二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

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一夜城攻防戦:中編

 墨俣一夜城を巡る戦いは、作戦案の手直しを経て防御態勢を整えた。

本格的な後世まで時間が少ないため、野武士が守るエリアを優先してガッチリと先に固めておき、尾張兵がそうでない部分を守るという基本案は同じだ。しかし途中から島津兵が割って入るという事と、尾張兵そのものが強くない事から更に守るべき場所を絞る事にした。

 

「殿。第一線に敵が侵入しました。連中はこちらが居ない事に戸惑っております」

「逃げたにしては綺麗過ぎだものね。だけど暫くしたら再進軍を掛けて来るんじゃないかな。上から殴りつけちゃえ」

 第一線には柵と陣幕だけを置き、後から戦うべきエリアとして空間要塞化したのだ。

実際には第二線で戦う事に成る。この事により無人の第一線へ、容赦なく攻撃魔法や矢を叩き込めるようになっている。また砦の構築自体も守るべき場所が減ったことで、急ピッチで作業が進んだ。小高くなった場所に柵を置いた戦い易いエリアで守り、平坦な場所には見張り塔や櫓から矢を放ち、あるいは長柄の槍で上から殴りつけている。

 

「矢頃は長い方が良いと言いますが、言い当て妙ですな。殿の指示通り兵たちも戦えております。所定のエリアでは戦いぬけるでしょう」

「守りの戦では長いだけの槍も使えるからねえ。後は『援軍』が無事に辿り着いてくれれば良いんけどさ……大丈夫かなあ」

 守将である滝川賢二に上座を譲られた織田信長は額に皺を寄せた。

島津の御機嫌伺いは苦労が過ぎた。戦い始めると熱くなって延々と逃げる敵を追っていくのだから持って来るのが遅れる事があるのだ。効率を考えたら次々に敵集団を葬って欲しい所だ。もっとも彼らは押しかけ援軍みたいな物であり、期待する方が間違っているとも言える。それに戦況自体は良く、信長自身が砦を視察してもとやかく言われないのはありがたい。

 

「前田が上に揚がって確認しております。彼らの様子をどう見た?」

「剣術指南である東郷羊介さまの合流以降、進撃速度はさらに上がったそうですわ。ナーガ種は厄介だから殲滅して来るまで戻ってこない……んじゃないすかねえ」

 滝川は前田啓治の報告にもう少しで頭を抱えそうになった。

どうしてゴーレムと殴り合える過剰火力を投入してまで進撃していくのだろうか? 東郷はマスタークラスの大剣豪であるが、それ程の人物ならば本陣にノンビリ構えて最後の切り札に成って欲しいものである。もっとも、その考えがおかしい訳ではないと判るから文句も言えないのだ。ラミアの中でもブレスを吐けるナーガは確かに厄介なのだが……。それ以上に別の問題もあった。

 

「あのご老人は口調も態度も丁寧なのだけどね。まあ居ない方をアテにしても仕方がないでしょ。……援軍は別口を用意する」

「では?」

「土岐家の残党と、この段階で手を結ぶよ」

 薩摩の者は殺魔と人は言う。普段は温厚な東郷もその例に漏れない。

信長は諦めて援軍を手配することにした。少なくとも籠城戦では援軍が居るかどうかで勝敗が大きく変わるのだ。信長はこの視察を終えた後で家中の者をまとめあげて大戦力を整える事に成っているが、尾張は国力の高い上国ランクだけに重臣たちの意見をまとめるのに時間が掛かると思われていた。そこで以前に美濃を支配していた土岐家の勢力を頼る事にする。

 

「薩摩の影響と言う訳でもないけど、民の事を考えたらここで確実にラミアは殲滅するべきだからね。この砦に集まった所を後ろから突き、それが終われば卵を潰してきてもらう。その為には地元出身の彼らは重要だ。野武士も知ってるはずだけど、基本的に彼らは無理しないからね」

 野武士に無理をしろと言っても難しい。この戦いでも、巣に関してもだ。

その意味でこの戦いでラミアを叩き潰せばその後が楽になる。退けるだけだと何年かすればまた襲ってくるようになる。一族ことごとく族滅するまで攻め滅ぼした方が今後の為にはなるだろう。その為に自分たちがピンチになるのはいただけない。よって戦力を増やすためにも、巣を確実に捜索して潰すためにも美濃に残留する土岐氏の残党は重要なパートナーになる。

