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墨俣砦を巡る攻防はあっけなく決着した。
移動しつつあるラミアの群れを空中から早期に確認。集結が完了するまでに援軍を要請したことがその主な要因である。空を使った伝令の到達速度が非常に早く、土岐家の遺臣たちが既に出撃準備を終えていたことで、果敢に攻め始めたラミア達を後ろから逆包囲する形に成ったのである。前後から攻め立てられ続けては、いかにラミアが魔物の集団であるからといって満足に戦えるはずも無かった。
「みんな。戦評定も終えたばかりですまないね。でも記憶も新しい内に飛行技術に関して聞いておきたいんだ」
「鉄は熱い内に打てと申します。我らに異論などあろうはずもありませぬ」
「然り」
織田家の当主である織田信長が議論を始めた。
墨俣での戦いが終わったばかりで、功績に対する評価も終えたばかりである。その上で場を区切って始めたのは、一応は家臣ではない熱田組への褒章代りであり、新しい技術である飛行と言う概念をどう料理するかを記憶が新鮮な内にやっておきたいというのもあった。人間、慣れていくものだ。そうなると欲しいと思っていた技術も、また今度で良いかと思うようになる。そうさせずに押し切る事こそが、熱田学院の生徒には何よりの褒美であろう。
「では事の最初から関わった滝川。皆に説明を」
「はっ。最初に情報を交換した時、某が数日掛けて測量して居った墨俣の地図。これを小半時ほどで大半を記しておりました。その後に建設現場を巡るのに利用した時は、僅かの間に縄張り中を巡り申した。ここまでが『無くても良い、時間を掛け歩けば済む』と思える範囲です」
信長はまず墨俣の守将である滝川賢二に説明をさせる。
熱田での研究以外を知る貴族であり、将としてつぶさに内容を吟味している事から適役である。また彼は土岐家の遺臣が参入したことで発言力が低下しており、新参の中では先任であることを印象付け発言力を補填するためである。その温情が判っているからこそ、滝川も発言内容に工夫をした。
「と言う事は君は積極的な技術更新と成果物の導入に賛成なのかな?」
「現状であれば『配備をお願いしたい』と言う所ですが、これから競争に成るのであれば『ぜひ尾張が旗振り役になるべき』と申し上げます。理由は竹中殿がよくご存じかと」
信長がこの技術の導入に賛成なのは当然として、発言権の順位付けに腐心している事は判る。
そこで今回の戦いに参戦すべく土岐家の遺臣を取りまとめ、信長に対して好意的な竹中夏樹へ自然に話しを送る。最終的に熱田学院に話を戻し、彼らの意見を聞くという流れに持っていく。もちろんおおよそは滝川も説明できるし、どんな研究をしたいかも既に聞いているのだが。
「では若輩ながら失礼いたします。注目すべきはラミア族が集結を始めた時には既に推測が付き、援軍要請を決断出来たところでしょう。軍務では常に風雲急を告げるもの。刻一刻と変わる戦場で、数日後の情勢を即座に探り、足止めを受けることなく援軍要請を出せるなど夢のような物です。また……」
ここで竹中は自分たちが関わる事に成った初動に関して事実を述べる。
尾張側から駆けつけた将の中にはその事を知らぬ者もおり、彼らがおっとり刀で出動を決断したころには、援軍が既に墨俣を取り囲んでいたという事態を思い至らせる為である。そこからの展望に進みたいところだが、まずは諸将が事実を飲み込むまでをジっと待つ。
「この伝令は驚くべきことに熱田学院の上級生徒であり、僅かに戦いを知る程度の若者です。通常は腕利きの騎馬武者数騎を犠牲にして、それが数日後に届けば天運が味方したと言えるでしょう。しかし実際にはその日の夕刻には、我ら土岐家の家中を全て巡っておりました。改めて事の始まりから申しますが、常の軍ではまだ斥候が報告するところでありましょう」
「そうだね。伝令が届く届かないはとても不安だ。それが確実に達することができ、そして翌日には成果が判る。俺はこの技術は必須になると確信しているよ」
竹中は懇切丁寧に推移を説明した。
偵察を出している時間で、全ての決着が付いたと諸将に説明する。将の中には出立前に飛行するゴーレムが戦闘終了を伝えた者も居るくらいで、その移動速度は驚異的であろう。しかもこれはまだまだ研究中であり、今は尾張を数日でめぐる能力が、やがて一日で可能かもしれないと思う者が出ても当然だろう。少なくともその方向に舵を切ると信長は静かに締めくくった。
「さて、待たせたね。前田君。これからこの技術に注力したらどうなるんだい?」
