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前田啓治は土岐家の遺臣の元へ伝令として向かう事に成った。
話自体は使者を通して以前より通してあり、『かねてからの約定により出撃して欲しい』という内容の手紙を持っていくだけだ。ただ一人では魔力を充填しきれないが、向こうにおいて別の所領へ関係者を連れて行くこともある為、女子である柴田晶子は万が一を考えて連れて行かない事に成った。
「勝平君。気を付けてね」
「はい、晶子お姉さん。頑張ってきます!」
ここで木下勝平が晶子に変わって相方に成る。
魔法技能自体は低いが魔力だけならば問題はない。また戦えるような能力でもないし少年であるので、連れて行っても逃げたという事にはならない。むしろ難しい案件に関わったという事で功績とみなされる可能性もあった。
「啓治、ちゃんと無事に連れて帰って来るのよ!」
「判ってますよっと。行くぞ、掴まってろ!」
「はい! お願いします!」
啓治は勝平を乗せると鳥型ゴーレムを浮遊させた。
翼が稼働して浮力の位置をコントロールし、尾翼にある飛行呪文で空を翔けていく。ここまでに飛行中の注意事項や、魔力充填装置を使う際の注意や暇になるサイクルについては十分に説明してあった。巡回時など何度かそれに連れ出している事もあり、当面は支障が無い筈であった。
「凄いや! もう揖斐川流域まで来た! 父さんがいた頃に何度か通ったけど、こんなに早くなかったもん!」
「今更説明するまでもねーが、親父さんと一緒だったころは道沿いだったろ? 橋まで回り道をして、川に橋がなきゃ浅瀬まで移動するか渡し船が居るしな」
距離と道のりという言葉を端的につなげるのが飛行技術である。
地上を一日千里走る馬がいたとして、草原でも無ければ千里走るのは難しい。デコボコした起伏を考慮しないとしても、左右に曲がって場合によっては迂回して……とそういった手間が直線距離では知らせない。また貴族たちは防御を考えて町割りを行うため、町の内外では猶更だろう。
「色々と面倒なゴーレムでこれなら、飛行船を手に入れたらもっと『速く』行けるかな?」
「そいつは無理だな。飛行呪文で移動してるのは代わりねえし、風に載って労力を減らすってのは基本同じだからよ。もっとも魔力を充填したり強化する装置のデカイやつを詰めるし、飛行するモンスターがいるエリアを遠慮せずに飛べるから、最大移動距離と日程と言う意味なら物凄く『早く』なるけどな」
一瞬の間でどれだけ飛べるかと言う機動速度ではあまり変わらない。
魔法と言う物は判で押したように同じような機能を見せる物だ。後は形状やら大きさでマイナスが掛かる為、むしろ大型である飛行船の方がデメリットが大きい。代わりにそのサイズを利用して、色々な魔法装置を詰めるという事が重要だという。
「見てきたように言うじゃん」
「まあその辺の議論は終わってるってとこさ。後は使い道とかメンバー構成で差をつけるしかねーな」
「使い道は判るとしてメンバー?」
啓治は二周目の人生ともあり少なくとも今代の人間よりは詳しい。
その上で何も知らないフリをして議論に加われば、生前は専門家でなくとも今代の人間と普通に議論ができる。その中でおそらくは飛行船では移動限界距離が長くなることはあっても、機動速度はさほど上がらないであろうことは皆と相談して共有していたのだ。
「飛行船だと数人乗りで最低限のサイズか、軍事用で兵士やら商品を乗せたりする。こいつが使い道の方な。一方で冒険の途中で修理することを考えている場合と、町を巡るだけでまず修理しない時じゃ必要な奴は変わって来るだろ? 移動や現地の生活を楽にする呪文だけが使える奴と、戦闘も踏まえて色々出来る奴じゃまるで変わって来る。まあ、かくいう俺も最近気が付いたんだがな」
「へー。啓治さんも思ったより考えてるんだね」
「思った寄りってのは余計だよ!」
目的地までまだ距離がある為に暇な事もあり、啓治は気前よく知識を披露することにした。
