思ったよりも遅くなっちゃったわね。木下君居てくれると良いんだけど」

「居るさ。さもなきゃ道の往来で出逢うんじゃねーかな。何しろ空飛ぶゴーレムが出たんだぜ? 期待するなって方が嘘だろうよ」

 鳥型ゴーレムの話は別に軍事機密でもないし、晶子は木下勝平に連絡を入れている。

啓治が二周目の人生を始めて、魔法金属に関するレポートをプレゼントした頃から少しずつ情報を渡していたのだ。その状態で空飛ぶゴーレムが清州の周囲を周回したのである、『もしかしたら自分に愛に来てくれるかも、いっぱい話してくれるかも!』と期待するのは子供心としては当然かもしれない。もっと年齢が上に行けば、一介の学生に会いに来るわけがないと思ったり、自分で作るから会えなくても構わないと思うのかもしれないが。

 

「おっ。あそこに誰かいるぜ? 随分と華奢だが……女の子? そんな外見……だっけ?」

「ううん。たぶん、めぐみちゃんだと思うわ。従姉妹なんだって。苗字は同じで木下めぐみ。勝平君に見て来て欲しいと言われたんだと思うよ」

「なるほどねえ。入れ違いを避けたんだとしたら随分と頭がいいじゃねえか」

 木下勝平の家まで歩く最中、建物の近くからこちらを伺う姿がある。

晶子の話だと従姉妹も近くに引っ越してきて、兄妹の様に仲が良いとの事だ。飛行技術に関してそれほど興味はなかったので話題には出なかったのだが、この様子だと自分の所に向かっているとは信じて居るが、通る道が判らないので入れ違いを計算したらしい。一周目の人生で見かけた木下勝平の姿と大きく違っており、驚いた啓治だがようやく納得する。

 

「頭は良い方だと思うわよ? 活発だからそんな風には見えないかもだけど」

「なら手を振ってやんなよ。ああいう時分は見知った年上が認めてくれるのは何より嬉しいもんだ」

「何言ってんのよ。上級生の仲間入りしたとはいえ、私たちもそんなに変わらないでしょうに。……おーい、めぐみちゃーん!」

 そんな事を言いながら手を振る二人。

実際に熱田学院に上がったのは去年の事であるが年末での研修が全てを別けた。実戦を経験しさらには上級生へとカウントされたことで、二人の認識は実に高いモノとなっている。仮に二・三歳の差であろうとも、何年分もの差が出来ているように思われた。二周目の人生である啓治に至っては猶更であろう。

 

「っ! 晶子おねーさん! かっちゃーん、お姉さんだよー。早く早く!」

「もー。大丈夫よ。逃げたりしないから。それにこっちから行くから待ってなさいって伝えて」

「はーい。かっちゃーん! お姉さんたちそっちに行くってー」

 そんな風に長閑な光景を見ながら啓治はかつての出逢いを何とか思い出そうとしていた。

一周目では飛行船に一度乗せてもらった事があるだけで、それも自分からチャーターしたわけではない。依頼主とギルドが横断したうえで、必要な能力を持つパーティを飛行船を使って派遣しただけの話だ。ここで啓治が何とか思い出そうとしていたのは、木下勝平とはだったが『木下めぐみ』には出逢った事がないのだ。

 

(飛行関係に興味ねーって話だし、飛行船には関わらなかった? いや、飛行船を飛ばすのも管理するのも一苦労だし、慣れればそれだけで食っていける仕事だ。どの属性を使える魔法使いも必須だし、ツテを考えたら放っておく手はねえ。……となると地魔法を中心に地上勤務だったのかもな)

 かつての木下勝平が所有していたのはそれほど大きな船ではない。

古代王国時代の飛行船を修復したというか、無理やり現代風に合わせて改修して飛ばしたという方が正しいのだ。であるならば重要な人員のほとんどは船に居たであろうし、数名であれば顔を合わせるのは自然な流れだろう。魔法装置が最新でなあったこともあり、一日のフライトでは無かった事を考えれば出逢わない方が嘘だろう。

 

(と言う事はなんだな。四つの基礎魔法を全て揃える必要はねえが、地魔法を中心に地上で使ってくれる奴と契約すんのはアリって事だ。現に今の俺らも佐久間センセ達には世話になりっぱなしだ。地上に拠点を作るにしても、そういう人材を専門に育てるのもありっちゃーアリか。後は偵察用員とか降下地点確保に冒険者を乗せる時は、代わりに置いて来るとか)

 今までは飛ばす事、建造した船を確保することに関心を払って来た。

しかし飛行船を円滑に運営し、場合いよってはギルドと契約して色々と行うのであれば、様々なパターンを用意しても良いだろう。それこそ単純な呪文を使うだけならば、野武士たちとのコネクションもあって確保する事には事欠かない。修復用の地魔法の使い手には地上勤務を重視してもあい、それほど急がない時や重量が不要な時は風魔法や火魔法の使い手を入れ替える手もあるだろう。

 

「……何考えてんの?」

「今後の計画。何人抱えて何人を……あ、子供をこさえる話じゃなくてな。飛行船の運営とサポートチームの話だよ。ってあ痛たたた。勝手に誤解したのはてめーだろ!」

「あははは。お姉ちゃんたち夫婦喧嘩は程ほどにするのよ~」

 覗き込んでる晶子とめぐみに適当な返事をしつつ、問題の木下勝平と出逢う事に成った。

以外と言えば意外かもしれないが、そこはごく当たり前の部屋であり、あえて言うならば玩具の類が少し多いだけである。

 

「こんにちは晶子さん! ……それで、そちらの方は?」

「前に話してた前田啓治よ。ほら、魔法金属のレポートとかくれた人。空飛ぶゴーレムなんて提案した人でもあるわね」

「歳は晶と同い年だが啓治でいいぜ。ヤローにゃ敬称は要るめえ」

 紹介されたことで啓治は改めて挨拶する。

仮にオッサンと呼ばれも二周目ゆえに気にしないのだが、同じ年の晶子に気を使って適当な理由を付けておいた。これでオッサンという度胸があればむしろ天晴だろうし、啓治お兄さんとか呼ばれてもむず痒いだけだ。

 

「……それはどうも。ええと質問いいですか?」

「構わないわ。私か啓治か答えられる方が返答するもの」

「今んところ軍事機密とか無いから安心して質問してくれよ。ああ、飛行船は後5年は影も形もねーな。魔王軍が出て来たとしても二年は無理だ」

 勝平の質問に対して晶子と啓治は先回りして説明する。

どうしても子供の方が知識は限られるし、それならば思いつく範囲の事は先に助言してやるべきだろう。しかし前提の差もあるのだろうが、帰ってきた言葉は思わぬ内容であった。

 

「飛行船の部品って学院に行ったら手に入りますか!?」

 一から成立させていくつもりの二人に対して……。

あくまで勝平の方は組み込むパーツごとに色々と入れ替え可能な程に存在するという前提で考えていたのだ。おそらくは古代王朝での飛行船はそんな風に作られる量産品であったのだろう。




 と言う訳で木下君登場。
秀吉と秀長相当の二人組です。

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