二周目の人生は大空に焦がれる【完結】   作:ノイラーテム

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鳥は羽ばたく

 飛行船の建造計画は順調に進んでいった。

良くも悪くも貴族たちの都合が優先される。研究機関から口に出してもおおよそは貴族同士の交渉の結果で揺れ動いてしまうのだ。

 

「結局さ、用途よりは予定の方を重要視するしかないんじゃないかな。なんだかんだで戦闘艦と商用艦は君の言う通りになったしね」

「あー。武田の連中、とうとうやって来ちまいましたか」

 尾張を治める織田信長に呼び出され前田啓治は説明に向かった。

そこは仲間内の貴族の集まり……と言う感じのサロンだった。今のところ飛行船研究に関して啓治が第一人者であり、筆頭スポンサーが信長という構図は早々変わったりしないからだ。それだけ飛行技術なんてものが新しいジャンルと言う事だろう。

 

「越方面の平定に同盟を組むことに成った。そこで戦闘艦を使用するけど、その一番艦を回してくれたら伊勢の鎮定を手伝ってくれるってさ。手こずってることもあって断り難いんだよねえ。越自体も面倒くさいし」

「伊勢との境にはラミアの巣が残ってやすしね。あそこさえ鎮定できりゃあ斎宮や熊野も動き易くはなるかと」

 墨俣の戦いで木曽三川流域に居るラミア族を殲滅できた。

その後に各地の巣を潰していったのだが、残っている中で最大の拠点と言うのが尾張と伊勢の中間にあったのだ。川と湿地が多い地域であり尾張の兵士だけでは、残党と言えど簡単には倒しきれないのが問題であった。常ならまだしも、今は越方面や魔王軍との戦いが控えているのである。余計な被害を出す訳にはいかないだろう。

 

「そういう訳で改めて皆に説明してくれるかな? 主に建造と予定に関わる部分だけでいい」

「へい。まずはサイズ規格で1から4まであると思ってくだせえ。改造すれば1つ分なら無理できるが、2つ分は無理って感じっすね。飛行船はどうしても出力がネックになるんで、サイズが大きくなると途端に動けなくなりやすから。最初の戦闘艦と商用艦はとにかくデカイから規格4となるかと」

 信長と啓治は顔を見合わせて頷き合った。

武田家の要求した戦闘艦であるが、研究の報告の途中である程度の欠点が出るのは判っていたのだ。当然だがいきなり理想的なフォルムや完成系の性能を有せるはずがない。もちろん運用する為の熟練度や、何より空飛ぶ船を真っ先に配備してあちこちで使えるという優位性はあるだろう。しかし今後も尾張がこの技術を抑えるのであれば、いずれ旧型艦に成る一番艦は武田家に渡しても良いのである。現在は攻撃魔法を放つ装置なども開発中であり、その運用を考慮しない形状に成るのも大きかった。

 

「規格1は基本的にみなさんの所の軍部が要求している偵察・伝令用です。以前にお配りした鳥型ゴーレムの発展形つーか、現在積み込もうとしている装置を最初から全部搭載。人数は最低限で済ませるという前提になりますか」

「魔力強化装置と魔力充填装置の改良型にあとは魔力の伝導菅だっけ」

「その通りで。今まででは置けない位置に装置が置けます」

 ここは他愛ない説明であるが、必ず言っておかないと文句の出る部分だ。

装置の件は当然ながら、魔力を伝達性質のあるイコールを入れた伝導菅は今までに無い場所へ魔力装置や呪文の装備を設置できる。鳥型ゴーレムでは可動部分を兼ねて翼と尾翼に呪文、胴体に充填装置とほぼ決まっていたが……これからは船サイズに成る事と伝導菅の登場によって、好きな位置に配置できるのだ。

 

何が重要かと言うと、飛行技術が先行している尾張ですらこのレベル。これからドンドン改良が進む為、鳥型ゴーレムのみならず、ひとまず建造する一番艦以降の進歩が激しくなると身内の貴族には一応伝えてく必要があるのだ。

 

「確認したいんやけど、先ほどのサイズ違いで性能変えるのが難しい言わはったなあ。それはサイズ3以上は高速型が難しく、2以下では商用や軍用には向かんゆうことでええんかいな? 普通の船が常識に縛られるんとおんなじで」

「おおむねその通りで。もちろん例外として貴重品だけを運ぶ商売や、勇者のパーティを運ぶつーなら話は別っすけど」

 どうやら質問相手は堺の商人であるようだ。

名前を今井久。いわゆるスポンサー様の質問であり啓治は包み隠さずに答えた。後で話が違うと言われても困るし、ここで答えてはいけないような内容はそもそも話の筋には入れて居ない。例外として思い切った運用をすれば、中型船に貴重品を満載するなど利用があるとも説明はしておく。