自慢したいというよりは、むしろ一周目の木下勝平の事を思い出す過程で気が付いたことだ。彼から得た恩を彼自身に返すということになり、気分が良くなるというよりは心の痞えが消えていくというべきか。そんな風に惜しげも無く知識やコツを伝え、聞かれたことがあれば教えていたのだが……。
「啓治さん。あれ、何か変じゃない? 色のついた布が……」
「……そうだな。何かあったのか? いや、誰も居るようには見えねえし……隠れて居るとしたら危険過ぎる。ただの祭の準備かもしれねえし、暫くこのまま飛んでみるか」
奇妙な変化として、行く手に色を付けた布が巻き付けられてた。
赤や浅黄などだったので何処ででも手に入る染料だとは思うが、『空から見えるように』これ見よがしに木と木の間を張ってあるのだ。警戒するなと言う方がおかしいだろう。
そして暫くして同じような場所を見つけ、最短距離で目的地に行くためには通らねばならなら丘まで来た時の事だ。明らかに飛行物を対象に見易くした陣幕が張ってあるのを見つけた。
「陣幕を上に向けて張るとか明らかに俺ら充てのメッセージだな。ご丁寧に木々が無い場所に陣取ってると来た。即座に降りはしねーが、旋回して様子を見るぞ」
「了解! 怖くないからこっちは平気だよ!」
即座に考えが浮かばなかった事もあり、啓治はひとまず様子を見る事にした。
使者が土岐氏の遺臣の元へ行ったのは随分前の話だが、その時に飛行型ゴーレムの研究はしていた。飛べるようになる段階で『うちにはこんな強みがある』くらいの事は伝えて居てもおかしくはないだろう。そうは思いつつも、他に何らかの問題が有ったり、美濃出身の野武士が囮として提案したり弓を用意している可能性はあるので、ひとまず安全策を取ったのだ。
「こっちに気が付いたね。明らかにこっちを探してたみたいだ。あ、武器を降ろした」
「しかも弓の間合いから離れていくのか……。明らかに俺らに話があるみたいだな。胡散臭いと無視しても良いんだが……今度は色のついた煙か。降りるぞ」
「うん」
啓治は政治的な経験がないが、冒険者としての経験がある。
これだけの準備ができる者がもし殺したいなら、色のついた布など用意せずに不意打ちで弓を何発も放たせれば良いのだ。奪う気なのだとしても、整備を考えたら野武士や冒険者では無理だ。また他の貴族の元に持ち込むとしても、あからさまなコピーでは魔王軍との戦いが始まった時に問題になるだろうと判断したのである。
「お急ぎの途中、手数をお掛けして申し訳ありません。私は土岐氏家中の竹中夏樹と申します」
「伝令ゆえに機乗より失礼します。織田家より派遣されました熱田学院の前田啓治です。当機は確かに土岐家の遺臣方の元へ向かっておりましたが……どのような御用向きでしょうか?」
そこに居たのは竹中夏樹と名乗る線の細い青年であった。
遺臣の中では安藤・稲葉・氏家の三人衆がおり、確か切れ者の知者が居ると織田信長から聞いていた。もし使者が伝えた情報と、野武士あたりからの情報を繋ぎ合わせて考察したのならば知者というのはこの青年なのだろう。しかし政治かならぬ啓治は何を言いたいかが判らない。ゆえに素直に熱田学院の学生であり、研究者であると伝えたのだ。
「熱田の方でしたか、これは失礼しました。実は墨俣に築城する件を聞き及び、情報を集めている最中にラミアの大移動を確認したのです。その上で援軍要請が掛かると見なして、当方は出立準備を整えて先触れを待っていた次第にて」
「そいつは話が早くて助かります。と言う事はそちらの部隊を動かしていただけるのでしょうか? ……本来はあちらに届けよと命じられておりますが、場合によっては口頭での開陳を許すと信長公は仰せです」
「では差し支えなければ暫し歓談と行きましょう。もちろん安全のために離れられて構いませんよ」
竹中夏樹は笑顔で啓治を地上に促した。
その上で少し離れ、もし啓治を捕らえようとしてもゴーレムに待機した勝平が起動できるくらいの時間が得られる場所である。おそらくはここまで考えて行動していたのだろう。
「して信長公はなんと?」