 

「土岐氏出身である『姫』の件もある。どのみち残党とは手を組むことに成ったんだけど……君たちの功績で押し返してから協力を呼び掛けたかった。そこのところは申し訳ない」

「いえ。全ては殿の御采配あっての事。我ら家臣一同、何の問題もありませぬ」

 尾張には王朝に連なる女子の中で、土岐家出身の姫が留学していた。

もともと土岐家は時間に関する魔法を研究しており、文物の保護や魔法陣の時間拡大術式などで有名であった。以前は強大な勢力を持っており朝廷とも縁戚があったのだが、滅びてその姫である『喜久子姫』たちは不遇を囲い有力な貴族である信長との見合いが行われていたのである。その政略結婚を受け入れる方向性ではあったが、信長が大きな功績を立てた後で申し出るか、その前に共闘を呼びかけるかで織田家の勢力状況は大きく変わるだろう。

 

「今回の件で魔王軍の蠢動は確定的になったっす。その備えを訴えていた信長公の名声は上がりますから問題ないんじゃないすかねえ。少なくとも魔法金属や飛行できるゴーレムという証拠もありますし、熱田組は研究費さえあれば何も言わねえっすよ」

「前田の言う通りです。俺……私や九鬼もですが王都に居残るよりよほど名前を馳せられましょう」

「……そうか。ならば、すまないとは言わない。勝ってこれからの栄光と平和を掴もう!」

 啓治は学生風情が口を出すのもどうかと思ったが、熱田の代表をとして述べた。

滝川もそれに続いたことで信長も申し訳なさそうな顔を止めた。このタイミングで主君が謝っても下の者は困るだけだし、何ならここで稼いだ功績を最大級に利用してくれれば良いのだ。国元で必要以上に慎重案を唱える重臣が居るならば、先んじて動いていた滝川たちが重用されてもおかしくはない。啓治ら熱田学院に至っては、現在存在する飛行型ゴーレムなどは信長の先見の明であり、これからも潤沢な予算があれば良いのだ。

 

「と言う訳で伝令を出そう。前田君。手間で悪いけれど、土岐家の残党の領地を教えるから飛んでくれるかい?」

「了解です。失敗したら俺らの命にも関わりますしね。気張らせていただきやすよ」

 信長は地図を開くと啓治を呼び寄せてルートを説明した。

美濃の西側のエリアに重要人物が集っており、墨俣からならばそれほど離れてはいないとか。それでも美濃山が多く川もある地形なので敵中を突破していくのは移動は困難な筈だが、ここでも飛行できるという事実が強攻案を当たり前の行動に代えた。これから飛行技術が発展していくと言うのもうなずけよう。

 

「西側には美濃三人衆という遺臣の中でも精強な者が居る。もし今回のラミアの件が何かの陰謀だったとしても、彼ら全員が滅びているという事はないはずだ。仮に所領を失って隠れていたとしても、魔物でもないのに空飛ぶナニカが飛んでたら接触したがると思うよ。俺も実感したけど飛べるだけでかなり話が変わって来るからね」

「へい。飛ぶだけなら二日もあれば全部回れますが、降りて事情を説明したり連れて別の場所に飛ぶと時間も掛かるのでご注意を」

 彼らが即座に協力するかは分からないが、信長も啓治もそれ以上は言わなかった。

協力自体はするだろう。主家を復興するチャンスなのは間違いがないからだ。問題なのは織田家の家臣団に加わった後の条件を良くしようと戦力を出し渋る事である。だがここで悩んでいても変わるわけでは無し、ひとまずは危険な事に成る前に情報を伝えて、ラミアを引き付けるところまでは予定通りだと居直るしかない。

 

 しかし二人の懸念を他所に、土岐氏の遺臣たちは独特の判断をするのであった。だが今はそれを知る余地はない。




 主人公は戦闘してませんが、飛行できるとスゴーイ!
と言うのが周知されてるので無問題。第二章の主題として成果を出してます。

なお、深夜にストックに書き足して翌日修正してUPしているのですが
本日は予定が合って外出するので、明日のUPはありません。
楽しみにしている方がおられましたら、申し訳ありません。
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