 

「勇者……勇者なあ。あんにらを制御するのは無理や。魔王が国の外に居るなら乗せてけゆーのが精々やろ。すまんかったなあ、ワシからはここまでや」

「次は私から……で良いかな?」

「へい。島津さまは何をお聞きなさりたいんで?」

 スポンサーの次はかねてから同盟を組んでいる島津冴子であった。

佐久間教諭の件もあり、来るべきものが来たと啓治は内心で苦笑する。ある程度は想像していたので、一応は理論立てては考えをまとめていたのだが……。

 

「先ほど勇者を乗せる。と言ったが他の戦力も可能であるかな? 当家の武者たちであるとか……例えばゴーレムであるとか」

「戦争は数で決まるそうなので戦闘艦としては難しいと思いますぜ。ですが援軍であれば限界があるという前提で可能になりますわ」

 此処で重要なのは現代の戦いは歩兵を送り込んでの陣地戦と言う事だ。

敵が魔王軍であろうとも歩兵で圧迫し、精鋭で打ち破ってから殲滅していくという流れに成る。ゆえに武田家に用意する戦闘艦は歩兵を可能な限り乗せて運び、それ以外の時は軍事物資を運ぶ事が前提に成る。その意味においてサイズ2の中型船に乗れる人数など限られていた。

 

「ほう……例えば?」

「墨俣での戦いも抜刀隊のメンバーを運ぶだけで強化個体を倒していただけました。基本的に魔物の方が人間の兵士よりも強いですし、強化個体ならば猶更です。しかしそんな戦場は幾つもあるもんじゃあないですからね。騎乗用ゴーレムは抜刀隊クラスの人間を用意し易くはなりますが、戦場の方が少ないという意味ではあまり変わりはしやせん」

 啓治はまず戦力比較と一般論から入った。

彼は戦争に関してあまり詳しくないので、聴かされたことを右から左に伝えているだけだ。そうしながら自分でも考えた話を入れ込んで、整合性を持たせたり必要ならば反論したりする。ひとまずここまでは理論通りなのだろう。

 

「騎乗型ゴーレムは強いんおすか?」

「通常のゴーレムが命令を与える魔法使いの危険をはらんだ上で、オーガやトロルと互角。護衛込みで相手の部隊を上回るってところでしょうか? 騎乗型は魔法使いを中に匿えるのと、剣技をゴーレムに使わせられるという点で優れてやす。オーガやトロルよりも確実に強い。薩摩の抜刀隊級の戦力を何処の国でも用意できるのがウリですね。欠点は大きい事と予算なんですけどねえ」

「ふむ。大きさと金がネックか」

 ゴーレムは死なないので、例え互角でも魔物より有利である。

しかも数をあらかじめ用意して投入できるために、命令できる魔法使いを守る戦力を揃えておけば大抵の魔物には勝てるのである。オーガやトロルと行った強い魔物と互角であり、騎乗型は技を使わせたり装備そのものがワンランク上なので、強化個体であろうと確実に勝てるようになるのが強みであった。しかし素材として大量の鉱物を使用する上に、大きいから積載量を圧迫するのが問題である。

 

「大きさというか形状の問題で中型船だと騎乗型ゴーレムを一騎と、その修理素材や武器を載せたら終わりですね。仮に吊り下げて無理やり運ぶことにしたら、人は乗せられます。問題はその数名を抜刀隊級の人間にしないのであれば、言う程の戦果は見込めないかと。もちろん強化個体が居そうな場所を探索するなら話はまるで異なります。飛行技術がそうであるように、出来ないことを出来る事は重要ですから」

 何度も議論した話だが、結論としては『そこまでやって何をするの?』となる。

強化個体を倒せるような人材がいない場合、騎乗型ゴーレムは非常に重要な戦力足り得る。しかし資金が掛かる上に、中型船レベルの飛行船に乗せると専門の形状の船倉にしてしまうか、さもなければ外に吊り下げるしかない。飛行船そのものが高価なので、二重に予算を掛けてまでするべき事なのか微妙なのだ。とはいえここで『意味がない』というのは憚られるし、啓治としてもあまり好みではない。ゆえに『そこまでやる意味がある目標があれば』と告げたのである。

 

「では上澄みの条件のみを重ねた場合はどうかな? 当家の武者の中でも腕利きを乗せるのだ。更に随伴するのは全員がその方が言う抜刀隊である」

「……そこまでやれば魔将クラスの魔物を倒せるんじゃないですかね? 勇者のパーティを雇う方が早いっすけど、勇者は基本的に一か所にしか存在できませんから」

「そこは相手が複数の軍団で攻めて来るとか、こちらが陽動込みで複数の船を使う場合かな? ともあれ説明助かるよ」

 思ったよりもヒートアップしているのか、それとも目標でもあるのか?

