飛行船建造の第二期後半にてゴーレム運搬型運用試験が行われる。
それは何時しか連結型の飛行船と化しており、そこで生まれた可能性に対してさらに資金と……より一層の人員追加が行われた。そんな中で一つの報告と、それに応じた新規の命令がくだされた。重要なのは研究者に対する要請ではなく、命令であることだ。
「大友家が滅んだ? 前からそんな感じじゃなかったか明智君?」
「再建不能になったそうですよ前田さん。元もと大友家には大内家という強力な縁戚が居て、お互いに分家として有事には子供を送り合っていたんです。それが大内家も壊滅してしまい、大友家に送る人材が枯渇したらしいですよ? ボクも人伝なんでそれ以上は不明ですねえ」
計画では薩摩に向かう事に成って居たのだが、様相が大きく変更された。
目的地は筑紫島南部だが、北部にある貴族家の大友家が滅びたとの事だ。貴族家としては滅んだとしても、そのままでは遺臣たちが旧主の家系から誰かを推戴して復興するものだ。また王都で領地を持たぬ貴族としてやり直すことも出来る。その上で縁戚の大内氏が強力な援助可能な為、戦力を借りてやり直すことは幾らでも可能であった。それゆえにこれまでは本拠を魔物やら貴族間抗争で奪われて居ても、滅んだという表現ではなかったらしい。
「どうして急に……。まさか魔王軍が本当に復興したって訳?」
「まっ、そういう事だろうよ。……大友だけじゃなくて土岐家とかも滅んでたわけだし、そういう意味じゃ元から滅びて無かった。再び力を盛り返したって言うべきなんだろうがな」
「いよいよという事ですね。流浪していたボクから言わせてもらえば、今更かって気もしますけど」
前田啓治と明智彰の際に柴田晶子が首を挟んだ。
本人としては質問のつもりなのだが、もはや確認事項に過ぎまい。此処に来て貴族家が急に滅ぶなどそうそうあるはずないのだから。そして重要なのはここからの話であろう。なぜならばこれからの進路に影響を与えるのは間違いがないからだ。
「んで命令としちゃどうよ。話くらいは小耳に挟んでんだろ」
「筑紫島南部にある薩摩へ直接海上を飛ぶのではなく、島を横断して生き残り勢力を救援。不可能ならば大友家にゆかりの者を回収して情報ともども届けろと言う所じゃないですかね? そこには西国無双と呼ばれた猛将が居るんで、特攻してなければ生き残りが匿われている可能性はあるんじゃないかな」
筑紫島は大きな島で、おおよそ九のブロックに分かれている。
最初の頃は南部三分の一を島津家とその縁戚が抑え、北部三分の一を大友家が抑えていた。これが魔物の被害やら貴族間抗争で減ったり増えたりして、島津家はすり減っていたが旧勢力を回復し、逆に大友家は壊滅してしまったという事に成る。
「なんだが漠然としてるわね」
「どう考えるかも含めて試験運用って事なんだろうよ。その辺考えると、毛利家の辺りから斜めに海上を飛ぶ方が飛行船の価値を示せるわけだが……。まあそいつは帰り道で良いか」
陸と海の両方を横断することで、考えられない行軍速度を出せる。
その事を示すのに、安芸の国から薩摩への斜め移動ほど判り易いルートはない。先行した飛行船も色々な行程を試しているが、ここまでの大胆な動きはまだ誰もやって居なかった。その事を残念に思いつつも啓治は頭を切り替える事にする。一周目の人生では研究室の中で『藩属国の幾つかが滅びた』としか聞いておらず、実際にその目で見るのは初めてだからだ。ましてやゴーレムを運用できる飛行船などその当時にあるはずも無く、文字通り歴史的な快挙に成るかもしれない。男子と言うのは浪漫に動かされるものだが中々に面白い局面ではある。
「あー。それはどうかなあ? 細川さんとか普通にやると思いますよ。自分が先に飛行船の力を世に示した……とか言って」
「……やりそうじゃあるが、そのくれえは譲ってやるよ。俺と違って功績争い必死なんだろうしよ。重要なのはこれから始まるクソろくでもない戦いをサッサと終わらせる事だろ。俺はこの先、十年も二十年も軍勤めなんざ嫌だぞ。適当な所で終わらせてとっとと自分の船と所帯もちてえところだん。なあ?」
「え、あ、うん。……じゃなくて!? あんた何さらッと言ってんのよ!」
明智彰は王都閥の人間だが、土岐の旧臣でもある。
その辺りの問題で信用を得るために同じ王都閥の細川武人がやりそうなことを一応忠告して置いた。しかし啓治は貴族になりたいわけでもなく、程ほどに名声と報酬を得たいだけなのであまり気にして居ない。むしろ自分が時代を切り開くという感覚の方が重要であり、現時点でゴーレム運用で名声を博すことが判っている為のん気なものであった。晶子と犬も喰わぬ夫婦喧嘩を始めそうになるほどである。
「前も思いましたがその辺あまり気にしない人なんですね。……何というか運命の巡り合わせ次第であの事件も少しくらい変わったんでしょうかねぇ」
「そいつを言っても仕方あるめえよ。第一、お互いに知り合いになるタイミングなかったろ」
歴史にイフというものはないが、もし松永譲治の事件の前に啓治と細川が話し合えていたら?
