飛行船時代の始まり
●
飛行船関連の研究に関して結論から述べよう。
あれから数年で、見事に飛行船が完成して試験運用までを終わらせることが出来た。理由を挙げるならばラミアの件と似た様な事が全国で起きて、諸国がまとまった事だろう。これによって予算と人材が桁外れに流れ込んだことが良い事であり、様々な意見と対立が起きてフリーハンドではなくなったことが悪い面であろう。
「全ての管で満たされたイコールの汚染を確認。Aタイプの装置は機能不全で停止、Bタイプは緩やかに性能を低下しました」
「予定よりも能力劣化が著しいな。ここは工夫のし甲斐がありそうっすね」
遂に前田啓治が知って居た全ての技術が出揃った。
もちろん彼が一周目の人生で見た、技術の最高潮には達して居ないだろう。しかし当時の歴史よりも早い段階で達成しており、これから起きることを考えればかなりの成果であると言える。既に飛行船が完成している事もあり、徐々に磨かれていくはずだ。
「そうだねえ。イコール浄化を開始して、徐々に入れ替えるタイプと比べてみようか」
「入れ替える方が早いとは思うっすけど、重量的には厳しんじゃないっすかねえ」
「どうですかね? 船のサイズ次第ではそっちの方が早いんじゃあ?」
啓治が知らなかっただけか、あるいは歴史に変化が起きたのか。
幾つかの技術は枝別れしており、魔力を伝達する性質のある水媒体の『イコール』などは二種類の管理法が編み出された。現に佐久間教諭は派生した方法にも着目しており、啓治の言葉や理論だけはあった学術論文を信じ過ぎることも無く実験を行っている。
「例えば二管・三管に分けて、常に二本を浄化状態で保つんですよ。Aタイプの装置は能力が高いけど一定値を下回ると止まってしまうので、こっちを採用するならば性能を維持できる入れ替え方の方が有効じゃないですか?」
「一から作る飛行船ならサイズも重量も少しくらいの余裕があるからねぇ。ボクとしてはこっちの方が好きかなあ」
「そういうもんかねえ……」
悪い面と言うか、当然なのだから対策を練るべきか。
これまで啓治が前世の知識で引っ張って来れた事が、他者の知識で覆されるようになってきた。というよりも啓治の場合は前世をモデルケースとして突き進んでいるために考えの成立は早いのだが、いかんせん考え方が固定化してしまう。逆に言えば新しい理論を自分自身の手で組み上げる事に欠けているのだ。
(やべえなあ。完成さえすりゃあ俺としてはどうでも良いんだが……。佐久間センセがあっち側に流されてるのが問題だよなあ。つーか、そろそろ付いていくのも厳しいぜ)
これまで一緒にやって来た佐久間教諭だが、別に啓治の先生でもない。
飛行船を作るためにゴーレム科に協力し、その分だけ協力し返してくれているだけだ。いわゆる取引であり、彼自身の関心はゴーレム作成や『自分の趣味のまま何かを作る』という方面にあるので、その辺りを擽られて研究の中に交渉を持ち込まれると厳しいのである。
「まあ、その辺りも含めて幾つか飛行船の型を作って運用試験っすっかね。戦闘用や商業用なら大型艦になるでしょうし、闇魔法の使い手を揃えられる事前提ならそれもアリだと思うっす。普段なら四隻も五隻も新造できる訳わきゃーねーですが、今ならちゃんとした計画書を出せば通るんじゃないかと」
「その辺だろうねぇ。ボクはボクなりの船を考えてみようかな」
「いいですね。僕も前々から一隻調達しろと言われてたので賛成です」
啓治は生前の知識よりも多くの数を初期案に入れてみた。
一周目の人生ではあくまで着工したのが幾つかあっても、初期運用に成功したのは二隻だけだ。それも軍人の家系で一隻、大商人の家系で一隻と大きな紐付きばかりなのである。だが現在は生前よりも飛行船の重点は高い上に……ライバルとなる存在も居るので多めに考慮しないと持っていかれて自分たちの立場がなくなる事もありえたのだ。
「明智君よい。それだけの頭と交渉力があって、なんであんなのに使われてるのさ」
「ははは。やだなあ。僕にはそうするしかないからですよ。土岐家の復興に協力していただいたのはありがたいですけど。もうちょっと早くして欲しかったなあ……なんて思ってみたりしますね」
他ならぬライバルの一人が王都組の明智彰である。
彼は松永譲治の起こした事件において闇魔法の『影の転移』を用いて細川武人を救い出したとの事だ。急な事件であり仕方がない所だが、事件の責任を押し付けられてあちこちで雑用として使われているらしい。その背景には土岐氏の遺臣の家系であり、発言力が低かったことに関係しているのだとか。それで細川たちともども何かにつけて対抗して来るので、いっそ細川を見捨てて欲しいと思わなくも無かった。