島津冴子は更に議論を積み重ねた。騎乗用ゴーレムに乗れば、誰でも強化個体を倒せるようになる。しかしその状態に更に条件を積み上げ、選ばれた強者を乗せて更に抜刀隊で周囲を固めるのだという。啓治は『そこまでやるの?』と半ば呆れながらも、そこまでやれば寄り戦果を稼げるだろうと口にする。そして信長が現実的な戦法を提案した所で、ひとまずこの話は打ちきりに成った。

 

「せや。試みに前田はんに聞いてみたいんやけど……。前田はんならどないな使い方をしますん? 別にゴーレムやのうて、自分のしたいことで構いまへんえ」

「……そうっすね。俺なら魔王の居城でも探しながら、気ままに冒険の旅でもしますわ。ゴーレムはむしろ援軍で欲しいっすね。勇者に来てくれとか俺じゃあ口に出来ませんし、偶然に見つけたとしてその近くの藩属国に強力な武士団が都合よく居るとも思えませんから」

 今井の質問に対して出たそれは啓治の本音であった。

彼としては仲間たちと共に冒険者暮らしを送り、その過程で魔王の居場所を探して功績でも得れば良い。そうすれば個人が安泰に暮らせる褒章と栄誉くらいは得られるであろうと思ったのだ。その上で、先ほどのゴーレム運搬の話を組み入れるのであれば、こんな風に使うと述べたのである。

 

 後に考えるとこれは大失策であった。

その試みが……ではない、ここで話してしまった事である。信長はともかく今井にも島津にも個人的な交流もあれば公の都合だってある。二人が喋らずとも護衛が買収されていたり、逆に慮って口にすることもあるだろう。何が言いたいかと言うと、建造計画の途中でのその案を京都組が持って行ってしまったのだ。

 

「いやー。まさかパクられるとは。あの場を紹介した俺の手落ちだよ」

「……迂闊に口にしたのは俺のミスっすよ。それに連中は探査計画もちゃんと作ってますし、基礎計画だけのこっちよりリキの入れようが違いやす。構わねえんでここは譲っといてくだせえ」

「すまないね。これ以上は謝らないでおこう。その代わりに……」

 京都組が提出した探査計画の前に信長も啓治も開いた口が塞がらなかった。

所詮は初期に建造する枠の1つに過ぎず、魔王の拠点探査の旅に出るとはいえ確実に見つけられる保証などはないのだ。ただし考えてみれば松永譲治の襲撃で王都組はマイナスだけを被っているが、熱田組は元の力を取りもどすどころか、それ以上の活躍を見せている。体面的にもプライド的にも王都組がこちらの計画を奪いに掛かっても不思議ではないだろう。

 

「今井・島津・織田の連合で資金を出して試験艦を一隻何とか仕立てて見ようと思う。そのデータは全てお上が吸い上げるけど、功績はちゃんと見ておくよ。試験船の建造も第二期建造の後番か、第三期分には代わりの船をねじ込んで見せる」

「そいつはありがたい仰せで。……つか、その路線だとまた一から設計し直しですか。佐久間センセは喜ぶだろうなあ」

 正直な話、初期の啓治としては面白い未来が見たいという程度の話でしかなかった。

飛行船は一周目の人生で知っており、今後に飛躍すると知ってるから選んだだけの事だ。それがいつのまにか話が大きくなり、今ではどうやって手に入れる船を確保しようかと悩む始末である。信長が保証してくれたが、あくまで試験艦の功績次第。全からの流れから見ると島津だか今井だかに乗せられたような気もするのだが……。

 

(なんだ? 思ったよりもムカつくな。一度死んだ身で熱くならねえのが俺の信条だと思ってたんだが……)

 不思議な事に、怒りと笑いが同時にこみあげてきた。

冷めた目で第二の人生を眺めていたのが、急に鉄火場に乗り上げた様な躍動感と射幸心を覚える。松永譲治との邂逅で、命の危機を覚えた以来の高鳴りであった。

 

「確認するけど、不満かい?」

「上等っすよ! あいつらに吠えずら掻かせてかせてやりまさあ!」

 こうして一度チャンスを奪われた啓治は、別の機会を経て羽ばたくことになる。




 と言う訳でライバルも船を手に入れましたが、主人公も手に入れます。
順当に行くと面白くないので代わりに試験艦を手に入れると言う感じですね
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