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荷馬車方式をモデルにした飛行船の建造には良い面と悪い面があった。
悪い面を先に言ってしまうと、試作品を牽引する時に何度もぶつけて壊しそうになったのだ。低速でこんな状態ならば高速飛行したらどうなるのかと一時は本気で危ぶまれていた。逆に良い面で言えば、多機能を詰め込み過ぎた飛行船とと違ってシンプル化したことで様々な装置の完成が早まったのである。飛行能力を削って浮かぶ機能だけ、飛ぶ機能の代わりに魔法攻撃の設置など少しずつ別の能力を試せたのである。
「結局、本当に荷馬車みたいな感じになったわね」
「鎖で引くよりは複数の支柱で固定した方が確かってことだわな」
荷馬車型自体の完成は早かったのだが、牽引方式で完成が危ぶまれた。
何が問題だったかと言うと、浮遊だけだから問題ないだろうとされた荷馬車側の方が馬側である牽引する為の飛行船に何度もぶつかる事であった。では普段は接着すれば良いかと言うと、複数の炉心とソレを操る魔法使いの管理が面倒になり、バランスが壊れる事からその調整に腐心していたのだ。最終的に支柱を何本かで固定することにして、その最適解を割り出すのに時間が掛かったのである。
「この方式でやったらドンドン長く造って大きな飛行船よりも運べるようになるのかしら?」
「どーだかな。理論上はそうだが、魔法使いの数が流石に足りねえだろうよ。人足や案内人を提供してる野武士たちからすりゃあ、そのほうが喰いっぱぐれながくて良いんだろうがな」
現在判っている必要なコストや魔法使いの数を柴田晶子が見比べる。
紙面を熱心に覗き込む彼女へ前田啓治は肩をすくめて牽引する飛行船の方を眺めた。支柱を増やしたことでパーツは増えたが、牽引するために強力な炉心を積んだこと。そして現時点では火の魔法をマスタリーまで上げた魔法使いを常駐させられるから問題はない。むしろこの試験型よりも、量産品化した通常の出力で何処までのに荷車型飛行船を運べるかが重要であろう。少なくとも啓治が手に入れる予定の飛行船は、こんな贅沢な仕様であるはずがないのだ。
(それはそれとして……。今をタップリと愉しまなくちゃな)
啓治は一周目の人生に存在しなかった物を作れて満足はしていた。
しかしこのままでは自分の手を離れることは理解していた。その時の覚悟をしたり準備をするのも当然だ。しかし『必要に合わせて動く』だけではなく、この瞬間を愉しむことを覚え始めていた。おそらくは彼の人生で今以上に発言力が大きくなる事はないだろう。魔王軍との戦いで貢献したとしても、勲章やら褒章が増えて終わりなのだから。そして何より、せっかく二周目の人生なのだ。必要に合わせて動くだけではつまらないという物だろう。
(とはいえここから何をすっかな? 憧れのマドンナもお姫さまも俺の手の中にはねえ。魔王軍との戦いもまあ、この飛行船でそこそこは貢献できるだろうよ。だが暴れまわるのは普通じゃあちっと難しいわな。だったら……他で補うっきゃねえ)
荷車型の飛行船で輸送すればおおよその物を運べるだろう。
何も自分が強い必要はなく、上手く強力な冒険者なりゴーレムでも運べば良いのだ。設計する前は面倒しかなかったゴーレム運用という前提であるが、魔王軍との戦いを貢献するには悪くないだろう。そして今だけならば発言力がそれなりにある、ならば今のうちに最大限に行使するべきではないのか?