(しっかし判らねえものだなあ。こいつが生きてるとか生きてないとかは別にしてよ、この時点で何隻もの飛行船を作ろうなんざ思っても見なかったぜ。しかも俺が口を出せるとか出世したもんだ)
啓治はラミアの件でも協力し、その意見を元に飛行技術の完成を早めた。
凋落するはずだった熱田学院と織田家の発言権が大きい事から、当主の織田信長らの後押しも強く、ちゃんとした意見であれば通り易いのが大きいだろう。この時点で既に一周目の人生に置ける雑多な研修生というレベルは越えており、満足すると同時に、これからどこまで行けるかを見て見たくもなるのであった。
「それでどんな船を作るべきだと思います? 僕はカスタム型をお願いしたいですが」
「そこはお貴族様たちに言ってくれよ。ま、軍用型を武田家が使って部隊を乗せる船を要求。堺の連中が輸送船として作らせるってのは既定路線だろうな。だから後はシンプルにまとめた小型船と中型船、カスタマイズはその後になると思うぜ。他にも実験するなら六隻目以降だね」
「えー小型船って要らなくなあい? 大は小を兼ねるってば」
ナチュラルに呉れと言う明智はともかく、意外な事に佐久間が注文してきた。
てっきり彼はこれから船の設計でも始めるか、さもなければ明智と一緒になってカスタマイズ専用の船でも作ろうとするかと思っていたのだ。現在進行形で通常のゴーレムも製作しており、茶々を入れる余裕などないと思っていたのだが。
「偵察と伝令を兼ねた小型船はどうしても必要になりますよ。少なくとも墨俣の結果を見て一番望まれた事ですしね。秋津洲の西から東まで連絡するのに、そいつの完成が真っ先に望まれてると思いますわ」
「必要ばかりで景気が悪いねえ。ボクとしてはゴーレムを搭載して運べる船が欲しいんだけど」
「ゴーレムの輸送ですか? 突拍子もない事を言いますね……僕は嫌いじゃないですが」
出てきた話は判ると言えば判る、判らないと言えば判らないゴーレム運搬船であった。
佐久間はゴーレム科の教諭なのだから運用そのものは考えてもおかしくはないが、それにしたって研究だけならば手元で扱えば良いのである。実働して魔物を倒すところがみたいのであれば、これから飛行船が普及にするにつれて幾らでも見に行くことができるだろうにと思う。
「いやねー。今度さあ政略結婚させられることに成ってねー。前田くーん鳥型作ってる時にいたレイちゃんって覚えてなーい? あの子がお嫁に来ることに成ってねー。剣戟対応型のゴーレム贈る事にしたんだけど、それならついでに運べる船もって思ったんだよー」
「あーた思いっきり私情じゃないっすか。いや、織田家と島津家の仲を取り持つなら公用でもあるんでしょうが」
その話を聞いた時、マッドな気のある佐久間にも他人にプレゼントするのかと思った。
しかしよくよく思い返してみれば、剣戟対応型のゴーレムとかなかなかに歌舞いている。あの時に見た技はタイ捨流とかいう流派で、足腰を活かした機動戦術メインであったはずだ。つまりこの男は思いっきり高性能なゴーレムを動かして、それを全国のあちこちで活躍させたいと思っているのだろう。やはり思い切り私情であった。
「そんなこと言わずに真面目に考えてみてよー。ボクよりも君の方が信長公に話が自我通じるじゃあない?」
「まともな案ならだれが言っても通りますよ。つーかそれだと俺の発言力が減って、俺の欲しい船の枠が無くなるじゃないっすか」
「まあまあ、物は考え様ですよ。今までに無かったアイデアではありますしね。他のとの併用とかはどうでしょう?」
何というかここでも交渉力で押されていくのを感じる啓治であった。
茶々を入れる佐久間はともかく、ここぞとばかりに明智がすり寄っていく。彼が欲しいカスタムタイプとはかけ離れてる上に、発言力の源泉は啓治由来なのだから当然とも言えよう。一応は両方に友好的に当たりつつも、もし細川に邪魔しろと言われて居たらそう見えなくもない提案であった。
「……そうっすね。軍事用の方は動かしたいのは部隊でしょうし、日ごろは軍事物資の輸送に使いたいだろうからダメ。輸送船の方はとにかく大きい倉庫だろうからワンチャンじゃねーかな? 金払って借りるか、それとも同型の二隻目狙うかの方が早いでしょうけど」
「中型船に一機だけならいけません? ワンオフの物凄い一機を運ぶとか」
「いいねいいねえ! 究極のゴーレムが魔王すら倒す! ロマンだよお!」
こんな風に新たな研究が始まった。
まずは飛行船のタイプを何種類か造り、その一つを啓治が手にすることが目標の一つである。
と言う訳で第三部の開始です。
面倒だしストーリー中で時間かけるのも何なので、「あれから数年」で。