そうなれば犠牲は随分と減った可能性もあるだろう。しかし二度目の人生という奇妙な加護を持つ啓治ですら、仮に三回目があったとして細川と知り合う方法など思いつかないのだ。せいぜいが『罠として無数のモンスターが隠れている』と忠告を、何度も繰り返す位であったろう。だからこそ明智は残念がり、啓治としては苦笑せざるを得なかった。
「とはいえだ。周辺の貴族が兵を出したり、飛行船を集結させて何処かに戦力送るってのは誰かが考えるよな?」
「そうですね。実際に信長公は長島で活躍した兵士たちを休ませて、代わりに活躍できなかった兵士たちを載せて飛行船で送る計画を武田と一緒に考えてるそうですよ。美濃や木曽を先に安定させたかったらしいですけどね」
啓治が考えたような作戦自体は誰もが考えるものだ。
周辺領主が援軍を派遣して、全国で行動中の飛行船が西を目指す。第二期前半までに建造された船の殆どは既に計画に組み入れられているだろう。後は何処かに着陸するのを待ってから、稼働中の船も当初計画を捨てて順次合流すると思われた。その意味では当初計画のままである、このゴーレム運用船の方が異質と言える。
「となるとゴーレムが無きゃ突破できない場所に切り込んで、ゴーレムが活躍している間に救出ってとこかね? 鳥型ゴーレムで飛行装備を降ろして飛んでもらう。傷付いて魔法を制御できねえなら一人ずつ回収っするってとこか。何往復かできるくらい無事なら問題ねえんだが」
「それは難しいでしょうね。どちらかと言えば現地の人が守りたい要人を回収して、その人を守らなくて済むようにする方が早いかと思いますよ」
啓治が提案するのは強行突破で、明智が提案するのは要人救出だ。
せっかくゴーレムに抜刀隊クラスの達人が乗るのだ。オーガだろうがトロルだろうが簡単に蹴散らすことができる。上手く使えば強化個体を軒並み狩ることで、一気に戦線を押し返すことができるかもしれない。しかし明智の方はもっと悲観論であり、同時に守るべき要人が居ないことでフリーハンドを持てる事が大きいと提案した。要人というのが指揮して戦える大将ならば良いが、ただの足手まといである可能性は高いのだ。戦えない貴族を回収できれば、家臣たちは逃げ出すことができると同じ遺臣としての立場で告げたのである。
結局のところ、現時点では情報が不足している。現地に残る要人が指揮できる武人ならば啓治が言う方が正しいし、戦えない貴族であるかそもそも兵士たちが傷好いて居るならば明智の方が正しいのだ。もちろん別の要因で判断が変わる事はあるだろう。後は現地で決めようと、出港準備を整えていったのである。
「はーい、前田くんひさしぶり~」
「佐久間センセじゃないっすか。回されてくる火の魔法使いってセンセだったんすか? つーか研究はどうしたんですか?」
「いやねえ。戦うゴーレムを実際に目にしたくなっちゃってさ。あとーどうせ政略結婚するなら、挨拶も済ませて置こうってレイちゃんがね」
合流が遅れていた火の魔法使いは佐久間教諭であった。
本来ならば研究職のトップであり戦闘やら実用試験に帯同するはずがない。しかしこの有事に現地でリアルタイムに解析と修理が行える事で抜擢されたそうだ。もちろん政治的に尾張も誰かを派遣する必要があるというのも重要だろう。また彼は飛行船の分野は協力者であり、ゴーレム科自体は量産体制に切り替わっているので、研究肌の佐久間教諭からすれば面白くなかったのが大きいと言える。
「お手数を煩わせて申し訳ありません」
「いえいえ。佐久間夫人。今回は私事よりも公務っすからね。多少無茶な着地してもお二人が居れば修理も早いし、何とかなるっしょ。そういう意味じゃ心強いばかりっすよ」
こうして思わぬ人材を加えて啓治たちはゴーレムを運びながら筑紫島を目指すのであった。
と言う訳で新しい目標に向かってゴーレムを運んで行くことになります。
感覚的にはダンバインとかガンダムなど、ロボット物で試作機を運ぶ船。
まあ運ぶだけで大事業なので、後は活躍できるかの話ですね。