「何考えてるの?」
「完成したらどこ行こうかなってよ。武田が動いてなきゃ伊勢方面か越で決まりだったんだが」
ゴーレムを運用する飛行船を作れと言う命令で、それの試験運用を行うのは確かだ。
しかし目先の目標である伊勢方面にある長島は、既に武田家との交渉によって出兵が決まっている。飛行船を用いた大々的な戦闘の訓練でもあり、今更になって新型船の投入など余程に不利な状況にでもならなければ認められないだろう。おそらくは越方面への出兵も、その成果を踏まえて順次行われるだろう。織田家だけの伸長など認められるはずがない。
「なら西なんじゃないの? 水軍を整えてる安芸とか、佐久間先生と結婚する島津の女武人だったレイさんだっけ? あの人の送り迎えで」
「そんな所かねえ? そのついでに怪しげな場所があれば調査したり戦ったり……でもどうせならベストメンバー揃えて見てえなあ」
それはちょっとした稚気だった。
現在が啓治の第二の人生における全盛期であろう。借りて来れる火魔法の使い手以外にも優秀なメンバーを率いて遠出してみたい、出来るならば冒険してみたいという気持ちもあった。もちろん効率だけを見るならば、次に研究に取り掛かるなり、コネを作るために行動すべきなのだろうが……。
「俺と勝平が風、明が水、呼んで来る奴は火なのは決まってるよな。ほかに居たらおもしれえとなると地じゃなくて……。決めた、ちょいとそこまで行ってくる。そこってそこだよ。そこで研究してるあいつが居るだろ。ちょいと口説いてくる」
「口説くって、ちょっとどういう事よ! 待ちなさいよ啓治ってば!」
啓治は現時点で揃って居る魔法使いの属性を考慮した。
風使いが居れば移動力や重量にはかなり改善される。水魔法があればイコールの劣化は改善される。地魔法の使い手が居れば補修は楽になるが、現状ではマスタリーで揃える必要性はない。そして炉心を活性化させる火魔法は、実験の問題を穴埋めするために他所から回されてくる事に成って居た。ならば考えることは僅かだ。
今から地魔法の使い手を自分で探すか、さもなければ光なり闇魔法の使い手を探すことだ。もちろん火魔法の使い手で気心の知れる相手が居るなら、それでも良いのだが生憎と晶子の兄である柴田哲章くらいしかいなかった。そして彼は研究者として脂が乗っている時期であり、魔法に関して織田家での相談役として名前を挙げる必要のある時期であった。
「あ~け~ち、クーン!」
「な、なんですか? なにか御用で?」
「おう、御用も御用。せせこましくスパイやってるのも疲れない? どうせなら俺たちと一緒に遊びに行こうぜ。どうせ京都の連中もお前さんの忠誠心を疑ってんだろ」
あろうことか啓治は明智彰を口説きに掛かった。
研究スパイとして活動を余儀なくされている状態であり、誰からも信用されない可哀そうな立場……。かと思えば器用に織田家にも入り込んでいるという底知れない男であったのだ。そんな男を飛行船のクルーとして迎えたいという。
「正気ですか?」
「正気も正気だっつーの。つかよ、君は確か闇魔法が得意だったよな? 俺らのメンバーに欲しかったんだよね。後よ、お前さんがスパイをしてると熱田でも困るわけよ。京都に情報筒抜けだしな。そういう意味で俺はお前さんの力を得れる。織田家は情報を抜かれねえ。お前さんも一応は最新情報を得られるぜ? 最前線になるがな」
ふてぶてしい啓治の言葉に流石の明智彰も驚いたようだった。
彼としては世渡り上手とはいわずとも、ミステリアスに織田家と京都の中間で渡り歩くつもりだったのだろう。油断ならない男ではあるが、逆転の発想で言えば彼は利益に成る間は裏切らないと言える。そして最新の研究である荷馬車方式の飛行船に置ける運用データは確かに有用な情報であると言えた。
「……面白そうではありますけどね。ボクの一存じゃ無理ですよ?」
「OKOK。俺の方は構わねえから、ジックリと話してていいぜ。お前さんだって落っこちて死にたくはねえだろ? そういう任務だけは受けねえようにしといてくれや」
こうして啓治の道行きに新しい仲間が加わった。
今までならば到底在り得ない相手であり、織田家でもその才能を敬して遠ざける相手であった。しかし彼を積極的に巻き込むことで、魔王軍を仮想的として、敵の敵は味方の理屈で利用したおそうという事に成ったのである。
そして一同の出向先として島津家の本拠であり薩摩・大隅方面への往復。並びに途中で滅びた大友家の遺臣を助けると言う事に成ったのである。
と言う訳で試作品の荷馬車型というか、合体型がどうにかこうにか完成。
魔王軍との戦い対して、馬鹿みたいな予算が加わったことで建造されました。
未完成ながら試運転と言う感じですね。