「若輩の学生ずれが失礼しやす。現に示しちまった以上は、尾張がやらなくても何処かがやるでしょうよ。少なくとも配当にゴーレムを要求した島津はその気だ。充て推量ですいやせんが、海を待たない武田や商業特化の堺は確実にやるでしょう。何をやるかって? 空飛ぶ船なら大量輸送で、兵士だろうが商品だろうが右から左に動かせるからっす」
「空飛ぶ船……だと」
信長から話を振られた前田啓治は飛行船について説明を始めた。
彼がその事を研究し、望んでいる者は熱田の関係者ならば誰でも知っている。しかしそれまでは鼻で笑って済ませるヨタ話であった。しかし墨俣の戦いで、戦闘証明をしてしまったのだ。一人・二人を飛ばす鳥型ゴーレムですらこれだけ戦況に関わるのである。空飛ぶ船がどれだけの影響を与えるか想像に難くはない。
「武田家か……それはゾっとしないな。魔王軍が来るならさぞや心強い味方になるだろうけど。確認だけど、何を気を付けるべきだと思う?」
「既に先を行ってやすし、予算と人材を注力すれば諸国には負けることはありゃあしやせん。その上でですが盗まれるのはまあヨシとしましょうか。島津の要求には答えにゃならんでしょうし、魔王軍がやって来て共同で研究するなら忍びずれを警戒すんのも面倒だ。重要なのは法整備と拠点造りじゃないすかね? 少なくともこいつは数年どころじゃすまないくらいに掛かりますよ。俺らは何度も上を飛ぶなって言われやした」
「それは確かに」
啓治は技術先行することで、織田家の発言力と利益の向上を保証した。
先駆者は常に利益を上げ関心されるが、同時に警戒されて奪おうとするものだ。しかしこの世界には魔王が存在する。その内にやって来て、諸国が団結して提供し合うならば、盗まれることを経過するのも馬鹿思惟であろう。要するに数年後を見据えて、確実に織田家がイニシアティブを有せる様にすべきだと忠告したのである。
「町の上を飛ぶべきではない、あるいは飛ぶならばここならば許すという許可はどうするのか? その上で地上に捉われないことによるスムーズさは捨てがたい。この辺は絶対に揉めます。風に乗って労力が減るのは確実ですし、水上船みたいな航路設定はぜっていに必要でしょうね。後は……船を個人的に欲しがってる俺が言うのも何ですが、ある程度の制限も必要でしょう。大商人がみんな持ってたら面白くもないし、迷惑でしかねえ」
啓治はこれまでの実験中に呼び止められたことを説明する。
それらの配慮は絶対に必要だが、実際に飛行技術で利益を得ようとするならば従ってばかりはいられまい。また尾張は藩属国の中でも裕福な大国だから良いが、困窮している国や軍事主体で迷惑を考えない国は無視して来るだろう。その辺りに航路を要求するのであれば、織田家が率先してルールを広めねばならないのだ。逆に今から決めておけば、技術開示を求められた時にセットで重要事項だと説明できるのでありがたい。
「うん、貴重な意見を聞かせてもらった。まずはこの技術に着目する俺の判断は変える気がない。その上で諸将に何を示すかを説明しておこうと思う。現存する四機は一機を島津に、一機を国に送るつもりでいる。残り二機のうち一機を滝川に預けて墨俣を中心に警戒。もう一機は尾張で扱い諸将の目線で考案に使う事。最後に滅びた土岐氏の稲葉山城を復旧。飛行技術も踏まえて岐阜城と改め改築することとする」
「「ははあ!」」
強い決意を示す信長に対し、出遅れた上に飛行技術に驚いた諸将は素直に頷いた。
むしろ積極的に、尾張に残る一機の使用権を奪い合うだろう。あるいは滝川の元に御機嫌伺いに向かって、裏口で触らせてもらうなり、熱田で見ようと出し抜こうとするだろう。おそらくはそこも含めて信長の計算なのかもしれない。
「こんな所で良いかな?」
「ありがとうございやす。これで熱田の中でも研究に舵を切れまさあ」
実のところ、熱田学院では飛行船はまだ端っこの理論である。
しかし啓治が大々的に協力し、『これから絶対に広まる』とぶち上げたことで話は変わるだろう。実際に様々な装置が完成し、どう組み込むかでもめている最中だ。きっと弾みがつくだろうし、予算が付けば同時並行することになる。
そして何より……この後に起きる魔王軍来襲での共同研究に対し、尾張は最先端の技術を持って参画することになるのであった。これこそが啓治が最も望んだ報酬であろう。
と言う訳で第二部完。次回から数年後で第三部、飛行船の運用話です。
なおストックが無くなって来ましたので、これまでのペースでは不可能です。
よって数日掛けて執筆し、UPすることになるかと思われます。