「尾張兵が砦で引き付けるゆえ、ラミアの後背を突いて欲しいとの事です。戦いそのものは島津と同盟を組んで居るために勝利は確実であるが、この後で木曽三川流域の巣をことごとく殲滅するには、余裕を持って勝利を収める必要があるとの事」
「ほう……あの薩摩が。これは良い事を聞きました。私も早急に援軍を出すべきだと主張した甲斐があります」
啓治は信長から聞いていたストーリーを口にした。
実際には島津兵はコントオールできていないのだが、彼らにフリーハンドを与えて殲滅戦を行っている事にしたのだ。勝つだけならば織田家と島津家が組めば幾らでも勝てるのだが、民衆への被害を抑えるためにあえて別行動させているとしたのである。もちろん兵の被害を考えないのであれば、現状でも島津が戻って来るのを待って反転攻勢が掛けられるのは確かである。
要するに『島津が好き勝手にやった結果』という過程を省き、悩み抜いた果てに選択した事実だけを伝える事にしたのだ。
「こちらが墨俣に作った砦の地図になります。昨日時点でのラミアの報告例もこれに」
「……と言う事はここまで半日も掛けて居ないという事ですね? どうやら情報の伝達速度は相当に早いと見ました。三人衆の方々には狼煙で状況を伝わるようにしておりますが、私を乗せて運ぶことは可能でしょうか?」
啓治が渡したのは彼自身の判断で用意でき、信長の許可も得た航空図である。
移動距離は数時間の巡回ではあるが、それだけで歩兵どころか軽装騎兵を上回る物見と言えた。竹中夏樹はこの事を重視しつつ、どの程度の性能なのかを我が身で確認することにした。普段であれば重要機密に触らせることはあえりえないだろうが、このタイミングであれば時間は何よりも重要視されるとの読みであった。
「魔力を消費しておらぬのであれば可能です。魔王軍との戦いまでには本陣の一部を浮かべるようにしたいと信長公は考えておられるようですが、今のところはその制限がありまして」
「いえいえ。自在に飛べるだけでも十分な能力であると思います。熱田の方々の努力には頭の下がる思いです。これらの情報は本来であれば命がけで探る物ゆえ」
啓治が信長に聞いていた通りに話すと、竹中夏樹は下級貴族とはいえ頭を下げる。
土岐家の軍師格である彼にとって情報伝達速度は何よりも重視される物である。しかも斥候と軍師とその中間にある隊長たちにも温度差があるものだ。それを軍師がリアルタイムで知る事が出来るというのは、それだけで千金を出しても得難い物である。
「旗指物を用意しても問題ありませぬか? ある方が三人衆の方にも遠目に判り易いかと」
「であれば途中から架空して参りましょう。基本的には飛行呪文の速度ですので、ある程度は仕舞って進む必要があります」
言葉のやり取りに情報収集めいたものを感じるが、予め許可が出ているので即座に答える。
他の貴族家ならまだしも、これから織田家の中に取り込む相手である。その実力の高さを評価させて、驚かせようという信長の悪戯心であった。それは土岐氏の重臣を従わせるのにとても有効な手段であり、……だからこそ同じ程度のポジションにいる滝川や九鬼たちの居場所を奪ってしまうのだが。
「参りましょう。これから数時間のうちに到着すれば今日中に出発できますゆえ」
「では失礼しまして。……おーい、木下君よい! 例の件はここでやるぞ!」
「はーい! ちゃんと迎えに来てくださいよー」
こうして竹中を連れて啓治は三人衆の元へ向かった。
彼らと竹中の間でひと悶着があったかもしれないが、空飛ぶゴーレムや得られる情報を見てしまえば何も言えなくなる。ならば後は土岐氏の中の問題に過ぎない。援軍はその日の内に出発し……やがて墨俣の戦いに勝利するのである。
と言う訳で援軍の手配がスムーズに済んだので戦闘に勝利しました。
あっけないですが戦記物ではないのと、情報伝達速度の問題ですね。
戦記物でありがちな「何日以内に到着すれば我々の勝利だ!」と言うのが無いので
盛り上がりに欠けるので、攻防戦は此処で終了。次回で第二部終了になります。